インタビュー 川端茂徳(かわばた・しげのり)先生

[インタビュー] 2014年10月21日 [火]

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川端 茂徳 東京医科歯科大学 整形外科講師
1968年神奈川県生まれ。93年東京医科歯科大学医学部卒業、同大医学部整形外科に入局。河北総合病院、九段坂病院、緑成会病院等を経て、97年東京医科歯科大学整形外科医員。98~2002年東京医科歯科大学大学院医学系研究科在籍。02年同大整形外科医員、03年同大整形外科助手。03年から約1年間ドイツ・マグデブルグ大学留学。04年東京医科歯科大学整形外科助教。11年より現職。

僕は神経が大好きなんです。その神経を傷つけることは僕にとっては大罪。とんでもないことです。

 実家は薬局、伯父(おじ)は内科開業医、兄は医学生・・・。大学受験のころの川端先生を取り巻く環境です。当然、川端先生も医学部進学を視野に入れていました。しかし、生来の「コンピュータ大好き」が高じての工学部進学の夢も、なかなか捨てきれませんでした。

 そんなとき、東京医科歯科大学なら、生体材料工学研究所もあるほど医用工学に力を入れていることを知り、ここに行こうと決めたのです。

「入学したときから、将来は医学と工学の橋渡し役ができたらいいなと考えていました」
 川端先生が専門とする神経も、コンピュータも情報処理・情報伝達のシステムです。

「実は、情報伝達にとても興味があって、神経が大好きなんです」 “恋人”の話をするように、神経への熱い思いを口にする川端先生。「大切な大切な神経を傷つけるなんて、僕にとっては大罪。とんでもないことです」

 医学部入学後、脳外科か神経内科か、整形外科かと進路を考え、整形外科を選んだのは、最も神経を扱う機会が多い領域だったからであり、さらに脊椎を選んだのはやはり、そこが神経の中心だったからです。

 以後、先輩医師から、神経を傷つける危険性、手術の怖さをたたき込まれてきました。こうした先輩から後輩への技の伝承に、顕微鏡下手術が役立ちます。両者で同じ顕微鏡像を共有できるので、万一、間違いをおかしそうなときには、その場で「そこは違う」「それは、こうする」などと指導できるからだといいます。

「神経を傷めないことはもちろんですが、患者さんのことを第一に考え、手間を惜しまずに診断して、安全に手術を行い、一人でも多くの患者さんに喜んでいただく。こんなことを毎日、若い医師に口が酸っぱくなるほどくり返しています」

 精度の高い手術に自信をもちながらも、患者さんの負担が小さい治療を第一に考える川端先生は、実は手術はあまり好きではないそうです。

「手術の結果、動けるようになったとか、あきらめていたことができるようになったと、患者さんが喜んでくださるのは、当然うれしいです。しかし、『先生のいうとおり2カ月我慢したら、手術なしでも痛みがとれた』といわれるのもうれしいですね」

 おばあちゃんたちと雑談するのが大好きと、柔和な面持ちをいっそう緩めて、診察の場では患者さんとの会話を大切にしています。

「ここに来れば安心と思ってもらえるような立場にいたい。相談すれば、病気のことはもちろん、それ以外にもいろいろなことを教えてくれて、治療法もいくつも示してくれて選ばせてくれる、そんなお医者さんになりたいですね」

 ここ数年、川端先生は脊髄神経の機能を正確に、しかも簡単に診断できる装置の開発に取り組んできました。MRIでは神経が圧迫されているように見えても、実際の機能は障害されていない――そんな“誤診”を防ぐために、神経に電気を通して電気の流れがどこで悪くなっているのかを診断できる「脊髄磁界測定装置」いう検査機器を開発、ほぼ完成に近づいています。

「この装置なら患者さんはあお向けに寝ているだけ。電気を流したときに一瞬、ピリッとしますが、4分程度で検査は終わります。現在、頸椎の検査が可能で、腰の診断にはまだ使えないのですが、さらに幅広く使えるよう研究中です」

 医学と工学の橋渡し役を目指して何十年かたった今、それが現実にできていることは本当に幸せと、川端先生はいいます。自ら開発した診断装置は世に出る一歩手前まできました。研究の延長上に臨床があることを実感し、「脊椎の病気の診断が簡便、正確にできれば、幅広い方々に喜んでもらえるでしょう」と胸をふくらませています。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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