[クリニックインタビュー] 2012/07/27[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第137回
榎本クリニック
深間内文彦院長

精神医学を科学的に極めたい


(写真提供:榎本クリニック)

 中学時代から医師になりたいと考えていましたが、それにはさまざまな直接的、間接的な理由がありました。まずは山本周五郎の「赤ひげ先生」や北杜夫の「どくとるマンボウ」「楡家の人びと」など小説の影響。ヒューマニスティックな内容に感銘を受け、未知の世界への憧れを抱きました。それから、精神科医でありながらミュージシャンとしても一世を風靡した北山修。当時、私自身がギターやピアノを弾いたり、作曲をかじったりしていたこともあって、その詩にとても共感し、単純に「かっこいいな」「ああいう生き方ができればいいな」と思いました。
 また、小学校時代の恩師の影響も大きかったと思います。その先生は、入学式の日に私たちを前に「みなさんにとっていちばん大切なものは何ですか」と問い、黒板にひらがなで大きく「いのち」と書かれたのです。とても真面目で、生徒に対しても公平な、厳しくやさしい先生でした。世の中の風潮として真面目さをバカにする人もいましたが、私は真摯に生きることこそ人間が幸せになる一つの要素だと思い、とても尊敬してきました。先生の言葉はずっと私の心の底流にあり、医師としての自分にも大切なものとなっています。
 精神科を選んだ理由は、当時、まだ精神医学には解明されていないことが多くあったからです。私は臨床も好きですが、ものごとを極めたい、研究を続けたいという思いがありました。精神疾患は、血液をとって、「こういう数値が出たからこういう病気だ」と判断できるものではなく、その頃は今のようにCTやMRIなどの技術も発達していなかったので、患者さんの表情や外見、訴えなどから診断を下すしかありませんでした。もっと客観的に、生物学的・科学的なアプローチができないかと思い、精神医学を探求したいという気持ちから精神科を選びました。

患者さん自身が気づき、ステップアップする手伝いを


治療風景(写真提供:榎本クリニック)

 クリニックでは「現代社会のニーズに応える必要性」を理念に掲げています。精神疾患は「時代を映す鏡」と言っていいと思います。最近は、なかなか薬が効かず、長引きやすい新しいタイプのうつ病や、依存症が増加している傾向があります。これらを長期間の治療を必要とする、いわゆる生活習慣病のような慢性疾患として、どうフォローしていくかが大事な視点だと考えています。その一環として、クリニックでは疾患ごとにフロアを分け、1日を通して専門的な治療プログラムをおこなう「デイナイトケア」というシステムを取り入れ、患者さんが安心して治療に取り組み、社会復帰を目指すための環境を提供しています。
 診療にあたる中で心がけていることは、患者さんの話をきちんと聞くこと。とくに初診では、最短でも30分以上かけて話をうかがい、治療方針や薬について、メリットとデメリットをしっかり説明します。また、精神疾患は患者さんひとりの問題ではなく、家庭や職場、人間関係などが絡んでいることも多いので、患者さんのバックグラウンド、つまりこれまで背負ってきた人生までよく理解することが必要だと考えています。
 治療に携わってきた中で実感するのは、人間には未知なる可能性が潜んでいるということ。患者さんがいつ、どのようなきっかけで回復の兆しを見せるかは千差万別ですが、基本的には自分自身で「気づく」ことが必要です。人からああしなさい、こうしなさいと言われても、自分で変わろうとしなければ何も変わらない。そのことにもどかしさがないとは言えませんが、精神科医療では「待つ」ことも大切ですし、タイミングもあるはず。ちょうど良いタイミングに何かのきっかけを得て、患者さんの中で何かがストンと入ってめざましい回復を見せることもあります。私たちは気づきの場所とサポートのためのプログラムを提供し、あとは寄り添いながら待つしかないのです。
 昔、受験のころ学校の先生に「姿を変えた幸せ」という言葉を教わりました。「今は苦しいだろうけど、後で振り返れば幸せだったと思う日が来るはず」という話だったと思うのですが、今思うととても的を射ていると思います。病気になると、一見「不幸」と思いがちですが、それによって自分が成長でき、家族や夫婦の関係がよくなれば、病気は人生のステップアップの一課程となる。長い目で見て考えれば病気もデメリットばかりではないと思うのです。患者さん自身が治療のなかで、そう気づくためのお手伝いができればと思っています。

医師が健康でなければ、患者さんは救えない

 私は、医療を提供する側が心身ともに健康でいなければ、患者さんの治療はできないと思っています。こちらが「なんか今日は調子悪いな」「気分が乗らないな」という時は、そういう感情が患者さんに伝染します。ですから、生活にメリハリをつけ、自分自身がなるべく明るく楽しい気持ちでいられるよう心がけています。そして、日常の何気ない出来事、例えば家族と交わした会話とか、風を気持ちよく感じたこと、仕事帰りにみた夕日がきれいだったことなど、そんな小さな幸せを喜び、感謝し、積み重ねていくことを大切にしたいと思っています。
あとは、頭だけで考えないこと。イヤな気分のときは、その気分に引っかかっているといつまでも抜けられないので、イヤはイヤのまま、その感情は棚上げにしておいて、とりあえず体を動かして行動してみる。そうすると、いつの間にか気分も変わっていたりしますね。
 リフレッシュ法として、ここ数年はスイミングとダイビングにはまっています。子どものころは水泳が苦手でしたが、ある時「もう一度チャレンジしてみようか」という気になり、やればやるほど奥が深いことに気付いて、面白くなりました。ここをこうするともっと早く泳げるとか、長く泳げるとか、そういうのが楽しいですね。スイミングもダイビングも「のんびりゆっくり」がポリシーですが、海の中は日常とはまったく違う世界なので、好奇心がかきたてられます。人間ってひとつの世界だけで生きていると、そこがうまくいかなくなった時、「もうダメだ」という気持ちになりがちですが、いくつか違う世界を持っていると、あっちがダメでもこっちがあるさ、と余裕が生まれると思いますね。

患者さんが社会復帰してからが本当の治療


(写真提供:榎本クリニック)

 今後の展望としては、地域の中で患者さんをサポートしていければと考えています。何年か前まで、精神科医療は入院が主でしたが、これからは外来中心になっていくと思います。アルコール依存症ひとつをとっても、入院中は物理的にお酒を入手できないので飲めませんが、退院してからは、コンビニに行けばいくらでもお酒が買えるし、自販機もある。そんな環境のなかでいかに自分をコントロールして断酒を継続できるかが大切で、むしろ退院してからこそが本当の治療だとも言えるのです。 
 せっかく退院したのに、誘惑に負けてまたお酒に手を出してしまう方もいますし、うつ病でも休職後、復職できても、同じ要因で再発して再休職されてしまう方もいます。ですので、患者さんには、退院後もフォローアッププログラムなどを継続して受けてもらうようにすすめています。
 また、ご家庭や職場、地域との連携も非常に重要なので、家族教室を催してご家族に理解を深めてもらったり、福祉関係や職場の上司、企業の産業医などとお会いしてお話しすることもあります。病気を患者さんひとりの問題と考えるのではなく、家族や職場、地域など、社会全体で考え、フォローしていくことが、とくにメンタルヘルスの面では重要だと考えています。

取材・文/出村真理子(Demura Mariko)
フリーライター。主に医療・健康、妊娠・出産、育児・教育関連の雑誌、書籍、ウェブサイト等において取材、記事作成をおこなっている。ほかに、住宅・リフォーム、ビジネス関連の取材・執筆も。

医療法人榎会 榎本クリニック

医院ホームページ:http://www.enomoto-clinic.jp/

JR「池袋」駅より徒歩3分。シックで落ち着いた雰囲気の待合室や診察室が、患者さんに安心感を与えてくれるクリニックです。
詳しくは、医院ホームページから。(写真左 提供:榎本クリニック)

診療科目

精神科、神経科、心療内科

深間内文彦(ふかまうち・ふみひこ)院長略歴
1988年 東京医科歯科大学大学院医学研究科博士課程修了
1989年 米国国立衛生研究所(NIH)研究員
1991年 東京医科歯科大学難治疾患研究所准教授
2001年 国立大学法人筑波技術大学教授、保健管理センター長
2008年 医療法人社団榎会榎本クリニック院長、国立大学法人筑波技術大学名誉教授
(写真提供:榎本クリニック)


■所属・資格他
医学博士、精神保健指定医、日本精神神経学会認定精神科専門医・指導医、日本医師会認定産業医、日本外来精神医療学会副理事長、日本精神神経学会、日本うつ病学会、うつ病リワーク研究会、東京デイケア関連フォーラム等


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