[教えて!ドクター] 2008/11/19[水]

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d1.jpg不妊治療とともに妊娠可能な身体づくりこそが大切―7組に1組のカップルが不妊

不妊治療の最前線
人工授精、体外受精、顕微授精

現代医学における不妊治療は、人工授精と体外受精、顕微授精に代表されます。クエン酸クロミフェン等の排卵誘発剤の投与でも妊娠しなかったり、卵管が閉塞していたり、あるいは原因が不明の不妊症などの場合に、人工授精や体外受精、顕微授精が広く行われています。
「人工授精は排卵の時期を見はからって、精液を子宮内に注入する方法です。多数の精子を『受精の場』である卵管に送りこむので、精子の数が少ない乏精子症や、精子の運動性が低い精子無力症、性交障害、または子宮頸管に不妊の原因がある場合に適しています」と東京医科歯科大学の別府正志講師は指摘します。
人工授精は超音波断層法で卵胞の発育を観察し、排卵の時期を見定めて行います。絨毛性ゴナドトロピンなど排卵させる薬を併用することもあります。妊娠率は夫の精子の場合、5%前後にとどまります。
「体外受精は卵巣から取り出した卵子とあらかじめ採取した精子を、シャーレの中などで受精させ、体外で培養した後、胚または胚盤胞を子宮に戻す方法です。卵管閉塞による不妊症の治療法として始められましたが、現在はさまざまな原因の不妊に広く行われています」(別府講師)
体外受精は十分に発育した卵子を数多く採取したほうが確率的に有利なので、卵胞の発育を促す下垂体性ゴナドトロピンと、排卵を促すヒト絨毛性ゴナドトロピンの排卵誘発剤が用いられます。卵子は細い針で吸引・採取され、培養液の入ったシャーレの中で、あらかじめ採取されていた精子と受精が行われます。
「受精卵が数個に分裂して胚になったのを確認してから子宮の中へ戻します。移植する胚の数は3個以下です。最近は受精後5〜6日培養し、胚盤胞という状態まで育ててから移植することも増えてきました。この場合は、移植するのは2つまでです。採卵後、2週間ぐらいで妊娠しているか否かが判明します」(別府講師)
体外受精の妊娠率は病院やクリニック、年齢などで異なりますが、全国平均で20%前後です。費用は健康保険が適用されないので自費負担となり、1回につき25万〜50万円ぐらいかかります。
「顕微授精は採取した卵子に精子を直接送りこむ方法です。卵子に直接に穴を開け精子を注入して受精させます」(別府講師)
乏精子症や精子無力症、あるいは無精子症でも睾丸の中に精子が存在する場合に適していますが、最近は精子の状態がいいのに体外受精でも受精しなかった場合などにも行われます。

増えているストレスや過労、ダイエット等による不妊

結婚後、普通の性生活を営んでいるのに、2年経っても子どもができない状態を「不妊」といいます。妊娠は非常に複雑かつ微妙な過程を経て実現するため、不妊の30%以上は原因が不明で、残りを女性側と男性側に原因が求められる場合で2分されます。
「最近は女性の社会進出や性体験の低年齢化、晩婚化と高齢出産などを背景とした不妊症が増えています。とりわけ、ストレスや疲労、睡眠不足、極端なダイエットなどによる女性の月経周期の乱れが原因で、不妊となるケースの増加が目立ちます」(別府講師)
女性の側に原因が認められる不妊としては、①ホルモンがうまく働かないことから生じる排卵障害や卵巣機能不全による不妊がもっとも多く、②卵管閉塞などの卵管性不妊、③子宮粘膜下筋腫や子宮の先天性形態異常などの子宮性不妊、④子宮内膜症などが続きます。

基礎体温の測定と記録は不妊の原因を推しはかるテコ

不妊治療を受ける場合、まず婦人科で不妊の原因を突きとめるさまざまな検査を受ける必要があります。
「不妊の原因は排卵障害などによるものをはじめ、卵管性不妊や子宮性不妊などさまざま障害や病気などがしばしば重なって生じているからです」(別府講師)
婦人科を受診する際は、その前に2〜3ヵ月間、基礎体温をつけ、その記録を持参したほうがよいでしょう。女性の月経周期は月経→卵胞期→排卵→黄体期を1サイクルとして、通常、約28日に1回の周期でめぐってきますが、月経開始から排卵の直前まで体温が低く、排卵直後から月経開始日の前ぐらいまで体温が高くなります。
「体温を上昇させるのは、卵子を出した後の卵胞=黄体から分泌される黄体ホルモンの作用です。すなわち、月経→卵胞期→排卵は低温で推移し、排卵後の黄体期は高温で推移します。一般的に基礎体温が低温と高温の二相性を描けば排卵が行われたと考えられ、おおよその排卵日の見当もつきます」(別府講師)
基礎体温の測定とその記録は、不妊症の検査のうちもっとも重要なもので、不妊の原因となるさまざま障害や病気を推しはかる目安となります。

不妊治療とともに妊娠を可能とする身体づくりを

婦人科では基礎体温の記録をもとにいろいろな検査が行われます。重要なのは不妊の原因が卵管閉塞や子宮内膜症などの器質的な障害や病気にあると診断されたら、まずそれらを解消する適切な治療を受けることです。
不妊の原因となる器質的な障害や病気が治癒しても、なお妊娠できなかったり、もともと器質的な障害や病気が認められなかったりしたときは、ホルモンがうまく働かない排卵障害や卵巣機能不全による不妊がもっとも強く疑われ、しばしば基礎体温や月経周期の乱れが認められます。
排卵障害や卵巣機能不全や原因不明の不妊などに対する治療は、まず排卵誘発剤のクエン酸クロミフェンや、下垂体性ゴナドトロピン等の投与が行われます。
「しかし、それでもなかなか妊娠しないときは、先の人工授精や体外受精、顕微授精などに切り換えられますが、そうした不妊治療とともに妊娠を可能とするような体調の調整や身体づくりが重要であることはいうまでもありません」(別府講師)
すなわち、妊娠の成立と深く関連する基礎体温の変化や月経周期を正しく整えることがなによりも求められています。

視床下部と下垂体、卵巣は妊娠の成立と月経周期の中枢

妊娠が成立するには女性の生殖器官の中で、卵胞の発育→排卵→受精→子宮への着床の4つの過程が順調に進まなければなりません。一方、月経→卵胞期→排卵→黄体期を1サイクルとした女性の月経周期と妊娠の成立は、ホルモンを介して密接に関連しています。
「月経周期は脳の中心付近に存在する間脳の視床下部と、そのすぐ下にある内分泌組織=下垂体、そして卵巣の3つの組織の働きにコントロールされています」(別府講師)
まず月経期に視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモン(卵胞刺激ホルモン放出ホルモンと黄体形成ホルモン放出ホルモン)が分泌され、これが下垂体に作用し、下垂体からゴナドトロピン(卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモン)という卵巣を刺激するホルモンが分泌されます。
ゴナドトロピンの刺激を受けた卵巣は、その中に詰まった原始卵胞が成熟卵胞へ発育するのを促して卵胞期へ移行します。卵胞の発育に従って、卵胞から分泌される卵胞ホルモンの量が増えていきます。
「卵胞ホルモンの分泌がある一定量に達すると、視床下部へ『卵胞が十分に発育した』という信号が伝えられます」(別府講師)
視床下部はその信号を下垂体に送り、下垂体から排卵を命令する黄体形成ホルモンが一時的に大量分泌されると、卵胞から卵子が排出されて排卵が生じます。

自然な月経周期を取り戻すことが妊娠—出産への近道

排出された卵子は卵管で精子と合体して受精卵となり、細胞分裂を繰り返して小さな細胞の塊り(胚)となります。
「一方、排卵を経て黄体期に移ると、排卵後の卵胞は黄体化します。黄体から卵胞ホルモンと黄体ホルモンが分泌され、この影響で子宮内膜は胚の着床と成長が容易となる分泌変化を起こして妊娠を成立させます」(別府講師)
女性の月経周期妊娠が成立すると胚はそのまま子宮の中で育っていきます。しかし、性交渉をもっていなかったり、受精や着床が起こらなかったりした場合は、約2週間で黄体は萎縮し、白色になって退化する白体化を起こします。黄体から分泌される卵胞ホルモンと黄体ホルモンは減少し、ホルモンの消退を起こします。
子宮内膜はホルモンの消退によってその構造が保てなくなり、内膜が剥がれて出血を起こします。
「月経とは排卵による十分なホルモンの分泌と、その後のホルモンの消退による子宮内膜の剥離から生じる性器出血のことです」(別府講師)
妊娠が成立するには月経→卵胞期→排卵→黄体期という月経周期が、正常にめぐっていることが不可欠です。いわば、月経周期の推移は、それを司る視床下部や下垂体、卵巣の働きが順調か否かをはかる目安となります。
最近は妊娠しやすい身体づくりのために、自然な月経周期のリズムを整える「周期療法」が大きな注目を集めてきています。
「周期療法は現代医学の月経周期のメカニズムと中医学の考え方をドッキングさせた不妊の対処法です」(別府講師)なによりも不妊を克服するには、女性が本来持っている月経周期のリズムを取り戻し、妊娠しやすい身体をつくっていかねばなりません。不妊治療を受けながら、そのベースをつくることにも配慮していくことが妊娠—出産への最短の近道といえるでしょう。

取材協力/別府正志講師・東京医科歯科大学医歯学教育システム研究センター
取材・文/松沢 実 医療ジャーナリスト
カルナの豆知識 2005年10月

dr_beppu1.jpg別府正志 医学博士
東京医科歯科大学
医歯学教育システム研究センター

1991年東京医科歯科大学医学部卒業後、同大学医学部産婦人科教室へ入局。2000年同大学医学部附属病院病棟医長(産婦人科)、01年日本女性心身医学会幹事・評議員、05年現職に。中医学の有効性に着目し、遼寧中医大学附属日本中医薬学院を修了し、中国政府による国際中医師の資格を得ている。

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