[教えて!ドクター] 2011/05/06[金]

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心筋梗塞の再発を抑えるクルマの両輪は、生活習慣の改善と薬の服用

取材・文/松沢 実・医療ジャーナリスト
カルナの豆知識2010年6・7月号特集

狭心症や心筋梗塞の死亡者は
心臓病による全死亡者の半数弱

 わが国の心疾患=心臓病による死亡者数は、年間約18万人。脳卒中による死亡者数(年間約13万人)を上回り、がん(同約34万人)に次ぐ第2位の死亡原因となっています。
 心臓病は大きく5つのタイプに分けられます。第一に動脈硬化が原因となる狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患、第二に心臓の拍動が乱れる不整脈、第三に生まれつき心臓に問題がある心房中隔欠損症などの先天性心臓病、第四に心筋や心臓の弁、心膜などの病気、そして第五に心肥大や心臓神経病などその他の病気です。そのうち、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患によって亡くなっている方は、心臓病による全死亡者の約半数弱、約7万5000人(年間)に達しています。
 ご存じのように、心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割を果たしています。心臓から送り出された血液は全身の各器官や組織などに酸素と栄養を補給し続けていますが、心臓自体も、心臓の表面を走る動脈=冠動脈に血液が送り込まれ酸素と栄養の補給を受けています。虚血性心疾患とは、この心臓の冠動脈の血液の流れが悪くなり、酸素と栄養の不足から生じる病気です。そのうち血管の内腔が狭くなり血流不足に陥るのが狭心症で、血管の内腔が完全に閉塞して詰まり、血流自体が止まってしまうのが心筋梗塞です。

狭心症と診断されたことがなくても発症することがある心筋梗塞

 虚血性心疾患のなかでも、とくに怖いのが心筋梗塞です。冠動脈が詰まると血流が途絶え、その先に酸素と栄養が送り込めなくなります。その結果、心筋が壊死し、心臓のポンプ機能が失われて心不全に陥ったり、あるいは心室細動などの不整脈が起こったりして、死を招きかねないからです。
 昨年3月22日、「東京マラソン2009」に出場したお笑いタレントの松村邦洋さんが突然、意識を失って倒れたのも、急性心筋梗塞による心室細動が原因でした。自動体外式除細動器(AED)による救命措置で一命をとりとめたものの、危うく命を落とすところだったのです。
 重要なのは、心筋梗塞がかならずしも狭心症から進展するというわけではないことです。どちらも冠動脈の動脈硬化を背景にして起こるため、血管の狭窄=狭心症を繰り返しているうちに、血管の閉塞=心筋梗塞に至ると考えられやすいのですが、実際はそうではありません。心筋梗塞を発症させた患者のうち、それ以前に狭心症と診断された人は、わずか約20%でしかなかったというデータ(帝京大学医学部)も明らかにされているのです。

重要なのは一刻も早く心筋の壊死の進行を止めること

 心筋梗塞の治療は一刻を争います。
 冠動脈が完全に詰まり、その先に血液が通わなくなると、心臓の心筋が壊死してしまうからです。
 心筋梗塞の治療で重要なのは、一刻も早く詰まった冠動脈を再開させ、心筋の壊死の進行を止め、それを最小限にとどめることです。発症後6時間以内に冠動脈を再開通させれば、90%以上の患者が一命をとりとめられます。
 しかし、適切な治療が受けられず、冠動脈が閉塞したままであれば、時間の経過とともに心筋の壊死は進行し、12~24時間のうちに完全に壊死してしまいます。
 心筋の壊死が完成してしまうと、もはやどのような治療を尽くしても元の心筋に戻りません。冠動脈の再開通によって命が助かったとしても、心筋の壊死の程度によっては心臓の機能が大きく損なわれてしまうのです。

病院へ到着後、すみやかに抗血小板薬と抗凝固薬の投与

 心筋梗塞の治療では、薬が重要な役割を果たします。
 まず病院へ救急搬送され心筋梗塞と診断されると、すみやかに血液中の血小板の働きを抑えて血液を固まりにくくする抗血小板薬のアスピリン(商品名…バイアスピリンバファリン等)が処方されます。冠動脈に血の塊=血栓ができるのを抑え、再梗塞の発生や、それによる死亡を抑えられるからです。早く効かせるために、錠剤を噛み砕いて服用するように指導されます。
 痛みがひどいときは、モルヒネ(同塩酸モルヒネ)が静脈から投与されます。さらに血液を固まりにくくする抗凝固薬のヘパリンナトリウム(同ヘパリン等)も静脈から投与されます。

カテーテル治療ができない場合t-PAによる血栓溶解療法

 次に、冠動脈の詰まりを解消し、血流を再開させる再灌流療法がただちに行われます。心筋梗塞に対する緊急時の再灌流療法は、カテーテル治療と薬物療法の2つがあります。
 カテーテル治療は冠動脈インターベンションや、PCIともいいます。手首や肘の細い動脈から直径1~2mmの細い管(カテーテル)を挿入し、その先端を心臓の冠動脈の閉塞箇所まで送りこみます。そして、カテーテルの先端に取り付けた風船(バルーン)を膨らませたり、網状の金属製の筒(ステント)で血管の内壁を押し広げたりするなどして、血流の再開をはかります。このカテーテル治療によって血流が再開する確率は、95%前後にのぼります。
 一方、カテーテル治療ができないときは薬物療法、血栓溶解薬のt-PAによる血栓溶解療法が行われます。t-PA(同アクチバシン、クリアクター、ソリナーゼ等)を静脈から投与し、冠動脈を詰まらせた血栓を溶かして血流を再開させるのです。
 脳梗塞に対してもt-PAによる血栓溶解療法が行われますが、発症後3時間以内に投与しないと治療効果は小さいとされています。しかし、心筋梗塞に対しては、発症後12時間以内であれば、t-PAを投与したほうがよいといわれています。
 血栓溶解療法はほとんどの病院で受けられます。ただし、血流の再開率は約70%でカテーテル治療と比べると劣ります。血栓溶解療法を受けた後、すみやかにカテーテル治療が可能な病院へ移送し、カテーテル治療を受けるようにします。

血流が再開した後はさらに強力な抗血小板薬やβ遮断薬などを服用

 冠動脈の詰まりが解消し、血流が回復したら、再発予防の薬物療法を行います。
 第一に、緊急時に服用を開始したアスピリンなどの抗血小板薬を引き続き飲み続けることに加え、さらに強い抗血小板作用を持つチクロピジン塩酸塩(同パナルジン等)の服用を始めます。カテーテル治療を受けた後は、血栓が生じやすくなるからです。
 第二に、心筋梗塞の再発予防に役立つβ遮断薬(同テノーミンメインテート等)も服用します。β遮断薬は高血圧に用いられる薬ですが、心拍を遅くするなど心臓の負担を軽減する働きもあるからです。
 ほかに、心筋への血流回復が十分でないと判断されたときは、カルシウム拮抗薬(同アムロジンヘルベッサー等)や持続性硝酸薬(ニトロール等)も飲み始めます。血管を拡張させることで、血流の回復がはかれるからです。
 さらに個々の患者の状態に応じて、不整脈が出ていれば抗不整脈薬、脂質異常症が認められれば、抗コレステロール薬などを適宜服用することが求められます。

再発に備えてニトログリセリンなどの即効性硝酸薬を身近に

 通常、冠動脈の血流が回復した翌日から、患者の体調を見ながら心臓機能や身体機能などを回復させる急性期心臓リハビリテーションが開始されます。入院中は少しずつ無理のないメニューを実行します。退院後は、回復期心臓リハビリテーションに取り組んで社会復帰をはかり、その後は維持期の心臓リハビリテーションを続けます。
 退院後は医療機関に定期的に通院し、再発の予防に努めることが必要です。再発を予防するには、生活習慣の改善と、抗血小板薬などの薬の服用が、クルマの両輪となります。
 抗血小板薬のアスピリンや、心筋梗塞を予防するβ遮断薬などの薬は、忘れずにきちんと服用しなければなりません。カテーテル治療を受けた後に飲む、抗血小板薬のチクロピジン塩酸塩は、その後の経過によって服用をやめることも可能です。
 いうまでもありませんが、医師から処方された薬はかならずきちんと飲まなければなりません。飲んだり飲まなかったりしたり、自分で勝手に判断して服用を中止すると再発を招くことになります。
 再発に備えては、医師から即効性硝酸薬のニトログリセリン(同ニトログリセリンニトロペン等)や硝酸イソソルビド(同ニトロール等)が処方されます。いずれも口の粘膜から直接吸収され、即効性に優れています。
 再発作が起きたときに即効性硝酸薬を服用すれば、ただちに冠動脈が広がり発作が治まります。かならずいつも持ち歩き、常に身近に置いておくことが大切です。

医師の指示通りに薬を服用することが不可欠

 一方、狭心症は冠動脈の血流不足から生じる病気のため、心筋梗塞ほど心配する必要はないと考えがちです。しかし、狭心症のなかには心筋梗塞一歩手前という、非常に危険なタイプがあることも事実です。それが、不安定狭心症です。
 狭心症を症状の様子などの違いによって分類すると、安定狭心症と不安定狭心症の2つに分けられます。安定狭心症は、胸痛などの症状の出方がだいたい一定しているタイプで、不安定狭心症は症状の出方が次第に悪くなっていくタイプです。
 不安定狭心症の症状の出方が悪くなるのは、冠動脈の血流を低下させる血管内壁の膨らみ(粥腫)が破れて血栓をつくり、その血栓がさらに血流を低下させる状態となっているからです。そして、最終的に血管が完全に詰まると、心筋梗塞を発症させてしまうというわけです。
 いつ心筋梗塞に移行してもおかしくない、不安定狭心症と診断されたときは、すみやかに心筋梗塞に準じた治療を行います。
 いずれにしても、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患に対する治療は、薬が重要な役割を果たしています。医師の指示通りにきちんと薬を服用すると同時に、発作に備えてニトログリセリンなどの即効性硝酸薬を、身近に置いておくことが不可欠といえます。

※掲載内容は2009年6・7月の情報です。

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