[教えて!ドクター] 2010/03/05[金]

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病気とは認められない症状で体調を崩しているときは漢方薬を!

原因のわからない不定愁訴を、すみやかに解消する漢方薬取材協力/三浦於菟教授・東邦大学医療センター大森病院東洋医学科
取材・文/松沢 実・医療ジャーナリスト

カルナの豆知識2006年3月号特集より

原因のわからない不定愁訴(ふていしゅうそ)を、
すみやかに解消する漢方薬

 「検査数値は正常範囲内なのに、なんだか身体の調子がよくない」
 「一旦、治るが、またすぐにぶり返して、何年も同じ症状に悩まされている」
 こんな悩みをお持ちの方は、意外に多いのではないでしょうか。現代社会の溢れかえるストレスは、人の心や身体にさまざまな複合的影響をもたらし、「病気とはいえないけれど、なんだか具合が悪い、とにかく体調が優れない」と訴える人が増えているのです。
 臓器ごとに高度に細分化・専門化した現代医学は、検査数値に異常が認められなかったり、因果関係が明確でなかったり、はっきりした病名がつけられない症状を解消するのはあまり得意とはいえません。いわゆる「不定愁訴」と呼ばれる冷え性や虚弱体質、低血圧、更年期障害、自律神経失調症などの一群の疾患群ですが、漢方はこうした不定愁訴を解消する有力な治療法として大きな信頼を集めてきました。
 「漢方は患者さんそれぞれの固有の体質や、症状の現れ方などを重視し、まず症状の解消を主眼に発達してきた伝統民族医学です。人間を心と身体、年齢による変化、季節や生活習慣という自然環境などを含めたトータルな存在としてとらえ、個々の患者さんに即して症状を解消するもっとも適切な方法を探るのが漢方の特長といえます」と、東邦大学医療センター大森病院の三浦於菟教授(東洋医学科)は指摘します。
 不定愁訴を現代医薬で無理に治そうとすると、その薬の副作用が強く出てしまうこともあります。現代医薬でなかなか症状が解消しなかったり、あるいは一旦治っても症状が繰り返されたりするときは、漢方薬を活用するのも1つの方法といえます。


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「美人を見たら当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」。
手足の冷え性には当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)

 漢方薬が得意とする代表的な不定愁訴としては、女性の7割が悩むといわれる冷え性があげられます。手足の血管が詰まるバージャー病や甲状腺ホルモンの分泌量が減少する甲状腺機能低下症などはっきりした原因で冷え性になることもありますが、その大半は原因が不明とされています。現代医学ではなかなか症状の改善をはかれませんが、漢方薬ではしばしば驚くほどの治療効果があげられます。
 三浦教授「漢方には『美人を見たら当帰芍薬散』という口訣(言い伝え)があります。美人とは色白・もち肌の女性のことです。雪国では日照時間が短いために色白となり、湿気が多いために肌に潤いのあるもち肌となりやすいのですが、同時に水分が体内に停滞しやすく、むくみやすい体質であることを意味し、冷え性の原因となるのです。その冷え性を解消するのに当帰芍薬散がよく効くために、『美人を見たら当帰芍薬散』という口訣が伝えられているのです」
 冷え性があると月経不順や生理痛などを招くことも少なくないのですが、当帰芍薬散は冷え性と一緒に月経不順の改善などにも役立ちます。
 一方、冷え性でも皮膚が乾燥し、むくみが認められない患者さんには、温経湯(うんけいとう)当帰四逆加呉茱萸生姜湯という漢方薬が効果的です。
 三浦教授「温経湯は冷え性に加えて、月経不順や生理痛などの症状が生じやすかったり、唇や手のひらだけが火照りやすかったりする人に用います。また、当帰四逆加呉茱萸生姜湯は身体の末端(手足)の冷え性や、しもやけができやすい人に効果的です」
 温経湯や当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、いずれも当帰芍薬散より冷え性を改善する力が強く、身体の潤いを増強させる働きがあります。

虚弱体質の克服には補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
腎虚(じんきょ)の体質を補うの六味丸(ろくみがん)

 「すぐに疲れてしまう」「風邪をひきやすい」「体力がない」といった虚弱体質を改善するのも漢方の得意分野といえます。
 三浦教授「漢方では虚弱体質を生命力が低下した状態と診断します。個々の患者さんの生命力は、(1)消化器機能、(2)呼吸機能、(3)親から受け継いだ先天的な生命力の強弱によって決まるのですが、漢方薬によってそれぞれの働きをアップさせることで虚弱体質を克服します」
 漢方では消化機能を「脾胃(ひい)」といいますが、脾胃を高める代表的な漢方薬は六君子湯(くんしとう)です。食が細い、下痢や便秘を起こしやすいといった症状の改善に役立ちます。
 呼吸機能を高める代表的な漢方薬は補中益気湯です。息切れや風邪をひきやすい、汗をかきやすいといった症状の改善に役立ちます。とくに「身体が下に落ちていく感じがする」「疲れるとかえって身体が火照ってしまう」という症状が認められる場合は補中益気湯がよく効きます。また、食欲不振や下痢などの改善にも役立つので、呼吸器症状と消化器症状の2つの症状が認められる場合は補中益気湯がお勧めです。
 漢方では「腎」に生命力が宿っていると考えています。若いときは腎に生命力が溢れているものの、年を重ねるごとに生命力は減少して「腎虚」となっていきます。
 三浦教授「ところが、親から受け継いだもともとの生命力が乏しいと、若いうちから腎虚のために虚弱体質に悩まされるのです。でも、先天的なものだかといって諦めてしまうのは早計です。腎虚を補う六味丸という漢方薬があるのです。六味丸の服用で腎虚を解消し、虚弱体質の改善がはかれるのです」
 高齢のために腎虚が進行し、虚弱体質に陥ったときは六味丸八味丸を使い分けます。身体が火照りやすい場合は六味丸、身体が冷えやすい場合は八味丸を用います。

冷え性を伴う肩こりには葛根湯(かっこんとう)
むくみやすく、雨の日に肩がこるタイプには真武湯(しんぶとう)

 肩こりも漢方でよく治せますが、基本はふだんの生活を見直しライフスタイルの改善をはかることです。なによりも日常生活の疲れが肩とその周辺に集積し、肩こりを引き起こしているからです。
 三浦教授「肩こりを治すには、鍼と漢方薬を併用するのが効果的です」
 鍼は「天柱」「風池」「完骨」など肩こりに効くとされるツボに打つと、すみやかな治療効果が得られます。
 漢方薬は肩こりを3つのタイプに大きく分けて、それぞれのタイプごとに漢方薬を使い分けます。1つは冬の寒さや夏の冷房が苦手で、冷え性とともに肩こりを覚えるタイプです。倦怠感や生理痛などを伴うことが多く、身体の栄養分である血が滞っていることから生じます。身体のエネルギーである気と血の流れをよくする葛根湯や当帰芍薬散の服用が効果的です。
 三浦教授「もう1つは慢性の肩こりで、頭から背中まで広い範囲にわたってこるタイプです。胃腸が虚弱で下痢をしたり、不安感の強かったりする人に多く見られ、気の滞りが原因と考えられます。胃腸の働きを高めて気のめぐりを改善する六君子湯を服用すると同時に、ふだんから身体を積極的に動かすことが大事です」
 あと1つは冷え性でむくみやすく、梅雨の季節や雨の降る日に肩が重だるくなるタイプです。身体に水がたまっている痰飲の状態で、腎や脾を活性化して水分を排出する真武湯を用います。

更年期障害には加味逍遙散(かみしょうようさん)
のぼせが強いときは桃核承気湯(とうかくじょうきとう)

 更年期障害は閉経前後の身体全体のバランスが崩れることから生じます。漢方では血液の貯蔵庫である肝の血液量の減少から閉経を招くと考えていますが、この血液量の減少によって身体の潤いが失われたり、心の安定が損なわれたりすることから、のぼせやイライラ、火照り、胸やのどの詰まり感、むかむか感、不眠などのさまざまな症状が引き起こされるのです。
 三浦教授「とくに漢方が効くのは、あまりひどくない更年期障害です。ひどい更年期障害には現代医学のホルモン補充療法が非常に有効ですが、軽度の更年期障害に対しては副作用が強く出すぎてしまいます。現代医学は軽度な更年期障害を改善する手立てを持ちあわせていないのですが、漢方はそうした現代医学の弱点を補って症状の改善をはかります」
 更年期障害に対して処方される代表的な漢方薬は加味逍遙散です。
 加味逍遙散の「逍遙」とは「自由気ままに歩くこと」を意味し、更年期のいろいろな症状を解き放ち、身体と心を自由に伸び伸びとさせる働きのある漢方薬ということで「加味逍遙散」と名付けられました。イライラや不安感、つかえ感のような緊張をほぐし、冷えや火照り、めまい、動悸、乾燥肌、もたれ、食欲不振などを改善します。
 とりわけ、のぼせが強いときは桃核承気湯を用います。桃核承気湯の「桃核」とは「桃の種」、「承気」とは「熱をもち上昇した気を下に受け流す」という意味で、上半身に滞った血を身体に巡らせる作用があるのです。


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食事の20~30分前に服用。エキス剤は一旦お湯で溶かしてから飲むほうがベター

 現在、漢方薬には煎じ薬とエキス剤があります。エキス剤は煎じ薬から有効成分を取り出したもので、その大半は顆粒状や粉末状の形状です。
 漢方薬はエキス剤も煎じ薬も、一般的に食事の20~30分前に服用します。つまり、胃の中が空のときに服用するのですが、胃腸から吸収されやすいことに加え、その直後に食事を摂れば胃腸への刺激も緩和されるからです。
 三浦教授「エキス剤はそのまま口に入れて服用するのが一般的ですが、できたらエキス剤を一旦お湯に溶かして飲むほうがよいと思います。胃の中で均等に広がって吸収され、胃への刺激も穏やかになるからです。また、2種類以上の多量のエキス剤を飲む場合、飲む水分の量が少なくなって楽に服用できます」
 お湯で溶かすときは、まず先にエキス剤をコップに入れてお湯を注ぎます。エキス剤が2種類以上の場合、一緒に混ぜて溶かしても構いません。
 また、漢方製剤メーカーの既製のアルミの袋に入ったエキス剤は、長期の保存に耐えられます。ただし、病院やクリニック、薬局などで独自にエキス剤を分包したものは、かなり保存期間が劣ります。2週間以上保存しておく場合は、乾燥剤を入れた密閉容器に入れてください。
 一方、煎じる前の生薬は乾燥しているため、1年くらいの長期保存が利きます。しかし、虫やカビがつきやすい生薬もありますから、密閉したポリ容器やチャック付きのポリ袋などに入れ、涼しいところに保管してください。冷蔵庫に入れておけば万全です。
 また、煎じた薬液は生ものと考える必要があります。放置しておくと腐りやすく、夏の高温多湿の状態に置いておくと1日で腐ります。煎じたらかならず冷蔵庫に入れて保存し、その日のうちに早めに服用するのが原則です。遅くても3日以内に服用するようにしてください。

漢方薬を服用するときは、漢方的診断が不可欠

 漢方は中国に発祥し、2000年以上の歴史の中で「陰陽五行論」に基づく理論体系を紀元前後に確立しました。現代医学とは異なる独自の哲学思想が背景にあるため誤解されやすいのですが、漢方では自然の道理で説明できない「超自然」や「神秘」は対象としません。ある意味で科学的な医学大系で、説明の仕方が西洋医学と異なるものの、(1)病因、(2)病気の部位、(3)病気の状態、(4)病期などを明らかにして治療にあたるという大本は西洋医学と同じ原理、考え方といえます。
 三浦教授「ただ西洋医学は近代以降、高度に専門化し、病気の原因や発病の仕組みについて病気単位で研究され、検査データの分析や外科手術、特効薬の開発などめざましい進歩を遂げてきましたが、漢方は個々の患者さんに即して身体と心を丸ごと診るという全体観に基づく治療を王道としてきたのです」
 漢方薬を服用するときは、きちんとした漢方的診断を受ける必要があります。漢方はまず「その人ありき」の医療だと先述しましたが、個々の患者さんの体質や症状にあった治療方法を探す、いわば「オーダーメイドの医療」だからです。加えて、同じ患者さんでも体調や症状に波があり、1つの病気でも病状の経過で漢方薬の処方が異なってきます。
 三浦教授「適切な漢方薬が処方されれば、急性の病気なら2、3日で効果が現れます。慢性の病気であっても、早ければ1、2週間、遅くても1ヵ月で病状の好転する兆しが感じられます」
 従って、いつまでも治療効果の感じられない漢方薬が処方され続けたときは、その理由を医師に尋ねる必要があります。
 最近は漢方科や東洋医学科という診療科を掲げる病院や、漢方薬を処方するクリニック、あるいは漢方薬局などが増えてきました。西洋医学と漢方は互いに補いながら、健康の維持と病気の治療に役立せることができるのです。

三浦 於菟(みうら おと)教授
東邦大学医療センター 大森病院東洋医学科

1947年生まれ。東邦大学医学部卒業後、同大学第2内科へ入局。79年国立東静病院で漢方を学び始める。84年中国・南京中医学院へ留学、87年台湾・中国医薬学院へ留学。88年日本医科大学付属病院東洋医学科助教授、2005年東邦大学医療センター大森病院東洋医学科教授。日本の漢方医学の第1人者として広く知られ、『東洋医学を知っていますか』(新潮社)、『漢方上手』(源草社)、『未病息災』(農産漁村文化協会)など著書多数。

※掲載内容は2006年3月の情報です。

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