この冬、新型コロナワクチン「どうする?」

専門医が解説するワクチン接種の必要性

2023年5月に5類感染症へ位置づけが変わって以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する報道や制限はほとんどなくなり、終息したかのように思えます。最後にワクチンを接種してから数年経ったという方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?

しかし、新型コロナウイルスは今も変異しながら流行を繰り返しており、この冬もインフルエンザとの同時流行も懸念されています1)

今回は、現在のCOVID-19に関するリアルな疑問や不安に、専門医の宮下 修行先生が、データに基づいてお答えします。パンデミックが終わり数年経過した今こそ、COVID-19についてあらためて考えてみてはいかがでしょうか?

参考文献:

1) 一般社団法人日本感染症学会 他:2025年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解. 2025年9月1日

第1章 疾患情報COVID-19は「今」、
どうなっている?

質問1 正直、「COVID-19はもう終わった」、「ただの風邪」という感覚です。
今も警戒する必要はありますか?

回答 流行は今も起きています。
今後も警戒と対策を続けることが大切です。

COVID-19は「もう終わった感染症」ではなく、度々流行しています1,2)。これまで、夏や冬に感染者が増える傾向があり2)、2025年の夏にも感染者数が増えました3)。新型コロナウイルスの新しい変異株は今も繰り返し出現しており、免疫をすり抜けるリスクが指摘されています1,2,4)

また、2024年のCOVID-19による死亡者数は3万5千人を超え2,5)、インフルエンザの約12.6倍となっています5)

後遺症も大きな問題です。入院歴がある方の約3人に1人が1年後も症状を抱えており、倦怠感や息切れに加え、「ブレインフォグ」と呼ばれる認知機能への影響も報告されています6)

つまり、COVID-19は、今も私たちの生活に悪影響を及ぼし続けています。

参考文献 :
  • 1) 一般社団法人日本感染症学会 他: 2025年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解. 2025年9月1日
  • 2) 一般社団法人日本感染症学会 他: 2025年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解(概要版). 2025年9月1日
  • 3) 厚生労働省/国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所. Infectious Diseases Weekly Report Japan 2025; 27(24): 1-34.
  • 4) Kaku Y, et al. Lancet Infect Dis 2024; 24(2): e82.
  • 5) 厚生労働省:人口動態統計月報(概数)
  • 6) 厚生労働省:新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第3.1版

質問2 新型コロナウイルスは弱毒化していて、もう罹っても大したことがないという話を聞いたことがあります。
実際どうなんでしょうか?

回答 「もう罹っても大丈夫だよね?」とは言えません。
特に高齢者や基礎疾患を持つ方にとって、COVID-19は今も命にかかわる感染症です。

COVID-19で亡くなった方を年齢別に検討すると、65歳以上が97%でした5)。また、重症化リスクは30代と比較して、60代で25倍、70代で47倍、80代で71倍といわれています7)。さらに、ご高齢の方では自宅療養や入院を余儀なくされると、食事や着替えといった身の回りのことを自ら行う力が低下し、寝たきりにつながることがあります(「廃用症候群」と呼ばれる状態です)8,9)

基礎疾患の有無も重要です。2021年4月1日~2021年6月30日にCOVID-19を発症した0~110歳の患者さんを対象とした調査では、基礎疾患がない場合はCOVID-19による死亡率が0.4%であるのに対し、基礎疾患(重症化リスク因子)があると2.3%(約50人に1人が亡くなる計算)でした。各重症化リスク因子の死亡率は、慢性腎臓病で14.0%、慢性閉塞性肺疾患(COPD)で10.2%、がんで8.4%、糖尿病で4.8%でした10)

*2024年1~4月のデータ

参考文献 :
  • 5) 厚生労働省:人口動態統計月報(概数)
  • 7) 厚生労働省:新型コロナウイルス感染症の“いま”に関する11の知識 (2023年4月版)
  • 8) Kinugasa Y, et al. JMA J 2023; 6(4): 416-425.
  • 9) 東京都保健医療局:『日常生活動作(ADL)を向上させるための患者指導マニュアル』
  • 10) 厚生労働省:第49回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード (令和3年8月25日) 資料4-3

第2章 予防という選択肢今年の接種を考える

質問3 昨年も新型コロナワクチンを接種しましたが、今年も必要ですか?
なぜ毎年接種しなくてはいけないのでしょうか?

回答 新型コロナウイルスは今も変異を続けています。
また、接種してから時間が経過するとワクチンの効果は減弱していきます。
これらのことから毎年の接種が推奨されています。

病気の中には、ワクチンで予防できるものが複数あり、接種回数やタイミングは病気やワクチンによって異なります。

COVID-19にもワクチンがありますが、新型コロナウイルスは時間の経過とともに変異を繰り返す特徴があります。変異すると、過去の感染やワクチン接種で得られた免疫から逃れる性質を持つことがあり、再び感染する一因となります11)。また、オミクロン株出現後の新型コロナワクチンの発症・重症化抑制効果は、変異株の影響もあり、接種後数か⽉で減衰することが報告されています12)

つまり、「前に感染したから」、「去年接種したから」安心できるとは言い切れません。
新型コロナワクチンはインフルエンザワクチンと同様に、流行中のウイルスやワクチンの有効性に関する科学的知見を踏まえて、毎年新しい株に更新されています13)
そのため、新型コロナワクチンの接種は、その年ごとにアップデートされたワクチンを接種することが大切です。

参考文献 :
  • 11) Chemaitelly H, et al. Nature 2025: 639(8056): 1024-1031.
  • 12) Moore M, et al. Vaccine 2025: 54: 126966.
  • 13) 厚生労働省:第3回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会 季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会 資料1 (2025年9月12日)

質問4 新型コロナワクチンについて、以前は無料で接種できましたが今は有料です。
費用をかけてまで接種する価値はあるのでしょうか?

回答 ワクチン接種の要否は、ベネフィット・リスクを十分に検討して判断することが重要です。
リスクの中には、罹患による身体的な負荷だけではなく、経済的な負荷も含まれることを考慮して検討することが重要です。

感染して重症化すると、抗ウイルス薬での治療や入院が必要になる場合があります。抗ウイルス薬を使用した場合、自己負担額は3割負担で約15,000〜30,000円になり、入院すればさらに高額になります。

また、人生100年時代になり、労働力人口総数に占める65歳以上の者の割合は13.4%(900万人超)と長期的には上昇傾向にあるとされています14)。感染によって入院や療養を余儀なくされると、仕事を休まざるを得ず、治った後も罹患後症状によって以前のように働けなくなってしまうケースもあります15)。COVID-19にかかったときの医療費負担に加え、生活や仕事への影響を考慮すると、ワクチンで重症化を防ぐ意義はあると考えられます。

なお、お住まいの自治体によっては、公費助成等の制度が設けられていることがあります1)。市区町村のホームページや窓口で確認してみるとよいでしょう。

* 一般的に処方される経口抗ウイルス薬3種類の薬価より、例として計算

参考文献 :
  • 1) 一般社団法人日本感染症学会 他: 2025年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解. 2025年9月1日
  • 14) 内閣府:令和6年版高齢社会白書(全体版)
  • 15) 厚生労働省:新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)

質問5 新型コロナワクチン接種後の副反応が気になります。
あらためて教えてください。

回答 過去の副反応の症状や現在の体調とあわせて、ぜひかかりつけの医師に相談しましょう。

新型コロナワクチンが用いられるようになってから、接種後のデータが年々積み重ねられてきました。副反応として発熱(37.5℃以上)や接種部位の痛み、全身倦怠感、頭痛などがみられますが16)、ワクチン接種後に生じうる副反応を疑う事例については、国として医療機関に報告を求め、収集しています。
ワクチンと関係があるか、偶発的なもの・他の原因によるものかが分からない事例も数多く報告されます。
収集した事例について、厚生労働省の審議会に報告し、専門家による評価が行われています17)

これまでにも様々なデータや情報が蓄積されてきていますが、最終的にはご自身の体調や体質などを総合的に検討して、医師が接種可否を判断しています。
不安なことがあれば、ぜひかかりつけの医師に相談されることをお勧めします。

新型コロナワクチンに関しては、明確な根拠を示さずに、副反応を強調する内容の記事・動画を目にすることがあります。接種の要否は、厚生労働省のホームページや各自治体から発信される情報や医師の説明を参考に、ご自身の年齢、健康状態、基礎疾患の有無などを踏まえ、ベネフィットとリスクを考慮してご判断ください。

参考文献 :
  • 16) 厚生労働省:第106回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和7年度第1回薬事審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催、2025年4月14日) 資料1-4
  • 17) 厚生労働省:新型コロナワクチンの有効性・安全性について

第3章 インフルエンザとの比較2つのワクチン、どう考える?

質問6 インフルエンザワクチンと新型コロナワクチンを別々の日に接種するのは面倒です。
何かよい方法はないのでしょうか?

回答 医師が必要と認めた場合、新型コロナワクチンはインフルエンザワクチンなど、他のワクチンと同時に接種することができます。

新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンを含む他のワクチンとの同時接種は医師が特に必要と認めた場合に可能です18)。同時接種を行うと1回の受診で複数のワクチンを接種できるので、通院の手間や時間を減らせます。まずは医師に同時接種がしたい旨を伝えてみましょう。

インフルエンザワクチン接種の際、新型コロナワクチン接種について医師やスタッフに相談すると、接種忘れの防止につながります。

参考文献 :
  • 18) 厚生労働省:新型コロナワクチンQ&A

ご監修:

関西医科大学内科学第一講座
呼吸器感染症・アレルギー科 教授
宮下 修行先生

新型コロナワクチン定期接種実施中 医師にご相談ください