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[教えて!ドクター] 2008/10/21[火]

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EBMとは何?知っておきたい「よくある誤解」「生活者ができること」
医療関係者の間で、最近「EBM」という言葉が頻繁に使われるようになった。これは Evidenced Based Medicineの略で、直訳すると“根拠に基づく医療”。正確な定義は“「最善の根拠」と「医療者の専門性」と「患者の価値観」を統合して、患者さんにとってよりよい医療を目指すこと”である。

もう少し言葉を補うと・・・「臨床研究などで科学的に効果が確認された治療法を、医師の経験や技量、利用可能な設備や時間などの制限を鑑みて、さらには患者さん固有の事情や意思すいも重視して、総合的に判断して選択しましょう」という意味だ。逆に言うと、「医師個人の限られた経験や勘だけ」で治療を進めるのは止めましょう、という呼びかけでもある。1991年にGuyattが『Evidence-based Medicine』と題する小論を発表したのが「EBM」の最初なので、考え方としては新しい。

今回は、「健康や医療に関する情報」のあり方を研究する「健康情報学」の第一人者の京都大学中山健夫教授に、この「EBM」について、お話を聞いた。

EBMを誤解している人も多い

dsc01557.jpgQ:最近はずいぶんとEBMという言葉が広まりました。
A:言葉が先行しているぶん、間違った使われ方も増えています。たとえば「治療法Aには科学的根拠がないから、EBMとは認められない」という風に使われたり、「EBMでいうエビデンスとは、統計的データ。医師の個人的経験は除外。」と勘違いしている人も多い。

Q:個人の経験もエビデンスと言えるのですか?
A:個人の経験もエビデンスの一つです。ただ、他のケースに当てはめるには難しい場合が多いので、レベルとしては低いエビデンスとされています。その意味で、EBMでエビデンスと言えば、多数の人間を対象として得られた疫学研究や臨床試験の結果を指して、個人の経験は一般的なエビデンスとは別に扱われることが多いですね。ただ、個人の経験は一般論として強くはなくても、「研究成果として得られる一般論としてのエビデンス」と合わせて、実際の臨床の現場では欠かせない判断の拠りどころになります。
むしろ「個人の経験に基づく判断はダメ」と簡単に片づける方が、EBMの考え方に反します。情報の信頼性をレベル分けして判断に使う姿勢が大事です。

Q:では「“エビデンス”と認めるには証拠不十分だ!出直して来い!」という合否判定の世界ではないのですね。
dsc01606.jpgA:そうです。エビデンスというと、科学的に隙がなく、いつでも成り立って、誰にでも当てはめられるようなイメージが持たれているかもしれませんが、完全無欠なエビデンスなどはまずありません。
つまり健康・医療情報は、完全に白か黒かはっきりしているものは稀なのです。むしろほとんどがグレーゾーンです。グレーなのに、白でないなら即、黒だ、と無理に判定してはいけません。好きな人に「私のこと嫌い?」と質問して「嫌いではないけど・・」と言われたからといって「じゃ、好きなんだ!」と喜ぶことはないですね?どれくらい白や黒に近いのかを論理的に判断しつつ、グレーのまま様子を見る姿勢が大事です。そうした現実に向き合い「耐える」こと、その中からせいいっぱい理性的に判断の拠り所を探っていくこと、そしてその判断に基づいてとった自分の行動に責任を持つ態度こそが、EBMの本質です。

Q:いわば「総合的に上手に悩もう」という趣旨なのですか。
A:その通りです。ただし、医療は悩むだけでなく、行動しなければなりません。情報はグレーのままで白黒つけられないとしても、行動は「する/しない」の二者択一です。しかも現実世界では、そうした意思決定にかけられる時間は極めて限られていて、完璧なエビデンスが出るまで待ち続けるわけにはいきません。「工場排水で汚染された魚を食べることが、病気の発生と関連性が強い」とわかったにもかかわらず、「メカニズムまで究明されたわけでない」と対策を遅らせている間に、新潟で第2水俣病が発生しましたね。

Q:では、上手な意思決定は、どうしたらよいのですか?
A:EBMの世界的なリーダーの一人、英国のミュア・グレイという方が「エビデンス」「バリュー」「リソース」の3要因を整理することを勧めています。たとえば乳がんの手術を行う際に、乳房を温存する縮小手術と広めに切除する拡大手術のどちらの術後成績が良いかという「エビデンス(根拠)」を確認しつつも、患者さんの価値観、つまり乳房を残したい気持ちと癌が残る可能性を少しでも取り去りたい気持ちのどちらが強いのかという「バリュー(価値観)」も尊重しなければなりません。さらには、実際に受診できる医療施設で行えること、提供できる医療資源、または患者さん本人の経済的な条件など、さまざまな「リソース」には制限があるでしょう。「リソース」には、このように人やお金、または時間の制限も含まれます。

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なぜ今さら「根拠に基づいた医療」?

Q:よく聞くと、何だか当たり前の話ですよね。なぜ今さらEBMなのですか?「医師は人間の体を、根拠なく治療してきた」のですか?
A:名医は、昔から「エビデンス」「バリュー」「リソース」の3つを総合的に判断していました。さらには、どう納得する形で患者さんに伝えるか、という「コミュニケーション」まで含めて実践していました。EBMは、そうした複合的な医療判断を科学的に分析して、整理しなおしたのです。特に、エビデンスのなかでもかたよりの少ない、一般化できる情報の大切さを強調して、「疫学」の重要性に注目したのはEBMの功績と言えるでしょう。

dsc01588.jpgQ:「疫学」とは何ですか?
A:おおぜいの人を対象に、治療の有効性や病気の危険因子を調べる科学的な研究のことです。解剖学や病理学、生理学、分子生物学などの視点で、人間の体のメカニズムを解明するだけでなく、実社会のなかで生きている実際の人間を丁寧に観察して、治療の効果や病気の成り立ちを確認しようとするものです。

Q:新薬の開発で、効いたかどうか患者さんのデータを取るのも、そうですか?
A:そう、臨床試験とよばれますね。ただ薬が「効いた」ように見えた時でも、疫学的にみると、落とし穴がたくさんあるので注意が必要なのです。もともと快復途上にあったのかもしれないし、その時期だけヨソユキの日常生活をして運動や食生活に気をつけたかもしれません。後者は「ホーソン効果」といって、自分が観察注目されていると意識することが、病気によっては薬よりも効果的な場合があると、知られています。さらには「プラセボ効果」といって、特に効く成分が含まれていない薬でも暗示効果を示すことがあります。また「平均への回帰」現象といって、数値が高すぎたり低すぎたりした場合にもう一度測ると、平均に近い値を示す、つまり、悪かった状態が良くなったように見えることが多いのです。
逆に言うと、“効いた”という広告には、疫学的には疑わしいものが非常に多いのです。ぜひ注意をしてください。

Q:だからこそ、患者を2グループに分けて新薬とニセの薬を投与した結果を比較確認するのですね?
dsc01642.jpgA:ところが比較グループを置いた臨床試験でさえ、疫学の目で見ると落とし穴が意外に多いのです。たとえば二つのグループは、効果を調べたい治療以外の条件には差が出ないように割つける必要があるのですが、そこで片方に重症の人が多くなったり、非常にやる気のある人たちが集まってしまったりすると、バイアス(かたより)が生じてしまいます。そうすると、治療したグループが良くなったとしても、それが本当に治療の効果だったのか、他の要因が結果を良くしていたのか、区別がつかなくなってしまいます。また、担当医師や、曜日や、カルテ番号の奇数偶数で、新薬とニセの薬の投与を区分することも、バイアスが生まれる可能性があります。
このように臨床試験は一般的にレベルの高いエビデンスと期待されているのですが、いつも無条件に信じて良い、というわけにはいかないということは知っておいて欲しいと思います。そもそも、病気で苦しんでいる患者さんに対して、ニセの薬つまり効かないと分かっている薬を投与するのは、よほど条件が整わないと、倫理的に許されません。

EBMは、生活者にこそ、より役立つ

Q:専門家でもそんなに実現が難しいEBMに、私たち生活者が取り組めることはありますか?
dsc01608.jpgA:「専門家でも実現が難しい」と考える必要はないのですよ。その気になれば、EBMの実践は十分できることなのです。多くの人にとって大切なことは、「完全無欠の研究をして、誰からも非難されないエビデンスを作る」ことではありませんね。それは前に述べたように「現在、利用可能な、最良のエビデンスを慎重に用いて、自分の価値観や使える資源を考え合わせながら、意思決定の役に立てること」のはずです。
むしろEBMは、医療情報に接する機会が少なく、医療の意思決定にも慣れていない、一般生活者の方が役立つのです。人は誰でも、自分自身や家族の健康に関して、情報を集めて意思決定しなければならない局面に、いつかは直面します。その際にEBMは、よりよい判断の仕方を導いてくれます。また、日頃から“効いた”などの情報を見ても、誘惑に負けずに慎重にエビデンスを吟味する癖をつけることは、おかしな代替療法から健康や財産を守るだけでなく、より重要な意思決定局面に向けての訓練にもなります。

Q:QLifeの病院口コミは、患者さんの体験談の集合体です。生活者は、どのように利用すれば良いのでしょうか?
A:エビデンスには、「一般論として質の高いエビデンス」と「個別性の高いエビデンス」の両方があり、そのバランスが大事です。医師はどうしても一般論エビデンスを重視しがちですが、患者さんにとっては個別のエビデンスが大切な場合が多いですね。
たくさんの患者体験談を読むことは、こうした「個別エビデンス」にはどんなものがあるかを学ぶのに役立つでしょう。どうしたら良いか悩んでいる時は、自分と同じような立場に置かれた他の人がどのように考え、どのように行動していたか知ることが、心強い支えになることが少なくありません。

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ナラティブ=直訳は「物語」。病気の箇所だけ取り出して治療するのではなく、患者さんが病気になった背景や生活状況や今後の人生計画など、患者固有の「物語」を踏まえて、最適な治療人生を作っていこう、という考え方。

Q:確かに「個別エビデンス」は、患者視点の記述の方が分かりやすいですね。
A:前述の3要因のうち「バリュー」や「リソース」も、個別性がもともと強いので、他人の体験談をケーススタディすることでご自身の判断基準を育てていくのに役立つでしょう。さらに言うと、QLifeの口コミのなかでEBM的な意思決定ストーリー自体が展開されていたら、理想ですね。つまり、「複数のエビデンスを吟味して、個々の価値観に照らして、その時の状況からベストと思われるAという選択をした、その結果○○という治療成果になったことを、自分はこう受け止めた」という話が多く語られるようになると、それを読んだ別の患者さんにはまたとない「予習」機会になります。

dsc01593.jpgQ:たとえば?
A:風邪を例にとりましょう。現在、「普通の風邪に抗生物質を投与するのは有効とはいえず、むしろ副作用が多くなる」と、高いレベルのエビデンスで結論付けられています。それでも患者さんが「翌日に大事な出張がある」「これまで自分は抗生物質で早く治った経験が多い気がする」ならば、不安を取り除くためにも抗生物質を処方してもらう方が、総合的には良いかもしれません。しかし、飲まなくても良い薬は飲まない方が良いですね。「これまでの自分の経験から、抗生物質を飲みたい」と言う患者さんに、EBMを大切にする医者であれば、一般的には風邪で抗生物質は服用することで早く症状は良くならないし、胃痛などの副作用が多くなる、といった一般論のエビデンスを伝えるでしょう。ここで、頭ごなしではなく、患者さんの気持ちにきちんと耳を傾けるコミュニケーションが大切で、そうすれば患者さんは安心して、納得されるでしょうし、医師も患者さんからとの良い関係を作っていくことができるでしょう。
近年では、質の高いエビデンスに基づいて作られた診療ガイドラインのいくつかが、財団法人日本医療機能評価機構Minds(http://minds.jcqhc.or.jp/)から、一般向けの解説付きで利用できるようになっています。近い将来、こういった情報も活用しながら、参加者の方々が、個別の情報交換をされることも増えてくるのではないかと思います。

dsc01642_2.jpg
京都大学大学院医学研究科
社会健康医学系専攻健康情報学分野 教授
中山 健夫 氏

http://www.healthim.umin.jp/

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