[認知症 ] 2017 / 04 / 27 [ 木 ]

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2025年には高齢者約5人に1人が、認知症患者に

 「認知症800万人時代」の到来がいよいよ現実味を帯びてきました。2012年には462万人(高齢者約7人に1人)だった認知症患者は、2025年には約700万人(高齢者約5人に1人)に達するとされています。政府も認知症高齢者等にやさしい地域づくりを目指した認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)を策定するなど、国を挙げて対策に乗り出しています。

 こうした認知症の予備群のひとつとされる「軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment(MCI)」という病気についてご存じでしょうか。健常者と認知症の中間にあたるグレーゾーンの段階のことで、認知機能のうちひとつの機能に問題が生じているけれども、日常生活には支障がない、もしくは努力や工夫などで自立した生活を送ることができる段階のことをいいます。

軽度認知障害(MCI)の人は、年間10~15%が認知症に移行

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 厚生労働省のデータによると、平成24年時点での国内の軽度認知障害(MCI)の有病率は推定で13%、約400万人と推計されています。また、軽度認知障害(MCI)の人は、年間で10~15%が認知症に移行するとされています。

 そこで、高齢化社会の進展とともに患者数が増加している軽度認知障害(MCI)について、メモリークリニックお茶の水 院長の朝田隆先生にお話を伺いました。朝田先生は、認知症に関する厚生労働省研究班の代表者を務めるなど、認知症治療の第一人者。同院のもの忘れ外来では最新の認知症心理検査セットなどで、軽度認知障害(MCI)を早期に発見し対応しています。

物忘れの原因「加齢」と、「MCIや認知症」の違いとは?

 「記憶力は20代をピークに徐々に衰えていきますが、判断力や適応力など記憶以外の能力は50歳頃まで伸び続けると言われています。しかし、60歳をすぎるとこれらの能力にも衰えがみられ、知能の老化が始まります。物忘れが多くなってくるのもこの頃ですが、多くの場合は加齢による自然なもの。

 一方、軽度認知障害(MCI)や認知症を疑う物忘れは、親戚の結婚式など忘れるはずのない記憶(エピソード記憶)が抜けてしまったり、自分で話したことを翌日になってすっかり忘れてしまっているなど、約束した『そのこと自体』を忘れてしまっている(健忘)というものです。

 初めて受診される患者さんも『一週間前の甥の結婚式をすっかり忘れていた』『自分でセッティングした会議の約束を忘れて外出してしまい、迷惑をかけた』『約束したというが、自分は約束した記憶がない』などを訴えて来院されるケースがほとんどです」。(朝田先生)

4つの種類に分けられる軽度認知障害(MCI)

 軽度認知障害(MCI)は、記憶と、それ以外の認知機能の障害があるかどうかで4つのタイプに分けることができます。
「認知機能には、記憶、注意、言語、視空間と4つの機能があります。まずは大きく記憶障害があるかないかがポイントとなり、そこから

  1. 記憶障害があるが、それ以外の認知障害には問題がない(健忘型MCI・単領域障害)
  2. 記憶障害があり、それ以外の認知障害にも問題がある(健忘型MCI・多領域障害)
  3. 記憶障害はなく、それ以外の認知機能のどれかひとつに問題がある(非健忘型MCI・単領域障害)
  4. 記憶障害はなく、それ以外の認知機能複数に問題がある(非健忘型MCI・多領域障害)

といった4つのパターンに分類されます

軽度認知障害(MCI)の4つの種類別分類と将来なりやすい認知症タイプについて、朝田隆先生監修「まだ間に合う!今すぐ始める認知症予防 軽度認知障害(MCI)でくい止める本」(講談社)を参考に作成。健忘型MCI・単領域障害はアルツハイマー病やうつ病。健忘型MCI・多領域障害はアルツハイマー病や脳血管性認知症、うつ病。非健忘型MCI・単領域障害は前頭側頭型認知症。非健忘型MCI・多領域障害はレビー小体型認知症や脳血管性認知症軽度認知障害(MCI)の4つの種類別分類と将来なりやすい認知症タイプについて、朝田隆先生監修「まだ間に合う!今すぐ始める認知症予防 軽度認知障害(MCI)でくい止める本」(講談社)を参考に作成。健忘型MCI・単領域障害はアルツハイマー病やうつ病。健忘型MCI・多領域障害はアルツハイマー病や脳血管性認知症、うつ病。非健忘型MCI・単領域障害は前頭側頭型認知症。非健忘型MCI・多領域障害はレビー小体型認知症や脳血管性認知症

※朝田隆先生監修 「まだ間に合う!今すぐ始める認知症予防 軽度認知障害(MCI)でくい止める本」(講談社)を参考に作成

将来なりやすい認知症のタイプは予測できる!?

 将来、軽度認知障害(MCI)が進行して、アルツハイマー型認知症になる可能性が最も高いのは「健忘型MCI・多領域障害」があるパターンで、次に高いのが「健忘型MCI・単領域障害」があるパターンです。

 記憶障害と、言語や視空間などそれ以外の認知機能にも問題がある場合は、記憶障害があるが、それ以外の認知機能には問題がない場合に比べて、アルツハイマー型認知症になる確率が2~3倍高くなると言われています。また、こうした症状の現れ方で、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症など、将来なりやすい認知症のタイプがある程度予測できると言われていますが、症状や病態はさまざまなため、かならずしも当てはまるとは限りません。

「記憶障害があるかないか」がカギ

 さきほど示したように、軽度認知障害(MCI)から年間10~15%が認知症に移行するというデータがありますが、逆に軽度認知障害(MCI)の人でも、正常に戻る場合も2割ほどいるとされています。「正常に戻る可能性が大きいのは、記憶障害がない場合。つまり、その後認知症に進展するかどうかというのは、“記憶障害があるかないか”というのがとても重要になってくるのです」。(朝田先生)

知能検査の点数が低くても、軽度認知障害(MCI)とはかぎらない

 軽度認知障害(MCI)かどうかを知るためには、血液検査や知能検査などを医療機関で行い、5つの定義によって、軽度認知障害(MCI)と診断されます。
軽度認知障害(MCI)と診断をするためには、まず下記の5つの観点から診断を行います。

  1. 本人や家族から物忘れの訴えがあること
  2. 年齢や教育レベルの影響のみで説明できない記憶障害があること
  3. 日常の生活動作は正常であること
  4. 全般的な認知機能は正常であること
  5. 認知症ではない

 これは、記憶検査など認知機能の点数だけでは判断が難しいこともあるためです。たとえば、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)では、日時や場所の見当識、計算問題など9問30点満点中20点以下だと“認知症の疑いがあり”とされます。 しかし、もともとその人が持っている知的レベルで検査の点数が変わってくることもあり、一概に点数が低いからと言って、軽度認知障害(MCI)や認知症だという診断はできないこともあります。その中でも、近所の店で買い物をして支払いができるかどうか、女性であれば家事が滞りなく行えるかどうかなど『自立した生活ができるかどうか』というのは、とても重要なポイントです。

 その一方で、厚生労働省調査によると、国内には、65歳以上の4人に1人である862万人が認知症と軽度認知障害(MCI)だと言われている現実もあります。「認知症になってしまうと完治することは難しいですが、軽度認知障害(MCI)のうちなら正常に戻る場合や、正常とまではいかなくても認知機能を回復させたり、認知症の発症を遅らせることもできますので、早期診断に加えて適切な対策を行うことがとても重要になります」。(朝田先生)

治療には脳トレや運動療法なども

 では軽度認知障害(MCI)と診断された場合、どのような治療を行うのでしょうか。
認知症にも用いる抗コリンエステラーゼ阻害薬が用いられることがありますが、軽度認知障害(MCI)の段階で服用しても、認知症を予防する効果がないことがわかってきています。同院では、認知トレーニング(脳トレ)と運動療法、音楽療法、芸術療法を、回復のためのリハビリとして行っているとのこと。運動療法では、筋トレや同時に2つ以上のことを行うデュアルタスク運動、創作ダンスなどを行います。

 このトレーニングは、筋力アップが目的ではなく、動かす筋肉に意識を集中し、痛みを感じることで脳を刺激していくと考えているそう。音楽療法では、楽器などを用いてみんなで合奏を行ったり、芸術療法では「夏の夜の雨」など、抽象的なテーマにもとづいて絵を描く作業を行っているとか。「認知機能が低下している場合、想像力が衰えている場合があるため、こうした方法で脳を活性化させるのです。脳トレと運動は毎日行い、それ以外はそれぞれ好きなものを選んで週に1~2回行います」。(朝田先生)

運動習慣と好奇心を忘れないことがポイント

 軽度認知障害(MCI)の治療で最も大事なことは、「運動習慣があること」と、「好奇心を忘れないこと」だと、朝田先生は言います。「ハワイの研究で、運動習慣があるかどうかで認知機能がどう変わるのかというものがあります。この研究では、もともと運動習慣があって、そのまま運動を続けた人に比べ、運動習慣のなかった人が運動をするようになったほうが認知機能が改善するということがわかりました。さらに好奇心を持って新しいことに取り組むことは、脳の活性化に繋がります。外へ出て様々な人と交流することは、認知機能を衰えさせないための重要なポイントです」。(朝田先生)

 加えて、食生活を見直すこともとても重要だとか。「糖尿病や高脂血症、高血圧などがあると認知症になりやすいこともわかっています。アメリカなどの研究でも、生活習慣を見直すことで認知症発症を遅らせることができたという報告もあります」。(朝田先生)

認知症とうつ病の関係は?

 うつ病の人は、そうでない人に比べて1.7~2倍ほど認知症になりやすいと言われています。逆にいえば、年をとっても社会での役割があることや、周囲に頼りにされるということは、認知機能を衰えさせないことに繋がるとも言えます。

人間の幸せの条件に、

  1. 愛されること
  2. 感謝されること
  3. 必要とされること

の3つがあると、ある実業家が言っています。

 「受診される患者さんにも、生きがいを持ったり、仕事をできる範囲で続けましょうと話していますが、この幸せの条件に当てはまるような生活を送っている人ほど認知症が進みづらく、その一方で、引きこもってしまい、誰とも話をしないような生活では、どんどん認知症は進んでしまいます」。(朝田先生)

 「仕事をリタイアした後でも、趣味などで第二の人生を楽しむことはとても大切なこと。まだ見ぬ病気を心配するよりも、今あることに感謝して、楽しく生きることが認知症予防の一番の方法なのです」と、軽度認知障害(MCI)や認知症にならずイキイキと暮らすコツを語ってくれました。(QLife編集部)

【先生プロフィール】
取材協力/朝田隆先生
メモリークリニックお茶の水 院長、筑波大学名誉教授、日本認知症学会理事、日本老年精神医学会副理事長

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1982年東京医科歯科大学医学部卒。石川県芦城病院、東京医科歯科大学神経科、甲府市立病院神経内科、山梨医科大学精神神経医学などに勤務後、1988年英オックスフォード大学老年科に留学。1989年より山梨医科大学精神神経科勤務、1995年同大学精神神経科講師、国立精神神経センター武蔵病院精神科医長、同病院リハビリテーション部長などを経て、2001年から筑波大学精神医学教授。
2014年 メモリークリニックお茶の水を開院。
『まだ間に合う!今すぐ始める認知症予防 軽度認知障害(MCI)でくい止める本』(講談社,2014)、『効く!「脳トレ」ブック』(三笠書房,2016)、『ウルトラ図解 認知症』(法研,2016)など著書多数。

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