棘突起縦割式椎弓切除術ってどんな治療法ですか?【腰部脊柱管狭窄症】

[棘突起縦割式椎弓切除術] 2014年7月08日 [火]

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棘突起縦割式椎弓切除術(1)
棘突起縦割式椎弓切除術(きょくとっきじゅうかつしきついきゅうせつじょじゅつ)

背骨の周囲にある筋肉を傷めない手術法

 背骨の周囲の筋肉を大きくはがす従来の椎弓(ついきゅう)切除術は、筋肉の損傷が、術後の痛みの原因となっていました。この欠点の解消を目指したのが棘突起(きょくとっき)を縦に割る手術法。この術式を開発した、渡辺航太先生に解説していただきました。

どんな治療法ですか?

背骨の背中側に突き出ている棘突起を縦に割り左右に広げて真上から神経への圧迫を除きます。背中の筋肉をはがさないため痛みが早く回復。手術しやすく、安全性の高い方法です。

筋肉をはがさずに手術の視野を確保する

「ここを縦に切ります」と渡辺先生

 腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)は、背骨の神経の通り道である脊柱管が狭くなって、中を通る神経を圧迫し、主に脚にしびれや痛みがおこります。この神経への圧迫をいかにして取り除くかが、腰部脊柱管狭窄症の手術のポイントとなります。脊柱管内で神経を圧迫しているのは椎骨(ついこつ)と椎骨をつないでいる黄色靱帯(おうしょくじんたい)や、椎骨の背中側にあたる椎弓の骨の一部です(こちらを参照)。

 どのような手術法でも、除圧のために黄色靱帯を切除したり、椎弓を削ったりすることに変わりはありません。手術法の違いは、除圧する部分にいかに到達するかという経路の違いにあります。私が開発した棘突起縦割式椎弓切除術(以下、縦割術)も、古くからある椎弓切除術とは、進入経路が違います。

 私が縦割術という新しい手術法を始めたのは2001年のことです。当時、私は群馬県の総合太田(おおた)病院(現太田記念病院)の整形外科に勤務していました。整形外科医になって5年目で、まだ若手のころでした。

 きっかけになったのは、腰部脊柱管狭窄症の椎弓切除術は、どうしてこんなに手術がやりにくいのか、という素朴な疑問を抱いたことでした。古くからある従来の椎弓切除術は、背骨の周囲にある筋肉を大きくはがし、器具で引っ張ってよけながら手術を進めるため、筋肉が傷ついて、手術後には背筋力が低下したり、腰痛が残ったりしていました。

狭窄(きょうさく)の位置を示し、患者さんにていねいに説明する

 拡大開窓術(かくだいかいそうじゅつ)(こちらを参照)は、棘突起を残し、椎弓も切除するのは一部だけという優れた方法なのですが、椎弓の横のほうから神経の圧迫を取り除くため、患部が見えにくく、作業が少し難しいのです。

 そこで、背骨の周囲の筋肉をはがさず、手術の視野を確保する方法はないものかと考えた結果、浮かんだアイデアが、棘突起を縦に割るという方法でした。棘突起というのは、椎骨のうしろのほう(背中側)に出っ張った部分で、背中を触れば自分でも確認できます。その部分を割って両側に広げれば、筋肉をはがすことなく、手術を進めるための視野が確保できるのです。

 骨折の治療を考えれば納得がいくと思いますが、骨は割っても、あとでくっつけることができます。

 しっかりくっつくのに数カ月かかりますが、筋肉をはがすよりも患者さんに対する負担は少ないと考えられました。筋肉がついている骨は血流が行き渡るので、くっつきやすいという利点もあります。このような背景から、新たに挑戦する価値があると考え、当時の上司の許可を得て踏み切りました。

軟らかい海綿骨は簡単に割ることができる

●棘突起縦割式椎弓切除術の手法
図1椎骨(ついこつ)の背中側にあたる椎弓のうしろに飛び出た棘突起を縦に割って広げ、真上からの広い手術視野をつくる。椎骨(ついこつ)の背中側にあたる椎弓のうしろに飛び出た棘突起を縦に割って広げ、真上からの広い手術視野をつくる。
術後のCT画像。棘突起を縦に割ったあとが見える
写真提供:慶應義塾大学医学部整形外科

 この手術法では、棘突起という部分の骨を縦に割ります。骨には皮質骨と呼ばれる硬い部分と、海綿骨と呼ばれる軟らかい部分があるのですが、棘突起の場合、硬い皮質骨は表面だけで、中身は海綿骨で軟らかいのです。このため、棘突起を縦に割るのは、実は簡単で、すぐに割ることができます。割るという言葉からは、硬いものをノミとハンマーでガンガンたたくようなイメージをもたるかもしれませんが、実際はノミを強くたたく必要はなく、押し込むようにするだけで、あっさりと割ることができるのです。

 この方法の利点は、特殊な器具を必要としないところにもあります。手術する医師にとっては、視野が確保されていて、非常によく見えるのです。顕微鏡も必要ありません。よく見えるということは、医師にとっては手術がやりやすいということになり、同時に患者さんからすると手術の安全性が高まるというメリットがあります。

 私も腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアの手術では内視鏡を使っていて、それはそれでメリットのある手術法だと思っています。ただし、腰部脊柱管狭窄症の手術で内視鏡を使うと、ビンの中に船を作るようなもどかしさを感じます。技術の優れた医師にはよい方法だと思いますが、誰にでもできる方法ではありません。

 その点、縦割術は、脊椎(せきつい)脊髄の外科医であれば、どんな医師でも簡単にできるのです。いまや多くの施設で、この方法が使われるようになっています。それは、医師にとって非常に簡便で、なおかつ、患者さんにとっての安全性が高いという点からだと思います。

 また、棘突起にくっついている筋肉や靱帯をはがさないで手術を進めることができるので、筋肉の損傷を最小限に抑え、筋肉に分布する神経や血管の損傷を予防することができます。

 さらに、詳しくは後述しますが、縦割術では、痛みの回復も早くなります。最初の3日間は従来法と変わりませんが、7日目で比べると痛みの度合いが減っているという調査結果が出ています。

 このように数多くのメリットがあるため、私どもの施設では、腰部脊柱管狭窄症の手術をする場合、原則として縦割術で行っています。

渡辺 航太 慶應義塾大学先進脊椎脊髄病治療学講師
1972年神奈川県生まれ。97年慶應義塾大学医学部卒業。同大医学部整形外科に入局、総合太田病院(現太田記念病院)整形外科等を経て、2002年から2年間、慶應義塾大学生理学教室に所属。04年同大医学部助手。05年から1年間、米国ワシントン大学整形外科留学。06年慶應義塾大学先進脊椎脊髄病治療学助手、07年同大医学部整形外科助教、08年から現職。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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