[教えて!ドクター] 2008/10/17[金]

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中医学は不定愁訴を克服する一つの方法です
優れた効果を示す補腎薬

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取材協力/別府正志講師 東京医科歯科大学医歯学教育システム研究センター
取材・文/松沢 実 医療ジャーナリスト

更年期障害はホルモン分泌の低下と
停止だけが原因ではない

 更年期は妊娠可能な時期(生殖期)から不可能な時期(非生殖期)に移行する閉経前後の期間のことをいいます。
 「卵巣の働きの衰えから減り続けてきた女性ホルモンの分泌が、ついに停止状態(閉経)へ至る時期です。一般的に50歳プラス・マイナス5年のほぼ10年間を指します」
 と東京医科歯科大学の別府正志講師(産婦人科学・東洋医学)は指摘します。
 更年期障害はこの時期に、ホルモンバランスが崩れることをきっかけに発症するさまざまな不定愁訴のことです。倦怠感や頭痛、肩こり、のぼせ、冷え、不眠、不安、発汗などの症状に悩まされ、しばしば日によって症状が変わったり、いくつもの症状が同時に重なったりすることもあります。
 「重要なのは更年期を迎えた女性がすべて、更年期障害に悩まされるというわけではないことです。思春期にその時期特有の心や身体の悩みを訴える少女がいる一方で、何も悩まずに思春期を通り過ぎてしまう女の子もいます。更年期障害もそれと同様で、更年期を迎えたのにまったく無縁という女性もいらっしゃいます」(別府講師)
 更年期障害は卵巣における女性ホルモンの分泌の低下と停止が非常に大きな要因であり、発症のきっかけとなることは間違いありません。しかし、それだけでなく、50歳前後の女性の多くが直面する社会的喪失感や心理的葛藤からも引き起こされるのです。
 「子どもの巣立ちで家(巣)の中が空っぽになり寂しさを覚えるから空の巣症候群に陥ったり、老親の死去に直面したり、惰性となった夫婦関係に失望したりするなどの社会的喪失感や、いままでの人生を振り返り『これでよかったのか』と思う心理的葛藤が加わることによって更年期障害が悪化することがあります」(別府講師)
 自らの不定愁訴が更年期障害によるものなのか、更年期障害によるものだとしたら、どの程度なのかは「クッパーマンの更年期指数」や「簡易更年期指数(SMI)」等の検査で判明します。更年期を迎えて調子を崩している人は、これらの検査で自己診断してみるとよいでしょう。

限界がはっきりと示されているホルモン補充療法

kounenki.gif 現代医学では女性ホルモンを服用するホルモン補充療法が更年期障害に対する治療の主軸といえます。もちろん、社会的要因や心理的要因などが複雑に絡みあっていることから、積極的にカウンセリングなども試みられていますが、更年期障害によるさまざまな不定愁訴の解消や、女性ホルモンの欠乏から生じる骨粗鬆症などの予防の軸となっているのがホルモン補充療法なのです。
 ところが、あまりホルモン補充療法が効かないという女性も少なくありません。更年期障害は先の(1)女性ホルモンの分泌の低下と停止、(2)社会的要因、(3)心理的要因の3つが重なりあって発症するのですが、(1)の女性ホルモンの分泌の低下と停止が主要な原因ではなく、(2)の社会的要因や(3)の心理的要因のほうを主要原因として発症している患者もいるからです。
 「たしかに、女性ホルモンの分泌の低下と停止が主要原因の患者さんにホルモンを補充すると、劇的に症状の改善がはかれます。しかし、女性ホルモンの分泌量がこれまでとあまり変わらないのに、更年期障害に苦しむ患者さんにホルモン補充療法を行っても効きません」(別府講師)
 最近は米国国立衛生研究所(NIH)の大規模無作為化比較試験で、ホルモン補充療法が狭心症や脳卒中等の動脈硬化系疾患の一次予防に役立たないばかりか、それを増加させ、さらに乳がんの発生リスクも高めることが判明しました。もっとほかによい治療法はないものかという声が広がる中で、大きな注目を浴びているのが漢方=中医学による治療といえます。

腎の働きの衰弱と、腎精のアンバランスが原因

 中医学では女性の心身は7年ごとに変化していくと考えます。7歳で歯が生え代わり髪もよく伸びるようになり、14歳で初潮が始まり子どもが産めるようになります。21歳で親知らずが生え、28歳で女性としての能力が充実します。35歳で徐々に衰え、42歳で白髪が目立ち始め、49歳で閉経し子どもが産めなくなります。その後は体力や気力が次第に減少し、衰えて死に至るのですが、こうした人間の発育と成長、老化に深くかかわっているのが五臓六腑の中の腎の働きなのです。
 中医学における腎は、西洋医学の解剖学上の腎臓とは違います。両親から受け継いだ生命力を腎精といいますが、この腎精が宿り育むところを腎というのです。
 腎精は両親から受け継いだ「先天の本」と、健康な生活=養生によって育まれる「後天の本」から成り立っています。後天の本は胃と脾、肺でまず気がつくられ、気はさらに血と津液(体液成分)をつくり、その3つが十分に全身をめぐって後天の本となります。生まれつきの先天の本が弱くても、養生で後天の本を鍛えれば強力な腎精となります。
 腎精は一本の木にたとえることができます。後天の本の養分で生長し、幹が二股に分かれます。やがて片方の幹に気を養分とした赤い花=「腎陽」が咲き、もう片方の幹に血・津液を養分とした白い花=「腎陰」を咲かせます。腎陽と腎陰は陰陽のバランスがとれていることが大事で、発育・成長、老化の過程において、どちらの花が多すぎても少なすぎても心身に不調が出やすくなります。更年期障害は49歳の閉経前後に腎の働きが衰え、この腎陰と腎陽のバランスの崩れから生じるのです。
 「中医学で更年期障害を克服するには、なによりも補腎薬で腎の働きを補うことが重要なのです。そして、腎の働きを活性化させ、腎陰と腎陽のバランスを整えることが求められるのです」(別府講師)

健保が適用されていない強力な動物性補腎薬

 漢方薬の成分である生薬は植物性のものと動物性のものの二つに大きく分けられますが、腎の働きを補う補腎薬で強力なものは後者の動物性生薬がほとんどです。
 「新しく生え変わったばかりの雄鹿の角である鹿茸や、内臓を除去したオオヤモリの蛤 、胎盤である紫河車、タツノオトシゴの海馬、あるいはフユムシナツクサタケとそれが寄生した幼虫の複合体である冬虫夏草などが動物性の補腎薬として広く知られています」(別府講師)
 残念なことに健康保険が適用される漢方エキス剤の中には、動物性の補腎薬はもとより、それらが配合されている漢方薬もありません。漢方薬局で動物性補腎薬か、それが配合されている漢方薬を自費で購入する必要があります。
 もちろん、補腎薬で腎の働きを補ったうえで、腎陰と腎陽のアンバランスを克服する漢方薬なども服用することが大切です。腎陰と腎陽の微妙なアンバランスによってさまざまな不定愁訴が引き起こされるからです。
 「更年期障害はさまざまな不定愁訴を招きますが、適切な漢方薬の処方によってすみやかに症状の改善がはかれます。すみやかというのは2週間前後です。2週間前後で症状がすべて改善しないときは、より適切な漢方薬に切り換えていかねばなりません」(別府講師)
 漢方薬を処方する医師だから漢方に詳しいかというと、かならずしもそうとは限りません。2週間経っても効かなかったらすみやかに処方の切り換えに応じてくれたり、漢方薬の薬の説明を求めたとき、漢方の言葉で説明してくれたりするのが漢方に造詣の深い優れた医師といえます。
 最近は漢方薬を処方する婦人科の医師はもちろん、漢方薬局などでも漢方や中医学に詳しいベテラン薬剤師も増えてきました。現代医学ではなかなか更年期障害が治らないという悩みを持つ女性にとって、漢方薬を試みるのも重要な選択肢の一つといえるでしょう。

別府正志 医学博士
東京医科歯科大学 医歯学教育システム研究センター

1991年東京医科歯科大学医学部卒業後、同大学医学部産婦人科教室へ入局。2000年同大学医学部附属病院病棟医長(産婦人科)、01年日本女性心身医学会幹事・評議員、05年現職に。中医学の有効性に着目し、遼寧中医大学附属日本中医薬学院を修了し、中国政府による国際中医師の資格を得ている。

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