救命・応急手当の基礎知識執筆:筑波メディカルセンター病院救急診療科医長 上野幸廣
- 目次
- ▶救命・応急手当とは
- ▶心肺蘇生法
- ▶止血法
- ▶症状別応急手当
- ▶けが・事故の応急手当
心肺蘇生法
心肺蘇生法は、だれかが突然、呼吸停止、心停止、あるいはそれに近い状態になった時、その機能を回復させ生命を維持しようとする方法です。
心肺蘇生法の基本的な手順は、
- 意識の有無の観察
↓ - 気道の確保
↓ - 正常な呼吸の有無を確認
↓ - 胸骨圧迫
↓ - AEDの使用
という流れで行われます。
ここでは「倒れている人がいる」という想定で、これらの手技についてみていきます。
ちなみにAEDとは、心臓の筋肉がけいれんをおこし、心臓から血液を送り出せなくなる心室細動などの致死性不整脈に対して電気ショックを与えることで、正常な心臓のリズムを取り戻そうとする医療機器で、日本語では「自動体外式除細動器」といいます。
駅や学校、役所、スーパーマーケット、銀行などさまざまなところに設置されていて、一般の人にも使えるように音声メッセージに従って操作できるようになっています。
1.意識の有無の観察
倒れている人を見かけたら、まず、耳の近くで「もしもし」とか「大丈夫ですか」などと呼びかけながら、肩や頬を軽くたたいたり、皮膚を軽くつねって、意識の有無を観察します。
その際、体を強くゆするなど、決して乱暴に行わないようにします。
●意識がない時
反応がない、反応が非常に鈍い時は「意識がない」と判断して、すぐに周囲の人に協力を求め、119番への通報とAEDをもってきてもらうことを依頼します。周囲に協力者がいない場合は、自分で119番通報して、近くにAEDのある場所を知っていたら、大至急取りに行きます。
ただし、傷病者が乳児(1歳未満)や小児(1歳以上~8歳未満)の場合は、まず胸骨圧迫(後述)を2分間行ってから119番通報・AEDの手配をします(AEDを使用できる年齢は1歳以上)。
119番通報・AEDの手配をしたら気道の確保を行います。気道の確保はあお向けで行うので、うつ伏せに倒れていたら図1の方法で体位を変換します。
●意識がある時
呼びかけに答えられる時は、図2の回復体位にして、落ち着いて出血やそのほかの症状・状態に対する手当を行います。
2.気道の確保
意識がないと筋肉の緊張がなくなり、図3のように舌のつけ根が落ち込んで気道が閉塞され、呼吸できなくなるため気道の確保を行います。いくつかの方法がありますが、一般の人には図4の頭部後屈あご先挙上法が推奨されています。
意識がなくても、気道を開放するだけで楽に呼吸できるようになる場合もあります。気道の確保は、心肺蘇生法の最も基本的な手技といえます。
3.正常な呼吸の有無を確認
気道を確保したら、10秒以内で正常な呼吸(普段どおりの息)の有無を見て・聞いて・感じて確認します。
・胸や腹部の上下の動きがみられるか
・息の音が聞こえるか
・息の出入りが感じられるか
これらがない時や、よくわからない時は、呼吸をしていない(無呼吸)と判断して、ただちに胸部圧迫を始めます。呼吸音が聞こえても、ゴロゴロとかヒューヒューという音の場合は気道の閉塞が疑われるので、さらにしっかりと気道の確保を行います。
意識はないが普通に呼吸している場合は、図2の回復体位をとらせて救急車の到着を待ちます。
4.胸骨圧迫
胸骨圧迫は、年齢により方法が異なります。図5に8歳以上、図6に乳児(1歳未満)、図7に小児(1歳以上~8歳未満)の方法を示します。
胸骨圧迫は、(1)傷病者が動き出す(たとえば嫌がるなどの体動)、(2)正常な呼吸(普段どおりの呼吸)を始める、(3)AEDが到着する、(4)救急車が到着する、まで繰り返し行います。胸骨圧迫をする前にAEDが到着したら、AEDの使用を胸骨圧迫より優先します。
なお、胸骨圧迫は心停止以外の人に対して実際に力を入れて行うことは大変危険です。胸骨圧迫を練習するときは、人ではなく人形を使って行ってください。
5.AED到着
AED(自動体外式除細動器)が到着したら胸骨圧迫をやめて、すぐに使用します。ただし、AEDは1歳未満の乳児には使用できません。救急車が到着するまで胸骨圧迫を行います。
●AED使用の手順
- 電源を入れる
AEDの電源を入れたら、音声メッセージに従って操作します。 - 電極パッドを貼る
傷病者の胸をはだけ、電極パッドの1枚を胸の右上に、もう1枚を胸の左下側の肌に直接貼りつけます(図8)。貼り付ける位置は、電極パッドやAED本体に描かれているイラストに従います。
8歳以上には成人用、1歳以上~8歳未満には小児用パッドを使います。もし小児用のパッドがなければ、成人用のパッドを使用してもかまいません。ただし、パッド同士が重ならないように貼らなくてはなりません。 - 心電図の解析
AEDが自動的に心電図の解析を始め、電気ショックの必要の有無を判断します。この時、誰も傷病者の体に触れていないようにします。 - 電気ショック
電気ショックが必要である旨のメッセージが流れたら、再度、誰も傷病者の体に触れていないことを確認して、ショックボタンを押します。 - 心肺蘇生の再開
電気ショックを1回与えたら、すぐに胸骨圧迫を再開します。また、電気ショックが不要な場合も胸骨圧迫を再開します。約2分たつと、再びAEDが自動的に心電図の解析を始めます。
以後、傷病者が動き出すか、正常な呼吸(普段通りの息)をするまで、あるいは救急車が到着するまで、AEDと胸骨圧迫を約2分おきに繰り返します。
- 目次
- ▶救命・応急手当とは
- ▶心肺蘇生法
- ▶止血法
- ▶症状別応急手当
- ▶けが・事故の応急手当
人工呼吸について
従来の心肺蘇生法は、「気道の確保」→「人工呼吸」→「胸骨圧迫」→「AED」という流れで行われていました。しかし、最近の研究で、人工呼吸を行った場合と行わなかった場合を比較すると、どちらでも救命率に差がないことがわかってきました。また、救助者のなかには、口対口の人工呼吸を行うことにためらう人たちも少なくありません。そこで、人工呼吸は一般市民の心肺蘇生法では必須のものではなくなりました。
すなわち、(1)心肺蘇生法を知らない人は、人工呼吸を省略して胸骨圧迫のみでよい、(2)心肺蘇生法を知っている人は胸骨圧迫のみでも、従来どおりの人工呼吸と胸骨圧迫を組み合わせた方法でもよい、(3)心肺蘇生法の講習を受けたが自信がない場合は胸骨圧迫のみでよい、とされています。
ただし、心肺停止している小児や、溺水・外傷・窒息・呼吸器疾患・中毒などで無呼吸状態の人に対しては、人工呼吸と胸骨圧迫を組み合わせた方法を行うことがすすめられています。
人工呼吸の方法
人工呼吸の方法にはいろいろありますが、一般には図9の「口対口(または口鼻)人工呼吸法」が行われています。人工呼吸は、「(3)正常な呼吸の有無を確認」のあと、すなわち気道を確保しても「正常な呼吸(普段どおりの息)をしていない」場合に行います。
救助者が1人の場合は、人工呼吸を2回行い、続けて胸骨圧迫を1分間に100回の速さで30回(30回は目標、回数の正確さにこだわらなくてよい)と人工呼吸を2回、この「30回+2回」を、傷病者が動き出したり、正常な呼吸が出現するまで、AEDまたは救急車が到着するまで行います。AEDの到着以降は「(5)AED到着」の手順に従ってください。
救助者が2人以上いる場合は、2分間を目安に交代して絶え間なく続けます。
なお、口対口人工呼吸による感染がおこる可能性は非常に低いのですが、結核、肝炎などの感染の報告例があります。したがって、実際に行う際にはフェイスシールドなどの感染防護具を使うのが望ましいとされています。
救急車の呼び方
(1)局番なしの119へ電話します。
(2)「火事ですか、救急ですか」と聞かれます。はっきりと「救急」と告げます。
(3)いつ、どこで、誰(何人、老若子どもなど)が、どうしたか、どんな状態なのかをはっきりと簡潔に伝えます。
(4)名前、住所、電話番号を正確に知らせます。近所の目標物も伝えます。
(5)救急車が来るまでの手当の方法をたずねます。
(6)サイレンが聞こえたら誘導に出ます。夜なら懐中電灯で救急車を誘導します。家族がいなければ近所の人に頼みます。
(7)救急車が着いたら、救急隊員に状況をくわしく伝えます。
・どんな容体か(通報後の変化も)
・傷病者にほどこした手当
・持病があれば病名、かかりつけの医院および医師の名前
(8)前後の事情のわかった人が救急車に同乗して行きます。
・保険証、財布、簡単な着がえなどを用意。留守中の戸締まりに留意する
・血を吐いたり、吐瀉物があれば一部でもビニール袋に入れて持参する
※携帯電話からの通報の場合は、
・最初に携帯電話であることを告げる
・途中で電話が切れてしまわないように、立ち止まって話す
・現場の地名や番地がわからない場合は、近くの人に聞くか、建物や看板などで確かめて通報する
・通話終了後、消防署からの問い合わせの電話があることもあるので、10分程度は電源を切らない
などの注意が必要です。