出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
すべて
病名
 × 

うつ病
うつびょう

つぶやく いいね! はてなブックマーク

うつ病とは?

どんな病気か

 私たちは、生活のなかのさまざまな出来事が原因で気持ちが落ち込んだり、憂うつな気分になったりすることがあります。しかし、数日もすると落ち込みや憂うつな気分から回復して、また元気にがんばろうと思える力をもっています。

 ところが時に、原因が解決しても1日中気持ちが落ち込んだままで、いつまでたっても気分が回復せず、強い憂うつ感が長く続く場合があります。このため、普段どおりの生活を送るのが難しくなったり、思い当たる原因がないのにそのような状態になったりするのが、うつ病です。

原因は何か

 うつ病は、まだわからないことが多い病気です。脳の神経の情報を伝達する物質の量が減るなど脳の機能に異常が生じていると同時に、その人がもともともっているうつ病になりやすい性質と、ストレスや体の病気、環境の変化など、生活の中のさまざまな要因が重なって発病すると考えられています。

●うつ病が起こりやすい性格

・生真面目

・几帳面

・仕事熱心

・責任感が強い

・気が弱い

・人情深く、いつも他人に気を配る

・相手の気持ちに敏感

●誘因となるストレス

 うつ病は、何らかの過度なストレスが引き金になると考えられています。さまざまなストレスのうちでとくに多いのは、人間関係の変化と環境の変化です。たとえば身近な人の死や、リストラなどの悲しい出来事だけではなく、昇進や結婚、出産といった嬉しい出来事がきっかけでうつ病になることもあります。

●体の病気や薬が原因となることもある

 慢性の病気の場合はとくに、体の不調や痛み、社会生活の変化、経済的な負担などがストレスとなり、抑うつ症状がみられることがあります。

 また、薬のなかには副作用として抑うつ症状が現れるものがあります。ウイルス性肝炎の治療に使われるインターフェロン、抗がん薬、ステロイド、抗潰瘍薬などが、うつ病を引き起こすことがあります。

●体の中の変化

 人間の脳の中には、神経伝達物質と呼ばれる物質があり、無数の神経細胞に情報を伝達するはたらきをしています。うつ病の時は、神経伝達物質のうちの、気分や思考、意欲などを担当するセロトニン、ノルアドレナリンの量が減っていることがわかっています。

 また、言語、運動、精神活動を担っている脳の前頭葉を中心に、脳の血流や代謝が低下していることもわかってきています。

症状の現れ方

 うつ病の症状には精神症状と身体症状があります。また、これらの症状が、1日のなかで時間とともに変化するのも、うつ病の特徴です。多くの場合は、朝が最も悪く、夕方にかけて回復していきます。

●精神症状

・抑うつ気分

 気分が落ち込む、憂うつ、理由もなく悲しい気持ちになる、何の希望もない。

・興味や喜びの喪失

 今まで好きだったことや趣味をやる気になれない、テレビや新聞を見てもおもしろくない、性的な関心や欲求も低下する。

・精神運動の障害(強い焦燥感・運動の制止)

 体の動きが遅くなる、口数が少なくなる、声が小さくなる。また、逆に、じっと座っていられない、イライラして足踏みをする、落ち着きなく体を動かす。

・思考力や集中力の低下

 頭がさえない、考えがまとまらない、決断力や判断力が低下する、反応が遅くなる、仕事の能率が落ちる、注意力が散漫になって、人のいうことがすぐに理解できない。

・意欲の低下

 人と会ったり話したりするのが面倒になる、何をするのも億劫。

・自責感

 何でも悪いほうに考える、必要以上に自分を責める、まわりの人に申し訳ないと思う。

・希死念慮

 生きていくのがつらい、死んだほうがましだ。

・精神病症状

 自分が重大な罪を犯したと思い込む罪業妄想、貧乏になったと確信する貧困妄想、がんなどの重い病気になったと信じ、検査結果で心配ないと話しても訂正できない心気妄想などがみられることがある。

●身体症状

・睡眠の異常(不眠または睡眠過多)

・食欲の低下または増加

・疲労、倦怠感

・ホルモン系の異常…月経の不順、性欲の低下、勃起の障害

・その他の症状…頭痛(すっきりしない鈍い痛み)、頭重。肩、腰、背中などの痛み

検査と診断

 うつ病に特徴的な症状が複数認められると、うつ病と診断されます。医療面接を行い、症状、ストレスになるような出来事、他の病気、自分の性格、家族のことなどを詳しく聞きます。また、患者さん本人からだけでなく、家族からも話を聞くことがあります。これらの情報を総合して、医師はうつ病の診断を行います。

治療の方法

 うつ病の治療の基本は、十分な休養によって心と体の疲れをとることと、薬によって神経伝達物質の異常を改善することです。さらに、考え方などを見直す精神療法を組み合わせることもあります。

●十分な休養

 休むことに抵抗や罪悪を感じ、何とか頑張って休まないようにしようと思いがちですが、うつ病が病気であることを理解し、医師に休むことをすすめられた場合は、思い切って仕事や家事や学校を休み、治療に専念しましょう。

●薬物療法

 抗うつ薬が薬物療法の中心となります。抗うつ薬は、脳の中のセロトニンやノルアドレナリンという物質のはたらきを高めて、抑うつ気分を取り除いて気分を高め、意欲を出させ、不安や緊張、焦燥感を取り除く、といった効果を現します。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、三環系、非三環系といったタイプがあり、症状や状態によって使い分けます。

 服薬を始めてすぐに効果が現れるわけではなく、一般に1週間から3週間の期間が必要です。通常、治療を始めてから2カ月から半年くらいである程度よくなりますが、症状が改善したあとも服薬を続けることが必要です。

 再び悪くなるのを防ぐため、通常の生活に戻ってからも半年~1年くらい治療を続けることがすすめられます。うつ病の再発率は高いのですが、効果が出た時と同じ量の薬を服薬し続けていると再発率が低くなります。

 ですから、初めてうつ病になった場合には改善後半年から1年、同じ量の抗うつ薬を服用することがすすめられます。また、2回以上再発している場合などには、数年にわたって服薬することが望ましいとされています。

●精神療法

 精神療法の中心となるのは、支持的精神療法です。患者さんの話を聞き、不安な気持ちをよく理解したうえで、症状をよくしていくためのアドバイスをしていきます。このほか、抑うつ気分につながりやすい考え方や行動の特徴に気づき、これを修正する認知行動療法も広まっています。

●電気けいれん療法

 頭皮に電極をつけ、電流を流します。薬物療法で効果が得られない場合や、薬物が使えない場合に用いられます。電気けいれん療法は最近では麻酔をかけ、体にけいれんが起こらないような方法で安全に行われることが多く、症例によっては極めて効果的です。

病気に気づいたらどうする

 大切なことは、「最近おかしいな」と思ったら、早めに医師に相談することです。うつ病は、きちんと医師の診察を受け適切な治療を受ければ、治すことが可能な病気です。

(執筆者:山梨大学大学院医学工学総合研究部精神神経医学助教 田中 宏一)

うつ状態に関連する可能性がある薬

医療用医薬品の添付文書の記載をもとに、うつ状態に関連する可能性がある薬を紹介しています。

処方は医師によって決定されます。服薬は決して自己判断では行わず、必ず、医師、薬剤師に相談してください。

・掲載している情報は薬剤師が監修して作成したものですが、内容を完全に保証するものではありません。

うつ状態に関連する可能性がある薬をもっと見る

おすすめの記事

コラム難治性うつ病

山梨大学大学院医学工学総合研究部精神神経医学助教 田中宏一

 うつ病全体の20%程度が難治性といわれています。難治性うつ病の判断は統一されていませんが、2種類の抗うつ薬を4~6週間使用しても改善しない場合には難治性うつ病ととらえて、診断を再検討し、今後の治療方針を立てる必要があります。一般的な体の病気によるうつ病や、元気になりすぎる躁状態を示すこともある躁うつ病のうつ状態などが含まれ、うつ病ではない可能性も検討する必要があるからです。

 難治性うつ病の原因はよくわかっていませんが、アルコール依存症や軽いうつ状態が数年にわたり続く気分変調症をこれまでに経験していたり、パーソナリティ障害を合併していると、うつ病が治りにくくなることが知られています。

 難治性うつ病の治療は、他の抗うつ薬への切り替え、抗うつ薬の増強療法、電気けいれん療法などの治療が推奨されています。抗うつ薬の増強療法としては、抗うつ薬同士の併用、リチウムや甲状腺ホルモン、ドーパミン作動薬などを追加するという選択肢があります。

うつ状態に関する病院口コミ

もっと見る

うつ病に関する医師Q&A