薬物療法ってどんな治療法ですか?【腰椎椎間板ヘルニア】

[薬物療法] 2014年9月16日 [火]

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薬物療法(1)
保存療法

痛みを抑える治療で、症状の消失を待つ

腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアの7~8割は手術なしで症状がおさまります。重要なのは、発症時の激しい痛みをやわらげる薬物療法。症状に合った薬剤を用い、神経ブロックの手技にも長たけた大島正史先生に保存療法の狙いとポイントをうかがいました。

どんな治療法ですか?

脚や腰の激しい痛みやしびれを訴える患者さんに服薬や神経ブロックで対処しながら、症状が消えていくのを待つ治療法です。2~3カ月程度は保存療法を続けるのが基本です。

症状がおさまる例が7~8割。痛みをやわらげ、経過をみる

神経根ブロック後の患者さんに治療の説明

 腰椎椎間板ヘルニアは、背骨の椎骨(ついこつ)と椎骨の間でクッションの役割を果たしている椎間板内の髄核(ずいかく)が飛び出し、脊柱管(せきちゅうかん)を通る神経の束の馬尾(ばび)や、馬尾から分かれて椎骨の外に出ていく神経である神経根(しんけいこん)を圧迫しておこります。

 症状としては、馬尾や神経根が圧迫されることにより、その先の坐骨(ざこつ)神経がかかわる領域(参照)のしびれや痛み、椎間板やその周囲の炎症による腰の痛みで、しばしば身動きできないほどの、激しい痛みに襲われます。

 一般に、急性期の症状は激しいのですが、腰椎椎間板ヘルニアの7~8割は、そのままにしておいてもヘルニアが自然に縮小したり、大きさは変わらなくても、数週間で症状がおさまっていったりします。さらに、発症から2~3カ月後のMRI検査で、ヘルニア自体が縮小したり、消えてしまうことが確認できる例もみられます(図1参照)。

 ヘルニアが存在していても神経を刺激していなければ、坐骨神経痛などの症状が出ない例も多く認められます。このため、腰椎椎間板ヘルニアを発症したすべての患者さんに、ヘルニアを取り除く手術が必要ということではないのです。

●大きく飛び出したヘルニアほど消えやすい
図1 大きなヘルニアが飛び出していると、重症で治りが悪そうに思えますが、腰椎椎間板ヘルニアでは、髄核(ずいかく)が背中側の靱帯(じんたい)を破って大きく飛び出している穿破(せんぱ)脱出型、髄核の一部が離れて移動している遊離脱出型が消失しやすいことがわかっています(参照)。
 その理由は免疫反応という説が有力です。椎間板の髄核が靱帯まで破って飛び出し、出血がおこると、異物を攻撃する血液中のマクロファージやキラーT細胞と呼ばれる免疫担当細胞が、ヘルニアを分解・吸収し、消してしまうと考えられています。
大きく飛び出したヘルニアほど消えやすい

 通常、ヘルニアを発症した急性期の患者さんは、激しい痛みやしびれで身動きするのも困難となるため、まず、炎症や神経への刺激を抑えて、症状を軽減する治療を行い、症状が自然におさまるのを待ちます。治療の基本は安静と薬の服用、さらに神経への局所麻酔薬の注射(神経ブロック)などです。ヘルニアは残したままで、痛みやしびれを抑えようという治療なので、保存療法と呼ばれます。

 保存療法はいつまでも続けるものではなく、症状がおさまり、日常生活に支障がなくなれば終了します。保存療法をしても症状がおさまらない、2~3カ月たっても日常生活に支障がある場合は、手術を考慮することになります。

 ただし、神経への圧迫が強くて脚に力が入らなくなっていたり(麻痺)、排尿や排便に支障が出ていたりする(膀胱直腸障害)場合は、そのままにしておくと障害が残る可能性があるため、ただちに手術が必要です。

 腰椎椎間板ヘルニアで手術に至る患者さんの割合は、約1~2割と考えられています。

安静と薬物療法が基本。症状により神経ブロックを加える

●腰椎椎間板ヘルニアの保存療法
図2腰椎椎間板ヘルニアの保存療法

 腰椎椎間板ヘルニアでの保存療法の基本は安静と薬物療法です。

 痛みが強い間は、神経への刺激や炎症を抑えるために安静が第一です。体を激しく使う仕事や、腰に負担のかかる家事など日常生活上の動作、運動は行わないようにします。座っていてもつらい場合は、横になるなど、最も楽な姿勢をとるようにします。椎間板にかかる圧力は、横になっているときが最も低く、立っているときよりも座っているときのほうが高いといわれています。また、ものを持つとさらに圧力がかかり、特に前かがみになると圧力が増すため、中腰での作業は、極力控えることが大切です(参照)。

 安静を保ちながら、まず薬による治療を行います。薬は、痛みや患部の炎症を抑える非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)や、緊張した筋肉をほぐして痛みをやわらげる筋弛緩(しかん)薬などを使用します。内服薬が中心ですが、湿布薬や塗り薬、坐剤(ざざい)などを用いることもあります。

 また、これらの薬で十分な効果が得られない場合、最近は、オピオイド鎮痛薬、神経性疼痛(とうつう)緩和薬と呼ばれる薬が使えるようになり、痛みを抑える効果を上げています。

 歩くことができないほどの激痛がある場合や、薬物療法を行っても、痛みがおさまらない場合は、神経ブロックを行います。神経ブロックは神経に局所麻酔薬などを注入して神経を軽く麻痺させ、痛みが伝わらないようにする治療法です。

 神経ブロックには、仙骨(せんこつ)の下端から局所麻酔薬や、炎症を鎮めるステロイド薬を注射する仙骨硬膜(こうまく)外ブロックと、圧迫されて痛みのもとになっている神経根に、直接薬剤を注射する選択的神経根ブロックがあります。

激しい痛みがやわらいできたらストレッチで筋肉を緩める

 症状が激しい時期の安静は大切ですが、いつまでも動かずにいると腰や股(こ)関節周囲の筋肉が硬くなり、腰に悪影響を与えます。1~2週間して、発症直後の激しい痛みが落ち着いたら、ストレッチで筋肉を緩める運動療法を行います。

 薬物療法以外の保存療法には、そのほか、腰の痛い部分に、局所麻酔薬を注入するトリガーポイント注射、コルセットや腰椎バンドなどをつけて腰部を支える装具療法があり、腰痛をやわらげる効果が認められています。

 腰を引きのばす牽引(けんいん)療法、低周波やマイクロ波を用いる電気療法などの物理療法は、質の高い研究結果は出ていませんが、効果が認められることもあり、ほかの保存療法とあわせて行う場合もあります。

大島 正史 日本大学医学部附属板橋病院 整形外科外来医長
1970年東京都生まれ。96年日本大学医学部卒業。同年駿河台日本大学病院救命救急センター研修医。98年日本大学医学部附属板橋病院助手(整形外科学教室)。同病院専修医、川口市立医療センター整形外科医長などを経て、2008年日本大学医学部助教、脊椎脊髄外科指導医取得。09年日本大学医学部整形外科学系医局長。11年より現職。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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