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とびひ(伝染性膿痂疹)の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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とびひ(伝染性膿痂疹)とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 とびひ(伝染性膿痂疹)は皮膚の表面に細菌感染がおこり、次々と水ぶくれができる病気です。水ぶくれが破れてジュクジュクした分泌液が、体の別の場所や他人の皮膚につくと、その部分に「飛び火」して感染することから、この名前がつきました。

 とびひには「水疱性膿痂疹」と「痂皮性膿痂疹」の2種類があります。水疱性タイプは、はじめにかゆみを伴った水ぶくれができ、それが破れると膿みのついたびらんになり、かさぶた(痂皮)ができます。一方、痂皮性タイプは、黄色の膿が中心にある赤い斑点の集まりができ、やがて黄褐色のかさぶたになります。

 水疱性のタイプのほうが多くみられ、全身のどの場所でも発症します。子どもでは、まれにとびひから腎炎を引きおこすことがあり、注意が必要です。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 黄色ブドウ球菌、もしくは溶連菌による皮膚の感染症です。黄色ブドウ球菌が産生した毒素(表皮剥脱毒素)により、皮膚の表面下(角質層)に水ぶくれやただれができます。小さな外傷がきっかけで発症することが多く、アトピー性皮膚炎などで皮膚表面が荒れていると感染しやすくなります。夏におこりやすい病気ですが、最近は暖房が普及したため冬にみられることもあります。

病気の特徴

 子どもに多い皮膚の病気で、成人にはあまりみられません。まれに子どもから母親に伝染することがあります。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
患部を消毒する ★2 臨床研究によって効果は確認されていませんが、専門家からは支持されています。
外用抗菌薬を用いる ★5 抗菌薬の軟膏が有効であることは、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(1)(2)
抗菌薬の内服を行う ★5 非常に信頼性の高い臨床研究によって、内服の抗菌薬の効果は確認されています。 根拠(2)(4)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

消毒薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
イソジン(ポビドンヨード) ★2 臨床研究によって確認されていませんが、患部を消毒することは専門家の意見や経験から支持されています。

抗菌外用薬(軟膏)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
バクトロバン(ムピロシンカルシウム水和物) ★5 ムピロシンカルシウム水和物いわゆるムピロシン軟膏は、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(1)(2)
テラマイシン(塩酸オキシテトラサイクリン) ★2

抗菌薬(内服)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
バイシリンG(ベンジルペニシリン) ★5 非常に信頼性の高い臨床研究の結果、いずれの薬についても効果が確認されています。 根拠(1)(3)
ビクシリン(アンピシリン水和物) ★5
ケフラール(セファクロル) ★5
バクタ(スルファメトキサゾール・トリメトプリム) ★5
ビブラマイシン(ドキシサイクリン塩酸塩水和物) ★5
ダラシン(クリンダマイシン塩酸塩) ★5
ケフレックス(セファレキシン) ★5
エリスロシン(エリスロマイシン) ★5
ジスロマック(アジスロマイシン水和物) ★5
クラリシッド/クラリス(クラリスロマイシン) ★5
セフゾン小児用(セフジニル) ★2 いずれの薬も専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(2)(4)
メイアクト小児用(セフジトレンピボキシル) ★2
ファロムドライシロップ小児用(ファロペネムナトリウム) ★2

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

患部を消毒する

 患部を消毒することの効果をはっきりと示した信頼性の高い臨床研究は見あたりません。しかし、とびひのきっかけとなる外傷を放置すると、さらに感染が拡大し、発症する機会が増えますので、傷口は早めに消毒すべきです。

抗菌外用薬を塗る

 患部に抗菌外用薬を塗布する治療は有効です。バクトロバン(ムピロシンカルシウム水和物)軟膏については非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。テラマイシン(塩酸オキシテトラサイクリン)の軟膏についても同様の効果が期待されます。

患部が広範囲のときには抗菌薬の内服を

 水ぶくれが全身に広がっている場合は、内服の抗菌薬を用います。

 ペニシリン系のバイシリンG(ベンジルペニシリン)、ビクシリン(アンピシリン水和物)、セフェム系のケフレックス(セファレキシン)、ケフラール(セファクロル)は、非常に信頼性の高い臨床研究によって、効果が確認されています。また、マクロライド系のエリスロシン(エリスロマイシン)、ジスロマック(アジスロマイシン水和物)、クラリシッド/クラリス(クラリスロマイシン)も、非常に信頼性の高い臨床研究の結果、効果が確認されています。

生活のなかで感染予防に配慮する

 梅雨から夏にかけて発病しやすい病気です。ほかの人に感染する危険性があるため完全に治癒するまで、プールや公衆浴場などに行くことは避けるべきです。

 効果的な抗菌薬が投与されてから24時間経過してから登校させるほうがよいとされ、日本の学校保健法では治療がされていれば登校は可能です。

 生活のなかでも感染予防の工夫が必要です。たとえば、兄弟のいる家庭では、発病していない子どもを先に入浴させたり、別々のタオルを使ったりするようにします。衣類の洗濯は一緒でもかまいませんが、濡れたままの衣服が患部に触れると細菌が増殖しやすいため、十分に乾かす必要があります。

 また、とくに子どもの口のまわりや鼻の穴、耳のまわりを汚くしていると、とびひになりやすいので、清潔を保つことが大切です。

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根拠(参考文献)

  • (1) Stevens DL, Bisno AL, Chambers HF, et al. Practice guidelines for the diagnosis and management of skin and soft tissue infections: 2014 update by the infectious diseases society of America. Clin Infect Dis 2014; 59:147.
  • (2) Koning S, van der Sande R, Verhagen AP, et al. Interventions for impetigo. Cochrane Database Syst Rev 2012; 1:CD003261.
  • (3) van der Wouden JC, Koning S. Treatment of impetigo in resource-limited settings. Lancet 2014; 384:2090.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)