[教えて!ドクター] 2013/05/02[木]

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精神療法が不可欠なうつ病もある

取材・文/松沢 実・医療ジャーナリスト
カルナの豆知識2012年4・5月号特集

ときには全身衰弱や自殺の衝動に駆られることも

 いまやうつ病の患者は全国で600万人を超え、100万人以上の患者が病院やクリニックなどで治療を受けています。一生のうちにうつ病を発症させる人の割合は、全人口の14.0%(男性7.3%、女性18.5%)に達し、誰でもかかりうる、ありふれた病気の一つといえます。
 重要なのは、うつ病が「心の風邪」と言われているような軽い病気ではないことです。ときには食事が摂れなくなって全身の衰弱を招いたり、自殺の衝動に駆られたりすることも稀ではありません。事実、自殺のきっかけの2割弱はうつ病であり、直接的なきっかけはほかのことであっても、その背景にうつ病が隠れているケースはそれ以上に多いと推定されています。
 深刻なのは、うつ病が気づきにくい病気であるということです。日常的に経験する軽い気分の落ちこみから、病的な強い抑うつ感まで連続的に変化していくため、両者の間に明確な境界線が引きにくいからです。
 「気分が落ちこみ、悲しくて仕方がない。憂うつで気分が晴れず、やる気が起きない」
 「仕事や趣味にまったく興味を覚えなくなった。なにをやっても楽しくない」
 こんな気分や状態が2週間以上続いた場合、単なる「うつ」と軽く考えずに、「うつ病」ではないかと疑い、医療機関を受診してみたほうがよいでしょう。

自殺の背景としての精神疾患の割合グラフ

さまざまなタイプが存在 典型的なうつ病は「大うつ病」

うつ状態でみられる症状 さらに厄介なのは、いわゆる「うつ病」と診断されても、抗うつ薬が効くタイプもあるし、抗うつ薬が効かないタイプもあることです。また、抗うつ薬など薬だけでなく、認知行動療法などの精神療法を併せて受けないと治療効果が得られないタイプもあり、同じうつ病でもさまざまです。
 現在、うつ病は国際的診断基準「DSM-IV-TR」に基づき、気分に著しい偏りがみられる気分障害に分類されています。そして気分障害は、うつ病性障害、非定型うつ病、双極性障害の3つに大きく分けられています。
 うつ病性障害は、さらに大うつ病と気分変調症に細分されます。前者の大うつ病はうつのみに気分が偏り、ほとんど毎日、憂うつ感に囚われ、なにをしても面白くない、無気力な状態や身体的不調などが続き、うつ病の典型的なタイプといえます。
 ところで、「大うつ病」とは妙な日本語で、ピンとくる方は少ないでしょう。 「大」は英語の「メジャー」、つまり「中心的」「典型的」という意味です。米国野球のメジャーリーグを「大リーグ」と呼ぶことから、「大うつ病」と名づけられたそうです。
 さて次に、うつ病性障害のうち気分変調症とは、大うつ病ほどひどい症状ではないものの、慢性的な憂うつ感と無気力、漠然とした身体的不調などが2年以上続き、そうした状態からなかなか回復しないものです。近年、若い世代に急増している「プチうつ病」などと呼ばれるうつ病の多くが気分変調症といわれています。

気分が高揚することもある非定型うつ病や双極性障害

うつ病(気分障害)のタイプ  非定型うつ病とはその名の通り、大うつ病のような典型的なうつ病とは異なるうつ病のことです。すなわち、よいことがあると一時的に気分が高揚する一方、よくないことがあるとひどく落ちこむなど、周りの状況に左右されやすいのが特徴です。過眠や過食に陥ったり、重い疲労感に襲われたり、他人から拒絶されることをひどく恐れたりします。「気まぐれうつ病」などと呼ばれるうつ病の多くが、非定型うつ病と推測されています。
 一方、双極性障害とは、かつて躁うつ病といわれたものです。「躁」と「うつ」の2つの極の間を気分が揺れ動き、躁とうつの状態をくり返すという意味で双極性障害と呼ばれています。ちなみに、「うつ」の極だけに気分が偏る大うつ病は、「単極性うつ病」ともいわれます。

治療には薬物療法、精神療法が必要なことも

 うつ病の治療法は、抗うつ薬などによる薬物療法をはじめ、認知行動療法などの精神療法、さらに脳細胞に刺激を与える通電療法などがあります。なかでも中心的な役割を果たすのが、抗うつ薬などによる薬物療法です。
 難しいのは、うつ病という診断名が同じでも、先述したうつ病のタイプによって治療法が異なってくることです。たとえば、大うつ病は抗うつ薬が効きやすいのですが、気分変調症は、抗うつ薬を服用し続けるだけでは慢性的なうつ状態からなかなか抜け出せません。憂うつ感に陥る状況や出来ごとなどについて、見方=認識を変える認知療法や、対処の仕方=行動を変える行動療法などの精神療法を組み合わせながら、多面的にアプローチしていく治療が求められます。
 また、抗うつ薬が効きやすい大うつ病でも、当初、処方された抗うつ薬だけでは治療効果が得られないという患者が約4割にのぼります。この場合、抗うつ薬の服用量を増やしたり、気分安定薬を追加したり、まったく異なる抗うつ薬に切り換えたりしながら治療を進めていきます。

双極性障害をうつ病と誤診するケースも少なくない

気分障害患者数の推移グラフ 先述した、うつ病などの国際的診断基準「DSM-IV-TR」は、症状だけを診て分類・診断されやすいことから、誤診も少なくないという弱点も指摘されています。事実、双極性障害のうつ状態のときに受診したため躁状態が見逃され、大うつ病と誤診されるケースも見受けられるといいます。大うつ病の治療に役立つ薬のなかには、双極性障害を悪化させる薬もあるので注意が必要です。
 また、うつ病のほかに、別の心の病気を抱えていることも多く、両者を見据えた治療が必要なのにそれがなされないため、いつまでも病状が改善しないというケースもあります。たとえば、うつ病と併存する心の病としてもっとも多いのが、アルコール依存症です。酒のうえでの失敗が重なってうつ状態を悪化させ、そのうつ状態から逃れるためにますます飲酒量が増えるという悪循環に陥ることも……。
 日常生活に支障が現れるほどの不安が続く不安障害や、患者の考え方や行動のパターンが、さまざまな問題を引き起こす境界性パーソナリティ障害なども、うつ病に併存しやすい心の病です。事実、うつ病のほかの心の病気を抱えている患者は、75%にのぼるという報告もあるくらいなのです。
 うつ病という診断名は同じでも、うつ病にはさまざまなタイプが存在し、そのうえ誤診されているケースや、ほかの心の病が加わっているケースもあります。個々の患者が置かれた状況や環境、性格なども考慮され、適切な治療を受けることが不可欠といえるでしょう。

医師との相性の善し悪しは無視できない

 うつ病の患者をクルマにたとえると、いわばガソリン不足が生じている状態です。エンジンはもちろん、車体や電気系統も故障していないのに、ガソリンがなくなっているから動けない状態に陥っているのです。うつ病の治療はなによりも心と体の休養をとり、ガソリン=元気を溜めこむことが求められます。
 会いたくない人には会わない、先に延ばせることは先に延ばす、やりたくないことはやらないなど、ストレスを減らすことが治療の第一歩になります。うつ病は、心と体を十分に休めることで治るケースもあるのです。
 うつ病の治療を受ける際は、精神科医を受診することが大切です。ただし、精神科医ならば誰でもよい、というわけではありません。できるだけ、患者と相性のよい精神科医の治療を受けることが望ましいのです。
 相性のよい精神科医とは、患者の訴えに耳を傾け、患者の症状に多方面からアプローチし、患者のさまざまな疑問などに的確に答えてくれる医師です。
 治療が長期にわたるケースも少なくないので、医師との相性の善し悪しは無視できません。ただし、頻繁に医師を変えてしまうと、信頼関係を築くのが難しくなるという問題があるので要注意です。

うつ病の回復を早めるSSRIなどの抗うつ薬

 うつ病の治療が抗うつ薬などによる薬物療法を基本することは先述した通りです。薬物療法によって、より早くうつ病から回復できることが実証されているからです。
 脳は1000億個以上の神経細胞の塊で、個々の神経細胞から神経繊維が伸びています。神経繊維と神経繊維の隙間をシナプスと呼び、シナプスに神経伝達物質が放出され複雑な神経ネットワークを構成しています。
 神経伝達物質には数多くの種類があります。そのなかの一つであるセロトニンやノルアドレナリンの不足が、うつ病の発病に大きく関係していると考えられています。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(選択的セロトニン・ノルアドレナリン阻害薬)などの抗うつ薬は、セロトニンやノルアドレナリンの不足を補い、うつ病からの回復を助長する薬です。

「ものは考えよう」治療の一翼を担う精神療法

 うつ病の治療において薬物療法と並んで重視されているのが、患者の心理面に働きかける精神療法です。なかでも対話を重ねながら、うつ病になりやすい考え方や行動の傾向を変えていく認知療法や行動療法は、薬物治療と同等の治療効果があるといわれています。
 そもそも人間の憂うつ感などの感情は、状況や出来ごとなどによって直接引き起こされるものではありません。その状況や出来ごとをどう捉えるのか、いかに行動するのかで大きく変わってくるものなのです。つまり、「ものは考えよう」ということです。考え方や行動を修正し、変えていくことで憂うつ感に陥ることを克服しようというのが認知行動療法の基本です。
 認知行動療法は精神科医が行うこともありますが、臨床心理の専門家によって行われることが多いようです。その場合、健康保険がきかないため自費診療となり、費用がかかるのが難点です。
 いずれにせよ、うつ病が疑われたら精神科医を受診することが重要です。うつ病を単なる「心の風邪」などと思わずに、きちんと治療を受けましょう。

※掲載内容は2012年10・11月の情報です。

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