ベーチェット病の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
ベーチェット病とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
ベーチェット病は皮膚粘膜、目、外陰部、血管など全身に炎症がおき、病的な変化をきたす原因不明の病気です。
初期症状として口腔粘膜のアフタ性潰瘍、いわゆる口内炎をくり返します。その後、皮膚症状としてしこりのある紅斑(結節性紅斑)が現われ、痛みを伴います。目の症状が現れる頻度も高く、目の痛み、まぶしくてものが見えづらい羞明という状態や、目のかすみなどの症状(虹彩毛様体炎)が現れます。
このような目の症状は悪化して、視力が低下したり、失明に至ったりすることもあります。また、外陰部にも潰瘍が発生し、痛みを伴います。軽度の関節炎が半数の患者さんに、血栓性静脈炎が4分の1の患者さんに認められます。
こうした症状は1~2週間でいったんおさまりますが、くり返しておこるのが特徴で、いずれ慢性化していきます。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
現在のところ、はっきりとした原因はわかっていませんが、内因性(遺伝要因)と外因性(感染など)があると考えられています。内因性では、患者さんにヒト白血球抗原HLA-B51、HLA-A26をもつ人が多い傾向があります。外因性ではウイルス、連鎖球菌などの感染が関係して引きおこされていると考えられています。
病気の特徴
以前は男性が多いとされていましたが、現在では性差はほとんどないと考えられています。30歳前後の働き盛りで発症することが多いとされています。ちなみにベーチェット病という病名は、トルコのベーチェット博士が最初にこの病気を報告したことにちなんで命名されました。日本では現在ベーチェット病は難病に指定されており、公費による治療の対象となります。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
コルヒチン(コルヒチン)を用いる | ★5 | コルヒチンの使用によって、関節炎や外陰部潰瘍、結節性紅斑、関節炎などさまざまな症状が抑制されることは非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(1)(2)(3) | |
副腎皮質ステロイド薬を用いる | ★3 | 局所性副腎皮質ステロイド眼の症状に対して副腎皮質ステロイドを注射することがあります。また口腔内や陰部の潰瘍に対して副腎皮質ステロイドの塗り薬を使用することがあります。 全身(内服または点滴)副腎皮質ステロイド眼の症状や神経症状に対して、副腎皮質ステロイドの内服または点滴が推奨されています。 根拠(4) | |
免疫抑制薬を用いる | ★3 | 免疫抑制薬であるアザチオプリンは、副腎皮質ステロイドでは効果が得られない治療抵抗性の潰瘍や眼の炎症症状が強い場合に使用することが推奨されています。また、眼の症状が強い場合、下肢の深部静脈血栓症がある場合などにシクロスポリンを使用することもあります。 根拠(5)(6) | |
重症例ではステロイドパルス療法を行う | ★2 | 重症のベーチェット病に対するステロイドパルス療法(点滴静脈注射で大量のステロイドを注入する方法)には、重症例のほか、肺動脈に動脈瘤をもつ患者さんなどで使用されます。 根拠(7) |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
コルヒチン
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
コルヒチン(コルヒチン) | ★5 | コルヒチンを用いることによって、関節炎や外陰部潰瘍、結節性紅斑などが抑制されることは非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(1)(2)(3) |
副腎皮質ステロイド薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
局所性副腎皮質ステロイド | リンデロン(ベタメタゾン) | ★3 | 口腔内の炎症を抑制し、眼症状も改善するため、専門家の意見と経験から支持されています。 根拠(4) |
全身性副腎皮質ステロイド | ソル・メドロール(メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム) | ★3 | |
プレドニン(プレドニゾロン) | ★3 |
免疫抑制薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
アザニン/イムラン(アザチオプリン) | ★2 | コルヒチンや副腎皮質ステロイドでの治療で不十分な場合や、症状が強い場合に使用されます。 根拠(5)(8) | |
サンディミュン/ネオーラル(シクロスポリン) | ★2 |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
全身症状すべてに有効な治療法はなく、対症療法が中心となる
ベーチェット病は、遺伝的な体質に加えて、さまざまなウイルスや細菌の感染、免疫の異常などがかかわって発病すると推測されています。しかし、くわしいメカニズムはまだわかっていません。
そこで、全身に現れる多様な症状すべてに対して有効であるというような、決め手となる治療法はないのが現状です。それぞれの場所におこってくる炎症を抑える対症療法が中心となります。
なかでも、関節炎や外陰部潰瘍、結節性紅斑などくり返しおこってくる各種の症状に対してはコルヒチンが有効と考えられますが、とくに若い患者さんでは生殖機能への影響などに留意する必要があります。
深刻な眼症状や精神症状には副腎皮質ステロイド薬か免疫抑制薬を
ベーチェット病の多様な症状のなかでも、もっとも重大な合併症は、ぶどう膜炎(虹彩、毛様体、脈絡膜の部分をぶどう膜といい、ここに炎症がおきる。光がまぶしく感じられたり、目の前を蚊が飛んでいるように見える「飛蚊症」などがおもな症状)や虹彩毛様体炎、網膜血管閉塞、視神経炎(視神経に炎症をおこし、視力の低下や目の奥の痛みを伴う)など目におこる症状であり、放置すれば失明につながることもあります。
したがって、副腎皮質ステロイド薬、さらにはアザニン/イムラン(アザチオプリン)、サンディミュン/ネオーラル(シクロスポリン)など免疫抑制薬のいずれかを用います。
脳圧亢進症状や運動神経麻痺、精神症状などをきたす中枢神経症状が現れた場合も、それらの薬を用いることが妥当と考えられます。
局所の炎症症状には副腎皮質ステロイド薬を
しかし、それら以外の口内炎や外陰部潰瘍、皮膚病変に対しては副腎皮質ステロイド薬の外用薬を用いるのが安全といえます。
おすすめの記事
根拠(参考文献)
- (1) Mendes D, Correia M, Barbedo M, et al. Behcet's disease--a contemporary review. J Autoimmun. 2009 ;32:178-88.
- (2) Yurdakul S, Mat C, Tuzun Y, et al. A double-blind trial of colchicine in Behcet's syndrome. Arthritis Rheum. 2001;44:2686-2692.
- (3) Saenz A, Ausejo M, Shea B, et al. Pharmacotherapy for Behcet's syndrome. Cochrane Database Syst Rev. 2000;(2):CD001084.
- (4) Hatemi G, Silman A, Bang D, et al. European League Against Rheumatism (EULAR) Expert Committee. EULAR recommendations for the management of Behcet disease. Ann Rheum Dis. 2008 ;67:1656-62.
- (5) Yazici H, Pazarli H, Barnes CG, et al. A controlled trial of azathioprine in Behcet's syndrome. N Engl J Med. 1990;322:281-285.
- (6) Masuda K, Nakajima A, Urayama A, Nakae K, Kogure M, Inaba G. Double-masked trial of cyclosporin versus colchicine and long-term open study of cyclosporin in Behçet's disease. Lancet. 1989 May 20;1(8647):1093-6.
- (7) Hamuryudan V, Er T, Seyahi E, Akman C, Tüzün H, Fresko I, Yurdakul S, Numan F, Yazici H. Pulmonary artery aneurysms in Behçet syndrome. Am J Med. 2004 Dec 1;117(11):867-70.
- (8) Benezra D, Cohen E, Chajek T, et al. Evaluation of conventional therapy versus cyclosporine A in Behcet's syndrome. Transplant Proc. 1988;20(3 Suppl 4):136-143.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)