出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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1型糖尿病の治療
1がたとうにょうびょうのちりょう

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1型糖尿病の治療とは?

1型糖尿病とは

 1型糖尿病は、インスリンを産生する膵臓の細胞(膵β細胞と呼ばれます)が破壊・消失することで発症します。原因としては、多くは免疫系の異常により自らの細胞が攻撃される自己免疫によるものと考えられています。

 1型糖尿病になりやすい遺伝素因があることは判明していますが、日本人では1型糖尿病自体が非常に少ないので、1型糖尿病の患者さんが自分の子どもが1型糖尿病になることを心配する必要はほとんどありません。

 環境因子も関係しているものと考えられていますが、まだよくわかっていません。ウイルス感染なども一部関係していると考えられていますが、人から人に1型糖尿病がうつるということはありません。

 1型糖尿病は、口渇、多飲、多尿、体重減少などの症状で急性に起こり、数カ月以内にインスリン治療が必要であることが多いのですが(小児・若年者に多く急性発症典型例と呼ばれます)、2型糖尿病と同様にゆっくり発症し数カ月から数年の経過でインスリン治療が必要となってくる場合もあり、成人発症の患者さんで多いことがわかっています(緩徐進行1型糖尿病と呼ばれます)。

 一方、極めて急激に発症し、1週間くらいで糖尿病の急性合併症であるケトアシドーシスを来すような場合があることもわかっています(劇症1型糖尿病と呼ばれます)。この場合はかぜ症状、腹痛などの消化器症状が初発症状であることが多いのですが、ただちにインスリン治療を開始する必要があります。

治療の原則

 これまでに2型糖尿病の項で説明してきたように、1型糖尿病と2型糖尿病の起こる原因はまったく異なります。2型糖尿病では、過食や運動不足などの生活習慣が発症に関係しますが、1型糖尿病の場合には生活習慣は関係せず、膵β細胞の破壊によるインスリン欠乏が原因です。したがって、2型糖尿病の治療の基本は、生活習慣改善のための食事療法および運動療法ですが、1型糖尿病の場合は治療の原則はインスリンを適切に補充することです。

 日本では1型糖尿病の患者さんはかなり少なく、残念なことに診療経験が豊富な医師は多くありません。そのため、2型糖尿病の治療がそのまま適用されることも多いのですが、1型糖尿病の患者さんに対する食事制限や運動療法は、肥満や生活習慣病を招かない程度のもので十分です。過度の生活指導は有害であることが多く、患者さんに余計なストレスをもたらすことになるだけです。むしろ、患者さんがインスリン療法に習熟し、生活に合わせたインスリンの使い方ができるようにサポートすることが重要です。

生活に合わせたインスリン療法

 インスリン注射のしかた、インスリン製剤の種類、血糖自己測定、低血糖については、2型糖尿病の項で説明しました。ここでは、1型糖尿病のインスリン療法の基本的なところを説明します。

 1型糖尿の病患者さんでは自分のインスリン分泌がなくなりますので、インスリン注射だけで生理的なインスリン分泌を補う必要があります。健常者の生理的なインスリン分泌は、基礎分泌と追加分泌に分けられることがわかっています。

 基礎分泌は、食事をしていない時でも少しずつ出ているもので、これがないと肝臓などから出てくるブドウ糖で血糖が上昇してしまいます。一方、追加分泌は、食事や間食をした時に急速に出るもので、食後の血糖の上昇を抑えます。したがって、1型糖尿病のインスリン療法の基本は、基礎分泌と追加分泌をできるだけうまく補充することです。

 表16表16 主なインスリン注射薬に示したインスリンのなかで、基礎分泌を補うためには効果の長い持効型あるいは中間型のインスリンを1日1回ないし2回注射します。一方、追加分泌を補充するためには超速効型あるいは速効型のインスリンを食事の前に注射します。したがって、食事を3食とる場合は、1日に4回ないし5回のインスリン注射を行うことになります。最近では、持効型と超速効型のインスリンを使う治療が増えてきています。

表16 主なインスリン注射薬

 こうしたインスリンを毎日決まった時間に決まった量を注射するのではなく、生活に合わせてインスリンの補充を調節する方法もあり、その場合はより自由度の高い生活を送れるようになります。

 たとえば、超速効型インスリンの打ち方に関していろいろなバリエーションが考えられます。食欲がない時は注射する時間を食後にずらして食事の摂取量に合わせて打つ、おやつの時にも打つ、外食などのエネルギーの高い食事の時には増量して打つ、血糖が高値の時に1~2単位追加で打つなどです。また、宴会などで食事時間が長いときは超速効型インスリンを数回に分けて打つ、あるいは速効型インスリンに変更してみます。さらに、これから運動量が多くなるという際は、あらかじめインスリンを1~2単位減らして注射することで低血糖を防ぐことも可能です。

 ただし、こうした調節ができるためには、血糖自己測定によって生活のいろいろな場での血糖の動きを体験しておくことが必要です。血糖自己測定を行う際には目的意識をもってうまく活用することにより、さまざまな経験が自分の財産となって、生活に合わせたインスリン療法を行うことが可能となってきます。

 なお、CSII(持続皮下インスリン注入療法)あるいはインスリンポンプ療法と呼ばれる治療法も保険診療下で使用可能です。

 これは、皮下に針を留置し、携帯電話くらいの大きさの機械(インスリンポンプ)から持続的にインスリンを注入するとともに、食事の時には追加でインスリンをボタン操作で注入します(針は金属ではないテフロン針が使用可能で3日間以上留置できます)。持続で注入するインスリンを時間帯であらかじめ変更しておくことができ、たとえば血糖が上がりやすい明け方は増やし、運動量が多い日中は減らしておくなど設定ができます。また、追加インスリンの注入も注射針を用意する必要がないため、おやつの時あるいは血糖高値の時などに気軽に行うことができます。

 このように、この方法は生活に合わせたインスリン療法を行ううえでは優れた治療法であり、海外では1型糖尿病の治療法として普及しています(米国では約2割の1型糖尿病患者が使用しています)。日本では導入できる施設が限られていることもあり、利用している患者さんはまだ少ないのですが、今後の普及が見込まれています。

 また、膵臓・膵島移植、あるいは膵β細胞を人工的に増やして治療に用いる再生医療は、1型糖尿病の根本的治療法として期待されていますが、課題も多く現実的な治療法として普及するにはまだ時間がかかるものと思われます。

(執筆者:埼玉医科大学内分泌・糖尿病内科学教授 粟田 卓也)

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