出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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不妊症
ふにんしょう

不妊症とは?

どんな病気か

 妊娠を希望して一定期間の性生活を行っているにもかかわらず、妊娠が成立しない状態を不妊症といいます。

 これに対して不育症とは、妊娠しても流産・早産を繰り返して、胎児が出産まで育たない状態をいいます。

原因は何か

 原因は女性側と男性側それぞれに考えられ、またひとつだけでなく他の因子の合併する場合や原因不明のこともあります。

 女性側の原因としては、排卵の障害、卵管閉塞などの卵管因子、そして子宮因子や頸管因子に分けられます。また男性側の原因には、精子を作ることができない造精機能障害と精子を射出することができない射出障害があります。

 そのほかに、機能性不妊や原因不明不妊に分類されます。

①排卵因子

 器質的な障害よりも体重の急激な減少やストレスなどによる機能的な障害の頻度が高い傾向にありますが、内分泌疾患などの全身性の疾患も排卵障害をもたらすことがあります。

②卵管因子

 最も頻度が高い女性側の原因です。子宮内膜症や最近増えているクラミジア感染などの性感染症は、卵管障害の大きな原因になります。

③子宮因子

 子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮内膜癒着症などがあり、子宮奇形などの先天的なものもあります。

④頸管因子

 排卵前には頸管粘液が分泌されますが、粘液分泌不全や頸管粘液中に精子に対する抗体があると、不妊症の原因になります。

⑤男性因子

 精索静脈瘤などの後天的な造精機能障害もありますが、最も多いのは原因不明の特発性造精機能障害です。

検査と診断

●排卵因子

①基礎体温の測定、血中・尿中ホルモン値の測定

 一般には基礎体温が二相性(低温相と高温相がある)であれば排卵していると考えてよく、排卵は最終低温日から上昇期の3日間に起こります。また排卵直前には、脳(下垂体)から多量のホルモン(LH)が分泌されるので、自宅の尿検査でチェックすることも排卵日の推定に役立ちます。

 基礎体温で36・7℃前後の高温相が10日未満の場合は黄体機能不全の場合もあるので、高温相の期間に黄体ホルモン値を測定します。低温相と高温相に分かれない一相性の場合は、排卵のないことがあるので、原因を検索するために月経開始後5日めまでの間に血液中のホルモン(LH、FSH、プロラクチン、テストステロン値など)を測定します。

②経腟超音波検査

 排卵日を推測するために排卵前後の卵胞を確認します。また、排卵後の卵胞消失を見ることにより、排卵の有無を確認します。

●卵管因子

①子宮卵管造影(HSG:hysterosalpingography)

 月経開始後10日以内に行います。子宮頸管から内腔に造影剤を注入し、X線透視下で卵管の疎通性と子宮腔の形態を検査します。油性の造影剤を使う場合は、腹腔内拡散像を翌日に撮影します。また、炭酸ガスを注入する卵管通気法(ルビンテスト)や生理食塩水を注入する通水法があります。

②腹腔鏡検査

 子宮卵管造影検査で卵管閉塞や卵管周囲癒着を疑う時は、腹腔鏡検査で確認します。腹腔鏡検査は、入院して全身麻酔下で行います。異常があった場合は、検査に引き続き腹腔鏡下に手術療法を行います。

●子宮因子

①超音波検査

 経腟超音波検査や、子宮内に生理食塩水を注入しながら超音波検査を行うsonohysterographyを行います。

②子宮鏡

 中隔子宮や粘膜下子宮筋腫、また子宮内腔癒着などが疑われる時は、子宮鏡検査で確認します。子宮鏡検査は外来で行い、ほとんどの場合麻酔はいりません。

●頸管因子

①頸管粘液検査

 排卵前には女性ホルモン(エストラジオール)が増え、子宮の入り口である子宮頸管から頸管粘液が分泌されます。この粘液に、十分な量と粘り気、結晶形成があるか等を調べます。

②フーナーテスト(性交後テスト)

 排卵日に性交後、数時間以内に頸管粘液中の運動精子数を算定します。数回にわたる検査で運動精子が少ない場合は人工授精を行いますが、抗精子抗体の存在を調べるために精密検査をする必要があります。

●男性因子

①精液検査

 3~5日間の禁欲期間後の射精精子を検査します。精液量は2・0ml以上、精子濃度は20×10の6乗/ml以上、射精後60分以内の運動精子が50%以上が正常とされます。

症状の現れ方

 不妊症の現れる頻度は10組のカップルに1組の割合といわれています。この一定期間は、日本では2年以上とされていますが、1年経過したら不妊症の検査や治療を開始することもあります。

治療の方法

①タイミング療法

 基礎体温法や超音波検査、血中・尿中ホルモンを検査しながら、排卵日を推定し、性交渉のタイミングを図ります。

②人工授精

 人工授精とは精液を直接子宮内に注入する方法で、ほかに明らかな不妊原因がない場合や、精子の状態が不良な男性不妊や頸管粘液分泌不全がある場合、またはフーナーテスト不良例、そして性交障害の治療として行われます。夫の精液を注入する配偶者間人工授精(AIH)と、夫以外の精液を用いる非配偶者間人工授精(AID)があります。

 AIHを行う際には排卵日を推定して行いますが、自然排卵がない場合は排卵誘発剤を使います。射精後2時間以内の精液を用いて行いますが、精液を洗浄して運動精子だけを注入します。

③内視鏡下手術

 クラミジア感染などの性感染症や子宮内膜症による癒着には、腹腔鏡下癒着剥離術や子宮内膜症焼灼術を行うことにより、自然妊娠が可能になることがあります。

 子宮内腔の変形・延長を伴う場合や月経困難症などの症状が強い子宮筋腫は、開腹または腹腔鏡を使って筋腫摘出術を行います。粘膜下筋腫に対しては子宮鏡下切除術があります。

④補助生殖技術(ART)

 卵管性不妊、男性不妊、免疫性不妊などが対象になりますが、一定期間の不妊治療を行っても妊娠に至らない場合や長期の不妊もARTの対象になります。自然周期では採卵できる卵に限りがあるので、一般的には排卵誘発剤を用います。

 採取した卵を培養液中で受精させた後、受精卵(胚)を子宮内に移植することを体外受精・胚移植(IVF-ET)といいます。

 顕微授精は、顕微鏡を使って人工的に受精させることで、受精障害や重度の精子減少症の場合に選択されます。卵細胞質内精子注入法(ICSI)と呼ばれるもので、良好な受精率を得ることができます。

 また、胚の凍結保存が可能になっています。多胎妊娠や、卵巣過剰刺激症候群(コラム)を予防するとともに、余剰胚(体外受精時に余った受精卵)の有効利用などの目的で、採卵周期以後のホルモン補充周期に凍結胚移植が行われます。

(執筆者:帝京大学医学部附属溝口病院産婦人科教授 西井 修)

女性不妊症に関連する可能性がある薬

医療用医薬品の添付文書の記載をもとに、女性不妊症に関連する可能性がある薬を紹介しています。

処方は医師によって決定されます。服薬は決して自己判断では行わず、必ず、医師、薬剤師に相談してください。

・掲載している情報は薬剤師が監修して作成したものですが、内容を完全に保証するものではありません。

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コラム卵巣過剰刺激症候群

帝京大学医学部附属溝口病院産婦人科教授 西井修

 排卵誘発剤を使用することにより、多数の卵胞が大きく発育して卵巣が腫大し、腹水貯留などを来す状態です。重症の場合は、腹部膨満感、腹痛、脱水症状、胸水貯留を伴い、血液が固まりやすくなる等の凝固系異常を起こすようになります。また、腫大した卵巣が捻転を起こすこともあります。体外受精だけでなく、不妊治療に際して排卵誘発剤を使用する際の重篤な合併症のひとつです。

 予防は、排卵誘発剤を使用しないことですが、不妊治療を行ううえで注射薬の排卵誘発剤(ゴナドトロピン製剤)が必要な場合は、投与中に慎重な管理を行います。最近は自己注射可能な排卵誘発剤が承認されたこともあり、定期的な卵胞発育のチェックが必要です。

 治療は、過度な腹水が貯留している場合は、入院して安静と補液を行います。さらに蛋白質の補給が必要となる場合もあります。水分が血管内から腹水へ移動することから、血液は濃縮状態となっており、血栓症や賢不全などの重篤な状態になることもあります。

コラム避妊法(受胎調節)

東京大学医学部附属病院産婦人科講師 久具宏司

 受胎調節とは、人為的に妊娠成立を抑制することであり、いわゆる避妊のことを指します。使用を中止することによって、妊娠成立の可能性が容易に回復することが避妊法の条件ですので、不妊手術などの永久的な方法は含めません。

 避妊法の選択にあたっては、年齢、出産経験の有無、合併症の有無など身体的条件のほか、今後の出産計画、性交の頻度、避妊・性交に対する個人の考え方、性感染症にかかる危険性、生活習慣など、さまざまな条件を個々に考慮することが必要です。また、どのような手段をとっても、妊娠成立を回避する確率が完全に100%となるわけではありません。避妊法には以下の5つがあります。

①低用量経口避妊薬

 卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン作動薬(プロゲスチン)の配合剤であり、月経周期1周期に相当する量が1セットとして処方されます。1周期分として21錠のもの(7日間は休薬)と、28錠のもの(最後の7錠は無作用)があり、多種の薬剤でエストロゲンとプロゲスチンの配合比が細かく調節してありますが、避妊効果の面でほとんど差はありません。

 女性の意思のみで行える簡便な方法で有効性もきわめて高く、理想的な避妊法であり、月経痛・過多月経の改善、子宮体がん・卵巣がんのリスク軽減などの副次的な効果もあります。ただし、1周期の間に服用を忘れた日があると避妊効果が得られないことがあるので、十分な注意が必要です。また、常時喫煙する女性、乳がん罹患中や高血圧の女性は経口避妊薬服用に際しリスクが高く、服用すべきでない場合があります。

②子宮内避妊具(IUD)

 子宮内に挿入、装着し、着床や精子の輸送能を妨害することにより避妊効果を得るための器具で、「リング」とも呼ばれます。女性の意思のみで行え、有効性も高く、またいったん装着すれば長期間にわたり、意識することなく避妊できるという利点があります。ただし、まれにIUD装着中に妊娠が成立することもあります。

 現在使用されているIUDには、器具の内部に銅やプロゲスチンが付加されて、避妊効果をさらに高めたものがあります。使用中にIUDに起因する子宮内感染症を起こすことがあるので、使用中の検診を怠らないことが重要です。また、骨盤内の感染症の既往のある女性には、適さないことがあります。

③その他の器具

 男性用コンドーム、女性用コンドーム、ペッサリーなどのバリア法は、使用中の妊娠率が理論的には約5%ですが、実際には使用が不適切であるために、20%程度の妊娠率となってしまいます。

 このなかでコンドームは性感染症の予防には有効です。殺精子剤を性交前に挿入する方法も、妊娠率が理論的には約6%ですが、不適切な使用のために、実際の妊娠率は20%を超えるとされており、避妊効果が高いとはいえません。

④器具、薬剤を使用しない方法

 排卵日を含む一定期間、性交を避けるリズム法(荻野式)や腟外射精は、不確実な方法であるうえに、誤った知識に基づいて行われることもあり、避妊法としてすすめられません。

⑤性交後避妊(緊急避妊)

 性交後に妊娠成立を阻止する方法で、成立しうる妊娠の可能性を4分の1に低下できるとされています。エストロゲンとプロゲスチンの配合剤を内服する方法であり、性交後72時間以内とさらにその12時間後の2回内服する必要があります。

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