出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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妊娠の診断
にんしんのしんだん

もしかして... 無月経  つわり  流産  子宮外妊娠

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妊娠の診断とは?

 妊娠の診断とは、妊娠していること、つまり胎児が女性の体内に存在していることを証明することです。この証明方法には、妊娠の可能性を示すものと、絶対に妊娠していることを示すものとがあります。現代の産婦人科診療では、医師は、後者の方法を用いて妊娠診断をしています。

妊娠の可能性を示すもの

①月経が止まる

 妊娠が成立すると、胎盤から出るヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)のはたらきによって、黄体は刺激されて妊娠黄体になり退縮しなくなります。このため、黄体からのホルモンが分泌され続け、月経が止まります。したがって、月経が順調に来ている女性が急に無月経になった場合は、まず妊娠を疑う必要があります。

 しかし、もともと月経が不順な女性はもちろん、順調な女性でも、妊娠とは無関係に、急に排卵が止まって無月経になることがあり、無月経がただちに妊娠を示すものではありません。

②吐き気、嘔吐がある

 妊娠すると、多くの女性につわりが起こります。つわりは、妊娠に伴って、嗜好の変化や吐き気、嘔吐が起こる病気であり、無月経に伴ってこうした症状がある場合は妊娠を疑う必要があります。しかし、消化器系の病気を合併していても、こうした症状は起こりうるので、妊娠を示す絶対的な症状ではありません。

③胎動の自覚がある

 子宮内で胎児が動くこと(胎動)を女性が感じるのは、妊娠20週ころからです。胎動は妊娠の可能性を示しますが、自覚の段階では、あくまでも可能性にすぎません。妊娠を強く願う女性では、腸のぜん動を胎動と勘違いすることがあるので、注意が必要です。

④腹部が膨隆する

 妊娠に伴い、子宮は大きくなってくるので、妊娠16週ころから、子宮の増大は腹部の張りやふくらみとして観察できます。したがって、無月経に伴って、腹部がふくらんでいる場合は妊娠を疑うべきです。しかし、空気をのみ込んで腹部がふくらむ呑気症という病気もあるので、この所見がただちに妊娠を示すものとはいえません。妊娠を強く願う女性では、妊娠していないのに無月経が起こり、腹部がふくらみ、胎動まで自覚することがあるのです(いわゆる想像妊娠)。

⑤女性性器の変化

 妊娠すると子宮は大きく、軟らかくなり、形も西洋ナシ形から卵円形へと変化します。また、子宮頸部も軟らかくなります。さらに、子宮頸部や腟は充血するため、色が非妊娠時のピンク色から暗紫赤色に変化し、分泌物も増えます。

 昔は、無月経とともにこのような症状が観察されると、産婦人科医は妊娠と診断していました。しかし、これらの症状は他の婦人科疾患や骨盤の充血でも起こることがあり、妊娠を100%示すものではありません。

⑥尿妊娠反応および基礎体温の高温相持続

 妊娠が成立すると、受精卵から胎盤を形成する絨毛細胞(栄養膜細胞)が分化します。絨毛細胞はhCGを分泌し、黄体を刺激して卵胞ホルモンや黄体ホルモンの分泌を促し、妊娠を維持させます。これらのホルモンにより、月経は止まり基礎体温は高温が続きます。hCGは母体の血中に分泌され、腎臓をとおって尿中に排出されます。この尿中のhCGを検出する検査が、尿妊娠反応です。

 現在行われている検査は、免疫反応を利用した免疫学的尿妊娠反応です。hCGと特異的に結合する蛋白(抗体)と尿中のhCGを反応させ、結合したhCG-抗体複合体を、酵素発色反応などで検査する方法です。最近は、抗体の感度と特異性を向上させた新しい検査キットが市販されていて、月経予定日を1日過ぎただけの段階でも、妊娠を調べることが可能になりました。

 ただし、尿妊娠反応はあくまでも、体内にhCGを分泌するものがあることを示すだけであり、妊娠でなくても、絨毛性腫瘍などのhCG産生腫瘍があると反応が陽性になります。

絶対に妊娠していることを示すもの

①超音波断層法

 妊娠を知る確実な診断法は超音波断層法です。超音波断層検査で子宮内を画像診断すると、妊娠していることを示す袋(胎嚢)、あるいは胎児の存在を見ることができます(図14図14 妊娠12週の胎児)。

図14 妊娠12週の胎児

 胎嚢は経腟超音波断層法で妊娠5週(受精後3週)ころから検知可能で、胎児の心拍も妊娠6週(受精後4週)ころから検知可能です。また、胎嚢や胎児の大きさを測定することによって、妊娠週数の正確な診断も可能です。現代の産婦人科診療では、妊娠の診断はすべてこの方法で行われています。

 超音波断層法は、単に妊娠が成立しているかどうかを診断するだけでなく、流産子宮外妊娠の診断にも用いられます。出血、腹痛などの流産の症状がなくても、妊娠週数が十分であるにもかかわらず子宮内に胎児の心拍が確認できなければ、流産と診断されます。

 また、妊娠反応が陽性でも子宮内に胎嚢が存在せず、子宮外の場所に胎嚢が存在している場合は、子宮外妊娠と診断されます。

②胎児心音の検知

 母体の腹壁をとおして胎児の心音が聞こえれば、胎児が存在していることが示され、妊娠と診断できます。超音波ドプラー検査を行えば、妊娠12週ころから、胎児心拍を音に変換して検知できます。

③胎動の他覚

 胎動を妊婦本人ではなく、第三者が検知した場合は、母体内に確実に胎児が存在します。

 胎児心音の検出や胎動の他覚的認知(本人の自覚ではない)も、確実に妊娠していることを示す所見ですが、この認知は胎児がある程度育ってからでないと不可能であり、妊娠の早期診断には使えない方法です。

(執筆者:東京大学医学部附属病院女性診療科・産科准教授 藤井 知行)

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コラム妊娠と薬の影響

東京大学医学部附属病院女性診療科・産科准教授 藤井知行

 妊娠中に服用した薬は胎盤を通過し、胎児に移行する可能性がありますので、その必要性について慎重に考えなければなりません。しかし一方、妊娠中であっても、服用しなければならない薬があり、むやみに胎児への影響を恐れて、薬を勝手に中止することも避けなければなりません。

 薬の胎児に対する影響については、服用時期が重要です。まず、服用が受精前あるいは受精から2週間(妊娠3週末)までならば、ごく少数の体内蓄積性の高い薬を除き、胎児奇形出現率は増加しません。妊娠3週末までに胎児(胎芽)に与えられたダメージは流産を引き起こす可能性はありますが、そうでなければダメージは修復されて、奇形は発生しないと考えられています。

 妊娠4週以降11週末までは器官形成期であり、胎児は薬に対し最も感受性が高く、奇形が発生する可能性があります。しかし、実際に奇形を起こすと証明された薬は少なく、またこれらの薬も少量服用してただちに奇形が発生するわけではないので、いたずらに恐れる必要はありません。奇形を起こす可能性があるとされている薬は、抗がん薬、降圧薬のアンジオテンシン変換酵素阻害薬とアンジオテンシン受容体拮抗薬、抗てんかん薬のカルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウム、フェニトインなど、アミノグリコシド系抗結核薬、抗血栓薬のワルファリンカリウムなどです。

 妊娠12週以降の薬物服用では奇形は起こりませんが、とくに妊娠後半期での薬の服用で、胎児機能障害や胎児毒が現れることがあります。抗生物質のテトラサイクリンによる歯の黄色着色やインドメタシンなどの非ステロイド系抗炎症薬による胎児動脈管収縮などがあります。

 個々の薬の胎児への影響については日々新しい情報が提供されていますし、また薬を服用することの利益と危険性については、個々の妊娠ごとに考えなければなりません。したがって、妊娠中に服用した薬について、主治医に相談することが大切です。また、厚生労働省の事業として国立成育医療センター内に設置された「妊娠と薬情報センター」などの、専門機関に問い合わせることも可能です。

コラム高齢出産の現状とリスク

東京大学医学部附属病院女性診療科・産科准教授 藤井知行

 母体の年齢増加とともに、母児におけるさまざまな異常の発生率が高くなります。一般に35歳以上の出産を高齢出産といいますが、はっきりした定義はありません。ただし、初産婦については、「35歳以上の初産婦を高年初産婦とする」と、日本産科婦人科学会が定義しています。全国の統計では35歳以上の母親からの出生数は、2007年の時点で19・4%を占めています。1980年は4・2%でしたので、30年足らずの間に4・6倍に上昇しています。2005年から2007年の間でも、2005年16・4%、2006年17・7%、そして前述の2007年19・4%と年々増加していて、出産年齢の高齢化が現在も進行していることがわかります。また、1人の女性が生む子どもの数が減少してきていることもあって、第1子出産女性のなかで、35歳以上が占める割合も増えています。1980年には2・1%でしたが、2007年には13・0%と、6倍以上の増加をみせています。また、出産年齢の高齢化は都市部でさらに顕著で、東京大学医学部附属病院では、2007年の35歳以上の出産が、全出産の41・7%を占めるようになっています。

 出産年齢の高齢化は、母児双方のリスクを高める重要な要因となります。すなわち、母体年齢の上昇に伴い、前置胎盤、胎児発育不全、帝王切開率、分娩時出血多量といった産科合併症だけでなく、高血圧、糖尿病、腎臓病などの内科疾患も増加するため、こうした合併症による妊娠リスクも増加することになります。また、年齢とともに子宮筋腫の頻度が増し、それが原因で不妊や流産、早産のリスクが高まります。子宮筋腫は、骨盤位(さかご)などの胎位異常の頻度を高め、また分娩障害や分娩後の子宮復古遅延の要因ともなります。

 児においては、母体年齢の上昇とともに染色体異常の頻度が増加し、流産率が高まったり、ダウン症候群に代表される各種染色体異常症の頻度が増加したりします。また、先天性心疾患、腹壁破裂、口唇・口蓋裂など染色体異常によらない児の奇形も増加します。胎盤を構成する絨毛細胞が水胞状に異常増殖する病気の胞状奇胎も、年齢とともに発生頻度が上昇します。母乳分泌も母体の年齢上昇に伴って減少する傾向があります。

妊娠の診断に関する医師Q&A