会員限定この記事を読むと10pt 進呈!!

新規会員登録(無料) ログイン

[病院を知ろう!プロジェクト] 2008/12/06[土]

いいね!つぶやく はてなブックマーク

「予後」「合併症」・・・病院のなかで良く目にするが、「本当に意味を知っている?」と突っ込まれると自信ない言葉がある。「誤嚥」(ごえん)「頓服」(とんぷく)など読み方が難しい字も、医療には多い。

でも考えてみると病院で使われる言葉=私達の命にかかわる言葉だ。よく分からないなんて、本当はあってはいけない事態。誤解あるまま会話に使われては事故にもつながる。

このため国立国語研究所では、「病院の言葉」委員会を平成19年に設立し、この問題を解決するための調査と提言をまとめる活動をしている。今回は、この委員会で実務の中心となっている田中牧郎(たなかまきろう)さんに、お話を伺った。

「医師との対話」が増えたから、言葉の問題も増えた、とも言える。

Q:いきなりですが、患者にとってはすごくあり難いプロジェクトですね!

8割もの人が、「医師が患者に話す言葉のなかに、分かりやすく言い換えたり、説明を加えてほしい言葉がある」と言っています。(平成16年国立国語研究所調査)
 「患者中心の医療」という考え方が主流となり、医療現場で医師が患者に説明する場面が増えました。ところが説明されればされるほど、分からない言葉が増えてしまった。昔は難しい言葉を聞く機会さえなかったのですから、あながち悪いことではないかもしれませんが。

Q:時代の要請なのですね。

A:医療法の改正で、患者への情報提供が推進されるようになりました。医療法第一条の冒頭には「この法律は、医療を受ける者による医療に関する適切な選択を支援するため」のものであるとうたわれています。

Q:このプロジェクトは、どのように始まったのですか?

A:もともと私は、「外来語」を分かりやすくする取り組みをしていました。役所が出す広報紙や書面でさえ不用意にカタカナを使い過ぎて、お年寄りなど住民が「分からなくて、手続きできない」事態が発生していました。これはまずいと「カタカナの言い換え方」を作ったら、各自治体がそれを参考にして、住民向けの文書作成する際の指針を作り運用してくれるようになりました。
 同様の取り組みを、今度はもっと領域を絞ってやりたいと考えたときに、「医療」が最も国民からの要望が高いことを知ったのです。

Q:大勢の医師も協力していますね。

A:コトバの問題解決は、新しい言葉、難しい言葉を生み出す側の人達、つまりその分野の専門家と一緒にやらないと成功しません。だから、医療の専門家と共同作業をしたいと、最初から決めていました。
予想以上に多くの医師が、現代の医療現場には分かりやすい言葉が不可欠であると、関心を示してくれました。

Q:なるほど。

A:「患者が理解、納得したうえで、自らにふさわしい医療を選択する」ためには、まずは専門家である医療者が、専門家でない患者に対して、分かりやすく伝えなければいけません。それは、とても難しい作業ですが、医療者側が努力している姿を見れば、患者側だって理解しようという意欲が高まりますよね。さらに、医師との間に信頼関係も生まれやすくなります。
逆に、医療者が患者さんから同意書をとったからといっても、書いてある内容が意味不明だと「聞いてなかった」トラブルに陥ってしまいます。今のままでは、お互いに不幸です。

Q:医師との共同作業は、うまくいきましたか?

A:医師は、言葉を「正確にしよう」と考えます。専門家だから自然とそうなるのです。でも言葉は、正確に定義しよう、正確に使おうとすると、難しくなるんですね。
今回のプロジェクトの趣旨は「患者との対話のための言葉」ですから、そもそも患者はどこまで知るべきなのか?という線引きをするのに時間がかかりました。一つひとつの言葉について、医師を中心に4-5人の委員で議論していただきました。

「改善するための具体的な提案」とした。だから反響も大きかった。

Q:最近、中間報告を発表しましたね。

A:予想以上の反響でした。マスコミや医療業界紙、医療関連団体の広報誌などから、連日、取材の申し込みを受けています。
嬉しかったのは、医療関係者からの反応です。主な学会や病院(臨床研修指定病院)に報告書を送ったところ「配りたいからもっとくれ」「研修にも使いたい」との要望を多くいただきました。
「日頃使っている言葉が、こんなに患者にとっては分からないなんて。」と、そのギャップの大きさに皆さんショックを受けています。

Q:報告書の内容を少し紹介してください。

A:まず「言葉が伝わらない原因」ですが、これは3つに類型化できそうです。そして、「解決方法」もそれに応じて違うアプローチを取る方がよさそうだ、と分かってきました。具体的な内容は、図をみてください。


出所:「病院の言葉」を分かりやすくする提案(中間報告)
(国立国語研究所「病院の言葉」委員会)

Q:「③患者に心理的負担がある」とは、どういうケースですか?

たとえば、「腫瘍(しゅよう)」という言葉がありますね。腫瘍には良性のものがありますが、患者が「腫瘍=がん」と思いこんでいると、その言葉を聞いた瞬間に非常に落ち込んでしまって、医師が詳しい説明をしても耳に入らない状況に陥ってしまうことがあります。

Q:「類型C 重要で新しい概念を普及させる」というのは?

A:原則としては「専門用語をむやみに使わない」配慮が大切ですが、なかには重要な専門用語もあります。重要とは、それを社会に広めることによって医療者だけでなく患者にとっても恩恵がもたらされる、という意味です。
例えば「インフォームドコンセント」という言葉は、その概念自体が社会に浸透することが望まれます。ならば、補足説明を加えながらも、積極的にこの専門用語を使って概念を広める方が、メリットが大きいでしょう。

Q:報告書は「提言」の形をとっていますね。

A:調査・分析で終わらず、「改善するための具体的な提案」になっています。
例えば、ひとつの言葉の説明の仕方を、「まずこれだけは」「少し詳しく」「時間をかけてじっくりと」と3段階で示しました。これがとても評判が良いです。
さらには「こんな誤解がある」「効果的な言葉遣い」「ここに注意」「患者はここが知りたい」など、実際的な注意点や工夫の仕方を示しました。
また、患者の認知率と医療者の使用率を数字で示し、そのギャップを認識してもらうようにしました。例えば「誤嚥」(ごえん:食べたり飲んだりしようとしたときに、飲食物が食道ではなく気管に入ってしまうこと)の患者認知率は50.7%ですが、この言葉を患者に使っている医師は82.4%に上ります。

医師はみな、「患者さんにもっと聞いて欲しい」と言う。

Q:患者側は、分からない言葉に対して、どうしたらよいのですか?

A:まずは、その場で医師に聞くことです。後でネットで調べようと思ったりせずに。
専門家ではないのですから、分からなくて当然。遠慮することはないのです。医師は「患者さんにもっと聞いて欲しい」と口を揃えますよ。

Q:そうは言っても、患者は思ったことをなかなか話せません。QLifeの過去の調査でもそう出ています。

A:確かに、診療現場は独特の雰囲気があります。白衣を着ている人とそうでない人とで立場の違いが生まれるし、患者側は精神的に弱っているケースも多い。患者も医師も、そうした暗黙の上下関係のようなものに縛られがちです。その呪縛を解くためには、例えば「いつもと違う挨拶を患者側からしてみる」「診察室のなかのものを、患者側が褒めてみる」のも一つの方法です。

Q:最終報告書は、患者にも役立つものになりそうですね。

A:平成21年の3月でプロジェクトは終了します。そこで最終報告書を出しますが、医療者だけでなく一般の人にも読んでいただけるように書籍にして出版します。イラストなども盛り込んで分かりやすくします。「ベストセラーを目指そう」と言っている委員もいるくらいです。楽しみにしていてください。

田中牧郎(たなかまきろう)
東北大学文学部卒業。国立国語研究所研究開発部門言語問題グループ・グループ長。一橋大学大学院などで講師を務める。日本語の語彙を専門に研究しており、外来語の言い換えや、法廷用語の言い換えにも、取り組んでいる。

 

記事を読んでポイント獲得!

10pt 進呈!!

この記事を読んで
簡単なアンケートに回答すると、
"Amazonギフト券に交換できる"
QLifeポイントを獲得できます!

おすすめの記事

この記事を読んだ人は他にこんな記事も読んでいます。
記事の見出し、記事内容、およびリンク先の記事内容は株式会社QLifeの法人としての意見・見解を示すものではありません。
掲載されている記事や写真などの無断転載を禁じます。