直腸がん
ちょくちょうがん
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直腸がんとは?
どんな病気か
大腸がんは結腸がんと直腸がんとに分類されていますが、頻度、原因に大きな違いはありません。日本の新たな大腸がんの患者さんは年間約6万人で、男女比は5対4でやや男性に多くみられます。大腸がんの約5分の2が直腸がんです。
大腸がんは、すべてのがんによる死亡率からみると、男性では肺がん、胃がん、肝がんに次いで4位であり、女性では1位になっています。しかし、がん死亡全体に占める割合は増え続けていて、10年後には年間7万人に達すると思われます。国際的には低いのですが、まだまだ増加が懸念されます。
大腸がんが年々増えてきた最大の要因は食生活の変化であり、とくに動物性脂肪の摂取量の増加が大腸がんの増加をもたらした、と考えられています。
直腸をさらに詳しく分類すると、直腸S状結腸部、上部直腸、下部直腸に分類されます。肛門管は正確には直腸ではありません。直腸は結腸と違って骨盤内にあるため、骨盤内の手術を複雑なものにしています。男性では直腸の前方に膀胱、前立腺、精嚢があり、女性では腟、子宮、卵巣、膀胱があります。結腸ではほとんど大腸の機能障害は認められませんが、直腸では骨盤内臓器の切除の問題、また肛門機能としての肛門括約筋の温存の有無の問題があり、術後さまざまな機能障害をもたらします。
原因は何か
大腸がん、直腸がんの原因は、現在では動物性脂肪の摂取量の増加と考えられていますが、決定的な原因はまだ見つかっていません。一方、予防因子としては以下のようなものが考えられています。
・魚に多く含まれる不飽和脂肪酸(DHA、EPA)などは大腸がんの予防になる。
・野菜、くだものに含まれる食物繊維は発がん物質を吸着する。
・緑黄食野菜のなかのβカロテンなどが発がんの原因である活性酸素を抑制し、発がんを抑える。
しかし、不飽和脂肪酸およびβカロテンを多くとれば、必ずがんの予防になるというものではなく、何よりもバランスのよい食事が重要です。
症状の現れ方
最も多いのは血便です。そのほかには排便に伴う症状が出やすいのが特徴で、便秘、便が細くなる、テネスムス(排便がなくてもたびたび便意を感じる症状)、腹痛などが主な症状ですが、かなりの進行がんになるまでまったく症状がない場合も少なくありません。
直腸がんは痔核と間違えられることも多く、腹部の膨満感が強くなったり、腸閉塞になり、やっと発見される場合も少なくありません。直腸がんは、専門家が診察すれば比較的簡単に診断がつくため、このような症状が認められたら、必ず大腸肛門科を受診することをすすめます。
検査と診断
集団検診では、大腸がんのスクリーニング法として便潜血反応検査が行われています。便潜血反応検査は便の一部を採取し、そのなかのヒトヘモグロビンを検出する簡単な方法です。検診としてはよい方法で、無症状の大腸がんや早期大腸がんを発見するうえで有用です。検診受診者1000人に1・5人の割合で大腸がんが発見されています。
しかし、大腸がんのすべてで便潜血反応が陽性になるのではなく、いろいろな検査のなかのひとつの方法と考えたほうがよいと思われます。実際、1回の便潜血反応検査では大腸がんの患者さんの20~40%が陰性であり、便潜血を2回、3回行って初めて陽性が100%近くになります。疑わしい場合には便潜血反応検査の意味はほとんどなく、注腸造影検査や内視鏡検査を行う必要があります。
逆に、便潜血反応が陽性であってもそのほとんどが痔疾患などで、大腸がんは3~5%にすぎないので、すぐにがんの心配をすることはありません。
実際に血便、便秘、便が細くなる、腹痛などの症状がある場合は、迷わず、大腸肛門科を受診することをすすめます。大腸肛門科では、直腸指診、肛門鏡検査、硬性直腸鏡検査、注腸造影検査、大腸内視鏡検査などが行われます。直腸指診では肛門から約7cmの距離まで観察ができます。肛門鏡では約10cm、硬性直腸鏡では約25cmまで観察ができます。それ以上の観察には、注腸造影検査(バリウムを肛門から注入してX線撮影を行う)、大腸内視鏡検査(肛門から内視鏡を挿入して観察する)が必要になります。
内視鏡検査は、現在ではほとんどが電子内視鏡になり、先端にテレビカメラがついていて、モニター(テレビ画面)を見ながら検査を行います。内視鏡は日進月歩で改良され、熟練した内視鏡医であれば、ほとんど苦痛なく、10~30分で検査が終わります。また内視鏡検査では、観察以外に切除などの治療も同時に行うことができます。ただし、1000~5000回に1回の割合で腸に孔があくため、孔の状態によっては緊急手術になることがある点を十分理解しておく必要があります。
がんの進行度(壁外浸潤度)を診る検査で、よく行われるものに経肛門的超音波検査があります。これは、細い棒状の超音波装置または大腸内視鏡の先端についた超音波装置で、がんの粘膜下への広がりを観察する検査で、小さいがんで肛門に近い場合、部分切除が可能かどうかの判断に有用です。直腸がんでは経肛門的超音波検査装置(直腸用)のほかに、最近では内視鏡で超音波検査ができるものもよく使われています。進行がんでの壁外浸潤および遠隔転移を診るには、CTおよびMRI、PETの画像診断が有用です。
腫瘍マーカーは、がんの診断に使われていると思われがちですが、これは間違いです。大腸がんではCEA、CA19-9、ST439などの腫瘍マーカーがありますが、これは他の腫瘍や病気の場合でも上昇することがあり、また早期では上昇せず、診断には役立ちません。ただ術後の治療効果、再発のチェックには有用です。
治療の方法
一般的には腫瘍の切除が必要になります。直腸では、がんの浸潤の程度と、肛門括約筋との位置関係が手術方法を決定するうえで重要です。
小さい腫瘍の場合は、内視鏡的粘膜切除術(EMR)が行われます。
腫瘍が大きく、進達度(粘膜下へのがんの広がり)が浅い場合は経肛門的切除が行われます。肛門から約8cmまでは経肛門的に切除できます。
それ以上の場合は、経肛門的に内視鏡と腹腔鏡用の鉗子を用いた手技(TEMUS、TESなど)での切除を選択できます。熟練した外科医が行えば肛門から20cmまでが対象になります(どの施設でもできるものではありません)。
また、内視鏡治療処置具の進歩がめざましく、最近では、大腸粘膜にとどまる早期がんであれば、大きなポリープでも内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)という新しい内視鏡治療が可能となりました(保険で認められていませんが、専門病院では施行している施設もあります)。
それ以上の直腸がんでも、症例によっては腹腔鏡下直腸切除術が適応となります(これもどの施設でもできるものではありません)。
いずれの場合も、切除した標本におけるがんの病理検査(分化腺がんか低分化腺がんか)と壁浸潤度により根治性が決定されます。
直腸の進行がんで部分切除では根治の可能性がない場合、または部分切除で不十分であった場合は、一般的には開腹による直腸低位(高位)前方切除術またはマイルズ手術が選択されます(図1)。
前方切除術は、直腸がんを切除後にS状結腸と直腸とをつなげる手術です。肛門から腫瘍を触れなければ、ほとんどの場合、人工肛門にはしません。しかし、病変の広がりや患者さんの全身状態により、人工肛門を選択する場合もあります。肛門は残しますが全身状態などから負担を少なくするために人工肛門にする場合は、ハルトマン手術といわれています。
一方、マイルズ手術は、がんが肛門に近い場合やがんの浸潤により肛門括約筋を温存できない場合などに選択されます。一般的には肛門と直腸を切断後、左下腹部にS状結腸による人工肛門を造設します。
直腸低位(高位)前方切除術またはマイルズ手術が行われた場合、手術後に機能的な問題として性機能障害、排尿障害、排便障害の問題が生じることがあります。最近では、より障害が少ない骨盤神経叢をなるべく温存する手術が選択されることが多くなってきています(どの病院でもできるものではありません)。
直腸がんの手術で、可能な限り人工肛門を作らない手術としての直腸低位前方切除術はさらに進歩し、最近では超低位前方切除術とか、内肛門括約筋切除術(ISR)といった手術が行われる施設があります(図3)。しかし、根治性と排便障害の問題があり、専門施設でしか行うことはできません。
直腸がんに使われる抗がん薬にはさまざまなものがあります。手術でがんをすべて切除しても、約17%に再発が起こります。再発を抑える目的で行う化学療法(抗がん薬)を補助化学療法といいます。また、がんをすべて取りきれなかった場合や、明らかに再発した場合、積極的に行う化学療法があります。
現在のところ、化学療法で、術後の生存期間が延長することが証明されている治療がありますが、生存率を改善するのに有効な方法は確立されていません(化学療法で直腸がんを治すことはできません)。しかし、フルオロウラシル(5-FU)を中心としたロイコボリン(LV)/5-FU療法や、イリノテカン(CPT-11)、オキサリプラチン(OHP)製剤などに延命効果が認められており、今後に期待されています。
化学療法は、いろいろな薬を組み合わせて使用することにより年々延命効果もよくなっています。現在では、FOLFOX/FOLFORI療法が世界的にも標準治療となっています。また最近では、ベバシズマブ(アバスチン)、セツキシマブ(アービタックス)などの、がんを成長させる因子に対するモノクローナル抗体(分子標的治療薬)が使われるようになり、これらを組み合わせることにより、いっそう延命効果が得られるようになってきています。抗がん薬を使わない場合と比べて、4倍ほどの延命効果が得られています。
放射線照射は、切除不可能なものを切除可能にするなど、ある程度の効果が認められてはいますが、生存率が向上したという報告はありません。
病気に気づいたらどうする
この病気は、血便などの症状があるにもかかわらず痔核などの痔疾患と間違えられて、進行がんになって初めて発見される場合がいまだに多くみられます。血便、排便異常、腹部の膨満などの症状がある場合は、迷わず肛門科または大腸肛門病の専門外来のある病院を受診し、診察を受けることが必要です。
手術が必要な場合、直腸がんの手術は熟練を要し、また術後の管理が必要になります。
痔を含めた大腸疾患の専門外来のある病院、人工肛門の外来のある病院、ETと呼ばれる人工肛門ケア専門看護師がいる病院を受診することをすすめます。
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コラム人工肛門
人工肛門(ストーマ)は直腸がんなどで肛門、直腸を切除する場合、または下部腸管へ腸内容が流れないようにするために造設されます。
人工肛門のタイプはさまざまです。一般的には、S状結腸人工肛門が作られますが、腸閉塞時に造設される場合は、S状結腸であったり、横行結腸であったりします。また、潰瘍性大腸炎の手術で一時的に造設される、回腸人工肛門造設術などもあります。
人工肛門の造設は、造設する部位、皮膚のしわ(へそも含めて)、手術創(傷)を考えて、患者さんが自分で管理できる位置を選択します。また、立ったり、座ったり、歩いたりして装着感に問題がない部位を選ぶ必要があります。現在は、人工肛門の実際面を考える専門の医師、看護師と、精神面を援助してくれる人工肛門の専門セラピスト(ET)や専門の事務員が援助してくれます。
装具
人工肛門の周囲の皮膚に接する部分(フランジ)と袋が一体になっているワンピース型と、フランジと袋が分かれるツーピース型とがあります。
フランジ部分の皮膚接着面は、カラヤゴムやカラヤペーストなどの皮膚緩衝作用のある材質が使われています。これは皮膚を弱酸性(pH5)に保ち、皮膚の正常化、皮膚の抵抗力の維持、皮膚感染の予防にはたらき、皮膚を保護します。
時には、アレルギーによる皮膚炎や、皮膚にカンジダなどの真菌性皮膚炎が生じる場合があります。このような場合、ETなどの専門の看護師、褥瘡対策メンバーによる適切な管理が必要になります。
人工肛門の合併症
腸管の脱出や人工肛門の周囲からのヘルニアが生じることがあります。人工肛門の循環不全からくる狭窄や、人工肛門の高さ(皮膚面からの距離)がないために起こる皮膚炎、皮膚潰瘍、人工肛門の脱落などがあり、このような場合、拡張術か再建術が必要になります。
人工肛門の種類(図2)
①結腸人工肛門
結腸人工肛門には、一時的人工肛門と永久的人工肛門とがあります。永久的人工肛門であるS状結腸単孔式人工肛門は、多くはがんのために直腸と肛門を切除した時に作られ、通常、へその左下部に造設されます。
長期の管理には、自然排便法、装具法、洗腸法の3種類があります。自然排便法は、普段は人工肛門にキャップをしておき、食べ方により排便習慣(規則正しい生活習慣により決まった時間に便意をもよおす)をつけられる場合があります。装具法は、ワンピース型(袋を残して便のみ捨てる)、またはツーピース型(フランジは残して袋と便を捨てたあと、袋の交換を行う)の装具を使う方法です。洗腸法は、腸内容を洗浄することにより1~2日ごとに排泄させる方法です。
一時的なループ式の人工肛門は、下部腸管への腸内容の流れを止める目的でつくられ、右横行結腸かS状結腸に造設されます。右横行結腸人工肛門の腸内容は流動性で、皮膚炎を来しやすく、よりきめ細かな管理が必要になります。
②回腸人工肛門
潰瘍性大腸炎など、大腸全摘手術を行った時に、一時的に回腸に人工肛門を造設する場合、および腸管の穿孔、縫合不全などで回腸より下部の腸管へ便が流れないようにするために一時的に造設される場合がほとんどです。
最近では、直腸がんに対する超低位前方切除術や、内肛門括約筋切除術(ISR)といった手術が行われた場合に、縫合不全を予防するために、一次的に回腸人工肛門造設術を行う症例が増えています。回腸人工肛門を造設した場合、腸の内容物が液状で、周囲の皮膚炎を起こしやすく、とくにきめ細かい管理が必要になります。
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主に頭頚部がんと乳がんに対して数多くの放射線治療を実践しています。 日本放射線腫瘍学会認定施設であり、日本医学放射線学会の放射線治療専門医が担当しています。 初診は1時間枠での診療を行い、丁寧な説明を… 続きをみる
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