出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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感染性心内膜炎
かんせんせいしんないまくえん

もしかして... 敗血症  脳梗塞  先天性心疾患  透析  脳出血

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感染性心内膜炎とは?

どんな病気か

 感染性心内膜炎(IE)とは、心臓の内側の膜(心内膜)または弁膜に贅腫といわれる感染巣をもつ敗血症の一種で、循環器の感染症です。感染症としての重症度だけでなく、炎症による心臓構造の破壊や循環動態の変化、贅腫が血流に乗って引き起こす塞栓症(脳梗塞など)により、さまざまな臨床状態を示す全身性の感染症です。

原因は何か

 血液中に細菌が侵入して心臓内部に付着、増殖して感染巣を形成し、増大していきます。血液中に細菌が侵入する状態としては、抜歯などの歯科処置、内視鏡などによる細胞診、婦人科処置など出血を伴う処置があります。

 一方、患者さん側の状態としては、弁膜症、先天性心疾患など血液の流れに乱れがあり、心内膜に荒れた部分がある場合や、人工透析や肝臓疾患、ステロイド治療など免疫能の低下した症例に起こりやすいとされます。

 原因となる菌(起因菌)がわかるのは約60~70%です。溶連菌、ブドウ球菌の順に多いとされますが、菌によって非常に組織破壊が激しいもの(黄色ブドウ球菌)、大きな贅腫をつくり塞栓症を来しやすいもの(真菌、腸球菌)などの特徴があります。

症状の現れ方

 発熱は感染性心内膜炎患者の9割に起こる症状ですが、一般に他の感染症と大きく変わった初期症状はありません。

 多くの患者さんが最初はかぜかと思って近くの医療機関を受診し、抗生剤の投与を受けますが、抗生剤を中止すると再び発熱するといった状態を訴えます。やがて心臓構造の破壊による心不全症状(息切れ、呼吸困難、むくみなど)や、感染巣が血流に乗って全身のどこかの血管に詰まって起こるさまざまな塞栓症(手指などの一過性の血流障害、視力障害、背部痛、手足の麻痺、意識障害、ろれつが回らなくなるなど)が起こります。

 塞栓症は感染の活動期に多いとされ、脳梗塞を起こした場合、約1カ月は心臓の手術をしても脳出血の合併率が高く、非常に予後が悪くなります。それでは、塞栓症状が起こる前に手術をしてしまえばよいのでしょうか?

 感染が落ち着かない状態での手術は感染した部分の完全な除去が難しい場合もあり、炎症で傷んだ組織に人工弁などの異物を縫い付けることになるため、新しく植え込んだ人工弁にまた細菌が付着して炎症が再発したり、縫い付けた弁が外れてしまうこともあります。

検査と診断

 診断にはデューク大学から提唱された診断基準が用いられます。感染性心内膜炎の診断は、血液培養陽性と心エコー(超音波)所見、または新しい弁逆流の存在により行われます。心エコー検査所見は贅腫(感染巣)、膿瘍(炎症が弁を越えて弁輪部周囲に及んだ状態)、人工弁の離開(人工弁の構造が壊れること)があげられています。

①心エコーの重要性

 通常の経胸壁心エコーでは贅腫の検出感度は60%と低く、感染性心内膜炎が疑われる症例ではさらに経食道心エコー(食道から胃カメラのような管を挿入し食道側から心臓を観察する超音波検査法。間に介在する組織が少ないため感度に優れている。検出感度は約90%)を行う必要があります。

 これらの検査で陰性であったとしても、症状から疑いがある場合には時間をおいて(約1週間)再検査をする必要があります。心エコーによって感染巣や心臓の破壊の程度のみでなく、循環状態の程度を検査します。

②その他の検査

 血液中の菌の特定、炎症状態の評価のために血液検査が行われます。心不全の有無の評価として胸のX線検査、塞栓症の有無について頭や腹部などのCT検査、眼底検査、尿検査など全身の検索が必要になります。

 区別すべき疾患としては発熱、感染状態が長引く他の炎症性疾患、悪性腫瘍、血液疾患などがあげられます。

治療の方法

 治療の原則は感染状態を鎮静化することで、原因となる細菌の特定と、この細菌に合った抗生剤を十分な量使って、早急に起因菌を撲滅する必要があります。一方、感染による心臓の破壊のために引き起こされる循環状態の悪化は、緊急に手術しなければ救命できないことも多いのですが、炎症の活動期における手術は成績が悪く、判断が難しい病気です。

 症例によっては感染の活動期であっても、合併症の併発を未然に防ぐ目的で外科治療へ移行する場合もあります。基本的には機械弁を用いた人工弁置換術が行われますが、感染が落ち着いた非活動期の感染性心内膜炎では弁膜症としての重症度で手術するかどうかが決定され、感染巣が完全に除去可能な症例に対しては弁形成(できるだけ自分の弁を使ってリフォームする方法)が選択されるようになってきています。

 弁輪部に炎症が及んだ膿瘍症例や人工弁置換術後の症例では、感染巣の除去が不十分になる可能性があり、術式の工夫(ヒトの組織でできたホモグラフトの使用や大動脈基部置換など)が試みられますが、予後は不良です。

 予後は、一般の弁置換手術の死亡率が約1%以下に対し、感染性心内膜炎では10~20%とされます。人工弁置換術後や周囲に炎症が大きく波及した場合では、さらに50~80%とする報告もあります。

病気に気づいたらどうする

 病気の重症度にもよりますが、内科を受診して入院し、起因菌に対して感受性のある十分な量の抗生剤による治療を行います。抗生剤による治療の効果が不良な場合やアレルギーなどで抗生剤が十分に使えない場合には、手術可能な病院への転送が必要になります。

 しかし、脳出血などの合併症のある症例では手術は困難で、予後は不良であると予想されます。病気の活動性、心臓構造破壊の程度、塞栓症の有無が予後を左右するので、主治医から十分な説明を受けることが重要です。

(執筆者:東京女子医科大学医学部循環器内科学助教 芦原 京美)

心内膜炎に関連する可能性がある薬

医療用医薬品の添付文書の記載をもとに、心内膜炎に関連する可能性がある薬を紹介しています。

処方は医師によって決定されます。服薬は決して自己判断では行わず、必ず、医師、薬剤師に相談してください。

・掲載している情報は薬剤師が監修して作成したものですが、内容を完全に保証するものではありません。

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 これによって心臓周囲および内部の構造や心臓の収縮、拡張、血流の評価を行うことができます。

 とくにドプラー法という血流の情報を組み合わせる方法によって心臓の動き、形ばかりでなく心臓のなかにある異常な血液の通り道(短絡、逆流)、血液の乱れ(乱流)、心臓内の圧力の予想を行うことが可能です。心臓病のすべての患者さんに繰り返し行われる非常に手軽で有用な検査です。

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 これが炎症や老化などで本来の弁膜の機能が損なわれたために心臓で血液循環の悪化が認められた場合、壊れたドアの代わりに手術で取り付けてはたらいてくれる機械が人工弁です。

 機械といっても動力は自分の血流であり、心臓の収縮・拡張に合わせて開閉します。大きく分けて生物の組織(ウシ・ブタの心膜)を使った生体弁とステンレスなどを用いた機械弁があります。

 人工弁は体にとっては異物なので、そのままでは自分の血液によって固まってしまい、動かなくなってしまいます。したがって血を固まりにくくする薬(ワルファリンなど)を生涯にわたってのみ続ける必要があります。

 これに対して、生体弁は生物の組織なのでワルファリンをのまなくても大丈夫です。このため妊娠・出産を希望する若年の女性や、出血の危険の多いお年寄りなどの手術には生体弁が用いられます。

 ただし、生体弁は平均10年で劣化し、再手術を必要とする欠点があります。一方、機械弁では平均20年は交換の必要がありません。どちらも感染に弱いという宿命があり、注意が必要です。

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 以前から心臓が悪いといわれている患者さんでは、妊娠そのものが可能かどうか、出産に際してどんな危険があり何に気をつけるべきかを主治医と相談しておく必要があります。

 とくに心不全状態によって日常生活が制限される人、肺高血圧でチアノーゼ(血液中の酸素濃度が低いため皮膚の色が青黒い状態)を伴う先天性の心臓病の人は、母体、胎児ともに危険があるので注意が必要です。

 心臓病の妊婦でも内科医、産婦人科医、小児科医などの連携で無事赤ちゃんを出産できる場合もあり、各人の心臓の状況に合ったサポートが必要です。

 薬によっては赤ちゃんに影響の出る可能性が心配されますが、器官形成期(赤ちゃんの手足などのもとができる時期)である妊娠約8週を過ぎれば、催奇形性などの危険も少なくなるため、投与できる薬剤も増えます。

 妊娠、出産に際しては、必ず循環器内科専門医に事前に相談してください。

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