経皮的内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術ってどんな治療法ですか?

[経皮的内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術] 2014年11月04日 [火]

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経皮的内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術(1)
経皮的内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術(PED)

椎骨の隙間から極細の内視鏡を入れる

 直径2mmのカメラを備えた直径6~8mmの内視鏡で可能となった、現在、患者さんの体への負担が最も少ないヘルニア手術。草創期から内視鏡によるヘルニア手術に取り組んできた出沢明先生に、この手術の利点や手法を解説していただきました。

どんな治療法ですか?

極小の傷口から極細の内視鏡を挿入して行う手術。筋肉の損傷も少なく、1泊2日で社会復帰も可能。最新の機器や、高度な技術が必要とされ、実施できる医師や医療機関が限られています。

傷口、筋肉への影響、入院期間、どれをとっても負担は最小に

「これがPEDの内視鏡」と出沢先生

 経皮的内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術(Percutaneous Endoscopic Discectomy:以下PED)とは、直径約2mmの超小型のカメラ装置を先端に備えた直径6~8mmの内視鏡を用いて、ヘルニアを切除する手術です。体への負担が非常に小さい手術(超最小侵襲:MIS手術)として知られています。

 手術のために必要な皮膚の切開は約6~8mm、筋肉への損傷はほとんどなく、さらに、ラブ法でもMED(内視鏡下椎間板切除術)でも、椎弓(ついきゅう)の骨を削らなければ椎間板に到達できませんが、PEDではその必要がありません。PEDの場合の進入経路は、もともと椎骨(ついこつ)と椎骨の間にあり、馬尾(ばび)から分かれた神経の出口となっている椎間孔(ついかんこう)を利用しています(図1参照)。直径6~8mmというごく細い内視鏡の開発により、狭い椎間孔からの進入が可能になり、その結果、骨を削らずにヘルニアの切除を行うことができます。

 PEDは局所麻酔で行い、手術時間は30~60分、入院期間は1泊2日、手術後数時間で歩行が可能になります。この手術の開発の目的の一つは、社会復帰への期間を短くすることでもあり、ほかの手術法に比べ、非常に短期間でもとの生活に戻ることができます。

日本で開発され、欧米で発展。草創期から先駆的に取り組む

●PEDの手術法
図1椎骨(ついこつ)と椎骨の間の神経の出口となっている椎間孔を利用して内視鏡や手術器具を入れる。狭い隙間(すきま)を通るような極細の器具類が開発されている。PEDの手術法

 PEDは、1975年、慶應義塾大学(けいおうぎじゅく)整形外科の土方貞久(ひじかたさだひさ)教授によって開発された経皮的髄核(ずいかく)摘出術=経皮的椎間板摘出術(PercutaneousNuclectomy:PN)をもとに、欧米で改良されて、2000年前半に現在の実用型となりました。日本ではいち早く、われわれの施設が2003年に取り入れて実績を積み上げ、今日に至っています。現在は、保険医療として承認されています。

 ただし、あとにも述べますが、PEDには非常に高度な技術と経験が必要であるため、安全、正確にこの手術を行うことのできる医師、施設は、まだ限られているのが現状です。

 腰椎椎間板ヘルニアに対する手術法は、基本となるラブ法、それをより体への負担を小さくしようと開発されたMEDを中心に、筋肉や神経にできるだけ損傷を与えずに、ヘルニアを切除する方法の研究に、専門医がそれぞれに取り組んでいます。患者さんへの負担をできるだけ小さくするという考え方は、外科医にとっては永遠のテーマです。腰椎の手術に対しても例外ではなく、私自身もそれを追求してきており、その一つの結実がPEDといえます。

内視鏡は椎弓のわきの椎間孔から挿入する

 何といっても、PEDの特徴は、椎間板への進入経路です。ほかの手術法が、背骨に対して真上からアプローチするのに対し、PEDは背骨の外側、斜め上方向からアプローチします。真上からだと、椎間板まで手術器具を届かせるには、椎弓や靱帯(じんたい)が障害となり、作業スペースを確保する分だけ、最小限にこれらを削ったりしなければなりません。この作業が、患者さんの筋肉や神経への負担、あるいは再発率などに大きく影響を与えています。

 PEDの考え方は、椎骨と椎骨の間にもともとある隙間(すきま)を狙って直接手術器具を挿入し、ヘルニアの切除を行おうというものです。この実践を可能にしたのが、さまざまな技術革新、機器の開発です。

超小型カメラをはじめとする機器の開発がPEDを可能に

 当初、私は日本でPED専用の器具が入手できず、小児用の膀胱(ぼうこう)鏡を用いて行ったこともありました。

 今も、PED用に一般に市販されている器具は少なく、各メーカーの協力のもと、日々、使い勝手や安全性を考えて工夫を加えながら試行錯誤を続けています。

 非常に狭い入り口から、ヘルニアを狙って機器を到達させる目的のためには、機器全般を細く、あるいは小さくしなければなりません。PEDの発展のなかで、画期的だったのは、直径2mmの超小型カメラの登場です。これによって、劇的に、できることの幅が広がりました。

 MEDでは、直径16~18mmの円筒形の中で手技を展開しますが、PEDでは、さらに狭い、直径6~8mm、いわば鉛筆を空洞にしたような空間で手術を行っています。カメラが直径2mmまで小型化したことで、利用できる空間が広がったわけです。数mmの差ですが、すべてが「小指大」のサイズで行われているPEDの世界にあっては画期的なことでした。

 そこで、広がった空間を最大限に利用できるように、ヘルニアを切除する器具に、さまざまな工夫を施してきました。狭い通り道から入って、内部で効率よくヘルニアを切除できる、直径が2mmの超小型ドリルや、先端が鎌首のように曲がる機能をもたせた切除用の鉗子(かんし)などの開発を進め、使用しています。

課題は手技の難しさ。研修、セミナーにより普及を

 内視鏡を用いた手術では、機器の扱いや手術する部位の見え方に慣れるまでには時間がかかります。つまり、PEDは安全な手術を行うための技能に差が出てしまう手術であり、特殊なトレーニングや訓練を十分に行い、手技に習熟しなければいけません。そのために、現段階では、限られた医師、限られた施設で行われている手術です。

 対象として、手術が必要なすべての腰椎椎間板ヘルニアにPEDが可能です。椎間孔から到達できない位置のヘルニアに対しても、同じ内視鏡を用いてのPEDを行っています。その場合は、背中の真上から内視鏡を入れ、椎弓の隙間を利用したり、ドリル型の器具で少量の骨を削ったりして、ヘルニアに到達します。

 さらに、腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)の背中側から行う椎弓切除についても、現在、世界で唯一の内視鏡を作製して、安定した成績を出しています。

出沢 明 帝京大学医学部附属溝口病院整形外科教授
1980年千葉大学医学部卒業、87年同大大学院修了。国立横浜東病院(現聖隷横浜病院)整形外科医長、千葉市療育センター通園センター所長などを経て、91年帝京大学医学部整形外科講師。96年同大医学部附属溝口病院整形外科助教授、2004年から現職。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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