[ヘルスケアニュース] 2010/12/27[月]

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 「日本人は胃腸が弱い」とよく言われます。ひとくちに胃腸の病気といっても、「逆流性食道炎」「胃炎」「胃潰瘍」「十二指腸潰瘍」「胃がん」「大腸がん」「過敏性腸症候群」など様々ですが、なかでも「胃潰瘍」や「十二指腸潰瘍」は、患者数が50万人以上※1にのぼると言われています。明治の文豪、夏目漱石も胃潰瘍に悩まされていたそうです。
 潰瘍とはどんな病気でしょうか。胃粘膜に対し、胃酸やピロリ菌、胃の防御機構を弱める薬など、何らかの原因が加わることで胃壁に傷ができるのが「胃潰瘍」です。胃粘膜ではなく胃酸抵抗力が弱い十二指腸の粘膜を傷つけて起こるのが「十二指腸潰瘍」です。胃痛や胸やけなど様々な症状が起こりますが、多くは薬物療法により治癒します。

※1:厚生労働省平成20年患者調査

潰瘍治療というと食事療法か手術だった時代

 「1980年代以前は、食事療法と手術が潰瘍の治療法だった」と語るのは、三輪内科クリニック院長の三輪正彦先生。胃潰瘍や十二指腸潰瘍に悩む患者さんは以前から多かったそうです。1~3ヶ月も入院して食事療法をし、それでも治らないと胃を切除するなど手術による治療をしていました。1950年代には「防御因子増強薬」(胃粘膜の血流・粘膜量を増加させ胃粘膜の防御機構を高める薬)が発売されましたが、それでも潰瘍治癒率は60%と充分ではありませんでした。しかし、1980年代に国内で初めてH2ブロッカーが発売されると、その様相は一転します。

歴史的な薬、H2ブロッカーの登場

 前述のとおり、潰瘍の直接的な攻撃因子は胃酸ですから、胃酸の分泌を抑制できないものかと、多くの研究者が苦労を重ねてきました。特にH2ブロッカーという、胃酸分泌の指令伝達経路に作用して胃酸分泌を抑制する薬の開発は注目を集めました。“H2”という名前は、「ヒスタミン受容体の1種であるH2」に由来します。1970年代には英国で初めてH2ブロッカーが発表されたのですが、商品化には至りませんでした。胃酸の分泌を抑えることはできたものの、吸収が悪く血液障害が認められたためです。
 そして1985年、日本で初めてH2ブロッカーが発売となりました。この薬剤は強力に胃酸分泌を抑制するため、潰瘍治癒率が80~90%と高い値を実現しました。従来の薬に比べて、効果が現れるのが早く、また副作用が少ないことや、他の薬剤の薬物代謝を阻害しないために他剤併用が可能なケースが多い、といったメリットが医療現場で歓迎されました。
 このH2ブロッカーの登場により、潰瘍治療は手術から薬物療法へと大転換を遂げ、胃潰瘍で手術を受けることは少なくなりました。患者さんの身体への負担が大幅に軽減されたわけです。

現在でも医師に支持され続けている

 H2ブロッカーの後、胃酸分泌をより強力に抑える「プロトンポンプ阻害薬」というタイプの薬が開発されました。一方H2ブロッカーは、OTC(一般の薬局で処方箋なしでも買える薬)になって、一般の人にも名が知られるようになりました。しかし、発売から25年経った今でも、多くの医師に支持され、処方薬として広く使われ続けています。
 最近では疾患の概念が変化しており、胃腸の疾患を「逆流性食道炎」「胃炎」「潰瘍」と分類していたのが、今後は「胃食道逆流症」「機能性ディスペプシア」「ピロリ菌による胃炎・潰瘍」「薬剤性胃炎」「非ステロイド性抗炎症薬の副作用による潰瘍」と細分化がさらに進むことが予想されます。三輪先生によると、「H2ブロッカーは日本において有効性と安全性の根拠情報が最も豊富な薬剤であり、今後細分化される新たな疾患分類においても、利用がしやすい」とのこと。解熱や鎮痛、抗炎症作用のある非ステロイド性抗炎症薬の副作用による潰瘍に対する予防手段としても、H2ブロッカーが多く使われているそうです。

 H2ブロッカーを発明した英国のブラック博士は、ノーベル賞を受賞しました。現在でも世界100カ国以上で使用され、潰瘍治療法を変えた「歴史に残る薬」といえるでしょう。

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