新型コロナワクチン――小児への接種の考え方
[特集] 2025/07/11[金]
新型コロナウイルス感染症が季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行した後も、ウイルスは変異を続けています。2023年秋の流行株であったオミクロン株XBB.1.5系統は2024年1月からJN.1系統に置き換わり、複数のオミクロンJN.1株子孫株が出現しました。その中でもオミクロンXEC株やオミクロンLP.8.1株などが現在の主な流行株となっています。2025年5月には、やはりJN.1系統のNB.1.8.1が香港、シンガポール、米国などを中心に急速に拡大しており1)、日本でも注意が必要な状況です。

引き続きJN.1系統(LP.8.1を含む)のワクチンの使用が推奨されています
感染・重症化予防においては、流行株に対応した新たなワクチンの接種が必要になります。世界保健機関(WHO)は2025年5月15日に出された新型コロナウイルスに関する声明のなかで、以下のように述べています。
- 新型コロナウイルス感染症は現在も世界中で蔓延し続け、重症化、COVID-19後遺症、死亡を引き起こしている
- 2025年5月現在で流行しているウイルスの多くはJN.1系統に由来しており、新たな変異株LP.8.1の割合も増加している
これを受けて、WHOのワクチン構成に関する技術諮問グループ(TAG-CO-VAC)は、ワクチン株としてJN.1またはKP.2を抗原とする一価ワクチンの継続使用を推奨するとともに、LP.8.1を適切な代替ワクチン候補に位置づけました。これらのワクチンは、流行中の変異株に対して広範かつ強力な免疫応答を誘導し、感染や重症化を防ぐ効果が期待されています。TAG-CO-VACはさらに「各国において新しいワクチンの入手を待たず、接種を継続することが重要だ」と強調しています2)。この声明を受けて、厚生労働省では、今年度の定期接種に用いる新型コロナワクチンの抗原組成に、「JN.1の下位系統」を採用する方針を決定しました3)。最終情報は接種開始時期に公開される予定です4)。
JN.1系統ワクチンは新変異株にも効果が期待できます
2025年1月末にJN.1系統に属する変異株であるNB.1.8.1が初めて確認され、5月には香港、シンガポール、米国などを中心に急速に拡大しました。WHOは2025年5月23日に同株を正式な監視対象(VUM:Variant Under Monitoring)に分類しました5)。
東京大学医科学研究所が6月6日に英国の医学誌『The Lancet Infectious Diseases』に発表した報告によれば、NB.1.8.1はXEC株やLP.8.1株よりも高い伝播力(感染を広げる力)を示すものの、免疫回避力(私たちの体が持つ免疫から逃れる能力)はそれらと同程度にとどまっており、現在使用されているJN.1対応ワクチン接種は、NB.1.8.1株に対しても同等の効果を発揮するとされています1)。
(図)新型コロナウイルスの主な変異株

Wang Q et al. Cell. 2023; 186(2): 279-286.e8,
UK Health Security Agency. SARS-CoV-2 genome sequence prevalence and growth rate update: 1 May 2024(https://www.gov.uk/government/publications/sars-cov-2-genome-sequence-prevalence-and-growth-rate/sars-cov-2-genome-sequence-prevalence-and-growth-rate-update-1-may-2024)(2025年7月8日閲覧),
INSS. Issue Brief 2025, 137(12) : 1-9を参考に作成
日本小児科学会は、生後6か月~17歳の小児へのワクチン接種を推奨しています
新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い、新型コロナワクチンの全額公費による接種は2024年3月31日で終了しました。2025年度からは、65歳以上の方、もしくは60歳から64歳で一定の基礎疾患を有する方は定期接種の対象となりますが、それ以外の方は個々の判断で接種を検討することとなっています6)。
したがって、小児についても保護者の意思に基づく任意の接種となります。日本小児科学会では、小児においても重症例・死亡例が報告されており(注)、小児へのワクチン接種には、発症予防、重症化(入院)抑制、再感染予防の効果があると考えられることから、生後6か月~17歳のすべての小児への新型コロナワクチン接種が望ましいとしています。特に、重症化リスクの高い基礎疾患のある小児患者への接種を推奨しています7)。
(注)日本人小児の新型コロナウイルス感染者の中で、稀ではあるものの一定数は急性脳症や心筋炎を発症している。また、2022年1月から9月における20歳未満のコロナ関連死亡症例(外因性除く)は46例あり、15.2%が1歳未満、58.7%が基礎疾患なし、ワクチン接種対象者の 87.5%が未接種であった7)。

Q1. ワクチンにはどのような種類がありますか
接種する有効成分によって、次のように分類されます。

| 特徴 | 代表的なワクチン | |
不活化ワクチン |
|
など |
生ワクチン |
|
など |
組換えタンパクワクチン |
|
など |
|
mRNAワクチン ウイルスベクターワクチン レプリコンワクチン(次世代mRNAワクチン)(注) |
|
など |
厚生労働省 新型コロナウイルスQ&A.「ワクチンにはどのようなものがあるのですか。」8)、大阪大学医学附属病院未来医療開発部未来医療センター ワクチンの種類とその構成物・開発状況9)を元に作表
(注)レプリコンワクチンはmRNAワクチンの一種で、接種されたmRNAが細胞内で一時的に自己複製されるように設計されていることから、既存のmRNAワクチンに比べてウイルスのタンパク質が作られる時間が長いという特徴があります。このため、既存のmRNAワクチンよりも強く免疫が誘導され、抗体の持続期間が長いことが確認されています10)。なお、接種後の細胞内におけるmRNAの増幅は一時的なものであり、無限にウイルスのタンパク質が作られることはありません11)。
Q2. 現在の新型コロナワクチンは最新の変異株に対してどの程度効果がありますか?
オミクロンJN.1対応1価ワクチンは、非臨床試験(マウスを用いた試験)において、これまで使用されてきたXBB対応1価ワクチンと比較して、JN.1に対して誘導される中和抗体価が、初回接種または追加接種が完了したマウスにさらに追加して接種した場合は約2~10倍、初回接種として接種した場合は約3~47倍高かったことが報告されています12) 。また、ヒトの血清を用いた試験においても、JN.1株対応一価ワクチンは、JN.1株やその子孫株、XEC株など免疫逃避能の高い変異株に対して中和抗体を誘導しており13)、現在の流行株に対する感染予防効果、重症化予防効果が期待されます。
Q3. 新型コロナワクチンはインフルエンザなど、ほかのワクチンと同時に打つことはできますか?
新型コロナワクチンとその他のワクチンとの同時接種については、特に医師が必要と認めた場合に可能です。また、他のワクチンとの接種間隔に制限はありません14)。インフルエンザワクチンとの同時接種は可能です15)。
Q4 すでに感染した場合は打たなくてもいいのでしょうか?
新型コロナウイルスの変異のスピードは速く、免疫回避力を高めた株が繰り返し出現しており、再感染者が多くみられています。過去に感染した人にも、新たな流行株に対応したワクチンを少なくとも年に1回は接種することが勧められます。発症からワクチン接種までの期間は定められてはいませんが、発症後すぐの再感染はまれであり、おおむね発症から3か月経過してからの接種が推奨されています16)。
Q5. 副反応が心配で、ワクチンを接種させてもよいのか迷っています
小児のワクチン接種に関する膨大なデータが蓄積され、より信頼性の高い安全性評価が継続的に行われるようになりました7)。5~17歳の子どもに接種した場合の安全性は海外の治験で確認されています。子どもにおいても、成人と同様に接種部位の痛みや発赤・腫脹、倦怠感、頭痛、発熱等の副反応が報告されていますが、5~11歳の副反応の頻度は12歳以上よりも低く、成人よりも症状の程度が軽い傾向にあり、現時点で子どものワクチン接種に重大な懸念は認められていません17)。ただし、頻度は不明ですが、重大な副反応が発生することはあります18)ので、接種後はお子さんの様子に十分注意して、必要であれば医療機関を受診してください(Q6も参照してください)。
Q6. ワクチン接種後、どのような症状に注意すべきですか?
ワクチンを接種した後数日間は、接種部位の痛みや倦怠感、頭痛、発熱等の症状がみられることが多いため、このような症状に注意しながら過ごす必要があります。
また、頻度としてはごく稀ですが、ワクチン接種後に、心筋炎や心膜炎を疑う事例が報告されています。接種後4日程度の間に、胸の痛みや動悸、息切れ、むくみ等の症状や、食欲や活気がない等普段と違う様子がみられた場合には、速やかに医療機関を受診し、ワクチンを接種したことを伝えてください19)20)。
- 東京大学医科学研究所. SARS-CoV-2オミクロンNB.1.8.1株の ウイルス学的特性の解明.
[https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00338.html](2025年6月26日閲覧) - World Health Organization. Statement on the antigen composition of COVID-19 vaccines.
[https://www.who.int/news/item/15-05-2025-statement-on-the-antigen-composition-of-covid-19-vaccines](2025年6月26日閲覧) - 厚生労働省. 2025/26シーズン向け新型コロナワクチンの抗原組成について.
[https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001494606.pdf](2025年6月26日閲覧) - 厚生労働省. 新型コロナワクチンQ&A.
[https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_qa.html?utm_source=chatgpt.com](2025年6月26日閲覧) - World Health Organization. Risk evaluation for SARS-CoV-2 Variant Under Monitoring: NB.1.8.1.
[https://www.who.int/publications/m/item/risk-evaluation-for-sars-cov-2-variant-under-monitoring-nb.1.8.1](2025年6月26日閲覧) - 厚生労働省. 新型コロナワクチンについて.
[https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_00184.html](2025年6月26日閲覧) - 日本小児科学会. 2024/25シーズンの小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方
[https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=621](2025年6月26日閲覧) - 厚生労働省. 新型コロナウイルスQ&A.「ワクチンにはどのようなものがあるのですか。」
[https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_qa.html#17](2025年6月26日閲覧) - 大阪大学医学部附属病院未来医療開発部未来医療センター. 「ワクチンの種類とその構成物・開発状況」
[https://www.hosp.ncgm.go.jp/isc/080/FY2020/04.RandD.pdf](2025年6月26日閲覧) - 厚生労働省. 新型コロナウイルスQ&A.「レプリコンワクチンは、どのようなワクチンですか。既存のmRNAワクチンとどこが違うのですか。」
[https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_qa.html#20](2025年6月26日閲覧) - 厚生労働省. 新型コロナウイルスQ&A.「レプリコンワクチンは、自己増幅性のあるワクチンとのことですが、体内で無限にウイルスのタンパク質が作られたり、接種を受けた方から他の方にワクチンの成分が伝播することを懸念しています。接種しても問題はありませんか。」
[https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_qa.html#21](2025年6月26日閲覧) - 厚生労働省. 2024/25シーズン向け新型コロナワクチンの抗原組成について.
[https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001257952.pdf](2025年6月26日閲覧) - 東京大学医科学研究所. オミクロンJN.1mRNAワクチンにより誘導される オミクロン亜株に対する液性免疫の効果.
[https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00309.html](2025年6月26日閲覧) - 厚生労働省. 新型コロナワクチンQ&A「新型コロナワクチンとそれ以外のワクチンは、同時に接種することはできますか。また、接種間隔を空ける必要はありますか。」
[https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_qa.html#4](2025年6月26日閲覧) - 日本小児科学会.小児におけるインフルエンザと新型コロナウイルス感染症の同時流行に備えて~お子様の保護者の皆様へ~
[https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=468](2025年6月26日閲覧) - 日本感染症学会.COVID-19 ワクチンに関する提言(第10版) -JN.1 対応ワクチンの任意接種を中心に-
[https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/2405_covid-19_10.pdf](2025年6月26日閲覧) - 日本小児科学会.「新型コロナワクチン~子どもならびに子どもに接する成人への接種に対する考え方~」に関するQ&A【ワクチンの安全性について】「子どものワクチン接種は安全でしょうか? 」
[https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=379](2025年2月7日閲覧) - 厚生労働省. 新型コロナワクチンQ&A「これまでに認められている副反応にはどのようなものがありますか。」
[https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_qa.html#25](2025年6月26日閲覧) - 厚生労働省. 新型コロナウイルスQ&A「乳幼児(生後6か月~5歳)の接種に向けて、保護者が気を付けることはありますか。」.「小児(5~11歳)の接種に向けて、保護者が気を付けることはありますか。」
[https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_qa_archive.html#infant_9](2025年6月26日閲覧) - 厚生労働省. 新型コロナウイルスQ&A.「小児(5~11歳)の接種に向けて、保護者が気を付けることはありますか。」
[https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_qa_archive.html#child_11](2025年6月26日閲覧)
掲載されている記事や写真などの無断転載を禁じます。
