うつ病患者の10人に1人が罹患する「双極性障害」
[知っておきたい「双極性障害」のこと] 2012/01/24[火]
古くから存在する身近な疾患“双極性障害”

岩田仲生 先生
「双極性障害」というフレーズに馴染みの無い方も「躁うつ病」という言葉は聞いたことがあるかもしれません。この「躁うつ病」の別の呼び方が「双極性障害」です。この病気は古くから認識されており、古事記や聖書にも、双極性障害と思われる記述があるほか、有名な作曲家・ハイドンも双極性障害であったことがわかっています。
現代の日本においても、うつ病患者の10人に1人がこの双極性障害に罹患しているといわれていますが、病院へかかっていない人なども含めると潜在的な患者人口はさらに多いと予想されます。
双極性障害は、診断が難しくはじめはうつ病と判断される場合が多いと言われています。その理由として挙げられるのが、ほとんどの場合、双極性障害の患者さんは初診時に「うつ」の症状のみを訴えます。双極性障害の患者さんが、うつ状態で受診した場合、躁状態が出るまでに数カ月から遅い場合は数年かかるので、医師が正確な判断を下すのはなかなか難しいのです。加えて、双極性のうつ状態と、うつ病の症状はほぼ同じなので、躁状態になるまでうつ病と診断されたとしても、一概に誤診とは言えないのです。そこが、双極性障害を発見する難しさなのです。
双極性障害は2つのタイプに分類される
ではうつ病と双極性障害、この二つの病気を見分けるにはどうしたらよいのでしょうか。
まず双極性障害には、症状によって2つのタイプに分類されます。躁状態がはっきりしていて重いのがI型、躁の部分が軽いのがII型です。
躁状態になると、とにかく気分が昂り、機嫌良く誰にでも話しかけたりします。夜眠らなくても平気になるほか、良いアイデアがどんどん浮かんできたり、自分は誰よりも偉いと信じたり、急にイライラして怒りっぽくなったりします。いつもよりも活動的になるので、行動範囲が広がるほか、深夜・早朝に関わらず電話をかけたりもします。
一見、問題なさそうに思えますが、気が散って軽率になり、自制心を失っているので、こうした行動の結果、多額の借金を抱えたり、人間関係を乱して信頼関係を失い、場合によっては社会的地位を失くしてしまうこともあります。
一方、うつ状態は、一日中気分が憂うつで、今まで興味を持っていたことですら興味を持てなくなり、何をしても楽しいと思えなくなります。また、夜は眠れず、夜中に目が覚め過去のことを悔んだり、自分を責めたりすることばかりを考えます。仕事をしようとしても考えが進まず、集中力、決断力ともに鈍くなり、ひどく疲れやすいので、仕事ができなくなる人もいます。このうつ状態だけが続く場合はうつ病と診断されます。

うつ病と間違われやすいII型
I型の場合、このような躁とうつの状態がはっきりと表れるので診断がつきやすいのですが、II型の場合は躁の状態が軽いため、I型のように周りとのトラブルを起こすことも少ないです。そのため、本人も周りの人も軽躁の状態を個性や性格と捉えて見逃してしまいがちです。さらにII型の場合、I型の人よりもうつ状態が長く続くため、軽躁状態を気付かずにいる場合もあり、受診の際にも申告がないままに治療が続くことがあります。しかしながら、双極性障害はうつ病よりも自殺率が高く、摂食障害や不安障害、アルコール依存との合併が起こる危険性が高いとされています。「軽躁だから大丈夫」と甘くみてはいけない病気なのです。双極性障害とうつ病を見分けるポイント、それは、第一に躁の状態が少なくとも4日間以上続くことにあります。その躁の状態の時に以下のような項目に当てはまると双極性障害を疑います。

発症の原因は遺伝、環境など複雑に絡み合っている
双極性障害は10代半ば~20代前半に発症することが多い疾患です。うつ状態が10年以上も続く場合もあり、その場合はなかなか躁状態を見分けることも難しいのですが、このような症状がなかったか幼少期から患者さん本人を知っているご家族などが過去を振り返ることで、病気の発見につながることも多くあります。
また双極性障害を見分ける方法として、家族・親戚などに同じ病気を持つ人がいるかどうかもポイントになります。双極性障害は、同じ家系に発症することから、なんらかの遺伝要因が発症に関わっていると指摘されています。ですが遺伝子は「なりやすさ」を示すだけであって、必ず発症するとは限りませんので安心してください。
このように、双極性障害にかかる原因として、成育歴や脳などの影響も複雑に絡み合っていますが、ストレスや睡眠不足といった環境が大きく影響しています。
双極性障害は薬物治療が有効
双極性障害の治療には薬物治療と心理教育が有効です。薬物治療においては、気分安定薬と抗精神病薬が使用されます。双極性障害は再発を繰り返す疾患です。お薬の服用を止めてしまうと、再発しやすいため、長く飲んで頂くことが必要です。
また、眠気や体重増加といったお薬の副作用により服用を中断してしまうことも多いと言われていますが、最近、以前のお薬と比べて眠気などの副作用が少ない有効なお薬も認可され、処方が可能となりました。これらのお薬を用いて、きちんと治療を行うことで、症状をコントロールできます。
ただ、うつ状態は本人が辛いので自覚できますが、躁状態は気力が充実することからも本人には病気という自覚がなく受診が遅れてしまうこともあります。そのため家族や周囲の人が変化に気付き、受診を勧めることが重要になってきます。
患者さん本人ではなかなか気づきにくいからこそ、家族や周囲の協力が必要な双極性障害。患者さんと共に病気について理解し、協力体制を整えることが改善の手助けとなります。症状など思い当たることが少しでもあれば、近くの精神科医に相談することをおすすめします。

岩田仲生(いわた なかお)先生 藤田保健衛生大学医学部精神神経科学講座 教授
専門分野: 精神疾患の分子遺伝学、神経生化学、薬理遺伝学、臨床精神薬理学
経歴:
1989年 名古屋大学医学部卒業
1993年 名古屋大学大学院修了 博士(医学)
1994年 名古屋大学医学部付属病院精神科 医員
1996年 米国National Institute of Health Visiting Fellow
1998年 藤田保健衛生大学医学部精神神経科学 講師
2002年 藤田保健衛生大学医学部精神神経科学 助教授
2003年 藤田保健衛生大学医学部精神神経科学 教授(現職)
2011年 藤田保健衛生大学医学部 副医学部長
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