[教えて!ドクター] 2015/10/09[金]

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求められる水痘ワクチンの接種!

取材・文/松沢 実・医療ジャーナリスト
カルナの豆知識2013年10・11月号特集

50歳以上の中高年の6~7人に1人が発症

 近年、中高年に急増している代表的な病気といえば、帯状疱疹もその1つ。50歳以上の6~7人に1人が発症しています。事実、宮崎県で行われた大規模疫学調査「宮崎スタディ」では、1997年から2006年の10年間に帯状疱疹の患者数の23%もの増加が明らかにされています。
 帯状疱疹はピリピリとした痛みなどで気づき、皮膚にできた小さな水疱などが帯状に広がるウイルス感染症です。重症化すると帯状疱疹後神経痛へ移行し、「灼けるような痛み」や「刺すような痛み」などに、年がら年中襲われることもある厄介な病気です。
 しかし、あらかじめ皮膚科などで水痘ワクチンを接種しておけば、帯状疱疹の発症が予防できます。また、たとえ発症したとしても、重症化や帯状疱疹後神経痛への移行が抑えられます。

 「50代になったら、ぜひ水痘ワクチンを接種してください」
 いまや、こう警鐘を鳴らし、呼びかける医師も増えてきています。

発症のきっかけは水痘・帯状疱疹ウイルスの現役復帰

 帯状疱疹を引き起こすのは水痘・帯状疱疹ウイルスです。5歳までに大半の幼児が感染・発病する「水ぼうそう」の原因ウイルスがこれです。
 水ぼうそうの多くは重症化することがありません。患者さん自身の免疫システムの力により、1週間程度で自然に治ってしまいます。

 問題は水ぼうそうが治癒したからといって、体内に侵入した水痘・帯状疱疹ウイルスが死滅→根絶されたわけではないことです。顔面の三叉神経や胸・腹・背中などに分布する知覚神経の神経節に潜み、休眠状態のまま潜伏するのです。人体に備わった免疫システムにより監視され、暴れ出さないように抑えつけられている状態といってもよいでしょう。

 ところが、老化をはじめ、過労やストレス、あるいは外傷やがんの発症、免疫抑制剤や抗がん剤などの投与などによって、人体の免疫システムが十分に機能しなくなることがあります。そんな隙を突いて水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化=現役復帰を果たし、発症させてしまうのが帯状疱疹です。

日常生活を脅かす帯状疱疹後神経痛への移行

 帯状疱疹が厄介なのは、抗ウイルス薬などの投与で痛みや水疱など皮膚の症状が治まっても、後遺症に悩まされるケースが少なくないことです。後遺症のうち、もっとも多いのが帯状疱疹後神経痛です。

 「着替えのときに、衣服が肌にこすれただけで激痛が走った」
 「夜間、寝返りを打つたびに痛みで目が覚める」
 「水疱などを生じたところが、万力で締めつけられるように痛い」

 帯状疱疹の発症時に生じる急性期の痛みに続き、こんな症状が3カ月以上経っても起き続けるのが帯状疱疹後神経痛です。
 帯状疱疹の発症時(急性期)の痛みは、ウイルス感染による炎症が原因です。一方、帯状疱疹後神経痛の痛みは、神経が破壊―傷つけられたことと、耐え難い痛みの記憶がフラッシュバックのように甦ることで生じ、日常生活に重大な支障をきたします。
 かならずしも、帯状疱疹の患者さんがすべて帯状疱疹後神経痛を発症するというわけではありません。水疱などが広範囲にわたるなど重症の場合や、患者さんが中高年の場合、帯状疱疹後神経痛に悩まされる確率が高くなります。

皮膚症状の出現後3日以内に抗ウルイス薬の服用を!

 帯状疱疹の治療の目的は、主に3つのことがあげられます。1つ目は急性期の痛みをすみやかに抑えること。2つ目は水疱などの皮膚の症状を改善して痕を残さないこと。そして3つ目は、帯状疱疹後神経痛への移行を防ぎ、その後の日常生活を支障のないものにすることです。

 治療は、「バルトレックス」や「ゾビラックス」などの抗ウイルス薬により、水痘・帯状疱疹ウイルスがこれ以上増えるのを抑えることと、「ロキソニン」や「カロナール」などの消炎鎮痛薬や、「トリプタノール」や「ノリトレン」などの三環系抗うつ薬などで、痛みを抑えることの二本立てで行います。

 重要なのは、最初に水疱などの皮膚の症状が現れた日から3日以内に抗ウイルス薬を服用することです。3日以内であれば、ウイルスの増殖が抑えられ、軽症のうちに治せます。しかし、4日以上経ってから服用しても、ウイルスの増殖はあまり抑えられず、わずかな治療効果しか得られません。
 当然、抗ウイルス薬の服用が遅れると、重症化する可能性は高くなり、帯状疱疹後神経痛を発症する確率も高くなります。

3日以内に抗ウイルス薬を服用できるケースは少ない

 帯状疱疹の代表的な症状は、体の左右どちらかに生じる神経痛のような痛みと、帯状に広がる水疱(疱疹)などの皮膚症状です。ただし、帯状疱疹の始まり方は非常に個人差が大きく、かならずしもこの二大症状がはっきりと現れるとは限りません。
 神経痛のような痛みといっても、ほかの病気が原因で生じる肩こりや腰痛、頭痛、腹痛、胸の痛みなどと酷似しています。水疱などの皮膚症状も、かぶれや湿疹、虫さされなどによる皮膚炎と紛らわしいことが、理由としてあげられます。
 その結果、「たいしたことはない」と見過ごしてしまったり、原因がわからずに整形外科や消化器内科などを受診したりしているうちに、抗ウイルス薬の服用が遅れてしまう患者さんが後を絶ちません。正直なところ、3日以内に抗ウイルス薬を服用できる患者さんは、それほど多くはないというのが現実です。

 ちなみに一旦、帯状疱疹後神経痛が発症すると、その治療は厄介なものになります。痛みは鎮痛薬や神経ブロックなどで痛みを抑えますが、いまのところ決め手となる治療法がないからです。

帯状疱疹後神経痛への移行をより確実に防ぐ水痘ワクチン

 では、より確実に帯状疱疹の重症化を防ぎ、帯状疱疹後神経痛を発症させないためにはどうしたらよいのでしょうか。先述したように、50代になったら水痘ワクチンの接種を受けておくことです。
 実は、いまのところわが国には、いわゆる「帯状疱疹ワクチン」というものはありません。しかし、子どもの水ぼうそうの発症やその重症化を予防する「水痘ワクチン」が、帯状疱疹の予防などにも効果のあることが、アメリカの臨床試験で科学的に立証されています。

 アメリカの臨床試験では、約4万人の高齢者(60歳以上)を水痘ワクチンを接種したグループと、水痘ワクチンを接種しなかったグループに分け、その後、帯状疱疹の発症患者数を見ていきました。すると後者の水痘ワクチンの接種を受けなかったグループから642人もの帯状疱疹発症者が見られたのに対し、前者の水痘ワクチン接種グループからは315人にとどまり、約2分の1に減らすことに成功したのです。
 加えて、帯状疱疹発症者のうち帯状疱疹後神経痛に移行した患者は、水痘ワクチン無接種グループが80人に上ったのに対して、水痘ワクチン接種グループはわずか27人にとどまり、約3分の1に減少しました。

求められる水痘ワクチンの接種とその普及

 アメリカやヨーロッパでは、すでに2006年に水痘ワクチンが帯状疱疹ワクチンとして認可され、高齢者へのワクチンの接種が強く推奨されています。世界では、いまや30カ国以上で帯状疱疹を予防する目的でワクチンの接種が広く行われているのです。
 一方、日本ではいまだに中高年への水痘ワクチンの接種が推奨されておらず、健康保険も適用されていません。水痘ワクチン「ビケン」の接種を受けるには、その費用(6000円~1万円)をすべて患者さんが自費で負担しなければなりません。

 驚くのは、1974年にこの水痘ワクチン(帯状疱疹ワクチン)を開発したのが日本のウイルス学者、高橋理明氏(大阪大学名誉教授)であることです。日本人によって開発されたこの優れたワクチンを厚労省が推奨し、普及に努めることが強く求められています。

皮膚科クリニックや病院で水痘ワクチンの接種を!

 50代になると水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫力は低下し、いつ帯状疱疹にかかっても不思議ではありません。
 たしかに帯状疱疹にかかったとしても、軽く済むケースがあります。しかし、重症化して帯状疱疹後神経痛に移行したら、慢性的な痛みに苦しみ、日常生活に重大な支障をきたしてしまいます。
 帯状疱疹は早期発見・早期治療が不可欠な病気です。重症化を防ぐには一刻も早く抗ウイルス薬を服用しなければなりませんが、それが可能となるケースは多くありません。

 より確実なのは帯状疱疹を予防し、重症化を防ぐ水痘ワクチン「ビケン」の接種を受けておくことです。皮膚科の診療所や病院にあらかじめ連絡し相談しておけば、「ビケン」の接種を受けることができます。
 ぜひ50代になったら、水痘ワクチンの接種を受けるようにするとよいでしょう。

※掲載内容は2013年10・11月の情報です。

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