インタビュー 高橋 寛(たかはし・ひろし)先生

[インタビュー] 2014年6月17日 [火]

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高橋 寛 東邦大学医療センター大森病院整形外科教授
1964年東京生まれ。88年東邦大学医学部卒業。同大医学部付属大森病院整形外科等を経て、98年から1年間、米国カリフォルニア大学(UCSF)留学。2004年東邦大学医療センター大森病院整形外科講師、09年同准教授、11年同教授、脊椎脊髄病診療センター長、12年任用換えにより東邦大学医学部整形外科教授。

母の病状も気になりました。でも、私は担当する患者さんが第一という気持ちで、全力で診療をしていました。

 高橋先生は28歳のときに母親を亡くしました。その通夜の席に、思いがけずある患者さんの息子さんが来てくれました。実は、彼は1週間前に父親を看取(みと)ったばかり。「転移性脊椎腫瘍(せきついしゅよう)の60歳代の男性の患者さんでした」

 勤務先の病院に引き取ったばかりの母親の病状も気になりながら「やはり、患者さんが第一」という気持ちで全力でその患者さんの診療に臨んだという高橋先生。「母親の入院自体も内緒にしていたのですが、看護師からでも聞いたのでしょうか」

 通夜に参列してくれた息子さんを見てありがたい気持ちがあふれ「精いっぱいの誠意を尽くせば、相手もこたえてくれる」と実感しました。

 こんな経験も経てきて、高橋先生は、特に手術をするときには、患者さんとの信頼関係をとても大切にしています。それは、ときとして患者さんの満足度と医師の満足度が一致しないことがあるからです。

 「脊椎の手術は、たとえば手術前の10の痛みがゼロになるとは限らず、2~3割程度の痛みが残ったり、しびれが残ったりすることもあります。手術前に比べて明らかによくなっているはずですが、『歩けるようになった』とよくなった7~8割のほうを喜ぶか、『痛みが残った』と2~3割のほうを嘆くかは患者さんしだい。だから、信頼関係を構築しないまま、安直に切ることはしません」

 実は高橋先生の父親も整形外科の医師。「お金を度外視」して身障者の子どものケアに尽力し、途中からリハビリの道に進んだという経歴の持ち主だそうです。そんな父親に反発して、報道関係の仕事をしたいと文系の勉強に励んだこともあったとか。しかし、法学や経済学は自分の勉強がすぐには実践に結びつきにくいと考え「自分の知識や技術をフィードバックがしやすいのでは」と医師の道を選びました。

 現在、高橋先生が取り組んでいる研究テーマは、MIS(最小侵襲手術)です。侵襲(しんしゅう)とは患者さんの体の負担になることを意味する言葉で、それをできる限り小さくしていく手術法を追求しています。「手術による傷口が小さいだけ、内視鏡を使うだけがMISではないと考えています。患者さんの痛みや負担が本当に少ないのか、それを数値で表したいと思っています」

 そこで、動物実験を実施したり、大学病院の倫理委員会の承認のもと患者さんの協力を得たりして、血液の特殊なデータを調べる、あるいは痛みを計測するツールを使うなどして研究を進めているそうです。

 低侵襲であると同時に安全で確実な手技が欠かせないのも脊椎の分野。傷の大小にかかわらず、神経を傷つけたら後戻りはできません。それだけに「やりがい」もあります。「卒業後、間もなく見た先輩の頸椎(けいつい)の手術は劇的でした。動かない手が動くようになったのです」と今でも興奮気味に話す高橋先生。だからこそ、学生や後輩たちには「アグレッシブな外科医、切れる医者になってほしい」と話します。

 同時に、若い医師たちには留学を勧めます。自身のアメリカへの留学経験は、振り返れば苦い思いばかり。お酒を覚えたのもそのとき。「それでも、研究の進め方、人間関係のつくり方、生活を取り巻く文化の違い。つまり、ひとことでいえば空気の違いを感じることはよい経験」。健康保険制度もまったく異なるアメリカでは、考えさせられることも多々ありました。「日本に比べたら治安も悪く、決して楽じゃないけれど、得るものは大きい。萎縮(いしゅく)せずに」と発破(はっぱ)をかけているそうです。

 腰部脊柱管狭窄症の患者さんには、こんなアドバイスをくれました。「『背骨の手術を受けたら車いす』と誤った印象をもっている患者さんは少なくありません。この10~15年で手術の選択肢はとても多くなっています。患者さんに優しい手術も増えました。2度目の手術を受けた人が『こんなに楽だとは』と驚くほど。ぜひ、怖がらずに受診してください」

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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