検査と診断、治療法の選択
[診断と治療法の決定] 2014年5月20日 [火]
間欠跛行の原因の鑑別が重要です。患者さんの訴える症状と画像検査を合わせて診断、治療は保存療法から始めるのが基本です。
閉塞性動脈硬化症との鑑別が非常に大切
間欠跛行がみられることは腰部脊柱管狭窄症の大きな特徴ですが、間欠跛行があると必ず腰部脊柱管狭窄症というわけではありません。同じように間欠跛行が大きな特徴である別の病気があるからです。
その病気の代表的なものは、閉塞(へいそく)性動脈硬化症です。歩くときには脚の筋肉を使いますが、筋肉が働くためには血流が必要です。閉塞性動脈硬化症は、脚の動脈に動脈硬化がおこり、血管の内腔(ないくう)が狭くなって血液が流れにくくなる病気です。血流が確保されないと、少し歩いただけで脚が痛くなり、それ以上歩けなくなってしまいますが、少し休むと再び歩けるようになります。
腰部脊柱管狭窄症が原因でおこる間欠跛行と、閉塞性動脈硬化症が原因でおこる間欠跛行は、患者さんの訴えは同じですが、原因はまったく別ということになります。
したがって、腰部脊柱管狭窄症の診断を下す際に、閉塞性動脈硬化症と鑑別することが非常に大切となります。閉塞性動脈硬化症の患者さんに、腰部脊柱管狭窄症を治すための手術をしても、間欠跛行は治りません。
なかには、腰部脊柱管狭窄症と閉塞性動脈硬化症の両方を合併している患者さんもいます。どちらの病気も60歳代で発症する人が多いという共通点もあります。
閉塞性動脈硬化症との鑑別は、足首と二の腕で収縮期血圧を測って出す足関節上腕血圧比(ABI)と、足の指と二の腕で収縮期血圧を測って出す足趾(そくし)上腕血圧比(TBI)という二つの検査数値で行います。この数値によって、末梢(まっしょう)の血流障害をみて、閉塞性動脈硬化症か否かを判断します。
私が診療している東邦(とうほう)大学医療センター大森(おおもり)病院整形外科では、腰部脊柱管狭窄症が疑われる場合、必ずABIとTBIを調べて、閉塞性動脈硬化症との鑑別を行い、閉塞性動脈硬化症の疑いがある場合は、すぐに循環器科に紹介しています。
なお、間欠跛行の原因として、バージャー病(閉塞性血栓血管炎)という病気もあります。ただし、バージャー病は50歳までの若い人に発症する病気のため、腰部脊柱管狭窄症との鑑別に困ることはあまりありません。
問診や視診、触診などを行う。画像検査も大切
腰部脊柱管狭窄症を疑う場合、問診、視診、触診、痛みを誘発させるテストなどを行います。腱(けん)反射、筋力、知覚・触覚なども検査します。
X線、MRI(磁気共鳴画像法)といった画像検査も大切です。ペースメーカーをつけているなどMRIが使えない患者さんには、脊髄造影や脊髄造影後のCT(コンピュータ断層撮影)が使われています。
ほかの病気との鑑別や合併症を調べるために、血液検査も行います。
【問診】
問診では、年齢、糖尿病と診断されたことがあるかをまず確認します。糖尿病の場合は血管が傷みやすく、閉塞性動脈硬化症をおこしている可能性があるからです。
次いで、どんなときに脚のしびれや痛みを感じるのかを詳しく聞きます。間欠跛行があるかどうか、立った姿勢で症状はどうか、前かがみの姿勢をとったときに症状が軽くなるかどうかもポイントです。
腰部脊柱管狭窄症の場合、歩くと脚にしびれや痛みを覚える人でも、自転車をこいでいるときはまったく症状が出ません。閉塞性動脈硬化症の場合は自転車をこいでも症状が現れるので、これも確認します。
【視診】
患者さんに立ってもらい、背骨の並び方をチェックします。背骨が真っすぐかどうか、横から見たときに弯曲や異常がないかを調べます。
【触診】
指を当てて棘突起(きょくとっき)の配列に異常がないかを確認します。指で押してみて痛みがないかも調べます。
【痛みを誘発させるテスト】
下肢伸展挙上(かししんてんきょじょう)テスト(SLRテスト)、大腿(だいたい)神経伸展テスト(FNSテスト)、ケンプテストなどがあります。腰部脊柱管狭窄症の場合はSLRテスト、FNSテストに反応が出ることは少なく、ケンプテストで痛みが誘発されることが多くなります。
【腱反射】
ゴム製の小さなハンマーで、膝(ひざ)のお皿の下を軽くたたいて反射を調べる膝蓋腱(しつがいけん)反射、アキレス腱のうしろを軽くたたいて反射を調べるアキレス腱反射を調べます。神経に障害があると、これらの反射が弱くなったり、消失したりします。
【筋力テスト】
膝、もも、足首を動かす筋肉などの筋力を調べます。医師が加える力に抵抗するように、患者さんに力を入れてもらい、筋肉を神経がコントロールできているかをみます。
【知覚・触覚テスト】
筆やピンなどで触ったり、皮膚を軽く突いたりして、感触や痛みを感じるかをみます。神経に異常があると、左右で感覚が異なったり、感触や痛みを感じなかったりします。
【X線】
前後、側面、斜めの位置のほかに、前屈、後屈の姿勢で撮影することもあります。椎間が狭くなっていたり、椎間関節に変形があったりすると、X線画像でわかります。
【MRI】
MRIはX線では映らない椎間板や脊髄などを映し出すことができるため、非常に役立つ検査です。ただし、心臓にペースメーカーをつけている人は、この検査を受けることができません。
【造影検査】
馬尾を包む硬膜の内部や椎間板に造影剤を注入し、X線で撮影する検査です。CTでも撮影します。
患者さんの訴えが診断のポイント。症状に応じて治療を行う
(日本脊椎脊髄病学会)
評価項目 | 判定(スコア) | ||
---|---|---|---|
病歴 | 年齢 | 60歳未満(0) | |
60~70歳(1) | |||
71歳以上(2) | |||
糖尿病の既往 | あり(0) | なし(1) | |
問診 | 間欠跛行 | あり(3) | なし(0) |
立位で下肢症状が悪化 | あり(2) | なし(0) | |
前屈で下肢症状が軽快 | あり(3) | なし(0) | |
身体所見 | 前屈による症状出現 | あり(−1) | なし(0) |
後屈による症状出現 | あり(1) | なし(0) | |
足関節上腕血圧比0.9 | 以上(3) | 未満(0) | |
アキレス腱反射低下・消失 | あり(1) | 正常(0) | |
下肢伸展挙上テスト | 陽性(−2) | 陰性(0) |
*該当するものをチェックし、割り当てられたスコアを合計する
*合計点数が7点以上の場合は、腰部脊柱管狭窄症である可能性が高い
各種画像検査機器の発達により、背骨のようすは非常に鮮明にわかるようになってきました。しかし、画像で見る背骨の状態と、患者さんの訴える症状は、必ずしも一致するわけではありません。
画像検査で見る限り、かなり神経が圧迫されているのではないかと思われる患者さんでも、しびれや痛みをまったく訴えないことがあります。逆に、画像検査では、それほど悪い状態に見えない場合でも、しびれや痛みの症状を強く訴える患者さんもいます。
このため、診断で最も重視するのは患者さんの訴えです。患者さんが脚のしびれや痛みを訴えていて、画像検査でも異常が認められれば、腰部脊柱管狭窄症を疑うことになります。さらに間欠跛行が認められ、前かがみの姿勢をとったときに症状が軽くなるといったことがあれば、腰部脊柱管狭窄症と診断できます。先に述べた閉塞性動脈硬化症との鑑別も、必ず行います。
なお、一般の病院で使うために「腰部脊柱管狭窄診断サポートツール」が開発されています(表1参照)。当施設のような大学病院では、整形外科のなかでも脊椎の病気を専門に扱う医師が診察しているので必要ありませんが、一般の病院ではこのサポートツールを使うと、腰部脊柱管狭窄症であるかどうか、ある程度見極めがつきます。
まず保存療法を試す。手術法は複数ある
腰部脊柱管狭窄症と診断がつけば、その患者さんの症状に応じた治療を行います。
一般にはまず、日常生活が楽に過ごせることを目的に、手術以外の治療法である保存療法を行います。保存療法には薬物療法、神経ブロック、装具療法などがあります。
保存療法を3~6カ月続けても効果がみられない場合には、手術療法を考慮します。手術の場合、脊椎が安定していれば神経の圧迫を取り除く除圧術を行います。脊椎がグラグラして不安定なら、除圧術に加えて固定術も必要です。
なお、膀胱直腸障害や強い神経の障害がみられる場合には、時間がたつと神経の回復が難しくなるため、ただちに手術を行い、神経への圧迫を取り除く必要があります。
高橋 寛 東邦大学医療センター大森病院整形外科教授
1964年東京生まれ。88年東邦大学医学部卒業。同大医学部付属大森病院整形外科等を経て、98年から1年間、米国カリフォルニア大学(UCSF)留学。2004年東邦大学医療センター大森病院整形外科講師、09年同准教授、11年同教授、脊椎脊髄病診療センター長、12年任用換えにより東邦大学医学部整形外科教授。
(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)