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[教えて!ドクター] 2011/07/08[金]

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取材協力/岩間淳一(いわま・じゅんいち)部長 社会保険蒲田総合病院脳神経外科
取材・文/松沢 実・医療ジャーナリスト
カルナの豆知識2010年2・3月号特集

脳卒中の2割弱を占める脳出血

 脳出血は脳の細い血管が破れ、脳組織の中に血液が溢れ出す病気です。溢れ出した血液は固まって血腫となり、脳の細胞を破壊すると同時に周囲の脳組織を圧迫し、手足の麻痺や痺れ、言語障害などさまざまな障害を招いたりします。
 脳出血は「脳溢血」とも呼ばれ、脳の血管が詰まる「脳梗塞」や、脳動脈瘤の破裂から脳の表面のくも膜下腔という隙間に出血する「くも膜下出血」と並ぶ「脳卒中」の1つです。
 「卒中」とは「突然、意識を失って倒れ、昏睡状態となるような発作」を意味します。脳の血管の血流障害から生じる卒中が「脳卒中」で、脳卒中のうちもっとも多いのが脳梗塞(75%)、2位が脳出血(18%)、3位がくも膜下出血(7%)です。
 「脳出血は長いこと日本人の脳卒中の第1位を占めていました。しかし、1960年代以降減り続け、70年代には脳梗塞を下回りました。その後も減少し続けましたが、90年代に入ると下げ止まり、相変わらず脳卒中の主要な1つとして恐れられています」と、指摘するのは社会保険蒲田総合病院の岩間淳一部長(脳神経外科)です。

大半を占める被殻出血と視床出血

 脳出血のほとんどは高血圧や糖尿病、脂質代謝異常症などによる動脈硬化の進行から生じます。とりわけ高血圧が主要原因となり、脳の奥深いところにある細い動脈の血管壁が脆くなって、弾力性を失っていきます。そのうちにこぶ状に膨らんで微小動脈瘤をつくり、この微小動脈瘤が高い血圧に耐えきれなくなって破裂し、出血を招いてしまうのが脳出血なのです。
 岩間部長「脳出血を招く場所はだいたい決まっています。脳は左右の大脳半球と小脳、脳幹部の3つの部分に大別されますが、もっとも多い出血箇所は大脳半球の脳深部の『被殻』というところからの『被殻出血』で約40%を占めます」
 2番目に多いのは、被殻よりさらに中心に近い視床というところからの「視床出血」で約35%です。次いで脳の表面に近いところの皮質下からの「皮質下出血」で約10%です。さらに脳と脊髄を結ぶ脳幹からの「脳幹出血」が約5%。大脳半球の後ろ下方にある小脳からの「小脳出血」が約5%と続きます。

顔面や手足の麻痺など片麻痺が生じる被殻出血

 大脳半球の被殻の内側(被殻と視床の間)には、運動や感覚をつかさどる神経の通り道である「内包」というところがあります。
 岩間部長「被殻出血が起こるとそれによって生じた血腫が内包を圧迫したり、あるいは血腫が内包を壊すことから、顔面や手足の麻痺、半身の感覚が鈍くなるなどの症状が現れます」
 左の大脳半球の被殻から出血すると、右側の顔面や手足の麻痺など右の片麻痺が生じます。加えて、左の被殻の外側は言語や行動、理解、認識などの高次脳機能をつかさどる神経細胞とつながっているので、言葉が出せない、しゃべれても意味をなさない、他人の話を理解できないといった失語症が現れることもあります。
 一方、右の大脳半球の被殻から出血すると、左側の顔面や手足の麻痺など左の片麻痺が生じます。加えて、右の被殻の外側とつながっている神経細胞の働きが障害され、左側の空間のものを無視する半側空間無視を招くことがあります。

視床出血でも、脳室穿破を招くと手術の必要あり

 視床は脳深部の中心にもっとも近いところにあり、情報の中継点です。この視床から出血すると、顔面を含む半身の感覚が鈍くなったり、逆に過敏になったりします。
 視床から出血して、その外側の内包に出血が及ぶと顔面や手足の麻痺、ろれつが回らないといった言語障害なども現れてきます。ほかに力は入るのに手足の感覚がおかしくなったり、運動失調や、手足や手の指が意思に反して勝手に動いてしまう不随意運動などが起こることもあります。左大脳半球の視床から内包へ出血が及ぶと右の片麻痺などが生じ、右大脳半球の視床から内包へ出血が及ぶと左の片麻痺などが起きます。
 岩間部長「また、視床出血の一部には『脳室穿破』といって、視床の内側にある脳室に血液が流れこんで詰まらせるものがあります。脳出血の治療は投薬による内科的治療がメインなのですが、脳室穿破になると脳脊髄液の循環が妨げられ、水頭症となって頭蓋内の圧を高めてしまうこともあり手術が必要となることがあります」
 60年代以降、脳出血が減り続けてきたのは、被殻出血と視床出血の減少に負っています。

高齢化社会の進展によって増えていく皮質下出血

 大脳半球の表面に近いところは前頭葉と頭頂葉、側頭葉、後頭葉の4つの部分に分けられ、ここに生じる出血を皮質下出血といいます。
 前頭葉に出血したときは、認知症や尿失禁、場所や時間がわからない、言葉が出にくい、麻痺などの症状が現れることがあります。
 頭頂葉や側頭葉に出血したときは、左半球に生じれば失語症や、動作や行為を正しく遂行できない失行症などの症状が現れたりします。右半球に生じれば左側にあるものを無視する左半側空間無視が生じたりします。
 後頭葉に出血したときは、血腫と反対側の視野が見えにくくなるなどの症状が現れます。
 岩間部長「最近、ちらほら増えてきているのがこの皮質下出血です。『アミロイド』というタンパクが脳の血管壁に沈着して脆くするアミロイド血管炎から、皮質下出血を起こす高齢者が増えているのです」
 困ったことに、皮質下出血による障害は被殻出血や視床出血と比べると軽く、また急速に病状が進まないことから、家族や周りの人がなかなか気づきにくいのです。
 岩間部長「『片麻痺など目に見える障害はないのだけれど、なんかおかしい』と病院に連れてこられる患者さんが少なくありません」
 今後の高齢化社会の進展の中で、ますます増えていくのが皮質下出血にほかなりません。

いまだに救命が難しくリスクが高い脳幹出血

 脳幹出血は、大脳と脊髄をつなぐ脳幹に出血する脳出血です。
 岩間部長「脳幹は生命中枢であり、意識や呼吸、体温調節、飲み込みなどをつかさどる脳細胞が存在します。親指2本分より少し大きめの太さのサイズで、その狭い範囲のところに出血するため意識障害や呼吸障害などが現れやすく、症状の進行が急速で命にかわります。脳幹出血は手術も難しく、いまだに救命が難しいもっともリスクの高い脳出血です」
 一方、小脳は後頭部の後頭蓋窩という狭いところに存在します。脳幹がすぐ前にあるため、症状が出やすいというのが小脳出血の特徴です。
 突然のめまいや頭痛、吐き気、嘔吐などの症状が現れます。加えて、小脳は運動全体をコントロールしているところなので、立ち上がろうとしても立てなかったり、歩けなかったりする症状がよく起こります。

脳組織のこれ以上の破壊を防ぐ内科的治療がメイン

 脳出血の約8割は、高血圧や動脈硬化などによる高血圧性脳出血です。
 岩間部長「私が医師になった1983年ころまでは、緊急手術を要する脳出血が年に何件かあったものです。しかしその後は、血圧管理のために生活習慣を改善することの重要性が理解され、降圧薬の処方などで高血圧が適切に治療されるようになり、最近は命にかかわるような脳出血は少なくなりました」
 高血圧ガイドラインでもかつては収縮期血圧が160Hg以上、拡張期血圧が95Hg以上を高血圧としていましたが、年を追うごとに厳しくなり、現在は収縮期血圧が140Hg以上、拡張期血圧が90Hg以上を高血圧としています。
 現在、脳出血の治療の基本は、投薬などによる内科的治療です。治療の目的の第一は再出血による血腫の増大を防ぐことです。第二は血腫による脳内の圧の上昇を防ぐこと、第三は血腫の周囲の脳浮腫の進行を抑えることです。
 岩間部長「脳出血で血管から血液が溢れ出ても、それによって周囲の圧が上がり、血圧とバランスがとれるようになると出血は一旦止まります。しかし、適切に血圧を下げて管理しないと再び出血します。24時間以内に再出血することが少なくありません」
 降圧薬と抗浮腫薬などの点滴投与で治療します。
 岩間部長「重要なのは脳出血によって破壊された脳組織は、現代の医学でももとに戻せないということです。脳出血の治療は血腫の増大や脳圧の上昇、脳浮腫の進行を抑え、脳の組織がこれ以上破壊されないように防止することなのです」

発症直後からリハビリをスタート

 脳出血は出血箇所や出血量、血腫のサイズなどによってさまざまな症状が現れ、いろいろな後遺症を残すことが少なくありません。可能な限り障害を軽減し、残された能力を最大限発揮させることで患者の生活の質(QOL)を維持、高めるのがリハビリテーションの目的です。
 岩間部長「脳出血を含めて脳卒中のリハビリは、いまや発症直後から始めるのが基本です。再出血に注意しながら発症翌日や翌々日などからベッドサイドにおけるリハビリを、スタートさせます」
 リハビリは急性期、回復期、維持期のリハビリがあります。
 急性期のリハビリは残存している機能を最大限に引き出し、手足の関節などが硬くなってしまうことを防ぎます。また、床ずれをはじめ、身体深部の静脈に血栓が生じる深部静脈血栓症などを予防するのも目的です。関節機能を維持するため、患者自身が動くほうの手を使い、麻痺している関節を動かすことが主体です。麻痺している関節はもちろん、手足などの関節をすべて理学療法士が介助して動かします。
 リハビリは脳出血自体の治療と平行して行います。急性期のリハビリはおおよそ2週間です。
 急性期のリハビリの後は、回復期リハビリ病棟や回復期リハビリ病院で本格的な回復期のリハビリを始めます。患者さんの障害の状態や程度などを調べ、もっとも適切なリハビリを理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などが協力して行います。
 岩間部長「脳卒中の障害に対する回復の速度は、発症3カ月くらいまでは比較的速いのですが、その後はゆっくりとしたペースになります。時間がたつほど、なかなか目に見える回復が得られにくくなりますが、地道にリハビリを続けていくことが必要とされます」
 回復期リハビリが終了しても、それで終わりではありません。自宅へ帰ってからも、回復した機能などを維持するための維持期のリハビリが求められます。

家庭血圧の目標値は130/85mmHg未満

 脳出血を一度起こした人は、2回、3回と脳出血を繰り返すことが少なくありません。そのたびに障害が重なってQOLの低下を招き、ひいては寝たきりの生活に陥ることにもなりかねません。
 岩間部長「脳出血の発症後1~2年は、ほとんどの患者さんが薬の服用や生活習慣の改善などで血圧の管理をしっかりと行います。しかし、その後は『もう安心かな』と油断する方もいますので、気を引き締めて血圧の管理や生活習慣の改善に取り組んでいく必要があります」
 2009年1月、日本高血圧学会は脳出血などの脳血管障害患者の降圧目標を改め、家庭血圧の収縮期血圧130Hg未満/拡張期血圧85Hg未満、診察室血圧の収縮期血圧140Hg未満/拡張期血圧90Hg未満と改訂しました。
 岩間部長「とくに重要なのは家庭における血圧です。血圧は日内変動するので1日に複数回測ることが大切です」
 できれば外出したときも、手首に巻いて測る簡易血圧計で血圧を測ったほうがよいでしょう。外出時は自宅の測定値の1~2割増しとなりますが、収縮期血圧が150~160Hgに上がっていたら要注意です。
 脳出血を含めた脳卒中は、要介護となる原因の第1位(32%)です。よりよい快適な日々を送るためには、高血圧や糖尿病、脂質代謝異常症などに注意し、動脈硬化を防いで脳卒中の予防に努めることが不可欠とされます。

岩間淳一(いわま・じゅんいち)部長 社会保険蒲田総合病院脳神経外科
1983年東京大学医学部卒業後、同大医学部附属病院脳神経外科へ。東京警察病院、東京都立墨東病院、(財)東京都保健医療公社荏原病院などを経て現職。治療を受け持った患者さんには自らの携帯電話番号を記した名刺を渡し、24時間365日、いつでも連絡できる態勢を整えるなど、患者本位の医療を実践し、大勢の患者とその家族から厚い信頼が寄せられている。

※掲載内容は2010年2・3月の情報です。

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