増えるビジネスケアラー、認知症介護が職場にもたらす影響
[ヘルスケアニュース] 2025/05/27[火]
2050年には認知症またはMCI患者が1200万人に
認知症は、介護者の身体的・精神的な負担が大きい疾患の1つとして知られています。製薬会社の日本イーライリリーは2025年5月14日、大手シンクタンクの日本総合研究所と共催で、「認知症をめぐるビジネスケアラー・ワーキングケアラーの実情を考えるシンポジウム」を開催。同シンポジウムではまず、日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門 高齢社会イノベーショングループ部長/プリンシパルの紀伊信之さんが、認知症に関する調査結果などを紹介しました。

紀伊信之さん(日本イーライリリー提供)
紀伊さんは、最初にわが国の認知症患者とその介護者数について触れました。わが国の認知症患者は、2022年時点で約443万人、約559万人に上るとされる軽度認知障害(MCI)を含むと1000万人を超え、65歳以上の高齢者の約3.6人に1人が認知症またはその予備軍に該当するとされています。この数は、2050年には1200万人を超えると試算され1)、認知症は私たちにとって身近な疾患と言えます。
このような中、仕事をしながら認知症の家族を介護するビジネスケアラー・ワーキングケアラーの増加が問題となっており、2030年には約318万人に上ると推測されています2)。
肉体的な疲労が仕事上の大きな問題に
ビジネスケアラーの問題を放置しておくと、時短勤務をしなければならなかったり仕事に集中できない状況が続き、労働生産性が低下します。そこで、企業は認知症患者さんを家族に持つ従業員に配慮する体制の構築が必要です。
紀伊さんは、日本総合研究所が行った「ビジネスケアラー・ワーキングケアラー、特に認知症家族介護者の実態・意識等調査」3)の結果についても紹介しました。この調査では、家族を介護している会社員1,000名を対象に、家族・介護者の情報に基づきMCIおよび認知症を評価するAD8-Jスコア(認知機能を0~7の8段階に分け、認知機能が低下するほどスコアが高い)を用いて、被介護者の認知機能を「0~1」「2~4」「5~7」の3つに分類し、介護が仕事に及ぼす影響を評価しました。その結果、「介護の精神的ストレスで仕事に集中できない」と回答した割合は、スコア0~1のグループが42.4%だったのに対し、2~4のグループでは54.8%、5~7のグループでは76.4%と、被介護者の認知機能が低下しているほど高まりました。また、「介護の肉体的な疲労が残ってしまい、仕事に身が入らない(それぞれ35.2%、54.4%、68.1%)」などにおいても同様に被介護者の認知機能が低下しているほど仕事への影響が大きいことがわかりました。
次に、ビジネスケアラー・ワーキングケアラーが企業に求める制度・支援については「家族介護を支援する制度の周知の機会(50.5%)」、「正しく認知症を学ぶ機会(43.4%)」や「家族の認知症を早期発見・診断するための支援(42.6%)」などが求められていることがわかりました。これらの結果から、紀伊さんは「企業には①個別の状況に応じた仕事と介護の両立ができる制度設計、②従業員に向けて、認知症に対する正しい知識・認知症の人に対する正しい理解を学ぶ機会の提供、③従業員とその家族などの認知症の早期発見・早期診断・早期対応支援、などの取り組みが求められる」と指摘しました。
社内で「介護をしている」といえる社会に
同シンポジウムの後半では、5名が登壇してパネルディスカッションが行われました。

鎌田松代さん(日本イーライリリー提供)
その中で、認知症の人と家族の会 代表理事の鎌田松代さんは、「介護者からは、介護休暇の制度が社内にあっても『介護をしていることを明かしづらく、使っていない』とよく聞く。同じような家族の悩みとして育児の問題があるが、育児はそのうち子どもが自立してくれるのに対し、介護は先が見えない大変さがある」と紹介しました。
企業において、育児休暇への理解は随分一般的になってきたと思いますが、それに比べ認知症を含む介護に関しての理解や対策は遅れていると実感します。今後も認知症患者が増加することが予想されますので、認知症患者さんの介護者、患者さんご本人とも住みやすい社会が整うことが望まれますね。(QLife編集部)
1)国立大学法人 九州大学「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」報告書 (2025年5月27日閲覧)
[https://www.eph.med.kyushu-u.ac.jp/jpsc/uploads/resmaterials/0000000111.pdf?1715072186]
2)経済産業省 「仕事と介護の両立支援に関する全ての企業に知ってもらいたい介護両立支援のアクション経営者向けガイドライン」 (2025年5月27日閲覧)
[https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kaigo/main_20240326.pdf]
3)日本総合研究所「ビジネスケアラー・ワーキングケアラー、特に認知症家族介護者の実態・意識等調査」 (2025年5月27日閲覧)
[https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/pdf/company/release/2025/0522-2.pdf]
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