[教えて!ドクター] 2010/06/04[金]

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いまや40歳以上の10人に1人が糖尿病

いまや40歳以上の10人に1人が糖尿病
取材協力/門脇孝教授・東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科
取材・文/松沢 実・医療ジャーナリスト

カルナの豆知識2006年11月号特集より

常に一定量に保たれねばならない
血液中のブドウ糖=血糖値

 糖尿病は血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が上がり、眼や腎臓、神経に障害を起こし、ひどい場合には失明や人工透析、手足の痺れや感覚麻痺などへ至る病気です。
 「近年は動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳卒中を発病させる重大なリスクとしても大きな注目を浴び、さまざまな病を引き起こす『合併症の病気』といわれています」と東大病院の門脇孝教授(糖尿病/代謝内科)は指摘します。
 ご存じのように私たちは食べ物からエネルギー源を得ています。中でも炭水化物、タンパク質、脂肪の3大栄養素は不可欠なものです。炭水化物を体内に摂り込むと消化酵素によってブドウ糖や果糖などに分解され、小腸から吸収されて血液中に溶けこみ肝臓へ送られます。
 門脇教授「ブドウ糖は脳や赤血球、筋肉などすべての細胞や組織の活動に欠かせないエネルギー源のため、いつでも利用できるように血液中のブドウ糖は常に一定の量に保たれています」
 食事を摂ると血液中のブドウ糖濃度が高まりますが、肝臓や筋肉はブドウ糖を取り込んでグリコーゲンに変換して蓄えたり、脂肪に変換して脂肪組織に蓄えさせたりして血糖値を抑え低下させます。逆に、運動すると血液中のブドウ糖が消費されるので、肝臓や筋肉中のグリコーゲンや、皮下や内臓の脂肪はブドウ糖に変換され血液中に放出されるのです。

インスリンの分泌低下とインスリン抵抗性の増大が糖尿病の原因

 常に血糖値を一定に保つうえで、もっとも重要な役割を果たしているのが、膵臓のランゲルハンス島と呼ばれる組織のβ細胞から分泌されるインスリンです。
 門脇教授「体内の代謝を調節するホルモンの一つで、血液中のブドウ糖を筋肉などの細胞に取り込ませてグリコーゲンに変換したり、脂肪の合成を促進したりする作用があります。つまり、インスリンは血糖値を下げるホルモンなのです」
 血糖値を上げるホルモンは数多くありますが、下げる方向へ直接働くのはインスリンだけなので重要といわれるのです。
 糖尿病という病気はインスリンの作用不足から生じます。インスリンの作用不足は2つの原因があります。
 一つはインスリンを分泌する膵臓のβ細胞の働きが衰えるか、β細胞が壊れてその数が減少するかしてインスリン分泌の低下を招いていることが原因です。
 門脇教授「もう一つは、インスリンの分泌が正常でも、体の組織や細胞がインスリンに反応しにくくなるインスリン抵抗性を高め、結果的にインスリンの効きが悪くなっていることが原因です」
 いずれの場合も血液中のブドウ糖はグリコーゲンや脂肪に変換されにくくなり、食後だけでなく空腹時も血糖値が高い状態のまま推移して糖尿病となるのです。

インスリン抵抗性が高まったのは動物性脂肪の摂取量が増えたから

 もともと日本人のインスリン分泌能力は、欧米人の50~75%程度しかありません。狩猟民族の欧米人は古くから肉食や高脂肪食の食習慣を有し、膵臓のβ細胞の数が増え、その機能を活性化させることで適応してきました。
 門脇教授「ところが、農耕民族の日本人は、肉食や高脂肪食の食習慣を持たなかったことから、β細胞を鍛えるチャンスがなく、インスリン分泌能力が低いまま現在に至っていると考えられるのです」
 とりわけ日本人の糖尿病の大半を占めるⅡ型糖尿病は、インスリンの分泌不足とインスリン抵抗性から引き起こされます。現在、日本人の1日あたりの平均エネルギー摂取量は2100kcalですが、意外にも糖尿病が珍しかった1950年代とほぼ同じです。
 門脇教授「食生活で大きく変わったのは、動物性脂肪の摂取量の増加です。50年前は全エネルギー摂取量の中の脂肪摂取量の割合が6~7%にすぎなかったのですが、この半世紀で27~28%へと4倍にも増えてしまったのです。すなわち、この脂肪摂取量の増加によってインスリン抵抗性が飛躍的に高められてしまったのです」
 同時に、戦後急速に便利な生活環境が実現し、運動不足から消費エネルギーの減少を招いたため、糖尿病の患者を一挙に増やしてしまったのです。

脂肪細胞の肥大によって悪玉アディポカインが増加し善玉アディポカインが減少

 糖尿病の最大の元凶は肥満といわれます。最近、大きな注目を浴びているのは、なぜ肥満になると糖尿病になりやすいのか、そのメカニズムの一端が解明されたことです。
 門脇教授「中高年の肥満が生じるのは、体内に分布する脂肪細胞の一つひとつが、脂肪をためこんで風船のようにふくらみ肥大するからです。脂肪細胞はこの脂肪をため込む働きだけでなく、さまざまなホルモンや生理活性物質(サイトカイン)を分泌し、生体機能を調節する働きもあることがわかってきたのです」
 脂肪細胞は英語で「アディポサイト」と呼び、アディポサイトから分泌されるサイトカインを「アディポサイトカイン」、あるいは「アディポカイン」といいます。
 アディポカインには悪玉と善玉の2つがあり、TNFαやレジスチンなどの悪玉アディポカインはインスリンの効きを悪くしてインスリン抵抗性を増大させます。一方、アディポネクチンなどの善玉アディポカインはインスリンの効きをよくしてインスリン抵抗性を減少させます。
 門脇教授「実は、脂肪細胞が肥大すると悪玉アディポカインの分泌は増える一方、善玉アディポカインの分泌が減ってしまいます。その結果、体内のインスリン抵抗性が大きくなって糖尿病を発病させてしまうのです」

食後のみ血糖値が上がる食後高血糖は「隠れ糖尿病」

 インスリンが血液中のブドウ糖を筋肉などの細胞に取り込ませてグリコーゲンに変換したり、脂肪の合成を促進して脂肪細胞にため込ませたりする働きを持つことは先述しましたが、このインスリンは24時間休みなく膵臓のβ細胞から分泌されています。これを「基礎分泌」といいます。
 基礎分泌はほんのわずかな量にとどまります。しかし、食事を摂ると食べ物からブドウ糖が摂取され、血糖値が一時的に上がるため、膵臓のβ細胞はこれに反応してインスリンの分泌量を増加させ、血糖値を元に戻そうとします。
 門脇教授「血糖値は数時間後に食前までのレベルまで下がります。この食後におけるインスリンの分泌を『追加分泌』といいます」
 糖尿病の早期の段階では、まずこの追加分泌が遅れ気味となります。インスリンの不足から食後の血糖値が急速に上がり、いつまでも下がらない食後高血糖の状態になります。
 門脇教授「食後高血糖は食後以外、血糖値が正常範囲に保たれています。しかし、1日3回の食事のたびに血糖値が上がるため、いわゆる『隠れ糖尿病』といわれます」
 食後高血糖による「隠れ糖尿病」は、心臓や脳の血管の動脈硬化を促進させ、心筋梗塞や脳卒中の発病リスクを高めてしまうことになります。

経口薬とインスリンの2つの治療法がある薬物療法

 糖尿病の治療は肥満の解消とインスリンの抵抗性の改善にもっとも有効な食事療法と運動療法が基本です。しかし、食事療法と運動療法を一定期間続けても、血糖値のコントロールが改善しない場合は薬物療法を行います。
 薬物療法の治療薬は経口薬と注射薬(インスリン)の2つに大別され、経口薬は(1)インスリンの分泌を高める薬と、(2)インスリン抵抗性を改善する薬、(3)食後高血糖を下げる薬の3種類があります。
 インスリンの分泌を高める代表的な経口薬はスルホニル尿素薬(SU薬)です。
 門脇教授「SU薬は膵臓のβ細胞を刺激し、インスリンの放出を促します。血糖値を下げる力は強いのですが、太り気味の患者さんが使用すると肥満を促進します。インスリンの分泌能力が低い、痩せた患者さんに適した薬です」
 また、インスリンが一時的に分泌されすぎて、低血糖から動悸やふるえ、痙攣、昏睡などを招きやすいので注意が必要です。

アディポカインの分泌パターンを改善するチアゾリジン薬

 インスリン抵抗性を改善する薬としてもっとも重要なのは「アクトス」などのチアゾリジン薬です。
 門脇教授「チアゾリジン薬は脂肪細胞に働き、悪玉のアディポカインの分泌を抑えると同時に、善玉のアディポネクチンの分泌を促進し、インスリン抵抗性の改善に大きな力を発揮します。加えて、善玉のアディポネクチンの分泌が減少すると動脈硬化を促進してしまいますが、チアゾリジン薬の服用によってアディポネクチンの分泌が高まれば動脈硬化の進行を抑えてくれます」
 チアゾリジン薬は肥満や高血圧、高脂血症など動脈硬化のリスクを併せ持っている患者さんにはお勧めの薬といえます。ただし、チアゾリジン薬は食事療法や運動療法をきちんとやっていないと太りやすいという副作用があります。また、心臓の悪い方には使いにくい薬であることも判明しています。
 インスリン抵抗性を改善する薬としては「グリコラン」などのビグアナイド薬もあげられます。
 門脇教授「ビグアナイド薬はインスリン抵抗性を改善し、小腸における糖質の吸収を抑えたりなどするのですが、脂肪細胞に働かないのでチアゾリジン薬と比べるとインスリン抵抗性を改善する力は弱いといえます」
 ただし、チアゾリジン薬と違って肥満を促進することはないので、太った患者さんに使うことが少なくありません。

腸管からの糖質の吸収を遅らせるαグルコシダーゼ阻害薬

 食後高血糖を改善する薬としては、速効型インスリン分泌促進薬とαグルコシダーゼ阻害薬の2つがあります。
 門脇教授「速効型インスリン分泌促進薬(「スターシス」等)は膵臓のβ細胞からの、インスリンの素早い分泌を促す薬です。低血糖を起こしやすいという副作用があります」
 「ベイスン」などのαグルコシダーゼ阻害薬は小腸などの腸管における糖質の吸収を遅らせ、食後高血糖を改善する薬です。腹部の膨満感など比較的軽い副作用があります。
 門脇教授「どちらかというと痩せている患者さんには速効型インスリン分泌促進薬、小太り以上の患者さんにはαグルコシダーゼを処方したほうがいいのではないか、というのが私の意見です」

増えてきた早期におけるインスリン注射への切り換え

 自己注射によるインスリン治療は、通常、経口薬で血糖を十分にコントロールできない場合に行います。経口薬からインスリン注射に切り換える目安は、ヘモグロビンA1cの検査値が8%以上に達したときです。
 糖尿病の患者さんはヘモグロビンA1cを6.5%未満、食後血糖値を180mg/dl未満、空腹時血糖値を130mg/dl未満にコントロールすることが求められています。2~3種類の経口薬を服用してみてもヘモグロビンA1cが8%以上の場合、できるだけ早い時期にインスリンへの切り替えが必要とされます。
 門脇教授「重要なのは最近の傾向として、できるだけ早期に経口薬からインスリンへの切り換えが勧められてきていることです。経口薬による不十分な血糖コントロールが続くと、高血糖からインスリン分泌の低下とインスリン抵抗性の増悪が進み、さらにそれがまた高血糖を進行させるという悪循環=ブドウ糖毒性を亢進させてしまうからです」
 経口薬による血糖コントロールがうまくいかず、ヘモグロビンA1cの検査値が7~7.5%に上昇したら、8%を待たずにインスリンに切り換えるようになってきています。
 インスリン注射による強力な血糖コントロールでブドウ糖毒性も解消できます。
 門脇教授「ブドウ糖毒性がとれれば再び経口薬に戻すこともできますから、一時的であっても早期からインスリンを使うというのが最近の傾向なのです」

欧米では吸入型インスリンが登場

 この頃のインスリン注射は、使い捨ての注射器を使用し、針もずいぶん細くなりほとんど痛みを感じないで行うことができます。加えて、食事の直前に打てばよい「超速効型インスリン」(「ヒューマログ」等)や、1日1回打つだけで24時間効き目が持続する「持効型インスリン」(「ランタス」等)など新たなタイプの使いやすいインスリンが登場してきました。
 門脇教授「欧米では吸入型のインスリンも登場し大きな話題となっています。喘息の吸入薬のように肺からインスリンを体内に取り入れるもので、すでにアメリカでは2006年の1月に米食品医薬品局から認可され、『エクスベラ』の商品名で発売されています」
 糖尿病を放置しておくと、かならず網膜症や腎症、末梢神経障害などの三大合併症や、動脈硬化から脳卒中や心筋梗塞を招いてしまいます。食事療法と運動療法を治療の二本柱として行い、それでもうまく血糖をコントロールできないときは薬物療法を行うことが求められています。
 糖尿病の薬物療法は日進月歩で進歩しています。主治医と十分に相談しながら、血糖コントロールの程度や自分の生活スタイルに適した薬物療法を受けることが大切だといえます。

門脇 孝(かどわき たかし)教授
東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科

1978年東大医学部卒業後、米国立衛生研究所糖尿病部門研究員を経て、96年東大医学部第3内科講師。2001年東大大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科助教授、03年から現職。糖尿病や肥満、インスリン抵抗性分子機構を中心に研究を進め、わが国の糖尿病研究・治療の第1人者として知られる。『700万人の糖尿病』(法研)、『症例から学ぶEBM時代の糖尿病診療』(医学書院)など著書多数。日本糖尿病学会理事をはじめ、内分泌学会理事、病態栄養学会理事、糖尿病協会理事などを務めている。

※掲載内容は2006年11月の情報です。

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