[教えて!ドクター] 2011/11/04[金]

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自然に治ることはないので早めの治療を!

取材協力/近藤啓介(こんどう・けいすけ)院長
取材・文/松沢 実・医療ジャーナリスト
カルナの豆知識2011年4・5月号特集

下肢静脈瘤は自然に治ることがない病気

 患者数が1000万人以上にのぼる下肢静脈瘤は、足の静脈の血管が太くふくらみ、コブのように盛りあがってくる病気です。見た目が悪いだけではなく、足のむくみや痛み、だるさ、強いかゆみをはじめ、湿疹や皮膚炎などの症状に悩まされている方が少なくありません。
 「下肢静脈瘤は命にかかわる病気ではありません。しかし、患者さんのQOL(生活の質)を大きく低下させる病気です。自然に治ることはありません。治療を受けずに放置していると悪化するばかりで、日常生活に重大な支障をきたす患者さんが後を絶ちません」と、指摘するのは下肢静脈瘤の診断と治療の第一人者、東京ヴェインクリニックの近藤啓介院長です。
 今年(2011年)の1月から、患者さんの肉体的負担の少ないレーザーストリッピング手術(レーザー焼灼術)に健康保険が適用されたことは、患者さんにとって福音です。3割自己負担の方なら5~6万円の費用で済み、以前より少ない負担で根治が目指せるようになりました。

足の静脈の逆流防止弁が壊れることが原因

 ご存じのように、心臓から送り出された血液は動脈を通って全身の隅々までめぐり、その後、静脈を通って心臓へ戻ります。
 近藤院長「立ち姿勢をとっている場合、足の先まで流れてきた血液が心臓へ戻るには、重力に逆らい1m以上の高さをのぼって行かねばなりません。そのためふくらはぎなどの足の筋肉をポンプのように収縮させ、静脈のなかの血液を押し上げます。
 一方、静脈のなかには一定の間隔で「八の字状」の逆流防止弁が付いています。上のほうへ押し上げられた血液が、下のほうへ戻らないようにするためです。静脈の血液は逆流防止弁によって、梯子をのぼるように上のほうへのぼっていくのです。
 足先の血液がスムーズに上のほうへのぼり心臓へ戻るのは、足の筋肉のポンプ作用と、静脈の逆流防止弁の働きに負っているのです」

 しかし、静脈の逆流防止弁がうまく働かなくなったり壊れたりすると、静脈のなかの血液は下のほうへ逆流してしまいます。その結果、足の静脈のなかに血液がたまり、血管がコブのようにボコボコと浮き出てきて、下肢静脈瘤を発病させてしまうのです。

下肢静脈瘤の7~8割が伏在型静脈瘤

 下肢静脈瘤は、(1)伏在型静脈瘤、(2)側枝型静脈瘤、(3)網目状静脈瘤、(4)クモの巣状静脈瘤の4つのタイプに大きく分けられます。
 伏在型静脈瘤は皮膚の表面近くを流れる足の静脈のうち、もっとも太い大伏在静脈と小伏在静脈に生じる静脈瘤です。
 大伏在静脈は、足首→ふくらはぎの内側→太ももの内側→太ももの付け根で深部静脈に合流します。小伏在静脈は足首→ふくらはぎの後面→膝の裏で深部静脈に合流します。大伏在静脈瘤と小伏在静脈瘤は、いずれも伏在静脈と深部静脈との合流箇所における逆流防止弁が壊れ、深部静脈から伏在静脈への血液の逆流から生じる静脈瘤です。
 伏在型静脈瘤はもっとも多く、下肢静脈瘤の7~8割を占めます。
 側枝型静脈瘤は、大伏在静脈や小伏在静脈から枝分かれして、足全体に広がる数多くの静脈(側枝静脈)に逆流が生じて引き起こされる静脈瘤です。
 近藤院長「側枝型静脈瘤はふくらはぎにできることが多い、といえます」
 伏在型静脈瘤と比べると範囲は狭く、血管のコブも小さく、症状も軽いことが少なくありません。

小規模な網目状静脈瘤とクモの巣状静脈瘤

 網目状静脈瘤は皮膚表面のごく近くに、網目のごとく広がる直径2~3mmの静脈にできる静脈瘤です。
 近藤院長「側枝静脈から、さらに枝分かれした細い静脈に生じます。青色の血管が網目状に見えることからそう呼ばれます。とくに膝の裏にできやすいといわれます」
 クモの巣状静脈瘤は、皮膚表面のごく近くに広がる直径1mm以下の、とても細い静脈に生じる静脈瘤です。太ももやふくらはぎ、膝裏などにできやすく、赤色の血管がクモの巣のように放射状に広がっていることからそう呼ばれます。
 近藤院長「下肢静脈瘤を木にたとえると、木の幹にあたる大伏在静脈や小伏在静脈に生じるのが伏在型静脈瘤で、幹から伸びる枝の側枝静脈にできるのが側枝型静脈瘤です。そして枝の先の葉っぱに広がる直径2~3mmの静脈に生じるのが網目状静脈瘤で、さらに直径1mm以下の極細の静脈にできるのがクモの巣状静脈瘤といえます」

限られた症例のみに行われるストリッピング手術

 下肢静脈瘤に対する治療法は、静脈瘤の生じている部位やその程度に応じ、(1)外科手術、(2)血管内レーザー手術、(3)硬化療法、(4)保存的治療などいくつかの方法があります。
 外科手術の代表的なものは、ワイヤー(針金)を静脈に挿し入れ、ワイヤーごと血管を抜き取ってしまうストリッピング手術(伏在静脈抜去術)です。
 近藤院長「大伏在状静脈の静脈瘤の場合、太ももの付け根と膝下5~6cmのふくらはぎの内側の二箇所をそれぞれ2cmほど切開し、大伏在静脈のなかへワイヤーを挿し入れます。そして、ワイヤーの先端に静脈の端を結びつけ、ふくらはぎの切開箇所からゆっくりと引き抜き、大伏在静脈を抜き取ります」
 小伏在静脈の静脈瘤の場合は、膝裏と足首の二箇所を切開し、同じように小伏在静脈を抜き取ります。
 ストリッピング手術は、伏在型静脈瘤に対してもっとも実績のある治療法です。しかし、痛みや皮下出血を招いたり、切開箇所の傷跡が残ることもあります。
 近藤院長「手術時間は90~120分を要し、ときには血管と一緒に周囲の神経が抜き取られ、痺れなどの神経障害を招くこともあります」
 そのため、健康保険が適用されることになったレーザーストリッピング手術に、治療の標準手術の座を奪いとられていくだろうと考えられています。
 近藤院長「現在は、静脈瘤を起こした血管の直径が2cm以上、皮膚表面に近い静脈、静脈の蛇行が非常にきついなど、非常に限られた症例のみにストリッピング手術が行われています」

治療の主軸はレーザーストリッピング手術

 血管内レーザー手術は、レーザーストリッピング手術(レーザー焼灼手術)と、レーザー硬化療法の2つに代表されます。
 近藤院長「レーザーストリッピング手術は、足の静脈のなかにシースという細い管(直径2mm)とレーザーファイバー(直径0.6mm)を挿し入れ、レーザー照射で血管に熱を加え、血管を閉塞(詰まらせることで下肢静脈瘤を根治)させる治療法です」
 海外ではすでに数年前から普及し、伏在型静脈瘤の治療の主軸となっていました。日本では今年の1月から健康保険が適用され、大きな注目を浴びています。
 近藤院長「レーザーストリッピング手術の利点は、なによりも皮膚を切開しないため傷が残らないことです。治療成績も従来の伏在静脈抜去術(ストリッピング手術)と同等で、再発率も非常に少ないことが確かめられています」
 手術は局所麻酔のみで、約20分で終了。もちろん入院は不要で、日帰り手術で行われます。周囲の神経が抜き取られることもないので、痺れなどの神経障害を招くこともありません。
 一方、レーザー硬化療法はレーザーを体の表面から照射し、静脈瘤を閉塞させてしまう治療法です。網目状静脈瘤やクモの巣状静脈瘤など、小さな静脈瘤に対する治療法です。
 近藤院長「後述する硬化療法と異なり、針を刺さないので傷にならず、硬化剤などを体内へ注入しなくてもすみます。加えて、一度に何箇所も、かつ広範囲にできるのが大きな利点です」
 ただし、レーザー硬化療法は健康保険が適用されないので自費診療となります。

医師の技術によって大きく左右される下肢静脈瘤の手術

 硬化療法は静脈瘤のコブのなかにポリドカスクレロールなどの硬化剤を注入し、血管を閉塞させる治療法です。側枝型静脈瘤や網目状静脈瘤、クモの巣状静脈瘤に有効です。
 外来で手軽にできる優れた治療法ですが、再発することもあるのが悩みの種です。
 また、保存的治療法として弾性ストッキングによる圧迫療法などの治療法もあります。
 近藤院長「静脈瘤による症状の軽減や症状悪化の予防に役立ちますが、下肢静脈瘤を治す治療法ではありません」
 弾性ストッキングには低圧のものから高圧のもの、あるいはハイソックスタイプやストッキングタイプ、パンストタイプなどがありますので、採寸し、ぴったりのものを選ぶことが大切です。しかし、効果があるのは着用している間だけに限られます。
 下肢静脈瘤の治療で重要なことは、医師の技術によって治療効果や患者のQOLなどが大きく左右されることです。手術をお考えの方は、まずは信頼のおける医療機関を受診し、自分に最適な治療法を見つけてみてはいかがでしょうか?

近藤啓介(こんどう・けいすけ)院長
1993年東京大学医学部卒業。95年国保旭中央病院外科、97年東京大学医学部第2外科、埼玉医科大学総合医療センター外科助手、2004年東京大学医学部血管外科大学院修了、埼玉医科大学総合医療センター血管外科助手、08年東京大学医学部血管外科助教を経て、東京ヴェインクリニックを開業。血管外科医としての専門性を活かしながら、保険診療や自費診療を問わず、最善の医療を提供している下肢静脈瘤の診断と治療の第一人者として広く知られている。

※掲載内容は2011年4・5月の情報です。

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