[統合失調症の治療と、よくある悩みの解決法] 2011/03/04[金]

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久留米大学医学部 精神神経科学教室 教授
内村直尚先生

 本当です。統合失調症の治療をしている患者さんのなかで、男性の場合には勃起不全、射精障害や性欲低下、女性の場合では生理不順や乳汁分泌などの性機能障害が起きることがあります。
 これは珍しい症状ではありません。我々が最近行った外来通院中の統合失調症患者1488名を対象としたアンケート調査では、41%の患者さんがこうした性機能障害を自覚してるという結果が出ました。
 むしろ実際の比率はもっと多いかもしれません。患者さんにとっては打ち明けにくい症状ですから、医師がその実態を把握しきれていないことが多く、問題化しにくいという面があります。

なぜ「性欲が減退する」のでしょうか。

 もちろん個人差はあり、中には加齢に伴う生理的な減退もありますが、特に青年から壮年の患者さんならば薬の副作用が原因の可能性もあります。
 統合失調症の薬は脳内の神経伝達物質であるドパミン受容体に結合し、陽性症状である幻覚・妄想などの症状などを抑えて、不安定な精神状態を安定させます。しかし、ドパミンが阻害されることにより、個人差はありますがプロラクチンが上昇することがあります。プロラクチンとは脳下垂体から放出される性ホルモンで、妊娠中の女性でその分泌が高まるホルモンです。妊娠中でもないのにこのホルモンが異常に分泌されると、高プロラクチン血症となり、女性の場合では生理不順や月経の停止を起こしたり、妊娠をしていないのに乳汁が出たりします。一方、男性の場合では性欲減退や勃起障害、射精障害を起こし、時には乳汁も出ます。

「性欲が減退する」と、治療や生活上で、どんな影響があるのでしょうか。

 月経不順や性欲減退などの症状は、なかなか他人には訴えにくいものですよね。でも普通の社会生活を営んでいくうえで性機能は非常に大事な要素であって、恥ずべき話でも我慢すべき話でもありません。患者さんのQOL(生活の質)を考えれば、けして軽視してはいけないのです。
 たとえば月経の停止は女性にとって体のリズムを崩す深刻な問題ですし、男性の勃起不全も同様に、自信や自尊心を失い、うつ状態に陥るきっかけにもなりかねません。統合失調症の治療を進めるうえでも、薬への不安感を呼び起こすのは良い影響を与えません。また、患者さんが結婚し、子宝に恵まれるためには性機能障害は大きな弊害となります。

改善するには、どうしたら良いのでしょうか。

 服用量や体調、環境等によって薬の効果は変わるので、一概に言うことはできませんが、薬の量を調整することで性欲の低下を緩和できる場合もあります。また、最近では性機能障害を起こしにくい治療薬もでていますので、恥ずかしがらずに医師に相談することが大切です。
 ただし重要なのは、自分で勝手に飲む薬を減らしたり、停止したりは、絶対にしてはいけないことです。まずは医師に相談するようにしてください。

(遠慮がちな)患者さんや家族へのメッセージを。

 性欲の減退など、性機能障害を医師に相談した場合、通常の診療ではパンツを脱ぐ必要はありません。診断は問診が中心です。この点をぜひ誤解せずに、勇気を出してお話をしていただければと思います。
 どうしても言いにくいときは、最近では医師とのコミュニケーションツールとして、「症状チェック表」などが院内の待合室などに置いてあることがありますね。それにチェックをして、医師に渡すことも良いでしょう。打ち明けるきっかけは難しくても、こういうツールを使って話をし始めたら、そこからは比較的に気持ちも楽に相談していただけると思います。

久留米大学医学部 精神神経科学教室 教授 内村直尚先生
久留米大学医学部卒業後、同大学精神神経科学教室助手に就任。その後米国オレゴン州への留学等を経て、2007年4月に現久留米大学医学部精神神経科学教室教授に就任。日本最初の睡眠障害専門外来を開設し、現在、そのチーフとして心療や研究に従事している。
日本睡眠学会理事、日本精神経学会評議員・専門医、日本老年精神医学会専門医 ほか

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