[知っておきたい「双極性障害」のこと] 2013/09/06[金]

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近畿大学医学部精神神経科学教室教授 白川治先生
近畿大学医学部
精神神経科学教室教授
白川治先生

 双極性障害とは、テンションが高く気分が高揚し、何かしないではいられない気持ちになる“躁”状態と、逆にテンションが低くなり、一日中気分も憂うつで何にも興味・関心を持てなくなる“うつ”状態という両極端な状態を繰り返す病気のことです。躁状態の時には、疲れを感じず過剰なほど積極的でいつも以上に元気なため、患者さん本人も病気だとはなかなか気がつきにくいわけです。うつ状態の時になってはじめて「気分が落ち込んで辛く苦しい」「億劫で何もできない」と受診をされるので、当初は「うつ病」と診断されることも少なくありません。現在、うつ病と診断されている人の10人におよそ1人が双極性障害だと言われていますが、これは、“うつ”の状態が長く続き、数ヶ月から数年を経ないと躁・軽躁の状態が現れないため、専門医であっても長期にわたる経過観察が必要になってくる場合も少なくないからです。
 また、双極性障害とうつ病とは病気の成り立ちが違うと考えられていますが、双極性障害のうつ状態と、うつ病の症状が似ていることも見極めが難しい理由となっています。憂うつな気分が続く、普段できていたことができなくなるなど気分が晴れない状態は、うつ病、双極性障害のうつ状態に共通する症状なので、患者さんご自身も「自分はうつ病」であると認識されている場合が多くあります。

双極性障害の診断で参考にすべきこと

 まずうつ病と双極性障害との大きな違いは、経過中に躁状態が現れるかどうかです。躁の状態は、ハイテンションで、眠らなくても元気で行動できるなどエネルギーに満ちあふれている感じになりますが、重くなると話題が次々に飛んで話の内容にまとまりがなくなったり、実現不可能なことを言い出す、浪費が過ぎるなどの行動がみられます。
 双極性障害にはI型とII型があります。うつ状態は両者に共通していますが、I型では、躁の状態がはっきりしていて重いのが特徴です。それに対してII型では、躁の状態が生活上大きな支障をきたさない程度の比較的軽い躁状態で、とりわけ患者さんは「絶好調」と捉え、見過ごしていることも少なくありません。
 ではどうしたらうつ状態から、うつ病と双極性障害を見分けることができるのでしょうか。例えば、双極性障害でのうつ状態では、過眠(ないしは行動面の抑制)や過食などが現れることがあります。うつ病では眠れない、食欲がないなどが一般的なので、同じうつの状態でもこうした違いが参考になります。さらに億劫なのにイライラして身の置きどころがないなど、気分と行動がバラバラであったり不安定であるのも特徴です。この状態を躁うつ混合状態といい、うつから躁、躁からうつに移行する時にはしばしばみられます。この躁うつ混合状態の時期は、自殺のリスクも高まるので注意が必要です。
 双極性障害を見極めるためには、現在のうつ状態だけでなく、これまで躁状態(とくに軽躁状態)があったかどうか、また躁うつ混合状態的な時期はなかったかどうか、さらには波乱万丈な生活歴などを把握しておくことが大切です。

患者さんが「安定感」を実感しやすい新規抗精神病薬による治療

 双極性障害は再発しやすいため長期にわたる治療が必要です。双極性障害の治療は気分安定薬や、新規抗精神病薬アリピプラゾール(製品名:エビリファイ)やオランザピン(製品名:ジプレキサ)による薬物療法が中心となります。薬物療法に加えて、心理教育や対人関係-社会リズム療法、家族療法、認知行動療法などが日本うつ病学会の治療ガイドラインで推奨されています。
 治療では、双極性障害の特徴である気分の波をできるだけ小さくすることを目標に行われます。薬物を中心とした適切な治療によって気分の波を小さくすることで、通常の社会生活を送ることが可能となることも少なくありません。
 ただし、双極性障害の患者さんは「軽躁状態」をベスト、望ましいと考えている人も多く、この状態をベストと考えてしまうとうつ状態になった時にそのギャップに悩み、たとえうつ状態が周囲からみればなんとかしのいでくれればと思える状態であったとしても、ご本人にとってはとても深刻に感じてしまうことになります。なかなか困難なことですが、「少し低調であっても安定している」という状態を患者さんが望ましいと感じ受け入れることができるかどうかが大切です。また、少しでも気分の波が小さくなって落ち着いてきたと感じてもらえるかが、治療に際しても重要なポイントとなってきます。
 新規抗精神病薬は、多くの気分安定薬と比べて、気分の大きな波だけではなく、日々の感情の揺らぎを小さくし、周囲に対する過敏さを和らげてくれると感じている患者さんも多く、安定感を実感しやすい薬剤だと思います。

主な新規抗精神病薬の適応症
成分名 アリピプラゾール オランザピン クエチアピン ブロナンセリン ペロスピロン リスペリドン
製品名 エビリファイ ジプレキサ セロクエル他 ロナセン ルーラン リスパダール他
統合失調症
双極性障害
(躁状態)
うつ病・
うつ状態

※既存治療で十分な効果が認められない場合に限る

[各薬剤の添付文書情報をもとにQLife編集部にて作成]

双極性障害の可能性がある場合

 「元々こういう性格だったから」とご家族など周囲の方も、双極性障害とはなかなか認知しづらく、受診が遅れてしまうこともあります。感情の起伏には個人差が大きいので、行動面、例えば浪費が重なる、飲み歩いて帰ってこなくなるなどの逸脱した行動がエピソードとしてみられないか(普段とは違ってある特定の時期にだけみられること)にも着目していただければと思います。うつ状態が、2~3ヶ月で自然によくなることを繰り返すなどでも、双極性障害が疑われます。抗うつ薬によってイライラがひどくなったり怒りっぽくなったりする場合も要注意です。
 双極性障害では、時間をかけた治療によって、気分の波を小さくすることができます。症状など思い当たることがあれば、ぜひ一度専門医を受診し、適切な診断と治療を受けてください。

近畿大学医学部精神神経科学教室教授 白川治先生

白川治(しらかわ おさむ)先生 近畿大学医学部精神神経科学教室教授
神戸大学医学部卒業。
兵庫県立尼崎病院研修医、神戸大学病院精神神経科勤務を経て、米国・メリーランド大学精神医学研究センターにて3年間勤務。
帰国後、神戸大学医学部精神神経科助手、同講師、同助教授を経て、2007年、近畿大学医学部精神神経科学教室教授に就任、現在に至る。
日本うつ病学会理事等学会活動に従事し、2011年、第8回日本うつ病学会総会(大阪)で大会長を務めた。病気とどう向き合い、回復の道をどのようにたどるかを、患者さんとともに考える姿勢を大切にしている。

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