[僕と私の難病情報] 2022/09/20[火]

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第1回 ピア・サポートとの出会い

全身性強皮症(強皮症)という指定難病があります。現在は完治する方法はなく、症状をおさえることが治療です。難病は、そもそも診断が難しい病気で、診断がつくまでに何年もかかることがあります。さらに、専門医の数が限られていることもあり、適切な治療を受けられずにいる患者さんもいます。身近に同じ病気の人がおらず、誰に相談していいかわからないといった悩みを抱えがちな難病患者さんの助けになるのが、ピア・サポーターの存在です。これまでは対面での活動が主だったピア・サポートは、コロナ禍を経てオンライン上での活動も活発になっています。

そこで、ピア・サポートの新たな形としてスタートしたのが、強皮症患者向けLINEオープンチャットです。自身も強皮症患者として多くの患者さんの相談にのり、LINEオープンチャット立ち上げに参画された難病ピア・サポーターの桃井里美さんに、お話を伺いました。また、難病患者支援における「ナラティヴ・アプローチ」という手法を提唱されている富山大学の伊藤智樹先生にもコメントをいただきました。

全4回でお届けするシリーズ第1回は、桃井さんがピア・サポートや「ナラティヴ・アプローチ」と出会った経緯、世話人を務める強皮症患者会「明日の会」への想いについてお話しいただきました。

桃井里美氏
強皮症患者会「明日の会」世話人。2012年に強皮症と診断され、入院、休職の後、退職。2013年ピア・サポートと出会い、2015年に難病ピア・サポーター養成研修を受講。2016年に群馬大学医学部附属病院皮膚科の強皮症患者会「明日の会」立ち上げに携わり、ピア・サポーターとしての活動を始める。以後、世話人として患者の話を聞く面談を続け、2020年10月より明日の会オンラインサロンを開設。2021年9月よりLINEの強皮症患者オープンチャット共同管理者を務める。

伊藤智樹先生
愛媛県生まれ。2020年4月より富山大学学術研究部人文科学系 人文学部社会文化コース(社会学)教授。難病支援におけるナラティヴ・アプローチを研究。主な著書に『ピア・サポートの社会学』(編著、晃洋書房、2013)、『開かれた身体との対話 : ALSと自己物語の社会学』(晃洋書房、2021)などがある。

ピア・サポートとの出会い~難病患者が話せる場づくりが私の使命

私は、2012年に国の指定難病である全身性強皮症と診断され、半年後に入院しました。退院はできましたが、天職とも思っていた仕事を辞めなくてはなりませんでした。仕事で社会とつながっていると感じていたため、社会とのつながりを断ち切られてしまったという大きな喪失感に襲われ、自分が空っぽになってしまったように感じて、これから先どう生きていけばいいのかわかりませんでした。どん底状態で自分がなくしたくないものや大事にしたいものは何だろうと考えたとき、それは「人の役に立つ喜び」だと気づきました。

退院から1年ほどしてから縁あって参加した「がんサロン」で、初めてピア・サポートに出会いました。そこで、「ペアになって今年一番つらかったことを話してください」と言われ、号泣しながら話したことを覚えています。私は、仕事ができないつらさや悔しさを話すと泣いてばかりいたので、ふだんは仕事の話をしないようにしていました。ですから自分の中に閉じ込めておいた「仕事ができないつらさ」を泣きながら話したとき、すごく気持ちが楽になったのです。それ以来、「難病患者にもこうした場を作りたい。ピア・サポーターになりたい」と考えるようになりました。

難病ピア・サポーター養成研修で出会った「ナラティヴ・アプローチ」

2015年6月から、群馬県の「難病ピア・サポーター養成研修」に参加しました。2年半、家に閉じこもっており学ぶことに飢えていたので、カレンダーに研修の予定を書くだけでもうれしかったのを覚えています。

私が受けた第1期の研修プログラムは「群馬モデル」とも言われ、特徴として「語り部と聞き手の体験」があります。ひとりあたり1時間、話す・聞く、という体験をします。第2期研修以降もそれは継続され、さらに10回の演習があり、知識の伝達だけではない学び合いがあります。

この研修を通して最も影響を受けたのは、伊藤智樹先生の「物語に視点を当てたピア・サポート」です。プログラムに書かれた演題「そこにこそ希望があるのではないか」に強く心惹かれ、いざ講義を聴いたら「私がやりたいのは、これだ!」と確信し、すぐに伊藤先生の著書『ピア・サポートの社会学』を読みました。その直後に、伊藤先生の著書をなぞるような体験をしました。患者同士で話をすると、埋もれていた話がザクザク掘り起こされるというか、他では話せないことが抵抗なく話せるというか、蓋を外したら中身がポンポンあふれてお互いがお互いの物語を引き出し合うような感覚になったのです。

一人で考えていると堂々巡りになってしまうのですが、ピアに対して言語化することで、混沌としていた自分の中のもやもやが整理され、客観視できるようになり、視野が広がったように思います。患者同士が語り合う場で、自分が「聞き手として必要とされている」と感じ、新たな役割、使命感を見つけた思いがしました。

難病患者が病気の回復とは別の道を探すために、伊藤先生から学んだ「物語」が有効だと気づいた数か月後に、群馬大学医学部附属病院皮膚科から強皮症院内患者会発足の打診がありました。それが「明日の会」です。

伊藤先生とは2016年初めに『難病と在宅ケア』という雑誌への寄稿でご一緒しました。そこで伊藤先生が私の物語を読み解いてくれたのですが、その原稿を読んだ瞬間「トンネルを抜けた!」という感じがありました。その後、伊藤先生が各地のピア・サポーター養成研修で私の物語を取り上げ活動をフォローしてくださって、交流は丸7年になります。

伊藤先生コメント

私の考える難病患者のナラティヴ・アプローチとは、「回復の物語」とは違う自分の物語を見つけることで、よりよく生きる助けになるのではないか、それを作っていきやすい場を作ることが大事なのではないか、というものです。ここでいう「回復の物語」とは、私たちが無意識に期待している「病気になって、元通りになる物語」です。難病患者さんはそのような意味での「回復」が望めない、自分の物語が「回復」の線路に乗らないという経験をされます。そのときに、ひとつの可能性として自分なりの物語を探していけるということです。元に戻りたい気持ちや病気を受け入れがたい気持ちも引き受けながら、病を得てからの出会いやよかったと思うことを含め、希望のある物語ができる可能性があるのです。

桃井さんのピア・サポーターとしての活動は、私の研究してきた「ナラティヴ(物語)・アプローチ」という概念をまさに自分のものとして取り込んで活動されているのが際立った特徴だといえます。元々患者会というものは、日本では20世紀後半に盛んになりました。当時は、社会的に貧弱だった支援制度を少しでも前進させて患者を救済する、という社会運動型の患者会が主流でした。やがて支援制度が以前よりは整ってくるにつれ、今度は患者の精神面も含めて「よりよく生きる」という面が注目されるようになり、患者会が何のために存在するのか、を改めて考えていくべきステージに来ています。患者同士が出会ってコミュニケーションをとる中で、自分なりの物語を見つけていく、という私のアイデアを活かしたコンセプトで運営されている桃井さんの活動は象徴的でもあり、時代にフィットした活動であると考えています。

患者同士の出会いは、ときには人生を変えることもある

私が患者会で出会った方の多くは前向きに病気と向き合うようになったと思います。面談やオンラインサロンを通じてピア・サポーター養成研修に参加された方もいます。

「人生が変わった」という患者さんもいらっしゃいます。その方は、明日の会と出会う前、診断後の約1年間は医師から情報が得られず、わからないことだらけだったそうです。日常生活の注意点や具体的な指導はなく、難病支援センターで相談しても、「難病だから何もしてあげられない」と言われ、ひとりで調べて行動しても自分に必要な情報が得られず、友の会に行っても強皮症患者と会えない状態が続いていたとのことです。この状況は、本当に孤独で精神的にもつらいものです。それが、明日の会に参加したところ、「本やネットで見る写真より、実際に患者同士で手を見せあって、これが強皮症なんだ、と納得した。オンラインサロンは定期的にみんなに会えてうれしい。 オープンチャットはなんでも聞ける雰囲気。同じ症状の人と会話できる状況があって安心感がある」とおっしゃっています。

このように、一人で孤独な闘いを強いられていた患者さんが同じ病気の患者さんと悩みを共有できることは大きな安心感や支えになり、まさに人生を変えるほどのインパクトを与えることもあります。

患者と家族のためのオンラインラウンジ
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