[僕と私の難病情報] 2022/12/12[月]

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第3回 LINEオープンチャットで新たに開かれたピア・サポートの可能性(前編)

強皮症患者向けLINEオープンチャットの事例を紹介する全4回シリーズの第3回となる今回は、2021年9月にスタートしたLINEオープンチャットへの想いや立ち上げ時に心がけたことを伺いました。

桃井里美氏
強皮症患者会「明日の会」世話人。2012年に強皮症と診断され、入院、休職の後、退職。2013年ピア・サポートと出会い、2015年に難病ピア・サポーター養成研修を受講。2016年に群馬大学医学部附属病院皮膚科の強皮症患者会「明日の会」立ち上げに携わり、ピア・サポーターとしての活動を始める。以後、世話人として患者の話を聞く面談を続け、2020年10月より明日の会オンラインサロンを開設。2021年9月から2023年4月までLINEの強皮症患者オープンチャット共同管理者を務める。

伊藤智樹先生
愛媛県生まれ。2020年4月より富山大学学術研究部人文科学系 人文学部社会文化コース(社会学)教授。難病支援におけるナラティヴ・アプローチを研究。主な著書に『ピア・サポートの社会学』(編著、晃洋書房、2013)、『開かれた身体との対話 : ALSと自己物語の社会学』(晃洋書房、2021)などがある。

ひとりでも多くの患者さんがつながれる場をつくりたい

コロナ禍になって明日の会の対面の活動を休止していたとき、1年前に明日の会を訪ねてきた患者さんからの悩み相談をきっかけにオンラインサロンを始めることになりました。2020年10月のことです。するとオンラインには対面とは別のよさがあることに気づきました。面談室は受診のついでなので1~2か月間が空いてしまいますが、オンラインはタイムリーに相談を受けられるのです。オンラインサロンが参加者に好評だったので「これを何とか広げられないか」と思っていたところに、LINEオンラインコミュニティ(オープンチャット)の話をいただきました。またまた「渡りに船」ですね。

住んでいる場所に関係なくタイムリーなピア・サポートが可能になることはとても魅力で、「ひとりでも多くの患者さんが明日の会につながれたら」と思いました。

立ち上げ時の不安を払拭する体制づくり

対面での面談と違い、匿名で不特定多数を相手にすることや、LINEもオープンチャットも未経験だったことで、当初は不安がありました。そのあたりは伊藤先生をはじめ周囲の人に相談して、QLifeの管理者にも率直に伝えました。そして、立ち上げ前に関係者全員で何度も話し合いを重ねていく中で、信頼関係ができ、相談しながら進められることが安心材料になりました。新しいことを始めるときは問題が出てくるのは当然なので、問題に対処していける体制ができれば、あとはやりながら考えていけばよいと思いました。

設立当初に考えていたポイントは3つあります。

① 管理者・共同管理者が信頼しあい、意義や思いを共有できること。
②「よりよい治療、よりよい療養」を目指す場を提供すること。(プレ運用期間の1か月で、オープンチャットの雰囲気作りに力を入れ、参加者に対する「読み物」を作る、を心がけました)
③ 共同管理者それぞれの持ち味を活かすこと。(世話人2人とは5年のつきあいがあり、人柄もよく知っています。3人の持ち味がオンライン交流会で発揮されます)

オープンチャットに参加している患者さんに声をかけて、共同管理者を増やしています。自分の経験を元に、ほかの患者さんの役に立ちたいという思いのある方々の力を結集して、今後も進めていきたいと思います。

伊藤先生コメント

もともとSNSやオンラインツールを使いこなしていたわけではなかった桃井さんを突き動かしているのは、そこに話をしたい人、話をすべき人、病を得て苦しんでいる人がいるのに、手をこまねいているわけにもいかないという思いがあったのではないかなと想像しています。それがWebベースのコミュニケーションに踏み出していく駆動力になったのではないかと。

相談を受けたとき、私にLINEのオープンチャットの使用経験がなかったため、難病ピア・サポートに使うことを想定する場合の具体的なアドバイスはできませんでした。ですから、時代的にもトライしてよい時期であること、桃井さんのこれまでの経緯からもチャレンジは必然にみえることをお伝えしました。さらに、ネット特有の問題もこの先必ず出てくることを想定したうえで、恐れずにやりながら考えていくのがいいのではないか、と申し上げた記憶があります。

オープンチャットのコミュニケーションで心がけていること

対面での相談と同じく、相手への敬意を持つ、できないことがあると自覚してできることを淡々とやる、課題の分離をする、といったことを心がけています。ピア・サポートの機能を最大限に活かし、この場を必要としている人に役に立てばいい、と考えています。

オープンチャットは、誰もが最初は不安な状態で参加すると思います。ですから書き込みがあったらいち早く返答するようにしており、誰がどんな状況であるかを把握できるように自己紹介ルールを作っています。また、オープンチャットを始めてみて、適切な治療を受けられず、放置に近い状態にある患者さんが全国にたくさんいることがわかりました。適切な治療を受けられるかどうかで今後の人生が大きく左右されるので、少しでも早く患者さんを適切な治療につなげることが、オープンチャットの大きな柱になりつつあります。その甲斐あって、これまでに15人もの患者さんの転院をサポートできました。

顔の見えない文字だけのオープンチャットでは、話しやすい雰囲気とわかりやすさを大事にしています。また、自分が出ていくところと静観するところを見極めるようにしています。参加者のやりとりが活発になり、「こういう投稿がほしいなあ」という場面で誰かが情報を投稿してくれて…という流れが理想的です。参加者がお互いに学び合いながら成長できるといいなと思っています。

疾患理解を進めるため、患者向けの本や医師の話を引用したり、オンライン相談を推奨したりしています。治らない病気だからこそ疾患理解が大事なのですが、よくわからないままでいる人も少なくありません。そういう意味でも「現在地点から目的地であるよりよい治療、よりよい療養に向かうために何を準備してどんな道順で行くのかを教えてくれるピアの存在」がとても大切になってきます。

オープンチャットのスムーズな運用には、管理者・共同管理者の連携・協力が欠かせません。今後、このような場が他の稀少疾患にも広がっていくことを期待しています。そのときは、明日の会オンラインコミュニティのノウハウが役立つのではないかと思います。

伊藤先生コメント

LINEオープンチャットは、ピア・サポートの場を広げたと言っていいでしょう。対面で行うピア・サポートの補完的な役割や機能を十分果たせるのではないかと結果的に感じさせることにつながったのかなと思います。また、リアルでつながりにくい人がつながることができるので、患者会の入り口的な部分を担う役割もあると考えています。いきなり患者会に行くことに抵抗を感じる人や移動が困難な人でも、Webなら自宅から匿名で参加でき、何か問題が起こったらやめればいいというハードルの低さがあります。

ただし、オープンチャットには、対面的なコミュニケーションに比べて非言語的な情報が圧倒的に少ない、という不利な部分もあります。私たちは自分たちが思う以上に、ジェスチャーや表情、声のトーンといった非言語的な情報に頼っています。文字だけのコミュニケーションではそういった情報が非常に伝わりにくいため、軌道修正やフォローをしながら、コミュニティそのものが破壊されてしまわないよう、その手前で踏みとどまれるように運営するところが課題であると感じています。将来的には、対面の場やZoomなどの画面越しの対話の補完的な位置づけとして、参加者がメリットを享受できるような形で仲間の輪を広げていく方向に向かっていけるとよいと思います。

患者と家族のためのオンラインラウンジ
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