出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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脳ヘルニア
のうへるにあ

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脳ヘルニアとは?

脳ヘルニアとは

 頭部外傷によって、頭蓋骨よりも内側(頭蓋内)に血腫や脳のむくみ(脳浮腫)が生じると、脳は硬い頭蓋骨で囲まれて余計なスペースがないため、頭蓋内の圧が高まり(頭蓋内圧亢進)、軟らかい脳はすきまに向かって押し出されます。

 組織が押し出されることをヘルニアといいます。押し出された脳は深部にある生命維持中枢(脳幹)を圧迫し、呼吸や心臓の機能を損ないます。

症状の現れ方

 初期症状は意識障害と瞳孔の異常です。一般的には、脳に障害のある側の瞳孔が開き(瞳孔不同)、光に対する瞳孔収縮の反応が失われます(対光反射消失)。この時期を過ぎると呼吸が不規則で遅くなり(この前に異常に速い呼吸になることもある)、瞳孔の異常は両側になります。また、痛み刺激で手足を突っ張る除脳姿勢を示すこともあります。

 さらに進行すると呼吸が止まります。呼吸が停止した最重症例では、治療を行っても救命の可能性は低くなります。次いで脈が乱れ、血圧が下がって死に至ります。

検査と診断

 意識、瞳孔(および除脳姿勢など)の臨床症状から診断します。原因の診断のため、頭部CTは必須です。脳ヘルニアを示すCTの所見として、正常では左右対称の脳の構造が圧迫のためゆがんで見えたり(正中構造の偏位)、頭蓋内圧亢進のため脳脊髄液が満たされている脳のすきま(脳室や脳槽)が圧迫されたり、あるいは消えてなくなったりします。

治療の方法

 瞳孔異常の初期症状がみられたら、治療は一刻を争います。原因に対する治療が優先され、血腫があれば開頭血腫除去術が行われます。

 脳ヘルニアが進行し、脳幹の機能が失われた場合は(たとえば呼吸停止)、手術の危険が高く、開頭手術を行えないこともあります。

 血腫がないか少量の場合は手術の効果が低いため、薬物療法が選択されることが多く、頭蓋内圧亢進に対する脳圧降下薬(グリセオールやマンニトール)の点滴注射が行われます。頭蓋内圧亢進に対する特殊な治療法にはバルビツレート療法や低体温療法がありますが、副作用も大きいため適応は慎重に判断されます。頭蓋骨を外す外減圧術が行われることもあります。

 予後は原因によりますが、一般的には症状の進行程度と、症状出現からの時間経過に比例して悪くなります。

(執筆者:慶應義塾大学医学部救急医学専任講師 並木 淳)

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コラム頭部外傷と高次脳機能障害

慶應義塾大学医学部救急医学専任講師 並木淳

 高次脳機能障害とは、医学的には大脳皮質の連合野と呼ばれる、人間で高度に発達した脳の領域の損傷により出現する症状です。脳の個々の大脳皮質の領域は、連合線維という連絡によって互いに密接に結合しています。

 たとえば、指をけがして血が出た時の「指の痛みとその部位からの赤色の液体流出」という情報は、大脳皮質の感覚野と視覚野に送られたあと連合野に伝えられ、これまでに蓄積された情報と比較されて、「指のけが」と判断され、言葉の反応や行動などが起こることになります。

 ただし、大脳皮質連合野の局在や機能の詳細についてはまだわかっていないことが多く、運動麻痺や視覚障害などの「一次性大脳皮質」の損傷による後遺症に比べると、CTなどの画像検査から診断することは難しい場合が多いといえます。

 表5表5 高次脳機能障害でみられる症状に示すような、高次脳機能障害の具体的な症状が認められる場合や、脳の広範な損傷がみられるびまん性軸索損傷と診断されている場合、脳挫傷が広範囲あるいは複数の部位に認められる場合に、高次脳機能障害が問題になります。神経細胞の脱落のため、頭部CTやMRIで脳萎縮や脳室拡大の所見がみられることもあります。

表5 高次脳機能障害でみられる症状

 高次脳機能障害は、このように複雑な連合野の障害のため、ある部分の脳損傷により症状が出現していても、ほかの損傷を受けていない部位の神経細胞とシナプスが形成されるなどのメカニズムにより、回復が期待できる場合があります。ただし、回復の個人差は大きく、回復の程度や時期の予想は難しいといえます。一般的には、高齢者よりも若年者のほうが症状の改善の見込みがありますが、受傷数カ月から半年をへると、そこからの改善の可能性は低くなります。

 高次脳機能障害については、脳神経外科あるいはリハビリテーション科で、画像検査のほか神経心理学的検査(認知機能検査など)、患者さんの行動観察や家族申告の聴取によって、診断と指導が行われます。

 社会的には、「記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害を主たる要因として、日常生活および社会生活への適応に困難を有する」場合に、高次脳機能障害に対する支援が必要と考えられています。

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