[ヘルスケアニュース] 2017/12/04[月]

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『リレー・フォー・ライフ・ジャパン上野公園2017』ミニセミナー


左から大野智先生、大場大先生、轟浩美さん

 昨今、がん治療では、著名人が標準的ながん治療ではなく民間療法を利用した実例などがメディアを賑わせています。日本人の2人に1人が罹患するようになったといわれるがんについては、医療機関で一般的に行なわれる標準治療以外に、市中では真偽不明なさまざまな民間療法が宣伝され、患者さんやその家族には藁をも掴む思いでこうした治療に手を伸ばすことも少なくありません。こうした現状などを受け、効果が実証されているとはいえないがんの免疫細胞療法を高額な自費診療で提供している医療機関に関して、厚生労働省が実態調査に乗り出すなどの事態にも発展しています。

 先日、日本対がん協会主催のがんのチャリティーイベント『リレー・フォー・ライフ・ジャパン上野公園2017』では、『インチキ医療に騙されないために明日からみんなができること』と題した市民啓発のミニセミナーが行われ、がん患者さんの遺族、医師などが自らの経験や知見から、いかに真偽不確かながん治療を回避するかを講演しました。

「分からないことは分からないと正直に尋ねる勇気を持つことが必要」

 スキルス胃がん患者・家族会である特定非営利法人『希望の会』理事長の轟浩美さんは、スキルス胃がんで失った夫との闘病経験を語りました。

 スキルス胃がんは胃がん全体の10%程度を占め、生命予後の悪いがんとされています。

 夫がスキルス胃がんに罹患したことが発覚した当初、轟さんの下には知人・友人などから『がんが治る…』と称する民間療法に関する本やサプリメントなどが多数届けられたといいます。

 轟さんは「これらはすべて善意に基づくもの。必ずしもすべてを信じていたわけではなかったのですが、当時は夫を助けたい一心で、蜘蛛の糸でもたぐるような思いでした」と振り返りました。そのうえで「民間療法の本の広告が著名な新聞に載っていると一般的には信頼できるのだと思い込む、また、ある民間療法を有名人がやっていると聞けば心に刺さる。インターネット検索で、上位に表示されるページの内容は確かなものと信じてしまう」と語りました。

 「今にして思えば、当時は民間療法の宣伝では、良いところだけが切り取られていることにうすうす気づいていたが、スキルス胃がんのリスクに目を向けるのが怖かった」と振り返る轟さんも、一時は民間療法に傾倒し、胃がんの夫に消化の悪い玄米や大量の人参ジュースを必死で飲食させました。

 ただ、夫婦で話し合いを続け、ある時期から必死にスキルス胃がんの勉強をし始めました。カギとなったのは主治医とのコミュニケーションです。

 診断を受けた当初は『エビデンス』という医師が発した言葉の意味が分からず、そのまま気後れしてしまった轟さんでしたが、再度医師と向き合い、分からないことを正直に尋ねるようになった結果、当初の想像以上に医師は詳細な説明をしてくれることが分かったといいます。そこで具体的なリスクを知ったことで民間療法に目がいかなくなったそうです。

 ただ、それでも轟さんは「自分が大量の人参ジュースを飲ませたことで、夫は十分に食事ができず、げっそりと痩せていった。私が夫の胃がんを背負い込み、突進していった日々は明らかに夫を弱らせた。良かれと思ってやったことが裏目に出た、インチキに騙されたという後悔は一生私の心から消えないと思う」との苦衷を講演で吐露しました。

 そのうえで轟さんは「理解で後悔は減らすことができる。本気で向き合ってくれる医師との出会いは患者さんや家族の理解につながりますが、患者さんや家族も医師から与えられることを待つのではなく、分からないことは分からないと正直に尋ねる勇気を持つことが必要」と強調しました。

現時点で補完代替療法に延命効果を示すエビデンスはなし

 一方、医師の立場からは、大阪大学統合医療学寄附講座准教授の大野智先生が、健康食品、マッサージ、アロマテラピーなど現代医学を補完あるいは代替する「補完代替医療」について説明しました。

 こうした補完代替医療をがん患者さんに対して行った事例について大野先生は、過去に論文などを網羅的に調査しています。

 この論文調査では、患者さんをランダムに2つの群に分け、1つの群に評価すべき治療などを行い、もう1つの群にそうした治療を行なわない、あるいは別の治療を行うという『無作為化比較試験』の論文のみを対象としました。この試験手法が最も厳格な科学評価のひとつと考えられているからです。

 その結果として、大野先生は「全部がインチキとまでは言えない。患者さんが感じる痛み、消化器の症状、呼吸のつらさ、不安・抑うつなどの精神症状や既存治療の改善に一定程度の有効性を示すものもある」と指摘しました。

 ただ、補完代替医療を実施しているがんの患者さんの多くが期待する延命については「(こうした論文調査などを通じても)エビデンスがない」と強調しました。また、こうした補完代替医療では副作用が少ないなどと宣伝されがちですが、大野先生は「論文調査からは、補完代替医療でも副作用が報告されている」と明言しています。

 大野先生は「『インチキ医療』の定義は難しいが、何らかの効果を期待して行った医療が、期待通りではなく、そこに経済的な被害などを被った場合は『インチキ医療』と考えられる」との私見を述べました。

 そうしたものに騙されないための解決策になり得るものについて、大野先生も『コミュニケーション』を挙げます。

 大野先生は「がんに罹っていると分かれば、多くの人は不安を抱き、悩むはず。だからまずは主治医、受診している医療機関の看護師や薬剤師などの医療者とともに、家族や同じ病気で悩んでいる患者さんなどの周囲に『私は困っています』と声を上げることが必要」と語ります。さらに『自分』とのコミュニケーションも重要であると言います。

 「科学的な根拠に基づく医療を実践する際にも、医師にとって患者さんの価値観は治療方針を決めるうえで極めて重要。そのためにも患者さん自身がどう生きたいのか、何が好きなのか、嫌いなのかを自分とコミュニケーションして明らかにして伝えていくことが、望ましいがんの治療方針の決定、療養生活の継続につながる」(大野先生)

がん治療に関して真偽不明な治療を行う医療機関に見られる共通点とは?

 また、がん専門医の東京オンコロジーセンター代表の大場大先生は、インターネットの検索エンジンであるYahoo!、Googleで「肺がん」のキーワードで検索した際に表示される上位50件のホームページ(HP)内の情報の真偽について、過去の研究報告を説明しました。

 大場先生は「アメリカでは80%以上が正しい情報のHPが表示されるのに対し、日本でのこの数字はYahoo!で40%、Googleで30%未満にすぎない」と、日本でのインターネット検索では信頼性の低い情報源に行き当たる可能性が高いことを指摘しました。

 そのうえでがん治療に関して真偽不明な治療を行う医療機関に見られる共通点として(1)高額な自費診療、(2)セミナーや説明会を頻繁に開催、(3)ドラマチックな症例画像や体験談を紹介、(4)高濃度ビタミンC点滴療法やその他の民間療法を実施、(5)クリニックレベルで免疫チェックポイント阻害薬を不適正使用、(6)ナチュラルキラー細胞の効能を強調**、などを挙げました。(村上和巳)

*免疫チェックポイント阻害薬は厚生労働省が所管する独立行政法人・医薬品医療機器総合機構が定めた『最適使用推進ガイドライン』で、病床を持たない医療機関での使用は推奨されていない
**ナチュラルキラー細胞はがん細胞などを攻撃する免疫細胞の1種だが、現時点でこれに関して厚生労働省が認可した治療法はない

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