[教えて!ドクター] 2011/10/07[金]

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きちんと薬を服用し、うまく症状をコントロールすることが大切。

取材協力/水野美邦(みずの・よしくに)特任教授 北里大学神経再生医療学講座
取材・文/松沢 実・医療ジャーナリスト
カルナの豆知識2011年2・3月号特集

ドーパミンの不足から生じるパーキンソン病

 高齢者の増加とともに増えているのが、神経変性疾患のパーキンソン病です。
 「(1)手足がふるえる振戦、(2)ぎこちない動作となる固縮、(3)なにかやろうとしてもすぐには動けない動作緩慢、(4)姿勢が保ちにくくなる姿勢保持障害が、パーキンソン病の4大症状です。50~60歳代で発症することが多く、日本では患者さんが約15万人を数えるといわれています」と、指摘するのは、わが国におけるパーキンソン病の診断と治療の第一人者、北里大学神経再生医療学講座特任教授の水野美邦先生です。
 脳は大脳と脳幹、小脳の3つに大きく分けられますが、そのうち脳幹のなかの中脳に「黒質」という組織があります。黒質は左右2つ存在し、両方あわせてもたかだか1g 程度の組織です。
 黒質の神経細胞は、ドーパミンという神経伝達物質を分泌するため、ドーパミン神経細胞とも呼ばれます。
 水野先生「ドーパミンは、神経細胞から神経細胞へ情報がスムーズに伝達されるように、いわばオイルのような働きを担う物質です。実は、パーキンソン病は黒質の異常によりドーパミン細胞が減少し、ドーパミンの分泌も減ったために、先の4大症状などを招く神経の病気なのです」
 いまのところ、黒質のドーパミン細胞が減少する原因は解明されていません。そのためパーキンソン病を治癒させることは難しいのが現状です。
 水野先生「しかし、ドーパミンを補うL-ドーパをはじめとするさまざまな薬を活用することで、症状の改善はもとより、日常生活をこれまで通りに送れる道は大きく開かれています」
 いまやパーキンソン病を抱えていても、支障もなく社会生活を送っている患者が数多くいるのです。

L-ドーパとドーパミンアゴニストが中心薬

 パーキンソン病は、薬による治療が基本です。個々の患者の症状に合わせて、2種類の中心となる薬と5種類の補助薬が用いられます。
 水野先生「2種類の中心薬とは、L-ドーパ製剤とドーパミンアゴニストです。L-ドーパは脳のなかでドーパミンに変化し、不足したドーパミンを補う薬です。一方、ドーパミンアゴニストは本来ドーパミンと結合する神経細胞の受容体に直接結合し、ドーパミンと同じ働きをする薬です」
 70歳以下の患者で認知障害が見られない場合は、ドーパミンアゴニストで治療を開始します。70歳以上の患者か、または認知障害が見られる場合は、L-ドーパから治療を始めます。ドーパミンアゴニストは幻覚などの精神症状を起こしやすいことと、L-ドーパは長期の使用によって、薬の効果が早く切れて体が動かなくなる、ウェアリング・オフ現象や、体がくねくねと勝手に動く不随意運動(ジスキネジア)などの、副作用が早期に現れやすいためです。
 水野先生「ただし、70歳以下の患者さんでも、パーキンソン病の症状が重度であったり、そのため職業を失う可能性が大きかったり、早く症状を改善させたほうがよいと判断された場合は、L-ドーパを先に使用しても構いません」

十分に症状が改善しない場合に用いる補助薬

 一方、5種類の補助薬とは、(1)抗コリン薬、(2)ドーパミン放出促進剤、(3)ノルアドレナリン作動薬、(4)モノアミン酸化酵素B阻害薬(MAO-B 阻害薬)、(5)カテコール-O-メチル転化酵素阻害薬(COMT阻害薬)のことです。L-ドーパなどの中心薬で治療しても、症状が十分に改善しない場合に補助薬が用いられます。
 水野先生「抗コリン薬は震えや固縮を抑える薬です。ドーパミン放出促進剤は、残っているドーパミン神経細胞に働き、ドーパミンの分泌を促す薬で、歩行障害や動作緩慢を改善する効果があります」
 ノルアドレナリン作動薬は足のすくみ現象などを改善します。MAO-B 阻害薬はドーパミンの分解を抑え、その作用を増強させる薬です。足のすくみなどの運動障害に効果があります。
 水野先生「現在、保険診療で認められているもっとも新しいパーキンソン病治療薬が、COMT阻害薬です。L-ドーパが脳以外のところで代謝されることを抑え、その効果を延長させます。薬の効果が現れているオン時間を延長し、ウェアリング・オフ現象を軽減させる効果なども得られます」
 パーキンソン病の患者は何種類もの薬を服用するため、薬害や副作用を怖がる人が少なくありません。しかし、これら中心薬2種類と補助薬5種類、計7種類の薬は、それぞれ薬の作用点が異なります。医師の指示通りに服用している限り、いたずらに副作用を心配することはありません。

病気の進行に従って増えていく薬の種類と処方量

 重要なのは、医師から処方された薬をきちんと服用していても、パーキンソン病という病気自体が少しずつ進行することです。
 水野先生「発病の直後や初期の段階ではL-ドーパやドーパミンアゴニストなどの中心薬のみで症状が改善するものの、進行するにつれて補助の薬も必要となります。当初の中心薬や処方量にとどまっていると、しばしば症状の悪化を招いてしまいます。日常生活に支障をきたすことが増えてきたら、主治医に薬の種類や処方量を少しずつ増やしてもらうことが大切なのです」
 加えて、治療が5年、6年と続くうちに、病気の進行や薬の副作用から、全体的に薬の効き具合が悪くなりやすいという問題もあります。
 パーキンソン病の進行の程度は、個々の患者によって千差万別です。進行が早い人もいれば、遅い患者もいます。
 水野先生「とりわけ、薬の効果が早く切れて体が動かなくなるウェアリング・オフ現象が出てきたら、定期的に神経内科の専門医を受診し、適切な薬と処方量を判断してもらうことが不可欠です」

服用量が少ないと症状の悪化を招くことも

 厄介なのは薬に対する誤解や、副作用を恐れるあまり、薬の服用量を守らずに、症状の悪化を招く患者が後を絶たないことです。
 しばしば見受けられるのは、L-ドーパの副作用の一つであるジスキネジアを恐れ、服用量を少なくしているケースです。発症後4~5年経つと、1日6錠を必要とすることが多いのに、1日3錠か、それ以下のL-ドーパで我慢をしているケースです。
 水野先生「ジスキネジアが多少出ても、そんなに問題はありません。症状が改善するまでL-ドーパの服用量を増やしていくことが大切です。また、空腹時や食前に飲むようにすると、劇的な症状の改善が得られることもあります」
 長期にわたるL-ドーパの服用で、その効果持続時間が短縮し、ウェアリング・オフ現象に悩んでいるケースも少なくありません。
 水野先生「ウェアリング・オフ現象はパーキンソン病の進行により、脳のなかからドーパミンが早くなくなってしまうことから生じます。それゆえL-ドーパの1日の服用総量と服用回数を増やすことで、ウェアリング・オフ現象の悩みを解消できることが少なくありません」
 とりわけ、1日の服用回数は6回以上でも構いません。錠剤を半分に割って頻回に飲むようにすれば、L-ドーパが脳から消失する機会は少なくなり、ウェアリング・オフ現象が招きにくくなります。
 水野先生「L-ドーパには、命にかかわる副作用がありません。そして、副作用が出ても、うまく対処する方法も確立しています」
 いたずらに副作用を恐れず、必要とされる十分な量のL-ドーパを飲むことが大切なのです。そうすれば、より快適な日常生活が送れるようになります。

幻覚などが現れたときはかならず主治医に相談

 パーキンソン病の薬の副作用は、服用量を減らしたり、あるいは服用をやめたりすれば、後遺症が残ることはほとんどありません。もともと安全性の高い薬であり、必要以上に副作用を心配することはありません。ただし、ちょっと重視しなければならない副作用の一つに、幻覚や妄想などの精神症状があります。
 水野先生「『後ろを他人が通ったような気がする』『夜、トイレに行ったら、廊下に何かうずくまっているものが見えたものの、よく見ようと凝視したらすぐに消えてしまった』など、こうした軽い幻覚は放っておいても構いません。一方、「外から大勢の他人が自宅へ入ってきて、家のなかで何かやっている」「夜中になにか怖い動物が廊下に見えて、トイレに行くのも躊躇する」などといった幻覚が現れたら、薬の量を減らすか、あるいは幻覚を抑える薬を処方してもらったほうがよいでしょう。
 水野先生「幻覚や妄想などの精神症状は、パーキンソン病自体の進行から生じることも少なくありません。『薬の副作用だ』と勘違いすることが多いので、幻覚などの精神症状が現れたときはかならず、主治医に相談することが大切です」

徐放製剤やパッチ製剤の新薬の登場も間近

 最近は、パーキンソン病の治療薬は優れたものが次々と開発されています。
 水野先生「今年(2011年)はプラミペキソール(商品名ミラペックスL)やロピニロール(商品名レキップLP)という新たなドーパミンアゴニストが発売される見込みです。両者とも薬の成分が徐々に放出され、薬効が長時間にわたって持続する徐放製剤なので、1日1回の服用で済むようになります」
 パーキンソン病の治療の主役は患者自身です。医師と二人三脚で上手に症状をコントロールすれば、より快適な生活が送れます。

水野美邦(みずの・よしくに)特任教授 
1965年東京大学医学部卒業後、同大医学部神経内科入局。69年米国ノースウェスタン大学医学部神経学レジデント。73年自治医科大学神経内科講師、81年同大助教授、88年同大教授。89年順天堂大学医学部神経学講座教授、2006年同大学老人性疾患病態治療研究センター長/特任教授。07年順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院院長を歴任。98年から北里大学神経再生医療学講座特任教授。96年ベルツ賞受賞、2005年上原賞受賞、07年紫綬褒章受章。編著書に『神経内科ハンドブック』(医学書院)、『パーキンソン病治療薬の選び方と使い方』(南江堂)など多数。

※掲載内容は2011年2・3月の情報です。

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