〈新生児マススクリーニングで発見される病気〉フェニルケトン尿症
〈しんせいじますすくりーにんぐではっけんされるびょうき〉ふぇにるけとんにょうしょう
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もしかして... ビオプテリン異常症
〈新生児マススクリーニングで発見される病気〉フェニルケトン尿症とは?
原因は何か
フェニルアラニンは必須アミノ酸のひとつですが、体のなかで大部分がチロシンに変換されます。この変換を触媒する酵素はフェニルアラニン水酸化酵素と呼ばれ、この酵素の遺伝的欠損によりフェニルアラニンが体内に過剰に蓄積し、尿中に多量のフェニルケトン体が排泄される病気がフェニルケトン尿症です。
日本での頻度は約8万人に1人とされています。
症状の現れ方
生まれた時は正常ですが、哺乳を開始することにより赤ちゃんの体内にフェニルアラニンが蓄積し、生後3~4カ月ころから症状が現れます。未治療のフェニルケトン尿症患児の血液中のフェニルアラニン濃度は20mg/dL以上になります(正常は1mg/dL前後)。このフェニルアラニンの過剰蓄積により脳に障害が起こり、知能障害、脳波異常、けいれんがみられます。
また、フェニルケトン体の尿中排泄による特有の尿臭(ネズミ尿様)、メラニン欠乏による色白、赤毛が特徴です(図42)。ただし、新生児マススクリーニングで早期発見、治療が可能となった現在では、このような症状をみることはなくなりました。
治療の方法
①食事療法
フェニルアラニンの過剰蓄積を改善するために、できるだけ早期にフェニルアラニン制限食を開始します。治療にはフェニルアラニンを含まないか、含量を減らした特殊ミルクを用います。フェニルアラニンは食事中の蛋白質に含まれているので、食事は基本的に低蛋白食になります。
フェニルアラニンは必須アミノ酸なので、発育に必要な最小限のフェニルアラニンを母乳や普通ミルクもしくは食事(低蛋白食)によって与えることにし、不足する栄養素を特殊ミルクで補います。表17の維持範囲に従い、乳児期はフェニルアラニン濃度を2~4mg/dLになるようにコントロールします。
成長するに従い、フェニルアラニンの摂取制限の緩和も可能ですが(表17)、ある程度のフェニルアラニン制限食は生涯続けることが必要です。最近は味のよい低フェニルアラニン食品が開発されており、バラエティに富んだ料理をつくることができるようになってきました。
②新しい治療法
最近、本症の一部の患者さんでテトラヒドロビオプテリン(BH4、ビオプテリン異常症)を投与すると血中フェニルアラニン値が低下することがわかってきました。このような患者さんをBH4反応性フェニルアラニン水酸化酵素欠損症もしくはBH4反応性高フェニルアラニン血症と呼びます。フェニルアラニン水酸化酵素欠損症の約30%がBH4反応性と考えられ、多くは血中フェニルアラニン濃度が20mg/dL以下の軽症型フェニルケトン尿症の患者さんです。
従来本症の唯一の治療法は食事療法でしたが、BH4反応性の患者さんではBH4投与を併用することで食事制限の緩和が可能であり、軽症の場合では食事療法を中止し、BH4単独投与で治療が可能となってきました。日本でもすでに使用されていますが、BH4の長期安全性は不明ですので、使用に際しては保護者への十分な説明と同意が求められています。
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コラムマターナルPKU
フェニルケトン尿症の女性が妊娠すると自然流産を起こしやすく、また生まれてきた子どもに高率に知能障害、発育不全、心臓奇形などを合併することがわかってきました。これは、母体の血液中の高濃度のフェニルアラニンが子宮内の胎児の発育を損なうことにより生じるもので、母性フェニルケトン尿症(マターナルPKU)と呼ばれています。
表17に示すように成人期に達したフェニルケトン尿症患者の血中フェニルアラニン濃度は、食事療法の緩和により15mg/dL程度に上昇していることが多くなっています。お子さんを希望されるフェニルケトン尿症の女性は、妊娠前より厳格なフェニルアラニン制限食を再開し、血中フェニルアラニン濃度を6mg/dL以下にコントロールしておく必要があります。この血中フェニルアラニン濃度をコントロールした状態で妊娠し、出産までの10カ月間維持することによりマターナルPKUの予防が可能です。