インタビュー 和田明人(わだ・あきひと)先生

[インタビュー] 2014年8月26日 [火]

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和田 明人 東邦大学医療センター大森病院 整形外科准教授
1965年千葉県生まれ。91年東邦大学医学部卒業。98年東邦大学医学部整形外科学第1講座助手、2003年米国The University of Tennessee Health Science Center Department of Neurosurgeryへ1年間留学。05年横浜東邦病院整形外科部長、08年東邦大学医学部整形外科学第1講座助教、09年東邦大学医療センター大森病院整形外科講師。09年12月から11年11月までは東邦大学医学部整形外科医局長も務める。12年から現職。

背中の筋肉をはがすのは、人工的な肉離れ。手術をすることでおこる痛みは、どうにかしてなくしたいのです。

 和田先生に、医師になった経緯を尋ねると「カエルの子はカエル」。父、兄とも外科医という家庭に育ったそうです。「一般外科の町医者をやっていた父。兄は父と同じ外科医。反発した時期もありましたが、結局は私も医者に。ただし、自分の性格を考えて専門は整形外科を選びました」と親しみやすい飾らない語り口です。「子どものころからプラモデルなどものづくりが大好きでしたからね」と笑顔が浮かびます。

 整形外科は生命と直結しない科として選んだともいう和田先生は、整形外科医になって7、8年目、ある患者さんと出会うことになります。

 「胸椎(きょうつい)にがんの転移がみつかった患者さん」。最初は手術を勧めたそうですが、「おなかの手術をしたばかりだから、手術はしたくない」という患者さんの意向に沿い、半年ほど、放射線治療や抗がん剤による治療などを続けていました。ところが、ある日、その患者さんが骨折で運ばれてきたのです。

 「背骨がポキッと折れていました。腫瘍(しゅよう)が大きくなりすぎたための病的な骨折。その時点では、もう本格的な手術は難しく、背骨を補強する手術しかできませんでした」

 それでも、患者さんはどうにか杖(つえ)歩行はできる状態にまで回復しました。それから半年後、その患者さんのもともとのがん(原発巣)の治療をしていた別の病院の先生から、患者さんの全身状態が厳しいことを伝えるメールが届きました。そのメールで、患者さんが会いたがっていることを知った和田先生は、すぐに面会に。「私の顔を見るなり、『ありがとう』といってくれたのです」

 その3日後に患者さんは亡くなられたそうです。「医療の役割とその限界を感じさせる出来事でした。悔しくて、今でも忘れられません」

 和田先生はその後、米国テネシー州メンフィスの大学に留学し、脊椎のMIS固定術を開発したフォーリー医師に師事。「できるだけ患者さんの負担を小さくする手術を行いたい」と、帰国後は、すべり症や側弯症から脊柱管狭窄をおこしている患者さんに、MIS固定術を実施しています。

 「何をもってMISとするのか。これは、いまだ答えのない大きなテーマであり、研究対象です。統計には出していませんが、背骨の手術で背中の筋肉を大きくはがすと、4人に1人くらいは、手術後に背中が張る、背中に鉛板をつけたみたいといった、手術前に感じていた痛みとは別の痛みを訴えます」

 手術中に筋肉をはがすということは、つまりは、人工的に肉離れをおこさせているということ。「手術という操作でおこる痛みは、どうにかしてなくしたい」という和田先生の思いは切実です。

 背骨は人間の大黒柱であり、神経の通り道、さらに関節としての働きもある大切な運動器。「そこにメスを入れるのはおっかなくもあり、だからこそやりがいもあります」と力強く語る和田先生。学生や若手医師には「一人ひとり異なる生活背景まで考えて治療のゴールを設定する」ように指導しています。「それには、まず問診。患者さんの話をよく聞かなければなりません。たとえば、手術の承諾書に息子さんの名前があったので安心していたら、実は疎遠で退院後にサポートしてくれる家族がいない、といったこともあります」

 患者さんの主訴、社会的背景、年齢、性差、家族関係、さまざまな要素を考慮して、全人的な理解のもとに治療を選択する大切さは、患者さんに教えられたことです。

 「治療の選択肢はいろいろ。確かに保存療法でよくなる患者さんもいます。ただし、3カ月から半年程度を目安にして、症状が重くなるようであれば、手術を考えるべき。手術の切れ味は、やはり早めのほうがよいですから」

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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