[教えて!ドクター] 2008/10/15[水]

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花粉症の症状軽減と体質改善をはかる漢方療法
漢方療法の第一人者・丁宗鐵教授からのアドバイス

2004年のスギ花粉の飛散量は2003年の30倍。抗アレルギー剤による初期療法の目立った効果もなく、くしゃみや鼻水、鼻詰まりに苦しんでいる方も多いのではないでしょうか。スギ花粉症は治癒の難しい病気で、症状の改善に狙いを定めた治療が求められます。現代医学の治療法が力不足と思えたときは、ちょっと違った角度からの治療を試みるのも有効です。漢方薬による治療は現代医学のそれとの併用が可能で、花粉症の症状を改善する優れた効果が得られます。

花粉症に効くと科学的に立証された「小青竜湯」

 漢方薬はいくつもの生薬が配合された薬剤ですが、花粉症の治療に役立つ生薬としては麻黄や麦門冬、紫胡、地黄、蘇葉があげられます。麻黄は主としてくしゃみや鼻詰まり、涙目などの急性のアレルギー症状に効果的です。麦門冬は鼻粘膜の乾燥を抑え、紫胡は鼻腔の痒みや濃い鼻汁など長引く遷延性の症状に効き、地黄は誤った治療でこじらせてしまったときに有効です。
 花粉が飛散しているときは麻黄の配合された漢方薬が適切で、その代表的なものが「小青竜湯」です。
 「『小青竜湯』は花粉症の患者さんを対象とした臨床試験(無作為二重盲検比較試験)で、くしゃみや鼻詰まりなどの急性症状に効果があると科学的に立証された漢方薬です。約300人の花粉症の患者を無作為に2つのグループに分け、一方のグループに『小青竜湯』を服用してもらい、もう一方のグループは『小青竜湯』を服用しないで過ごしてもらったところ、前者の患者さんグループのほうが明らかな有意差をもって急性症状の改善・軽快がもたらされたのです」
 と漢方治療の第一人者である日本薬科大学の丁宗鐵教授は指摘します。
 「小青竜湯」が優れているのは、現代医学の抗ヒスタミン剤のように眠気を催さないことです。
 「朝、起き抜けに『小青竜湯』のエキス剤をお湯に溶かして飲んでください。しばらくすると鼻水が一挙に沢山出てきます。その鼻水をすっかりかみきってしまうと、その日1日はとても楽に過ごせるようになるのです」(丁教授)
sugi_kafun.jpg 鼻水はかならずかみきることが大切です。花粉症の症状が現れているときの鼻水には、スギ花粉等のアレルギー物質が大量に含まれています。鼻水を呑みこんでしまうと胃腸などの消化器器官が下痢や便秘などを起こすと同時に、アレルギー症状を全身に広げてしまうことになります。
 「『小青竜湯』は街の薬局などで市販されていますが、健康保険が適用されているので病院やクリニックでも処方してもらえます」(丁教授)
 残念なのは「小青竜湯」の有効性を知らない先生がまだまだ少なくないので、患者さん自身が積極的に医師に求めることが必要です。
 くしゃみや鼻水、鼻詰まり、眼の痒みなど症状がひどいときは、「小青竜湯」より強力な「大青竜湯」「葛根湯加川 辛夷」などがよいでしょう。また、体力がない方は「苓甘姜味辛夏仁湯」「麻黄附子細辛湯」などを服用するとよいでしょう。

症状を和らげる温かいお茶やコーヒー

 漢方における花粉症治療は、一に養生、二に薬といわれます。漢方薬は花粉症の症状の改善に優れた効果をもたらしますが、なによりも規則正しい生活スタイルの確立が土台となります。
 「実際、花粉症がひどい患者さんのほとんどは、不規則な生活を送っています。とりわけ、睡眠不足と食生活の不養生は、花粉症にとって天敵ともいえるものです」(丁教授)
 睡眠はかならず7~8時間とる必要があります。夜更かしはやめて、早めに就寝することが重要です。
 食生活ではきちんと決まった時間に食事を摂ることです。最近は朝食を摂らない1日2食のビジネスマンが増えてきました。それでも構わないのですが、決まった時間に食べる必要があります。もちろん間食は厳禁で、バランスのとれた食事を心がけてください。
 「とくに症状を悪化させるのが冷たい飲み物です。身体を冷やして花粉症をさらに悪化させてしまいます。砂糖がたっぷりと含まれた甘いお菓子やケーキ、缶コーヒーなども避けなければなりません」(丁教授)
 自販機で売られている冷たいジュースや清涼飲料水などは、「花粉症患者の敵だ」くらいに考えたほうがいいのです。
 「逆に、花粉症の症状を和らげるのが、温かいお茶やコーヒーなどです。甜茶や、ウーロン茶、紅茶でも、温かくして飲むのが症状の改善につながります。加えて、茶葉に含まれるカテキン類は抗アレルギー作用があります。コーヒーに含まれるカフェインは血流を増やして気管を広げる作用があり、呼吸器症状を和らげることが判明しています」(丁教授)
 一方、花粉症を引き起こすスギ花粉から身を守り、可能な限りの防御手段を講ずることも重要です。眼や鼻、喉の粘膜に侵入するスギ花粉の量が少なければ少ないほど、症状の悪化は防げるからです。外出時はマスクとメガネが必須アイテムといえるでしょう。
 「とくにマスクは鼻と喉の粘膜を乾いた空気から守り、湿り気や潤いを保たせるのに役立ちます。あまり分厚いものよりも、鼻から口許にかけて隙間なくフィットするものがよいでしょう」(丁教授)
 最近は「シャットマスクSV」「フィットマスクU」(白十字)などさまざまな花粉症マスクが市販されていますから、自分にあったものを選ぶことです。
 メガネも花粉が眼に入らないように、フレームにひと工夫されたものが発売されていますから試してみてください。
 有用な花粉症グッズはほかにも数多く市販されています。NGC(ナリンゲニンカルコン)など優れたトマト抽出物によって鼻水、鼻詰まり、眼の痒みといった花粉症の4大症状を抑える「トマトのちから」(キッコーマン)や、KW乳酸菌で花粉症体質を改善する「キリンノアレ」(キリンウェルフーズ)などのサプリメントも大変有用です。
 ユニークなのは衣類に付着した花粉の破裂を抑える「花粉ガード」(ライオン)。外出から帰宅したときオーバーなどの着衣にスプレーすれば、花粉の破裂を抑えるとともに、静電気防止効果で花粉の付着も抑え、花粉の室内への侵入が防御できるのです。
 かつて喘息の発作が起きたときに多用されたスチーム療法も、新たな花粉症対策の一つとして見直されてきています。蒸気が粘膜を潤し、症状の軽減がはかれるからです。さまざま花粉症グッズが発売されていますから、自分に適したものを探して活用するとよいでしょう。

体質の改善をはかるには「十全大補湯」や「温清飲」

 花粉症の原因となるスギ花粉は1月の上旬から飛び始め、2月から3月にかけて飛散量がピークに達し、5月一杯まで飛んでいます。漢方では飛散が収まり、症状が現れなくなってからも、治療を継続するのが特徴です。
 「スギ花粉による炎症でダメージを受けた鼻や眼などの粘膜の回復を促すと同時に、根本からアレルギー体質の改善をはかるためです」(丁教授)
 スギ花粉の飛散が見られなくなってから服用する漢方薬としては「十全大補湯」や「温清飲」が代表的なものです。ステロイドなど強い薬を使用したために弱った免疫力の調整や、体力の増強、体質の改善などがはかれるからです。鼻粘膜の痒みや出血などが治りにくいときは、「荊芥連翹湯」「大紫胡湯合黄連解毒湯」「紫朴湯」などを服用します。
 「のどもと過ぎれば熱さを忘れる」といいます。花粉症の季節が終わったらといって、治療をやめてしまうのは禁物です。漢方でアレルギー体質の改善をはかっていくという積み重ねによって、花粉症の呪縛から解き放たれるのです。
 来年の花粉症対策について一言付け加えておきたいと思います。
 「スギ花粉が飛び始める1ヵ月前、すなわち12月頃から体質改善の漢方薬に加えて、鼻や喉などの粘膜の乾燥を抑え、風邪を予防するための漢方薬を服用し始めることが重要です。あらかじめ身体のコンディションを整えておけば、スギ花粉が飛散し始めて症状を軽く抑えられるからです。『「葛根湯」がもっともポピュラーな漢方薬ですが、その人の体格や体質などによって『麦門冬湯』『辛夷清肺湯』『滋陰降火湯』『竹 温胆湯』などを用いることもあります』(丁教授) 
 いまでこそ現代医学でも花粉症は症状の現れる前から抗アレルギー剤を服用する初期療法が一般的となりましたが、漢方では昔から未だ病が発病していない段階の「未病」のうちから治療するのが基本とされているのです。
 花粉症に対する漢方による治療は、いずれも現代医学と併用することが可能です。むしろ現代医学の治療の弱点を補いながら、両者の相乗作用の力によって花粉症の克服の道を拓くことができるのです。

dr_tei.jpg丁宗鐵教授 (ていむねてつきょうじゅ)
1947年東京生まれ。72年横浜市立大学医学部卒業、76年同大学院修了。76年北里研究所へ、79年同研究所東洋医学総合研究所診療医長、79年米国スローン・ケタリング記念がん研究所へ留学。86年北里研究所東洋医学総合研究所研究部門長、96年東京大学医学部生体防御機能学講座助教授、2003年日本薬科大学教授。百済診療所の所長も兼任。わが国の漢方治療の第1人者である。著書に『スキルアップの漢方相談ガイド』(南山堂)など多数ある。

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