出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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鼻涙管閉塞、涙嚢炎
びるいかんへいそく、るいのうえん

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鼻涙管閉塞、涙嚢炎とは?

どんな病気か

 鼻涙管閉塞では、泣いてもいないし眼の痛みもないのに、常に涙が出て止まりません(流涙)。涙嚢炎になれば涙に加えて、常に目やに(眼脂)も出ます(慢性涙嚢炎)。時には、まぶたから頬、鼻部にかけ、痛みを伴って発赤、腫脹し、発熱などを伴うこともあります(急性涙嚢炎)。

原因は何か・症状の現れ方

①涙液の流れ(図11図11 涙器の略図

図11 涙器の略図

 涙液は常に少量(毎分1~2μL、毎時0・1ml程度)分泌され、眼を潤し、またさまざまな病原から眼を保護しています。涙液は目頭(内眼角)付近にあるまぶたの縁の小さな孔(上・下涙点)から吸い込まれ、細い管(上・下涙小管。2つが合流して総涙小管になる)を通過し、涙嚢という眼球の内側の袋に達し、鼻涙管を通って鼻腔へと流れていきます。

②鼻涙管閉塞

 この経路が閉塞すれば常に流涙が起こり、なかでも鼻涙管閉塞が最も多くみられます。鼻涙管閉塞には先天性と後天性があり、先天性は鼻涙管の形成異常で、出生直後から常に流涙と眼脂が起こります。後天性は、鼻の病気(鼻炎、蓄膿症、ポリープなど)が原因で鼻涙管閉塞を起こす場合と、眼の病気(結膜炎などの炎症の波及)が原因で鼻涙管閉塞を起こす場合があります。

 高齢者に多く、流涙だけなら閉塞があるだけですが、うみの混じった眼脂を伴うことが多くみられます(慢性涙嚢炎)。

③慢性涙嚢炎

 鼻涙管閉塞があると涙嚢に涙液が停滞しますが、これに細菌感染が起こると常にうみ状の眼脂が出るようになります。涙嚢部の皮膚の発赤、腫脹、疼痛などはありません。この状態を慢性涙嚢炎と呼びます。

 時に、慢性涙嚢炎があっても、眼脂が出るだけで、あまり流涙の起こらない場合もあります。これは涙液の分泌が低下しているためと考えられます。

④急性涙嚢炎

 細菌感染により急激な涙嚢部の発赤、腫脹、疼痛、大量の眼脂、涙嚢への大量のうみの貯留などを起こす状態を急性涙嚢炎と呼びます。発熱などの全身症状を起こすこともあります。

 急性涙嚢炎は炎症が涙嚢にとどまらず、周囲の組織に波及した状態で重症です。時に、脳髄膜炎を起こすことさえあります。急性涙嚢炎は、先天性鼻涙管閉塞の乳児にも起こります(新生児涙嚢炎)。

検査と診断

 涙点から細い針を用いて生理食塩水などを注入し、鼻やのどの奥に流れてくるかどうかを調べます(涙道洗浄、涙洗)。閉塞があると液が逆流してきます。涙嚢にうみがたまっていると、うみが逆流して洗い流されます。

治療の方法

 先天性鼻涙管閉塞の場合は、細い針金(ブジー)を涙点から鼻涙管に刺し込み、閉塞部を突き破ります(鼻涙管開放術)。また涙嚢部を毎日マッサージすることで、しばしば、閉塞が自然に開放されます。

 後天性鼻涙管閉塞の場合は、涙嚢にうみの貯留が認められなければ、閉塞部をブジーで開放します。しかしこれだけではほとんどの場合は再び閉塞するため、細くて柔軟なシリコン性のチューブを上・下涙点から鼻涙管に挿入し、鼻涙管内腔を確保して1カ月ほどそのまま留置しておく方法があります。この方法は手軽で効果的です。

 しかし、シリコンチューブを抜いたあとに再閉塞した場合や、もともと慢性涙嚢炎があって涙嚢にうみの貯留が認められる場合は、涙嚢と鼻腔をへだてている骨に穴をあけ、涙嚢と鼻粘膜を直接つなぐ手術(涙嚢鼻腔吻合術、DCRと略される)を行います。DCRには皮膚を切開して行う方法と、皮膚を切開せず鼻腔内から行う方法(鼻内法)があります。

 慢性涙嚢炎があっても、眼脂のみで流涙を自覚しない場合は、手術で涙嚢を取る(涙嚢摘出術)ことで眼脂は治ります。涙嚢摘出術は骨を削らなくてよいので、手術は楽です。

 急性涙嚢炎は、原因となった菌を特定し、抗生剤の大量投与で炎症を抑えたのち、鼻涙管閉塞があれば前述の治療を行います。新生児涙嚢炎の場合でも、同様に抗生剤の投与で炎症を抑えたのち、鼻涙管開放術を行います。

病気に気づいたらどうする

 常時の流涙や眼脂があれば、早めに専門医の診察を受けましょう。

(執筆者:大阪市立総合医療センター眼科部長 森 秀夫)

涙のう炎に関連する可能性がある薬

医療用医薬品の添付文書の記載をもとに、涙のう炎に関連する可能性がある薬を紹介しています。

処方は医師によって決定されます。服薬は決して自己判断では行わず、必ず、医師、薬剤師に相談してください。

・掲載している情報は薬剤師が監修して作成したものですが、内容を完全に保証するものではありません。

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コラム流涙症

大阪市立総合医療センター眼科部長 森秀夫

 涙液は常に少量(毎分1~2μL、毎時0・1ml程度)分泌されています。これを基礎分泌といいます。

 眼に何らかの病気があったり、眼を刺激する気体や蒸気・臭いがあったり、全身(とくに頭頸部)に疼痛があったりすると分泌量は増加します(症候性・反応性分泌)。また、いうまでもなく、精神的苦痛・悲しみ、時には喜びなどの情動でも分泌は増加します(情動性分泌)。

 流涙症とは、涙がまぶたからあふれ出す状態ですが、症候性分泌ならば原因となっている眼病を治療しないといけません。反応性分泌や情動性分泌は眼の病気ではないので、ここではふれません。

 これらと異なり、泣いてもいないし痛みもない状態で(基礎分泌)、常に涙が出るのは鼻涙管閉塞によるものです。ただ、鼻涙管閉塞があっても基礎分泌が低下している場合は、流涙は起こりません。

鼻涙管閉塞、涙嚢炎に関する医師Q&A