何気なく飲んだ痛み止めが一大事に… 知らないとコワい!?「NSAIDs潰瘍」

[ニュース・トピックス] 2013年6月28日 [金]

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 頭痛や腰痛、関節リウマチなど、辛い痛みを緩和してくれる痛み止めのお薬。
 そのお薬が原因で起こる胃潰瘍「NSAIDs潰瘍(エヌセッズかいよう)」を知っていますか?
 ヘリコバクター・ピロリ菌にとって代わり、日本人の胃潰瘍の原因として注目されているNSAIDs潰瘍について、詳しく調べました。

保険適応の拡大で減少が期待される、ヘリコバクター・ピロリ菌による消化性潰瘍

 差し込むような痛みを伴う胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍。厚生労働省が発表した2008年の患者調査によれば、その患者さんの数は52万人にものぼっています。食生活の欧米化や喫煙、不規則な生活などが原因とされてきましたが、近年、こうした消化性潰瘍の原因の多くは、ヘリコバクター・ピロリ菌という細菌の感染であることが分かってきました。
 2012年以前は、胃潰瘍と十二指腸潰瘍を含む、限られた患者さんしかヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法に保険が適応されませんでしたが、2013年2月より慢性胃炎の患者さんにも保険が適応されています。治療の対象となる患者さんの範囲が広がったことで、大きな期待が寄せられています。

相対的にリスクが拡大しているNSAIDs潰瘍

 ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法が期待を集める一方で、医療関係者を中心に「今後、ヘリコバクター・ピロリ菌に代わり、胃潰瘍原因のトップになるのでは」と危惧する声が上がっているのが「NSAIDs潰瘍」です。「NSAIDs」とは、アスピリンやロキソプロフェンといった発熱や痛みに対するお薬で、腰痛、膝痛などの整形外科はもちろん、かぜ症状や月経痛など、内科をはじめ、さまざまな病院・クリニックで処方されるポピュラーなお薬です。さらに最近では、スイッチOTC医薬品として、薬局やドラッグストアでも購入可能なNSAIDsもあります。
 NSAIDsの消炎鎮痛効果は非常に強力で痛みや炎症などの症状を素早く治す一方で、多くのNSAIDsが副作用として、胃や十二指腸などの上部消化管に粘膜傷害を起こすことが分かっています。みなさんも、薬局・ドラッグストアで買った鎮痛剤を飲んだ時に胃がキューッと締め付けられるような痛みだったり、病院でNSAIDsを処方された際に一緒に胃薬を出されたりした経験があるかもしれません。

正しく服用しても約6人に1人が潰瘍に。加えて「無症候性潰瘍」で、ある日突然吐血する場合も…

 NSAIDs潰瘍のリスクについて、ある調査※1では、出血性胃炎を含む上部消化管出血のリスクがアスピリン(NSAIDs)で5.5倍、アスピリン以外のNSAIDsで6.1倍に高めるとされています。さらに、日本リウマチ財団が1991年に発表した調査では、NSAIDを3カ月以上服用している関節リウマチ患者のうち、15.5%に胃潰瘍が認められ、1.9%に十二指腸潰瘍が認められたとしています。これは消化器がん検診で診断される胃潰瘍の頻度が1~2%であることを考えると、非常に高い確率であるといえるでしょう。加えて、この調査で注目が集まったのが、胃潰瘍のうち、41.3%が「無症候性」だったということ。
 この「無症候性」とは、読んで字のごとく「何も症状や兆候を感じない」ことです。本来ならば、胃潰瘍は胃への差し込むような痛みで患者さん本人も気づくのですが、実はその痛みがNSAIDs本来の鎮痛作用によって抑えられてしまい、潰瘍の進行に気付くのが遅れるケースがあるそうです。ある日、突然血を吐いて、胃潰瘍だったことに気づく…。そんなコワさがNSAIDs潰瘍にはあります。
 さらに、NSAIDsには腎障害や肝障害、心疾患、アスピリン喘息などの既往症を持つ患者さんに加え、高齢者や妊婦、ワルファリン服用者など、使用不可や条件付きで使用可能のケースがありますので、病院での診察時はもちろん、ドラッグストアなどで買う場合にはちゃんと薬剤師と相談することが必要です。

NSAIDsを3カ月以上服用している関節炎患者のうち、異常病変が見られた割合/異常病変の内訳(複数回答含む)

NSAIDs潰瘍に関する疫学調査 (塩川優一, 齋藤輝信ほか:リウマチ 31:96, 1991)をもとにQLife編集部にて作成

痛みや炎症を抑えつつ、NSAIDs潰瘍を防ぐためには…胃に負担が少ないNSAIDsも

 とはいうものの、前述のようにNSAIDsの消炎鎮痛効果は大きく、腰痛やリウマチなど長引く痛みに悩む方も、そして頭痛や発熱などの急な熱や痛みに悩む方にもNSAIDsは不可欠といえます。
 そうしたなか、日本消化器学科による胃潰瘍のガイドライン※2では、プロスタグランジン製剤やヒスタミンH2受容体拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬といった抗潰瘍薬の処方と並んで、胃により負担が少ないCOX-2阻害薬という分類のNSAIDs(セレコキシブ、エトドラク、メロキシカムなど)に変更することも予防効果が期待されています。最も身近なお薬に潜むリスク…NSAIDs潰瘍について、知っておいて損はないはずです。

※1 Case-control study on the association of upper gastrointestinal bleeding and nonsteroidal anti-inflammatory drugs in Japan 著者:Sakamoto C/Sugano K/Ota S/et al.
※2 日本消化器病学会ガイドライン 消化性潰瘍診療ガイドライン 南江堂

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