[「難治性うつ病」の治療に新たな選択肢] 2013/09/26[木]

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 うつ病の薬物療法の中心にあるのは抗うつ薬です。しかし、うつ病患者さんのうち、三分の一の患者さんが抗うつ薬を服用しても、症状が回復しないという状況でした。
 2007年、アメリカでこうした状況に大きな変化が訪れました。それが、大うつ病の補助療法として適応された「非定型(新規)抗精神病薬」です。
 うつ病は脳内の神経伝達物質のバランスが崩れることが原因と考えられています。抗うつ薬は意欲に関係するノルアドレナリンと、安らぎに関係するセロトニンに作用するのに対し、非定型抗精神病薬は主に快楽に関係するドパミンに作用します。
 抗うつ薬で効果がみられない患者さんに対して、アメリカではそれまで服用していた抗うつ薬に非定型抗精神病薬を追加する治療法が行われています。非定型抗精神病薬を併用することで、抗うつ効果を高め、患者さんの回復が見られるようになりました。
 日本でも今年6月、非定型抗精神病薬の大うつ病への適応が認められ、抗うつ薬との併用による増強療法が可能になりました。
 そこで、先んじて増強療法が可能となり、多くの患者さんが回復しているアメリカで、気分障害(うつ病)治療に詳しいカリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部精神科教授のマイケル・ギトリン先生に、アメリカでのうつ病治療の現状と増強療法の効果についてお話を伺いました。

アメリカでも理解されにくい、うつ病の症状

カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部精神科教授 マイケル・ギトリン先生
カリフォルニア大学
ロサンゼルス校医学部精神科教授
マイケル・ギトリン先生

 一般に「うつ病」と呼ばれる大うつ病性障害(MDD)は、適切な治療で回復に至る疾患です。しかし、その症状はなかなか表面化しなかったりすることもあり、周囲の人の理解や支援が得られない場合も多く、時には症状が悪化する場合もあります。
 私のクリニックでも、このような問題を抱えたうつ病患者さんを多く診ています。最も多いケースは、悲しみの感情が続き、以前は楽しいと感じられたものに対して興味を失ってしまうといった症状がみられる患者さんです。うつ病は心身にさまざまな症状を引き起こす恐れがあります。私の患者さんの多くも、日常生活に支障をきたすだけでなく、「時々、生きる意味がないと感じる」と口にする患者さんもいます。
 私は臨床医として、日常生活や仕事がうまくこなせないといった患者さんを多く診てきましたが、うつ病は身体的な症状を伴う疾患として認識されていない場合があります。こうした患者さんにとって、周囲の人々、特に家族や仕事の同僚がうつ病の特徴を理解することが極めて重要だと思われます。

生物学的原因で起こる治療可能な病気「うつ病」の日本国内の現状

 うつ病は、患者さん本人の「気のもちよう」や、パーソナリティ(人格)が原因だと考えていたとしたら、それは誤解です。うつ病は、悲しみや気分の落ち込みが一定の期間続くというだけのものではなく、中枢神経系の問題、具体的には脳の神経伝達物質の働きの低下によって起こる、治療可能な慢性疾患です。
 日本にはおよそ100万人のうつ病の患者さんがいると推定され、過去12年間で2倍以上に増えているのです。およそ15人にひとりが、一生のうち一度はうつ病を発症します。これは、皆さんの知人の中に、現在または過去にうつ病を患っている人が複数いる可能性が十分あるくらいの割合です。しかし、往々にしてこれらの人々が、必要な支援を受けられていないことがあります。抗うつ薬治療を受けた患者さんのうち、病状が回復する(寛解と呼ばれる)患者さんは30-40%であると言われています。3割ほどの患者さんは通常の治療で改善が見られますが、残りの3割の患者さんは未改善のままです。こうしたことを背景に、適切な治療が行われていないうつ病患者さんの症状に対処するため、治療の選択肢を拡げることが必要だと思われます。

治りにくいうつ病に対する治療選択肢~アメリカのケース


大うつ病管理 標準的治療法ガイドライン
(臨床実践ガイドライン)2009

 うつ病患者さんの治療には主に抗うつ薬が処方されます。これは神経伝達物質の働きを整え、気分を改善する作用があります。抗うつ薬は、セロトニンとノルアドレナリンという神経伝達物質の働きを高めます。しかし抗うつ薬を服用しているにもかかわらず、うつ症状が改善しない例も珍しくありません。これらの症状は、「難治性うつ病」と呼ばれます。
 残念ながら症状が改善しない場合、医師は薬剤を別の抗うつ薬に切り替えるか、抗うつ薬を併用するか、現在の抗うつ薬に他の種類の薬剤を併用する(増強療法)かを検討します。
 現在処方されている抗うつ薬を十分服用しても無反応の患者さんには、違う種類の抗うつ薬への切り替えが適しているでしょう。
 抗うつ薬の併用療法や増強療法は、現在処方されている抗うつ薬でほとんど改善が見られない、もしくは部分的にしか症状の改善がみられていない患者さんに有効です。
 併用や増強療法は、服用中の抗うつ薬の反応を持続させつつ、さらなる症状の改善が期待できるため、現在の抗うつ薬で部分的に反応がみられている患者さんに適切な治療方法であると言えます。
 服用中の抗うつ薬の効果を増強する方法のひとつは、抗うつ薬ではほとんど作用しない神経伝達物質であるドパミンに作用する薬剤を新たに投与することです。ドパミン神経系は、感情や欲求、学習に関連し、身体の動きを調節します。症状が未改善のうつ病患者さんは、ドパミンの機能が低下している可能性があり、その神経伝達を安定化させる薬剤を処方します。
 私が診ている、うつ病患者さんの中にも、改善が見られない場合があり、しばしば現在処方している抗うつ薬の補助薬として、非定型抗精神病薬(新しいタイプの抗精神病薬)を併用し、治療を継続しています。

※現在、日本においてうつ病・うつ状態に適応を持つ非定型抗精神病薬はアリピプラゾールのみ

マイケル・ギトリン医学博士(Michael Gitlin, M.D.)
UCLA医学部精神医学 教授、UCLA神経精神病院気分障害クリニック ディレクター

マイケル・ギトリン医学博士(Michael Gitlin, M.D.)

1997年から1999年まではUCLA神経精神病院でチーフを務める。
受賞歴:
1994年UCLA医学部精神医学の優秀病棟医教育賞
1995年南カリフォルニアの精神医学協会から表彰
1999年UCLA医学部精神医学から最も優れた教育者として表彰
2002年Times Teacher of the Year
2002年米国内科学会Best Internal Medicine Board Review Course in the area of psychiatryを受賞
主要著書:
The Psychotherapist’s Guide to Psychopharmacology
心理療法士向け精神薬理学教科書「向精神薬と女性」等、多数の科学記事や書籍の執筆あり

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