MR検査執筆者:昭和大学病院医学部医学教育推進室教授 高木 康/昭和大学横浜市北部病院病院長 田口 進

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検査機器(ガントリー)内をスライド移動し、電磁波を照射して体内を調べる検査です。ペースメーカーを使用している人などは、この検査ができない場合があります。

医師が使う呼び方: ・「エムアール」=magnetic resonance(磁気共鳴診断)の略MRから ・「エムアールアイ」=magnetic resonance imaging(磁気共鳴映像)の略MRIから ・「エムアールエー」=magnetic resonance angiography(MR血管撮影)の略MRAから ・「エムアールシーピー」=magnetic resonance cholangio pancreatography(MR膵胆管撮影)の略MRCPから

ほとんどすべての臓器の診断に利用

 MR(磁気共鳴映像法)は、電磁波を使い、体との相互作用により得られる変化をコンピュータで画像診断するもので、筋肉や脂肪、線維組織、血管系など柔らかい部位の変化の撮影に優れていること、また水平の断層像だけでなく、撮影方向が多様(矢状(しじょう)断や冠状断)で、より立体的に各臓器を写し出せるなどの特徴があります。

 そのため、脳をはじめとして脊髄(せきずい)や関節、婦人科の病気や胸部、腹部、腎(じん)臓、泌尿器など、また耳鼻科や眼科領域など、全身のほとんどの臓器の形態的診断法として行われています。

脳梗塞の早期診断に有用な検査

 片麻痺(かたまひ)や言語障害、意識障害などは、脳出血や脳梗塞のときに認められる最も重要な症状です。これらの症状が出現したとき、まず頭部CTを行うことが多いのですが、脳梗塞の場合、CTで脳の変化(黒く写る)が明らかに認められるには発病後2~3日を要します。

 これに対し、頭部MRでは、発病数時間後には変化がわかり(低シグナルや高シグナル)、脳梗塞の早期診断には極めて有用な検査です。

脊髄や関節の診断にも有用

 MRは、脳脊髄液に囲まれた脊髄や神経根の描出、また骨髄、軟骨、靭(じん)帯などを立体的に描出でき、整形外科領域における疾患の診断法としても重要な検査です。

 腰痛や下肢痛の原因である腰椎椎間板ヘルニアは、腰の骨(腰椎)の間にある椎間板の一部が飛び出して(脱出)、神経を圧迫している状態です。MR検査では、椎間板が背中側に突出し、黒く描出される像が写ります。

 単純X線撮影では、靭帯や筋肉ははっきりとは写りません。今までは骨、靭帯、筋肉からできている肩、膝、肘などの関節は、造影剤を関節の中に注入してX線撮影をしていましたが、MRでは苦痛もなく、立体的に写し出すことができます。

MRAとMRCP

 MRを応用した検査にMRA(MR血管撮影)とMRCP(MR膵(すい)胆管撮影)があります。これは、MRでの多数の断層画像を、三次元的に再構築して診断に用いるもので、撮像方法はMRとまったく同じです。

MRA

 血管系の診断に行います。

 激しい頭痛と吐き気、急激な意識障害などがおこるクモ膜下出血は、半数以上の例が脳動脈瘤(りゅう)によって発症します。脳動脈瘤ができていても普段はほとんど自覚症状はありません。この脳動脈瘤をみつけるには脳のMRAが有用です。

 また、血液の流れが少なくて下肢のしびれや歩行時の痛みをきたす病気に閉塞性動脈硬化症(ASO)がありますが、このような病気の血管の状態を見る目的で、末梢のMRAが行われます。

MRCP

 膵管と胆管、すなわち膵臓がんや慢性膵炎、総胆管結石、総胆管がんなどを診断するために行います。

 膵管や胆管は、腹部CTやMRでは画像が鮮明ではなく、また、管の立体像が得られないため、MRCPが有用です。逆行性膵胆管造影検査のように、十二指腸ファイバースコープを口から十二指腸まで入れる必要はなく、苦痛はほとんどありません。

検査は20分ほど、苦痛はない

 検査の部位により、方法が少し変わります。腹部の検査のときは、当日の朝は絶食ですが、その他の部位の検査のときはかまいません。

 時計やネックレス、メガネ、義歯、アクセサリーなど身につけている金属類や磁気カード(キャッシュカードなど)はすべて外し(検査室へは持ち込まない)、検査着に着替えます。

 腹部のMR検査では腸の運動を止める注射をしますが、ほかにはとくに前処置はありません。

 検査台に横になり、ガントリーという電磁波が出る筒に頭から体が入り(検査台が移動します)、静かに横になっているだけで検査は進みます。

 腹部の撮像では、少し鉄の味がする造影剤を50~300ml飲んでもらいます。腫瘍や炎症が疑われるときは、鉄剤を含んだ造影剤10mlを1~2分で静脈注射しますが、それ以外は造影剤は使いません。

 撮像するとき、ドーンという音が続きます。電磁波が出るとき、体が暖かく感じることもありますが、苦痛はありません。撮像には2~3分から10分ほど必要で、すべては約20分で終了します。

繰り返しの検査が可能

 普段、治療のために飲んでいる薬は飲んでかまいません。腹部の検査で絶食している場合も、糖尿病の薬以外は飲んでかまいません。

 電磁波を使うため、心臓ペースメーカーを使用している場合は、この検査はできません。また、金属製の心臓血管ステント、一部の人工関節を使用している場合は検査ができないことがあるので、あらかじめ確認することが必要です。また、喘息(ぜんそく)の人は事前に申し出てください(造影剤で喘息が悪化)。

 妊娠中でも検査できますが、妊娠初期は控えるようにします。

 検査後の休憩は必要ありません。MRは、放射線は使わず電磁波を用いた検査であるため、繰り返しの検査も可能です。

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疑われるおもな病気の追加検査は

  • 脳梗塞

    脳血流シンチグラフィ(SPECT)、頭部血管造影など
  • 脳動脈瘤(りゅう)

    頭部血管造影など
  • 脳腫瘍

    PET-CT、頭部血管造影、眼底検査など
  • 肝臓がん

    腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-II)、PET-CT、腹部血管造影など
  • 膵臓がん

    腫瘍マーカー(CEA、CA19-9)、PET-CT、逆行性膵胆管造影、腹部血管造影など
  • 子宮がん

    組織診、腫瘍マーカー(CA125、CEA)、PET-CTなど
出典:四訂版 病院で受ける検査がわかる本 2014年7月更新版