出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
すべて
病名
 × 

便・排便の異常から考えられる主な病気

つぶやく いいね! はてなブックマーク

下痢から考えられる主な病気

◆ 急性

症状 疑われる病気
腹痛あり 腸炎ビブリオ食中毒
黄色ブドウ球菌食中毒
サルモネラ食中毒
カンピロバクター食中毒
病原性大腸菌食中毒
ウエルシュ菌食中毒
ボツリヌス食中毒
とくに左下腹部痛、新鮮血の下血 虚血性大腸炎
ペニシリン系抗生物質服用後、トマトジュースのような下痢(血性下痢) 出血性腸炎
発熱、全身倦怠感、食欲不振、黄疸、茶褐色の尿、白っぽい便 A型急性肝炎
吐き気、嘔吐 細菌性赤痢
クリプトスポリジウム症
脂肪便、胆囊炎様の症状 ジアルジア症
腹痛なし 嘔吐、米のとぎ汁様の便 コレラ
ロタウイルス下痢症
嘔吐、発熱、呼吸器症状 ノロウイルス感染症

◆ 慢性

症状 疑われる病気
腹痛あり 血便・粘血便 潰瘍性大腸炎
痔瘻、肛門周囲膿瘍 クローン病
体表部の骨腫・軟部腫瘍 家族性大腸腺腫症
便が細くなる、残便感、便秘、貧血 大腸がん
便秘 ウサギの糞のような便 過敏性腸症候群
腹部膨満感、時に発熱、血便 大腸憩室症
脂肪便 顔面・下肢などのむくみ 蛋白漏出性胃腸症
体重減少、むくみ、全身倦怠感、貧血、けいれん 吸収不良症候群
黄疸、右上腹部痛、肝臓の圧痛、食欲不振、嘔吐 アルコール性肝障害
腹痛なし 顔面・手足など日光にあたる部分の皮膚炎、認知症、不安 ニコチン酸欠乏症
色黒、全身倦怠感、脱力感、体重減少、下痢、低血圧、不安感 アジソン病
レイノー現象、皮膚が硬くなる、嚥下障害、咳、息切れ、関節痛 全身性強皮症
倦怠感、めまい、動悸、頭痛、息切れ、肩こり、下痢 本態性低血圧症
慢性的な不安・緊張・イライラ、頭痛、肩こり、動悸、不眠 全般性不安障害

便秘から考えられる主な病気

◆ 腹痛あり

症状 疑われる病気
便秘や下痢が数カ月以上続く、排便すると落ち着く 過敏性腸症候群
周期的に起こる強い腹痛、腹部膨満・膨隆、吐き気、嘔吐 腸閉塞
下痢、軟便、腹痛、発熱、血便 大腸憩室症
血便、便が細くなる、残便感 大腸がん
直腸がん
頑固な便秘、腹部膨満、嘔吐 巨大結腸症
腹部膨満感、下腹部痛、不正性器出血、頻尿 卵巣腫瘍
下腹部痛、発熱、吐き気、嘔吐、下痢 骨盤腹膜炎
レイノー現象、皮膚が硬くなる、嚥下障害、咳、息切れ、関節痛 全身性強皮症

◆ 腹痛なし

症状 疑われる病気
肩こり、上肢の痛み・脱力感、手指の感覚異常、歩行障害 頸椎症
背部痛、手足の痛み・感覚鈍麻、歩行障害 脊髄の腫瘍
汗をかかない、寒がり、皮膚の乾燥、脱毛、顔のむくみ、かすれ声 甲状腺機能低下症
高血圧、頭痛、発汗過多、動悸、やせ、胸痛、視力障害 褐色細胞腫
脱力感、筋力低下、吐き気、嘔吐、多尿、多飲 低カリウム血症
排便に伴う肛門の痛み、出血 裂肛
倦怠感、めまい、動悸、頭痛、息切れ、肩こり、下痢 本態性低血圧症

◆ 常習便秘

疑われる病気
食事量・食物繊維の摂取不足、運動不足、排便の意識的抑制、旅行などによる排便習慣の変化、環境の変化、ストレスなど

便の性状から考えられる主な病気

◆ 色

◆ その他

症状 疑われる病気
便の形が細い 大腸がん
直腸がん
肛門狭窄
便がウサギの糞状でコロコロしている 過敏性腸症候群
便が灰白色で米のとぎ汁のよう ロタウイルス下痢症
コレラ
便に脂肪が混じり、便が水に浮く 吸収不良症候群
慢性膵炎
ジアルジア症

便・排便の異常とは?

正常な便は、黄色から褐色がかった色調で、粘液や血液などが付着していない半ねり状の塊です。心身の何らかの異常により腸に障害が起こると便は様相を変え、泥のような・水のような下痢便になったり、硬くて十分に量が出ない便秘になったりします。
色や形なども異常を知らせるサインです。赤、黒、白などの色の便が出ているなら要注意。一度、きちんと調べてもらってください。

下 痢

下痢とは、便に含まれる水分量が多くなり、本来の固形状の形を失って泥や水のようになった状態を指します。一般に排便の回数が増えますが、回数は関係なく、たとえ1日1回でもその便が泥や水のようなら下痢と判断します。
下痢は、腸の運動が正常より高まったり、腸内で十分に水分が吸収されなかったり、水分や分泌液が多すぎたりすると起こります。
下痢は、急性下痢と慢性下痢に分けられ、成人の場合でふつう3週間以上続く下痢を慢性下痢と呼んでいます。急性、慢性ともに、さらに感染性下痢と非感染性下痢に分けられます。

急性下痢

急性の感染性下痢は、細菌やウイルス、寄生虫などによって起こります。厚生労働省の統計によると、2009年の食中毒の原因として最も多かったのはノロウイルスで、食中毒患者総数20249人のうち1万874人と半数強を占めています。次いで多かったのはカンピロバクターという細菌で2206人でした。
ノロウイルス感染症は感染性胃腸炎のひとつで、特に冬期に多く発症します。潜伏期間は24~48時間で、主な症状は吐き気、嘔吐、下痢、腹痛で、通常、数日で治ります。最近、食品取扱者からの食品の汚染、施設内でのヒトからヒトへの感染が増えています。感染原因となる食品で知られているのは、ノロウイルスに汚染された二枚貝がありますが、十分に加熱すれば感染は起こしません。
一方、非感染性の急性下痢は、暴飲暴食やお酒の飲みすぎ、寝冷え、寒さ・暑さ、毒物や薬物、食物アレルギー、神経症などによって起こります。
急性下痢が起こっても随伴する症状もなく2~3日で治るならとくに問題ありませんが、ほかに症状があるなら医療機関を受診し、原因を調べてもらうようにしてください。

慢性下痢

慢性の下痢は、細菌やウイルスなどによる感染性の場合もありますが、そのほとんどは非感染性で、消化器とくに小腸や大腸の病気によって発症します。
現在、発症率が増加して危惧されているものに、潰瘍性大腸炎とクローン病があり、消化器系の病気のなかで難病中の難病といわれています。どちらも原因は不明で、若い人に多く発症します。潰瘍性大腸炎は、病変が大腸だけに発生しますが、クローン病は口腔から肛門までの消化管のあらゆる部位に発生します。
潰瘍性大腸炎の主な症状は、下痢、血便、粘血便、腹痛、悪化すると体重減少や貧血、発熱がみられます。クローン病は下痢、腹痛、体重減少、全身倦怠感がよくみられ、血便はあまりはっきりしないこともあります。この2つは病態が似ているため、まとめて非特異性炎症性腸疾患とも呼ばれます。
慢性の下痢は、しばしば精神的なストレスによっても起こります。過敏性腸症候群は腸自体には障害はないのですが、腹痛とともに突然、下痢が起こります。
通勤電車のなかや会議中など緊張している時に急に便意を催すことが多く、ひどくなると不安感が増して電車に乗ることができなくなるなど日常生活に支障を来すこともあります。
ちなみに過敏性腸症候群は、下痢型、便秘型、交代型に分類されます。便秘型ではウサギの糞のように便がコロコロになり、排便が困難になります。交代型は下痢と便秘を交互に繰り返します。日本を含む先進国に多い病気で、日本では消化器系を受診する人の約3分の1を占めています。

便 秘

便秘とは、便通の回数が減り、便が硬くなり、また便の量が少ない状態のことです。
便秘についての明確な定義はありません。健康な人の多くは1日に1回程度の排便がありますが、2~3日に1回でもそれが習慣になっていて、ほかにおなかが張るとか腹痛などの苦痛が何もなく、満足しているなら便秘とはいいません。反対に、1日に1回排便があっても、量がとても少なかったり、残便感があるような場合は便秘と考えられています。一般に、3~4日以上排便がない場合を便秘といっています。
多くの人は朝食後に排便しますが、実はこれは理にかなった行為です。口から入った食物は、大腸を10~20時間ほどかけてゆっくりと通過していきます。普段はあまり動いていない大腸ですが、食事をとると活発に蠕動を起こします。蠕動とは消化管などがその内容物をミミズ(蠕虫)によく似た動き方で押し進める運動のことです。
なかでも朝食後が1日のうちで最も活発になり、そのため朝食後に排便したくなるわけです。便秘の予防法として、便意がなくても朝食後にはとにかく便器に座ろう、といわれるのはこのためです。ただし、朝にこだわる必要はありません。朝食はとらない、朝は時間の余裕がないという人は、1日のうち余裕のある時、便意がなくても決まった時間に便器に座る習慣をつけるようにしましょう。

常習便秘と症候性便秘

便秘は一般に、常習便秘(機能性便秘)と症候性便秘(器質性便秘)に分けられます。
便秘のなかで最も多くみられるのは常習便秘です。食事の量・食物繊維の摂取不足、運動不足、女性に多い「外出したら排便はしない」などの意識的な排便の抑制、旅行などによる排便習慣の変化、環境の変化、ストレスなどによる大腸の機能異常によって起こります。
常習便秘は、これらの原因をとり除けば普通は解消されるはずですが、それでも便秘が続き、苦しいなら一度調べてもらってください。
一方、症候性便秘とは何らかの病気によって起こる便秘です。大腸がんなど消化器系、頸椎症など脳神経系、甲状腺機能低下症など内分泌系などの病気で起こります。

便の色・形がおかしい

便の色や形などの異常も、病気を考えるうえで重要なポイントです。多くは腹部症状(腹痛、下痢、吐き気、嘔吐など)を伴います。
しかし、たとえば赤や黒や緑などの便が出たからといって必ずしも病気とはいえません。トマトやスイカ、赤唐辛子などの小片がそのままの形で便に混じっていることもありますし、また肉や魚を食べると、それに含まれている血液が便に混じって黒くなったりすることもあります。さらに、造血剤や一部の下剤などの服用でも便は黒くなりますし、抗生物質では緑になることがあります。
便の性状がおかしいなと思ったら、それを持って一度診察を受けてみてください。

赤い便が出る

大腸からの出血が疑われます。いわゆる血便です。近年、増え続けている大腸がんの早期発見のポイントは血便です。眼には見えなくても出血している場合があるので(顕微鏡的血便)、定期的に便潜血反応検査を受けることが大切です。
また、前述した難病の潰瘍性大腸炎とクローン病でも血便が現れます。ただし、クローン病では血便がはっきりしないこともあります。

黒い便が出る

胃・十二指腸から上の器官で出血すると、その血液中のヘモグロビン(血色素)が胃酸により黒色に変色し、これが便に混じって黒い便が出ます。血便の一種ですが、その色合いからタール便と呼ばれています。出血が少ない時は正常な硬さの黒色便ですが、多くなると黒色の下痢便~軟便になります。

白い便が出る

正常な便は、ビリルビン(ステルコビリン)という胆汁色素によって黄(褐)色に着色されていますが、肝臓でのビリルビンの代謝異常や胆汁の排泄障害があると、便は白っぽくなります。胆管・胆嚢や肝臓、膵臓の病気でみられます。

便が細くなる

血便と同様、これも大腸がん、とくに直腸がんの症状のひとつです。細いといっても全体的に細くなるわけではなく、リボンのように平べったくなったりなど、ふだんとは異なる形状になります。