[アルコールの悩み] 2020/10/29[木]

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(取材 2020年7月15日 水戸)

「お酒を飲み始めると止まらない」「いつも泥酔してしまう」といったお酒の飲み方を改善してみたいと思いませんか? こうしたお酒の飲み方は“性格”や“やる気”といった意思の問題ではなく、飲みすぎの状態が続くことにより脳のブレーキが効かなくなってしまう状態、つまりアルコール依存症が原因かもしれません。お医者さんで治療できる可能性がありますので、まずは相談をしてみませんか? お酒を減らす(減酒)治療とはどんなものなのか、実際に治療を受けている患者さんと主治医の先生に、お話をうかがいました。

※生活習慣病のリスクを高めるお酒の量についての詳細はこちらをご参照ください
https://gen-shu.jp/risks-associated-with-alcohol/amount/

N.Y. さん
N.Y.さんは2019年10月から、吉本先生のもとでお酒を減らす(減酒)治療に取り組んでいる。
T.Y.さん(妻)
吉本尚(よしもと・ひさし)先生
筑波大学医学医療系 地域総合診療医学 准教授
2019年1月から、北茨城市民病院附属家庭医療センターで「アルコール低減外来」を開設し、診療を行っている。N.Y.さんの主治医。

減酒という方法もあると知って受診のきっかけに

― 受診のきっかけについて教えてください。

N.Y.さん今は吉本先生に診てもらっていますが、3年ほど前に別の病院を受診したことがあるのです。アルコール専門の診療科がある病院です。ところが、その病院では入院や毎日レポートの発表が必要だと言われて、ちょっと無理かなと思いました。

T.Y.さん家族も週に何度か病院に来るように言われましたが私には難しく、お酒を完全にやめなければいけない(断酒)と言われましたので、夫にとっては厳しいようにも感じましたね。

N.Y.さん結局、そこに通うのは断念したのです。

T.Y.さん昨年に夫が転んで骨折し入院したのがきっかけで、今度は私が治療を受けられる病院を探し始めました。足の筋肉が弱っていて飲酒時にまた転んだら危ないと心配したのです。インターネットで検索したら、吉本先生の「アルコール低減外来」が見つかり「お酒を減らす治療というものがあるらしいよ」と夫に伝えたら、「それなら行ってみようか」と受診する気になってくれました。

吉本尚先生(以下、吉本先生)「断酒は難しいけれど、減らすことはできそう」という方は多いですね。減酒治療という選択肢があると、「断酒するなら病院は行かない」と考えている方でも、「減らすという方法もあるなら行ってみようか」と気楽に受診できるようです。

N.Y.さん5年くらい前に飲み過ぎて救急車で運ばれたときにアルコール依存症と言われてから、「断酒は難しいけれど、少しでも減らさないと」とはずっと考えていたので、いい機会でした。2019年10月から吉本先生の診察を受け始めて、9か月くらい続けています。

減酒という選択肢も加わった
アルコール依存症の治療

アルコール依存症とは?
飲酒する人は「飲み過ぎの人」「飲み過ぎではない人」の二つに分けられ、「飲み過ぎの人」の一部がアルコール依存症に該当します。アルコール依存症は、飲酒の時間や量をコントロールすることが難しい状態で、そのために様々な害が出てきます。例えば、飲酒の時間が長過ぎて他のことに使う時間が少なくなったり、夜眠れなくなるなど体に悪影響が出たりします。本人も何とかしたいと思っているのに飲み始めると止まらなくなり、自分を責めてしまうような病気です。「性格の問題」「やめる気がないからだ」と思われがちですが、そうではなく、依存というのは脳の病気で、脳からの命令に抗えない状態なのです。

お酒を減らす治療とは?
以前は、アルコール依存症の治療は「断酒」のみを目標に行われていましたが、現在では「減酒」という選択肢もあります(図)。アルコールによる害は、飲酒量が多いために生じることがほとんどですので、減酒は害を減らすという意義があります。入院が必要な場合や臓器の障害が重い場合には基本的には断酒をすすめますが、断酒が必要な患者さんでも一時的に減酒を選び、減酒をきっかけに断酒に挑戦するという方法もあります。

図 アルコール依存症の治療の選択肢
 図 アルコール依存症の治療の選択肢

新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン作成委員会監修. 新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン. 新興医学出版社;2018:22-23.より作図。

飲酒量低減治療(減酒治療)とは
外来治療が基本です。患者さんの希望に応じて以下のような治療内容を行うことが一般的です。

  • 飲酒に関するお悩み、困りごとについてお話をきく
  • 飲酒に関するチェックテスト(AUDIT)により飲酒問題の程度を評価して説明する
  • 血液検査や他の治療中の疾患から身体の健康度を評価し、関連する病気について説明する
  • 治療方針や治療目標を患者さんと話し合う
  • 飲酒日記などのレコーディングを行ったり、飲酒状況について話し合う
  • 薬物治療の必要性について話し合う

減酒がアルコール依存症治療の選択肢に加わったメリットは?
アルコール依存症は飲酒の量や時間をコントロールできない状態ですので、「減らす」ことは難しいと考えられてきました。しかしアルコール依存症の方のなかにも、飲酒量を減らせる人がいることがわかってきて、減酒という治療選択肢が出てきました。現在では「お酒をやめることは無理だけれど減らすことはできそう」という方にも治療を受ける機会があり、飲酒量を減らしてアルコールによる害を軽減することが可能になりました。

アルコール低減外来はまだ少数派?
現在は、精神科ではない一般のクリニックで減酒治療ができる場所は非常に限られており、アルコールの問題を気軽に相談できる先の情報もまとまっていません。看板が立っていないと受診しにくいだろうと思い、私は「お酒の外来をやっています」と看板を掲げています。そういう医療機関が、今後全国にもっと増えて、減酒という治療の選択肢とともに、場所の選択肢も増えてほしいと思っています。

続けられるのは「うまくできなくてもいい」と受け入れてくれるから

― 2019年10月から治療を始め、減酒に取り組まれているそうですが、約9か月間続けられた理由は何だと思われますか?

N.Y.さん吉本先生のアルコール低減外来では減酒も選べたので、「やめるのは難しいけれど、少しでも量を減らしたい」と思っていた私に合っていたんです。頭ごなしに「お酒をやめなさい」と言われても納得できませんが、吉本先生はそんな言い方はせずやさしい雰囲気で、私の希望も踏まえて方針を決めてくださったので、最初の診察で「賭けてみようかな」と思いました。

T.Y.さん先生は私たちの話を聞いてくださって、治療の内容も押し付けるのではなく一緒に考えてくださるのが、続けられている理由の一つかと思います。

N.Y.さん車で片道1時間かかるので「遠いな」とは思っていますが、通い始めてよかったと思っています。

― 最初の診察では、N.Y.さんにどんな風にお話しされたのですか?

吉本先生どの方法がうまくいくか患者さんが一番わかっていると思うので、N.Y.さんの場合、「これまでの経験を踏まえて、断酒と減酒、どちらがやりやすそうですか」と話しました。「減らすことはできそうだけれど、断酒は難しいです」とおっしゃったので、「まず減らして、その後に断酒する人もいれば減酒を続ける人もいます。減らしてから、その後について決めていくのはいかがですか」と話したかと思います。

― 治療を続けやすいように、どんな配慮をされていますか?

吉本先生治療を受けていても、お酒を飲みたい気持ちの波が高まるときはあり、実際に飲んでしまう方もいるのですが、「気持ちの波があるのは普通ですし、飲んでしまっても、それが続いていなければ自分でコントロールできているから大丈夫」と話しています。飲酒した日を境に飲み続けている場合には「コントロールができなくなっているから、やめるほうがいいかな」とお話しすることはあります。波が高まったときの飲酒にだけ着目するのではなく、高い波が続いていないかをみるようにしています。
「人間みんな完璧じゃない」という話もよくしますね。体調のせいでうまくいかない日もあるでしょうし、「うまくできなくてもいいじゃないですか」という感じに。

お酒が家になければ「仕方ない」とやめられるように

― 減酒治療を9か月続けていらっしゃるとのことですが、どのような変化がありましたか?

N.Y.さん吉本先生のアルコール低減外来に通い始めて1か月ほどしかたたないうちにお酒の量は減りましたね。以前は、いったん飲み始めると自分が満足するまで飲み続けていましたが、今では、家にお酒がなければ「仕方ない」とやめられるようになりました。

― 体調や日常生活に関して、変化は感じますか?

N.Y.さんよく眠れるようになった気がします。必ず昼寝もしています。

T.Y.さん以前より、気力が出てきたように思います。例えば、「散歩に行こうよ」と誘っても、以前は「寒いから」などと言って行かなかったのが、今では、長距離ではありませんが出かけるようになりました。

吉本先生お二人の関係はどうですか。夫婦げんかが減ったのではないですか?

N.Y.さんもともとけんかはほとんどしないので、変わらないですね。

T.Y.さんでも減酒してから、夫にとって都合の悪いことを私が言っても、話をよく聞いてくれるようになりました。変化を期待しすぎず、長い目で見ていきたいなと思っています。

― 一般的には、アルコール依存症の治療をどれくらい続けると変化を感じ始めるのでしょうか?

吉本先生患者さんによりますが、私は一旦、3か月くらい経過したところで状態を確認するようにしています。それくらいで変わり始める方が多いように思います。ただし、お酒の量は体調や気分によって増えたり減ったりするので、1年たった頃に、量を安定してコントロールできるようになっているか確認しています。ある程度しっかりコントロールできるようになるまでには、もっと時間のかかる方もいらっしゃいます。

「飲みたい気持ちの波」を低く落ち着かせることが目標

― 今後の目標は何でしょうか?

N.Y.さんお酒を飲まなくても大丈夫なときと、飲みたい気持ちが高まるときがあるんです。その飲みたい気持ちの波をいかに低く抑えるかが重要だと思っています。波を低くしていって、体に害が生じないくらいのところで飲む量を落ち着かせたいです。飲み過ぎて早死にしたくはないですし、やはり今は、お酒を減らすことが目標です。

T.Y.さんお酒を減らせて、かつ休肝日ができればいいですね。

N.Y.さんそれはないんじゃないかな。

T.Y.さんでも家では、「飲まない日ができたらそのほうがいい」という言葉が夫からたまに出るんですよ。

吉本先生色々な気持ちがありますよね。休肝日を作ってもいいと思えるときもあれば、そうでないときもあり、どちらも本音だと思います。その時々のご希望に合わせて、お酒との付き合い方を改善するお手伝いをしていけたらと思っています。

お酒の飲み方を変えたい方、家族や友人の飲酒が心配な方へ

N.Y.さんメッセージ
私は、治療を受けてよかったと感じています。お酒の飲み方を変えるための治療があること、その選択肢には断酒だけではなく減酒もあることを、「お酒を減らしたいなあ」というきっかけが何かあったときに思い出してもらえればと思います。
T.Y.さんメッセージ
インターネットで病院を検索してみたことがきっかけで今に至ります。ご家族やお友達の飲酒が心配な方は、一つだけでも行動を起こしてみるといいかもしれません。
吉本先生メッセージ
飲酒の問題を、「相談しにくい」「恥ずかしい」と感じる方は多くいらっしゃいます。お酒の飲みすぎ程度のことを病院で相談してよいのか、と迷う方もいらっしゃるかもしれませんが、病院をインターネットで調べるなど、何か行動をとってみることが問題解決の第一歩です。気になる方は遠慮せず、専門の医療機関に相談してみてください。お酒の飲み方を改善する治療を受けられる医療機関がわからないときには、地域の保健所や精神保健福祉センターに問い合わせてみるといいかと思います。お酒でお悩みの方が一人でも多く、相談先につながっていただけたら嬉しく思います。

提供:大塚製薬株式会社
SL2009075

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