変形性膝関節症の治療法の概要

変形性膝関節症の治療では、痛みの原因となる炎症を抑えることと、ひざ関節への負荷を軽減することが2つの柱となります。
治療法は保存療法(手術を行わない治療法)と手術療法の2種類に分けられます。保存療法には、運動療法、薬物療法、装具療法などがあります。手術療法にもいくつかの術式があります。基本的にはまず保存療法を行い、保存療法で症状のコントロールができなくなってくると、手術療法の適応になります。
最近、保存療法では改善されないけれども手術は行いたくない方に対して「再生医療」という選択肢が加わりました。

変形性膝関節症の治療法

保存療法

運動療法

進行度を問わず、強い痛みがなければ、太ももの筋力やひざの柔軟性を維持するための運動療法が有効です。国内外の変形性膝関節症ガイドラインでも症状の改善に効果的であるとして、高く推奨されています。
ただし、ひざの状態によっては運動で悪化することがあるので、自己判断せず、まずは専門医の指導を受けることが重要です。

安静にしすぎは要注意

運動をしないと筋肉が衰える

ひざ関節では、ひざ周辺の筋肉がひざにかかる負荷を吸収しています。運動をしなければ筋力は衰えるため、安静にしていてもひざへの負荷は大きくなっていきます。運動療法ではひざ周辺の筋肉を鍛えることで、ひざへの負担を軽減していきます。

運動しないと痛覚が過敏になる

運動をしなくなると痛みを感じる痛覚(つうかく)が過敏になってしまうため、関節や筋肉を動かさずにいると、炎症を引き起こす物質が誘発され、より痛みを感じやすくなってしまうと言われています1)。これを防ぐためにも、適度な運動を行うことが必要です。

1)松平浩:Jpn J Rehabil Med 2016;53(8):615-619

運動療法の例

レッグエクステンション

椅子に座った状態でひざの曲げ伸ばしを繰り返す。ひざをのばした状態で5秒キープ後、ひざを下げる。1セット10回を1日に3セット行う。

ひざのストレッチ

ひざを曲げてタオルに足にひっかけ、ひざを伸ばしながらタオルをひっぱる。
ひざの状態をみながら自身のペースで行う。1セット10回を1日に3セット行う。

薬物療法

薬物療法では、痛み止めの内服薬や湿布薬、ステロイド注射などで痛みを抑えたり、ヒアルロン酸を注射して関節液のクッション性を補ったりする方法がとられます。
痛みを一時的に軽減するためのもので、残念ながら症状の進行を食い止めることはできません。

消炎鎮痛薬

痛みの原因である炎症を抑えるために一般的に使われる薬として、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンなどが用いられます。

ヒアルロン酸注射

ヒアルロン酸とは関節の中を満たす関節液に含まれている成分で、ひざの滑らかな動きを助ける役割を果たしています。変形性膝関節症になるとこのヒアルロン酸が減少するため、次第にひざを動かしにくくなり、骨同士がぶつかり合って痛みが生じたり、ゴリゴリと音が鳴ったりするようになります。これを解消するため、ひざ関節内にヒアルロン酸を直接注射します。 関節内に注射したヒアルロン酸が関節液のクッション性を補うため、痛みが和らぎます。

ステロイド注射

痛みがひどい場合には、抗炎症作用に加え鎮痛作用をもつステロイドの注射を行います。ステロイドとは本来、副腎という臓器から生成される副腎皮質ホルモンという物質のことで、この成分と似たものになるよう合成した薬剤が注射に用いられています。

装具療法

装具を使用することにより痛みを軽減し、動きやすくなる効果が期待できます。
装具には様々な種類があり、変形性膝関節症の進行具合や症状、患者の希望などに合わせて使い分けます。

疾患の初期から末期まで、広く使用可能です。体重を分散することで、ひざ関節にかかる負荷を軽減し、ひざの痛みを緩和するのが目的です。T字、松葉杖、4点杖など、様々な種類があります。

サポーター

ひざにサポーターを巻くことによって、膝への負担を減らすことができます。安定感を高めた支柱付きのサポーターもありますが、あまり強固な固定を長く継続すると、ひざ関節が固まってしまい、痛みが引いた後も動く範囲が狭まってしまう可能性があるので注意が必要です。

足底板(靴の中敷き)

地面からの衝撃を吸収したり、O脚やX脚を矯正したりするのが目的です。日本人の変形性膝関節症はO脚に進行することが多いため、足底板の外側に厚みを持たせることで、ひざの外反の矯正を試みます。

再生医療

近年、変形性膝関節症の保存療法の一つに再生医療という選択肢が登場しました。再生医療とは、自身の組織を用いて疾患や損傷した組織の修復を試みる治療法です。現在、多血小板血漿<たけっしょうばんけっしょう>(PRP)療法と脂肪幹細胞<しぼうかんさいぼう>療法が自由診療で提供されています。
自分の細胞や血液を使うのでアレルギー反応や拒絶反応のリスクが少なく、また注射で行うので手術に比べて体への負担が少ない、入院の必要がないので術後すぐに日常生活に復帰できるといった利点があります。

培養幹細胞療法

脂肪細胞に含まれる幹細胞は脂肪だけでなく骨や軟骨などに分化できる能力があること、炎症を抑える物質や細胞成長増殖因子などの成分を分泌することが確認されています。この性質を利用して、脂肪細胞から抽出した幹細胞をひざ関節に注入することで病変部を修復し、炎症を緩和させ痛みを抑える作用が期待されています。
培養幹細胞治療は患者さん本人の腹部や太ももなどから脂肪細胞を採取し、抽出した幹細胞を培養して数を増やしてから、ひざに注射器で注入します。

PRP療法

血液中の血小板に含まれるさまざまな成長因子の働きを利用して、炎症や痛みなどを抑えます。PRP療法は、患者さんから採取した血液から抽出したPRPをひざに注射器で注入します。
最近では、濃縮させてフリーズドライ加工した血小板を使うPRP-FD(Platelet Rich Plasma-Freeze Drying)を用いた治療も行われています。PRP-FDは血小板の中にある有効な成分が濃縮されるので、当院の研究では従来のPRP療法よりも効果が高く長期保存も可能です。また、有効な成分を高濃度に抽出した、「次世代PRP」と呼ばれるAPS(自己タンパク質溶液)を用いた治療も行われています。

手術医療

手術の方法は、進行ステージや骨の変形の程度、年齢などによって変わります。

鏡視下郭清術

手術適応の初期では、関節内に内視鏡を入れて、炎症をおこした組織や軟骨、半月板のけばだちを切除する手術で対処できることがあります。

骨切り術

比較的年齢が若く進行期の状態であれば、骨をくさび状に切って骨の配置を矯正することで荷重を分散させることにより、傷んでいる関節の負担を減らします。

人工関節置換術

骨が高度に変形している場合には、骨の損傷部分を削って人工形成された関節を埋め込む関節置換術を行います。骨の損傷部分を削り、人工形成された関節をはめ込みます。全置換か部分置換かは活動状況で異なります。

日常生活での注意点

肥満の予防、改善

毎日定期的に運動することと、栄養バランスを考えた食事の意識が基本です。BMI値22前後を目指し、体重コントロールを行いましょう。

生活習慣病の予防と治療

糖尿病、脂質異常症、高血圧がある場合は、必要に応じて治療しましょう。血流や代謝が悪くなり、ひざ関節の状態が悪化する可能性があります。

ひざの負担の少ない運動

筋力が弱いと進行しやすいので、しっかりとした筋力をつける意識が大切です。運動するときは転倒して骨折しないよう、安全な場所で行いましょう。ウォーキングを行う場合はアスファルトでなく、公園や運動場などの土の上で行うのがひざにとっては望ましいです。

サポーターや温熱用品で温める

冷えるとひざの痛みが出やすくなります。市販されているサポーターや温熱用品で温めて、血行促進しましょう。温めるときは低温やけどに注意しましょう。

ひざへの衝撃を緩和する靴

靴の中敷きでクッション性を高め、ひざへの衝撃を減らします。また荷重のバランスを調整し、ひざ軟骨へのストレスを軽減することで進行を抑えます。適切な靴を履くことは歩行状態を安定させ、転倒リスクの軽減にもつながります。

骨粗しょう症の治療と予防

ひざ関節周囲の骨がスカスカでもろくなると、軟骨下骨折が起こりやすく、骨がつぶれて変形性膝関節症が進行します。骨密度を維持し、健康な骨を保ちましょう。

ひざに負担のかかる動作は避ける

重いものを持つ、正座、和式トイレの使用など、ひざに負担のかかる動作を避けましょう。